4話 少し賑やかになった。
ちょっとだけ サブストーリーを追加しますね
友人関係も大事っっ
転生してから、半年が経った。
六歳になった。
「暇だ……」
屋敷の庭で、俺は一人ベンチに座っていた。
魔法の研究は楽しい。
レベルを上げるのも楽しい。
最近では、魔法を一つ作るたびに「次は何ができるだろう」と考えるようになった。
けれど――。
「友達が欲しい」
これだけは、どうにもならなかった。
前世では会社と家を往復する毎日だった。
休日も一人で過ごすことが多かった。
別に寂しいと思ったことはない。
……たぶん。
でも、この世界に来てからは違った。
六歳の身体になったせいなのか、それとも本当に寂しかったのか。
同じ年頃の子供と遊んでみたい。
そう思うようになった。
その日の午後。
俺は父さんと一緒に街へ出かけることになった。
「父さん、少しだけ一人で見て回ってもいい?」
「一人で?」
「この辺りだけなら」
父さんは少し考えたあと、頷いた。
「夕方までには戻ってこい」
「分かった!」
屋敷を出て、街の大通りへ向かう。
この街に来るのは、これが初めてではない。
けれど、父さんと一緒に歩くときはいつも目的地へ直行するだけだった。
今日は一人。
俺は少しだけ歩く速度を落とした。
「おお……」
まず目に入ったのは、石造りの大きな建物だった。
入り口の上には剣と盾を模した看板が掲げられている。
冒険者ギルド。
扉が開くたびに、革鎧を着た人や大きな剣を背負った人が出入りしている。
「本物の冒険者だ……」
前世のゲームや小説でしか見たことのない光景に、思わず足を止める。
中からは大きな笑い声が聞こえてきた。
「昨日のゴブリン討伐、報酬が少なすぎるだろ!」
「文句言うなら自分で依頼を取ってこい!」
「ははは!」
なんだか楽しそうだ。
その隣には武器屋がある。
店先には剣や槍が並べられている。
鉄製の武器だけではない。
青白い光を帯びた剣まである。
「あれ、魔道具かな?」
近づいて見ると、刀身に小さな魔石が埋め込まれていた。
魔力を流すと切れ味が上がるらしい。
「魔法って、生活にも普通に使われてるんだな」
さらに通りを進む。
商店街には、見たことのない食べ物が並んでいた。
赤い果物。
紫色のパン。
串に刺された肉。
そして、見たことのない黄色い液体を売っている店。
「それ、何?」
思わず店員に聞く。
「レモの実のジュースだよ。銅貨三枚」
「じゃあ一つ」
銅貨を渡して、一口飲む。
「……うまい」
酸っぱい。
でも、少し甘い。
前世のレモネードに近い。
俺が飲んでいると、店員が笑った。
「坊ちゃん、気に入ったかい?」
「うん!」
「ならまた来な」
「また来る!」
こういう何気ない会話も楽しかった。
通りの中央には大きな噴水がある。
水は魔石の力で循環しているらしい。
噴水の周囲にはベンチが置かれ、老人や子供たちが休んでいる。
道の端には小さな魔石灯が並んでいた。
まだ昼だから消えているが、夜になると街全体を照らすらしい。
「魔法がある世界って便利だな……」
ふと上を見る。
建物の屋根には色とりどりの旗が飾られている。
商人の店にはそれぞれ紋章があり、冒険者ギルドの旗には剣と盾。
街の奥には大きな城壁が見える。
その向こうには森と山。
そして、そのさらに先には未知の世界が広がっている。
「……いつか行ってみたいな」
俺はそう呟いた。
冒険者。
ダンジョン。
魔物。
そして、まだ見たことのない土地。
魔法を研究するだけでも楽しい。
でも、世界そのものを見て回るのも面白そうだ。
そんなことを考えながら歩いていると――。
「おい、それ俺たちが先に見つけたんだぞ!」
「でも……私が先に拾った……」
路地裏から声が聞こえた。
気になって路地を覗く。
三人の子供がいた。
一番大きな男の子が、小さな女の子から何かを取り上げようとしている。
その隣には、眼鏡をかけた少年が立っている。
「……何してるの?」
俺が声をかける。
三人が一斉に振り向いた。
「誰だ、お前?」
「キラ」
「貴族か?」
「まあ、一応」
男の子が少し警戒する。
でも、すぐに胸を張った。
「俺たちは悪いことしてねえぞ!」
「そうなの?」
「こいつが勝手に拾った石を取り返してるだけだ!」
女の子が大事そうに握っているものを見る。
小さな青い石だった。
「それ、何?」
「魔石……」
女の子が答える。
「小さいけど、魔石だよ」
確かに魔物の魔石に見える。
「それなら、どうしてこの子から取るの?」
「俺たちが先に見つけたんだ!」
「でも拾ったのはこの子なんでしょ?」
「……そうだけど」
男の子が黙る。
俺は少し考えた。
「じゃあ、勝負しよう」
「勝負?」
「うん」
俺は地面に線を引いた。
「この線から相手を押し出した方が勝ち」
「それだけ?」
「それだけ」
男の子が笑った。
「そんなの簡単だ!」
男の子は俺より頭一つ分くらい大きい。
腕も太い。
普通にやったら勝てない。
でも――。
魔法なら話は別だ。
「始め!」
男の子が突っ込んでくる。
「うおおお!」
俺は動かない。
そして、相手の足元を見る。
ほんの少しだけ。
重心をずらす。
――《重心操作》。
無詠唱。
男の子の足が滑る。
「うわっ!」
ドサッ!
