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2話 火球を捨てたら新魔法

何話分か書き留めておいたので、最初はぽんぽんだせちゃいます。

しかし暑い。蝉の声がすごいですね。


 翌朝。


 俺は庭に出ていた。


「よし……」


 目の前には、小さな木製の的が置かれている。


 昨日の夜、俺は一睡もしていない。


 ずっと考えていた。


 ――魔法を作る。


 言葉にすれば簡単だ。


 でも、実際にどうやって作る?


 魔法書を読む限り、この世界の魔法には大きく分けて三つの要素がある。


 魔力。


 術式。


 そして、イメージ。


 例えば火球なら、


 魔力を集める。


 術式によって火炎を発生させる。


 それを球状に固定する。


 そして対象へ飛ばす。


 これが一般的な火球魔法らしい。


「でも、俺には魔力がない」


 五歳児としても、俺の魔力量は異常に少ない。


 昨日の鑑定結果では、たったの3。


 普通の子供なら10前後。


 魔法の才能がある子供なら、20や30あってもおかしくないらしい。


 つまり俺が普通の火球を使おうとしても――。


「そもそも燃料が足りない」


 なら。


 魔力を大量に使う部分を削ればいい。


「まずは火球を分解する」


 俺は地面に木の枝で術式を書いた。


 火球。


 発火。


 固定。


 射出。


 この四つ。


 だったら――


「射出を捨てる」


 火球を飛ばす必要なんてない。


 目の前に火が出ればいい。


 それだけなら、必要な魔力は減る。


 さらに考える。


「火そのものを作る必要もない」


 火は物質ではない。


 燃焼によって発生する現象だ。


 だったら。


「燃える条件を作ればいい」


 空気。


 燃料。


 温度。


 三つが揃えば燃焼する。


 なら、そのうち一つを操作すれば――。


「……できるか?」


 俺は手を伸ばした。


「《再構築》」


 何も起こらない。


「……やっぱり駄目か」


 魔力が足りない。


 なら、もっと削る。


 火を作る。


 ではなく。


 熱を作る。


 熱を作るだけなら、炎そのものを発生させる必要はない。


 術式を組み替える。


 火属性。


 燃焼。


 熱。


 熱。


 熱――。


 頭の中で、何かが繋がった。


【魔法構造を解析しています】


【既存魔法《火球》の一部構造を分離】


【不要な構造を削除】


【新規魔法を生成しますか?】


「する!」


 思わず叫んだ。


 次の瞬間。


 指先が熱くなった。


「……!」


 熱い。


 だが、炎は出ていない。


 ただ、指先だけがじわじわと熱を持っている。


 俺は慌てて木の的に手を向けた。


「……いけ!」


 瞬間。


 木の表面が黒く焦げた。


「できた……」


 小さな焦げ跡。


 たったそれだけ。


 けれど俺にとっては、世界が変わった瞬間だった。


【新規魔法の創造に成功しました】


【魔法名を設定してください】


「名前?」


 しばらく考える。


 火ではない。


 炎でもない。


 ただ熱を操る。


「……《熱量操作》」


【新規魔法《熱量操作》を登録しました】


【消費魔力:1】


「魔力1……?」


 俺は目を見開いた。


 火球の消費魔力は、最低でも5。


 それに対して、この魔法は1。


 威力はまだ低い。


 射程も短い。


 けれど――。


「俺でも使える」


 それが何より嬉しかった。


 俺には魔法の才能がない。


 そう言われ続けてきた。


 でも違った。


 俺は、普通の魔法が使えないだけだった。


「これなら……」


 もっと作れる。


 そう思った。


 そのときだった。


「キラ?」


「――っ!」


 振り返る。


 庭の入口に、母さんが立っていた。


「何をしているの?」


「えっと……」


 俺は焦った。


 まさか新しい魔法を作ってました、なんて言えるわけがない。


「魔法の練習?」


「う、うん」


 母さんが庭の中央まで歩いてくる。


 そして、俺が焦がした木の的を見る。


「……火魔法?」


「違う」


 反射的に答えてしまった。


「違う?」


「……うん」


 母さんは少し考えるように首を傾げた。


「じゃあ、何の魔法?」


「…………」


 答えられない。


 まだ誰にも知られたくなかった。


 俺は誤魔化すように笑った。


「秘密」


「ふふっ」


 母さんは笑った。


「そう。じゃあ、秘密にしておくわ」


「ありがとう」


 母さんが去っていく。


 俺はもう一度、手のひらを見る。


 小さな熱。


 たったそれだけの魔法。


 でも――。


 俺は確信していた。


 この力を極めれば、もっとすごいことができる。


 ただ、そのためには問題が一つある。


「魔力が足りない」


 現在の俺のレベルは1。


 魔力も3。


 新しい魔法を作るには、もっと多くの魔力が必要になる。


 なら、どうする?


 答えは一つだった。


「レベルを上げる」


 魔物を倒せばレベルが上がる。


 レベルが上がれば、魔力も増える。


 そうして新しい魔法を作る。


 俺は父さんの書斎から冒険者向けの魔物図鑑を持ってきた。


 最初の標的は――。


「スライム」


 この世界で最も弱い魔物。


 五歳児でも倒せる。


 そう書いてある。


 ただし。


「問題は、どうやって倒すかだ」


 俺は拳を見る。


 五歳児の筋力。


 魔力3。


 武器なし。


「……まあ、やるしかないか」


 こうして俺の最初の冒険が始まった。


 ――まだ俺は知らなかった。


 この小さなスライムとの戦いが。


 俺の人生を大きく変えることになるとは。

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