56話 ブラッドベア
翌朝。
俺たちは冒険者ギルドに集まっていた。
昨日見つけた依頼書。
『西街道周辺・ホーンウルフ異常繁殖の原因調査』
今回は討伐だけじゃない。
なぜ魔物が増えているのか。
その原因を調べる必要がある。
「参加するのは私たち三人だけ?」
レティシアが受付嬢に尋ねる。
「いいえ。今回は原因調査も含まれますので、複数の冒険者が参加します」
受付嬢が周囲を指す。
そこには、すでに何人かの冒険者が集まっていた。
「なるほど」
「ただし、危険度が高い可能性があります」
受付嬢が真剣な表情になる。
「無理はしないでください」
「分かりました」
俺たちは依頼を受けた。
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街を出る。
今回の討伐隊は、俺たちを含めて十人ほど。
経験のある冒険者も何人かいる。
俺は歩きながら魔力感知を使っていた。
「……」
「どうしたの?」
レティシアが聞く。
「魔物が多い」
「昨日より?」
「うん」
西街道に近づくほど、魔力反応が増えている。
しかも――
ホーンウルフだけじゃない。
「ゴブリンもいる」
「え?」
エリスが反応する。
「別の魔物まで増えているんですか?」
「たぶん」
俺たちは顔を見合わせた。
やはり、偶然じゃない。
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しばらく進むと、前方からホーンウルフが現れた。
「構えろ!」
先頭の冒険者が叫ぶ。
十匹以上。
昨日戦った数より明らかに多い。
「来る!」
ホーンウルフが一斉に走り出す。
「《ウィンドステップ》!」
エリスの補助魔法が発動する。
三人の動きが軽くなる。
レティシアが前へ出た。
「私が止める!」
剣を振る。
俺も横から援護する。
エリスは後方から矢を放つ。
――シュッ!
――シュッ!
次々と矢が飛ぶ。
「いいぞ!」
他の冒険者たちも攻撃に加わる。
数は多かった。
それでも、十人の冒険者が連携すると押し切ることができた。
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戦闘が終わったあと。
エリスが地面を見ていた。
「どうした?」
「……ここを見てください」
地面に、黒っぽい跡が残っている。
血ではない。
魔力の残滓のように見える。
「これ……」
俺も魔力感知を集中させる。
「普通の魔物の魔力じゃない」
「ですよね」
エリスが頷く。
「少し前に見た、南部森林の異常な魔力に似ています」
俺は黙った。
南部森林。
そして西街道。
離れた場所で起きている異変が、繋がっている。
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調査隊は街道から外れ、森へ入った。
進むほど、魔物の気配が濃くなる。
「ここまで来ると、かなり多い」
俺が言う。
すると――
「待ってください」
エリスが足を止めた。
「何か聞こえます」
全員が静かになる。
――ドン。
遠くから地面を叩くような音。
――ドン。
「何だ?」
冒険者の一人が呟く。
さらに進む。
木々の向こうに、大きな影が見えた。
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「……熊?」
レティシアが呟く。
巨大な熊型の魔物。
全身を覆う毛は黒く、その胸元には赤い筋が走っている。
「ブラッドベアです!」
別の冒険者が叫んだ。
「なんでこんなところに……!」
ブラッドベアがこちらを向く。
その目が赤く光った。
「全員、散れ!」
巨大な腕が振り下ろされる。
――ドゴォン!
地面が砕けた。
「速い!」
俺は横へ飛ぶ。
レティシアも攻撃を避ける。
エリスが弓を構える。
「私が目を狙います!」
「お願い!」
――シュッ!
矢が飛ぶ。
だが、ブラッドベアは腕で矢を弾いた。
「硬い……!」
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俺は距離を取る。
魔力を集める。
炎。
そして風。
昨日までより、魔力の流れを意識できる。
「《フレイムスパイラル》!」
炎の螺旋がブラッドベアへ飛ぶ。
――ドォン!
炎が直撃する。
「効いてる!」
レティシアが叫ぶ。
だが――
「まだ立ってる!」
ブラッドベアが炎の中から出てくる。
毛皮の一部が焦げている。
それでも動きは止まらない。
「一発じゃ足りない……!」
魔力を再び集める。
しかし、さっきより明らかに重い。
「キラ!」
レティシアが前に出る。
「私が時間を稼ぐ!」
「危ない!」
「大丈夫!」
レティシアがブラッドベアの攻撃をかわし続ける。
その隙にエリスが弓を構える。
「キラさん!」
「分かってる!」
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「《ウィンドステップ》!」
エリスの補助魔法。
俺の身体が軽くなる。
レティシアも加速する。
「今!」
レティシアがブラッドベアの横へ回り込む。
剣を振る。
――ザンッ!
足に傷が入る。
ブラッドベアが体勢を崩した。
その瞬間――
――シュッ!
エリスの矢が飛ぶ。
今度は目ではない。
口元。
ブラッドベアが顔を上げた瞬間、その矢が隙間へ入り込んだ。
「グォォォォ!」
魔物が大きく吠える。
「キラ!」
「これで――!」
俺は魔力を集中する。
炎と風。
今までより細く。
そして速く。
「《フレイムスパイラル》!」
――ゴォォォォッ!
炎の螺旋がブラッドベアを包み込む。
レティシアが最後の一撃を叩き込む。
――ザンッ!
ブラッドベアが倒れた。
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「倒した……」
レティシアが息を吐く。
俺も肩で息をする。
「強かった……」
エリスがブラッドベアを見つめる。
「でも、おかしいです」
「何が?」
「この魔物……」
エリスが胸元を見る。
そこには黒い痕跡が残っていた。
「この魔力……さっきの跡と同じです」
俺も近づく。
確かに感じる。
ブラッドベア自身の魔力とは違う。
まるで――
何かに魔力を与えられている。
「誰かが魔物を強くしてる?」
レティシアが呟く。
「まだ分からない」
俺は首を振る。
そのとき。
森の奥から――
微かな魔力反応が現れた。
「……!」
「キラ?」
「奥に何かいる」
ほんの一瞬。
強烈な魔力。
そして、すぐに消えた。
「今のは……」
エリスが森の奥を見る。
誰も答えられなかった。
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レベルアップ
街へ戻る途中。
俺の視界にステータス画面が浮かぶ。
【ステータス】
名前:キラ
年齢:12歳
レベル:23
ブラッドベアとの戦闘。
そして複数の魔物との戦い。
確かな経験になった。
ただ、俺はレベルの数字よりも、森の奥で感じた魔力の方が気になっていた。
南部森林。
西街道。
そして今回の魔物たち。
すべてが繋がっている。
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調査結果を報告すると、受付嬢の顔が変わった。
「……黒い魔力の痕跡ですか?」
「はい」
「それは、すぐに上へ報告します」
受付嬢が奥へ走っていく。
俺たちはその背中を見送る。
「ねえ、キラ」
レティシアが言う。
「うん?」
「これ……大きなことになりそうだね」
「俺もそう思う」
エリスが静かに口を開く。
「もし、魔物を意図的に強くしている存在がいるのなら……」
そこで言葉を止めた。
俺たちは誰も続きを口にしなかった。
ただ――
西街道の異変は、もう一つの討伐依頼では終わらない。
そんな予感だけが残っていた。
第56話 終