男の子が尻餅をついた。
「……」
「……」
沈黙。
俺は線の内側に立っている。
「俺の勝ち」
男の子はしばらく呆然としていた。
そして――。
「すげえ!」
「え?」
「お前、すげえな!」
さっきまで怒っていたのが嘘みたいに笑っている。
「俺、トーマ!」
「キラ」
「知ってる!」
「いや、さっき言ったから」
「そうだった!」
トーマが笑う。
その横で女の子も笑った。
「私はミナ」
「よろしく」
「うん」
最後に眼鏡の少年が口を開いた。
「僕はカイル」
「よろしく、カイル」
「……うん」
三人。
なんだか妙な組み合わせだった。
元気すぎるトーマ。
大人しいミナ。
少し冷静なカイル。
でも、不思議と居心地がいい。
「なあ、キラ」
「何?」
「明日も来る?」
「え?」
「俺たち、いつもこの辺で遊んでるんだ」
トーマが言った。
「一緒に遊ぼうぜ」
「……いいの?」
「もちろん!」
ミナも頷く。
「私も、キラと遊びたい」
カイルも小さく頷いた。
「僕も」
胸の奥が、少し暖かくなった。
「じゃあ、明日も来る」
「約束な!」
トーマが手を差し出した。
俺はその手を握る。
「約束」
それから俺たちは、日が暮れるまで遊んだ。
街の大通りを走り回った。
噴水の周りで追いかけっこをした。
冒険者ギルドの前で、いつか冒険者になったら何をしたいか話した。
「俺はでっかい剣を持つ!」
トーマが叫ぶ。
「私は魔法を覚えたい」
ミナが言う。
「僕は……地図を作りたい」
カイルが答える。
「俺は……」
少し考える。
「新しい魔法を作りたい」
三人が俺を見る。
「何それ?」
「面白そう!」
「キラらしいね」
くだらない話だった。
でも、楽しかった。
夕方になると、街の魔石灯が一つ、また一つと灯り始めた。
昼間とは違う、少し幻想的な街並みになる。
「綺麗だな……」
俺が呟くと、トーマが笑った。
「明日も見られるぞ!」
「うん」
俺たちは手を振って別れた。
「また明日!」
屋敷へ戻る。
「おかえり、キラ」
母さんが迎えてくれる。
「今日は楽しかった?」
「うん!」
俺は笑って答えた。
「友達ができた!」
「そう」
母さんも嬉しそうに笑った。
その夜。
ベッドに入った俺は、今日のことを思い出していた。
トーマ。
ミナ。
カイル。
きっと、これからずっと一緒にいるわけじゃない。
大人になれば、それぞれ別の道へ進むだろう。
それでもいい。
俺には俺の道がある。
トーマたちにも、それぞれの道がある。
いつか三人が冒険者になったら、どこかの街で偶然会うかもしれない。
依頼の途中で顔を合わせるかもしれない。
酒場でくだらない話をするかもしれない。
そんな未来も悪くない。
「……明日も行こう」
俺は小さく笑って、目を閉じた。
こうして。
俺には初めての友達ができた。
そして、この日から。
俺の異世界での日常は、少しだけ賑やかになった。




