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5話 父とレベル上げ

更新頻度高いかな?だってもう書いてたんだもの。



 朝日がカーテンの隙間から差し込んでいた。


 俺はベッドの上で目を覚ます。


「……朝か」


 昨日はトーマたちと遊んだ。


 街を走り回って、噴水の周りで追いかけっこをして、冒険者になったら何をするかなんて話までした。


 楽しかった。


 今まで一人で魔法の研究ばかりしていた俺にとって、ああいう時間は新鮮だった。


 また遊びたい。


 そう思う。


 でも――。


「まずは、こっちだな」


 俺はベッドから降りた。


 机の上には、昨日の夜にまとめた紙が何枚も置かれている。


 前世の知識があるとはいえ、この世界の魔法についてはまだ何も知らない。


 だからこそ、分かったことは全部書き出すことにした。


 最初の紙を見る。


 そこには大きく三つの項目が書かれている。


 一、無詠唱魔法。


 二、魔法の再構築。


 三、レベルとステータス。


「一つずつ確認するか」


 俺はペンを持った。


---


 まず、無詠唱。


 これは昨日のスライムとの戦いで確信した。


 俺は魔法を使うとき、言葉を必要としない。


 頭の中で術式を組み立てる。


 魔力を流す。


 そして発動。


 ただ、それだけ。


 しかし、この世界では違う。


 父さんに聞いた話では、魔法を使うには詠唱が必要らしい。


 詠唱には意味がある。


 魔法の構造を言葉にすることで、術式を安定させる。


 だから、複雑な魔法ほど長い詠唱が必要になる。


 逆に言えば――。


「詠唱を省略するってことは、術式を自分で全部制御してるってことか?」


 俺はペンを止めた。


 もしそうなら。


 無詠唱というのは、単に魔法を素早く使えるというだけではない。


 魔法そのものを自由に操作できる可能性がある。


「……まあ、まだ分からないけど」


 次の紙を見る。


 魔法の再構築。


 これは、もっと重要だ。


 俺は普通の火球魔法を使えなかった。


 魔力が少なすぎたからだ。


 しかし、火球の術式を分解してみた。


 火を作る。


 球状に固定する。


 飛ばす。


 この中から不要な部分を削っていく。


 そうして作ったのが――。


「《熱量操作》」


 庭へ出る。


 木の板を一枚、地面に立てた。


 右手を向ける。


 詠唱はしない。


 頭の中だけで術式を組み立てる。


 熱を集める。


 対象を指定。


 範囲を限定。


 魔力を流す。


 ――発動。


 木の板の表面が、じわりと黒く焦げた。


「成功」


 俺は小さく息を吐いた。


 何度使っても、この瞬間だけは嬉しい。


 魔法が成功するたびに思う。


 俺は魔法が使えないんじゃない。


 普通の魔法が使えないだけだ。


 なら、普通じゃない魔法を作ればいい。


「でも……」


 俺は自分の手を見る。


 魔力が減っている。


 昨日よりは増えた。


 レベル1のときは魔力3。


 スライムを倒してレベル2になった現在は――。


【魔力:5】


「たった二しか増えてない」


 いや。


 俺にとっては二も増えた。


 けれど、魔法研究をするには全然足りない。


 もう一度、《熱量操作》を使う。


 木の板が焦げる。


【魔力:4】


「一回で一消費」


 単純計算なら、あと四回。


 戦闘になればもっと使う。


 新しい魔法を作るなら、さらに魔力が必要になる。


「……やっぱりレベルを上げないと駄目か」


 俺は紙に新しい項目を書いた。


 目標:レベル10。


 これには理由がある。


 俺の固有能力――《再構築》。


 鑑定で表示された説明は、


【一定の条件を満たした場合、自己の状態を再構築することができます】


 たったこれだけ。


 何をすればいいのか分からない。


 ただ、俺には一つ心当たりがあった。


「レベル……」


 鑑定結果。


 魔法書。


 スキル大全。


 どれを調べても、《再構築》については何も書かれていなかった。


