3話 無詠唱で出来ちゃった
自分で読み返して面白いと思えるのはダメなのかな。と思いつつ少し手を加えながら過去に描いた作品を公開してゆくキラっち まぁ自己満です
森に入って十分ほど。
「……いた」
茂みの向こうに、半透明の青い魔物がいる。
スライムだ。
大きさは俺の腰くらい。
ぷるぷると体を揺らしながら、地面を這っている。
魔物図鑑に書いてあった通りだった。
――最弱の魔物。
ただし、俺にとっては人生で初めて戦う相手だ。
「……よし」
俺は木の枝を拾った。
武器と呼ぶには頼りない。
でも、剣なんて持ったことがない。
だったら魔法を使うしかない。
「《熱量操作》」
声に出す。
何も起こらない。
「……あれ?」
もう一度。
「《熱量操作》」
指先が少しだけ熱くなる。
昨日と同じだ。
魔法は成功している。
俺はスライムに手を向けた。
「これで……」
熱を集中させる。
スライムの表面が少しずつ熱くなっていく。
だが――。
スライムは平気な顔をしている。
「……効いてない?」
魔物図鑑によると、スライムは物理攻撃に強い。
炎や熱にもそれなりの耐性がある。
「じゃあ、もっと熱くする」
魔力を込める。
指先がさらに熱くなる。
しかし、そこで問題が起きた。
魔力が減っていく。
【魔力:2】
「まずい」
たった一回で魔力を1消費した。
俺の魔力量は3。
あと二回しか使えない。
しかもスライムはまだ元気だ。
「……どうする?」
木の枝を見る。
スライムを見る。
もう一度、木の枝を見る。
そして思いついた。
「熱を直接ぶつける必要はない」
昨日と同じだ。
魔法の常識を疑う。
熱そのものを操れるなら――。
「スライムの水分を……」
スライムの身体は、ほとんど水分でできている。
なら。
熱を与えるのではなく。
水分を奪えばいい。
俺は手を伸ばした。
「……」
詠唱しようとする。
しかし、ふと気づいた。
昨日。
俺が魔法を作ったとき。
詠唱なんてしていなかった。
そもそも、俺は魔法を覚えていない。
頭の中で術式を組み立てただけだ。
「……もしかして」
俺は口を閉じる。
そして、頭の中だけで魔法を組み立てた。
水分。
対象。
移動。
熱。
――発動。
瞬間。
スライムの動きが止まった。
「……!」
体表が一瞬で乾いていく。
ぷるぷるしていた身体が縮み――。
地面に落ちた。
小さな魔石が残る。
【スライムを討伐しました】
【経験値を獲得しました】
【レベルが1から2へ上昇しました】
「……倒した?」
俺は呆然と立ち尽くす。
そして気づく。
「今……」
声に出していない。
詠唱していない。
それなのに魔法が発動した。
「無詠唱……?」
前世のゲームや小説なら、無詠唱魔法は珍しくない。
でも、この世界では違う。
魔法を使うには詠唱が必要だ。
少なくとも、父さんや母さんからそう教わった。
魔法とは、
詠唱によって術式を安定させるもの。
言葉によって魔力の形を決めるもの。
それが常識。
「……俺、詠唱してない」
試してみる。
少し離れた場所にある小石を見る。
熱量操作。
頭の中だけで術式を組み立てる。
発動。
小石が赤くなる。
「……」
もう一度。
今度は詠唱してみる。
「《熱量操作》」
同じ結果。
だったら。
詠唱には意味がない。
少なくとも俺の魔法には。
「……これ、便利じゃないか?」
俺は笑った。
このときの俺は、本当にそう思っていた。
ただ便利なだけだと。
しかし――。
その日の夕方。
家に戻った俺は、父さんに聞いてみた。
「父さん」
「どうした?」
「魔法って、詠唱しないと使えないの?」
父さんは少し驚いた顔をした。
「もちろんだ」
「絶対?」
「ああ」
父さんは笑いながら説明してくれた。
「魔法は複雑な術式を扱う。詠唱によって術式を固定しなければ、普通は魔法にならない」
「じゃあ、詠唱しないで使える人は?」
「いない」
「……一人も?」
「少なくとも、俺は聞いたことがない」
胸が少しだけ高鳴った。
「もし、無詠唱で魔法を使える人がいたら?」
父さんは少し考えた。
「そんな人間がいたら……」
そして、真剣な顔になった。
「歴史に名前が残るだろうな」
「……そうなんだ」
俺は笑った。
でも、父さんは知らない。
その「歴史に名前が残るかもしれない人間」が――。
今、目の前にいることを。
そして俺もまだ知らなかった。
無詠唱という能力が、ただの便利な才能ではないことを。
詠唱とは、魔法を使うために必要なものではない。
魔法を制限するために必要なものだった。
その制限を持たない俺だけが。
魔法そのものを自由に組み替えられる。
――そして翌日。
俺は人生で初めて、レベル3へ到達した。




