57話 勝てない相手
西街道の異変を調査してから数日。
俺たちは冒険者ギルドへ来ていた。
最近は魔物の異常発生が続いている。
けれど、俺たちの冒険者ランクはまだFランク。
受けられる依頼にも限りがある。
「今日はこれにしようか」
レティシアが掲示板を見る。
俺も依頼書を確認する。
『街道付近のゴブリン討伐』
Fランク向けの、簡単な討伐依頼だった。
「これなら問題なさそうですね」
エリスも頷く。
「うん。行こう」
---
依頼場所は、セレスタからそれほど離れていない森だった。
魔力感知を使う。
「……三匹」
「少ないね」
「うん」
俺たちは森へ入る。
しばらく進むと、ゴブリンが三匹現れた。
「いた!」
レティシアが剣を抜く。
エリスも弓を構える。
――シュッ!
エリスの矢が一匹の足を射抜く。
「今!」
レティシアが走る。
俺も続く。
――ザンッ!
ゴブリンが倒れる。
残った二匹も、ほどなくして倒した。
「依頼はこれで終わりかな?」
レティシアが周囲を見る。
「たぶん」
俺は魔力感知を広げた。
そのとき――
「……待って」
「どうしたの?」
「奥に何かいる」
ゴブリンとは違う魔力。
しかも――
かなり濃い。
---
俺たちは慎重に進んだ。
しばらくすると、地面に黒い痕跡が残っていた。
「これ……」
エリスがしゃがみ込む。
「西街道で見たものと同じです」
俺も魔力を感じ取る。
「間違いない」
黒い魔力が地面に染みついている。
そして――
森の奥から大きな音がした。
――ドン。
――ドン。
「何か来る!」
レティシアが剣を構える。
木々の間から、巨大な魔物が姿を現した。
「……アーマードボア」
エリスが呟く。
巨大な猪型の魔物。
全身を硬い甲殻が覆っている。
「こんなところに?」
レティシアが驚く。
アーマードボアがこちらを見る。
そして――
突進してきた。
---
「避けて!」
三人が左右へ飛ぶ。
――ドゴォン!
アーマードボアが木に激突する。
太い木がへし折れた。
「速い……!」
レティシアが驚く。
「気をつけて!」
俺は剣を構える。
レティシアが側面へ回り込む。
「やあっ!」
――ガキィン!
剣が甲殻に弾かれた。
「硬い!」
エリスが矢を放つ。
――シュッ!
矢も甲殻に刺さらない。
「普通のアーマードボアじゃない……」
俺は魔力感知を使う。
魔物の中を流れる魔力。
異常なほど濃い。
「こいつ……何かに魔力を与えられてる」
---
俺は距離を取る。
「俺が攻撃する!」
魔力を集める。
炎を作る。
その周囲に風を流す。
「《フレイムスパイラル》!」
炎の螺旋が飛ぶ。
――ドォン!
直撃。
土煙が上がる。
「どう!?」
レティシアが叫ぶ。
煙が晴れる。
アーマードボアは――
立っていた。
「……効いてない」
俺は息を呑む。
表面が少し焦げただけ。
「もう一度!」
魔力を集める。
しかし、その前に――
アーマードボアが突進してきた。
「キラ!」
――ドゴォン!
「ぐっ!」
吹き飛ばされる。
背中を木に打ちつける。
「キラ!」
レティシアが駆け寄る。
「大丈夫……!」
立ち上がる。
でも、足が少し震えている。
---
「エリス!」
「はい!」
「《ウィンドステップ》!」
三人の身体が軽くなる。
レティシアが魔物の注意を引く。
俺はエリスの手を引く。
「逃げる!」
「えっ?」
「今の俺たちじゃ勝てない!」
レティシアもすぐに判断する。
「分かった!」
三人で森の外へ走る。
アーマードボアはしばらく追ってきたが、森の奥へ戻っていった。
---
森を出る。
俺たちは息を切らしていた。
「……負けた」
レティシアが悔しそうに言う。
「うん」
俺も答える。
依頼自体は達成した。
ゴブリンは討伐した。
でも――
その奥にいた魔物には、何もできなかった。
「俺たち、強くなったと思ってた」
レティシアが拳を握る。
「レベルも上がったし、新しい魔法も覚えた」
それでも。
「……全然足りなかった」
エリスも黙っている。
俺たちは初めて、自分たちの力が通じない相手と戦った。
---
セレスタへ戻り、受付嬢に報告する。
「アーマードボア?」
「はい」
「この周辺で確認された記録はありません」
受付嬢の表情が変わる。
「しかも、黒い魔力の痕跡があった?」
「うん」
受付嬢は記録を書き留める。
「分かりました。今回の依頼は達成扱いにします」
そして俺たちを見る。
「ただし、あの魔物には絶対に近づかないでください」
「分かりました」
俺たちの冒険者ランクは、まだF。
だからこそ、無理をして戦う必要はない。
今回の撤退は、正しい判断だった。
---
それでも
夜。
宿に戻った俺は、一人でステータスを確認した。
【ステータス】
名前:キラ
年齢:12歳
冒険者ランク:F
レベル:23
レベルは変わっていない。
俺は画面を見つめる。
強くなっている。
それは間違いない。
でも――
上には、もっと強い存在がいる。
「……もっと強くなりたい」
その呟きを、隣の部屋にいたレティシアが聞いていた。
「キラ」
「ん?」
「私も」
レティシアが笑う。
「もっと強くなりたい」
少し遅れて、エリスも口を開く。
「私もです」
三人で顔を見合わせる。
負けた。
悔しい。
だけど――
この敗北は、俺たちにとって終わりじゃない。
もっと先へ進むための、最初の壁だった。
---
その頃。
森の奥。
アーマードボアが黒い魔力の染みついた場所へ戻っていた。
そして、そのさらに奥。
木々の向こうで――
一人の旅人が静かにこちらを見ていた。
「……なるほど」
旅人は小さく呟く。
「面白い子供たちだ」
その人物が何者なのか。
俺たちは、まだ知らない。
だが――
この出会いが、やがて俺たち三人の未来を大きく変えることになる。
第57話 終