 けれど、この能力には「条件」がある。


 だったら、レベルが関係している可能性は高い。


 そもそも、この世界の人間はレベルを上げる。


 魔物を倒す。


 経験値を得る。


 レベルが上がる。


 ステータスが上昇する。


 それが当たり前。


 なら――。


「レベル10になったとき、何か起こるかもしれない」


 根拠はない。


 ただの勘だ。


 それでも。


 俺には他に手がかりがない。


---


 その日の昼。


 俺は父さんの書斎にいた。


 大きな本棚が壁一面に並んでいる。


 魔法書だけでなく、歴史書や地理書、魔物図鑑まで揃っている。


「父さん」


「ん?」


 机で書類を書いていた父さんが顔を上げる。


「ちょっと聞きたいことがある」


「何だ?」


「レベルって、どうやったら上がるの?」


「魔物を倒すのが一番確実だな」


「やっぱりそうなんだ」


 父さんはペンを置いた。


「どうしてそんなことを聞く?」


「もっと強くなりたいから」


「……」


 父さんは少しだけ黙った。


「キラ」


「うん」


「強くなって、何がしたい?」


 予想していなかった質問だった。


 俺は少し考える。


「魔法を作りたい」


「魔法を?」


「うん」


 父さんは笑った。


「お前らしいな」


 否定されると思っていた。


 でも、父さんは違った。


「魔法を研究するなら、確かに魔力は多い方がいい」


「じゃあ――」


「ただし」


 父さんの表情が変わった。


「魔物は遊び相手じゃない」


「……分かってる」


「本当に?」


「うん」


 父さんは俺の目を見る。


「魔物には危険なものもいる。弱い魔物だからといって油断していいわけじゃない」


「分かった」


「そして、絶対に一人では森へ行かないこと」


「……うん」


「約束できるか?」


「約束する」


 父さんはしばらく俺を見つめていた。


 そして、ふっと笑った。


「なら、一つ提案がある」


「何?」


「俺と一緒に森へ行くか?」


「え?」


「魔物を倒すところを見せてやる」


「本当?」


「ああ。ただし、お前が戦うのは安全を確認してからだ」


「分かった!」


 俺は思わず身を乗り出した。


「いつ?」


「明日だ」


「明日……!」


 胸が高鳴る。


 初めて、本格的に魔物と戦う。


 スライムなら一度倒した。


 でも、あれは偶然に近い。


 今度は違う。


 自分の力で魔物を倒す。


 そして――。


 レベルを上げる。


---


 翌朝。


 森へ向かう準備をしていると、父さんが小さな短剣を渡してくれた。


「これを持っておけ」


「いいの?」


「ああ」


 鞘から抜く。


 短い刃が朝日を反射した。


「……重い」


「最初はそんなものだ」


 俺は短剣を腰に下げる。


 魔法だけに頼るつもりはない。


 魔法が使えなくなる状況もある。


 魔力が尽きることもある。


 だから、剣も覚えた方がいい。


 そして何より。


「早くレベルを上げたい」


 俺は森を見る。


 木々の向こうには、たくさんの魔物がいる。


 経験値。


 魔力。


 そして――。


 《再構築》。


「絶対にレベル10まで行く」


 小さな目標。


 けれど、それが俺の異世界での最初の大きな一歩になる。


 父さんが馬車に乗り込む。


「キラ、行くぞ」


「うん!」


 俺も乗り込む。


 馬車がゆっくりと走り出す。


 街を抜ける。


 城門を越える。


 遠くに広がる森が、少しずつ大きくなっていく。


 俺は窓から外を眺めた。


 胸が高鳴っていた。


 魔物との戦い。


 レベルアップ。


 そして新しい魔法。


 何が待っているのか分からない。


 でも――。


「楽しみだ」


 このときの俺は、まだ知らなかった。


 レベル10。


 そこへ到達した瞬間。


 俺の人生だけではなく――。


 この世界の魔法に対する常識そのものが、大きく変わることを。

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