48話 魔物の襲撃前夜
セレスタの冒険者ギルドは、朝から騒がしかった。
昨日、北街道で確認されたゴブリンの群れ。
その報告が、すでに街中へ広がっていた。
俺とレティシアは、掲示板の前に立っていた。
「昨日より依頼が増えてる」
レティシアが言う。
「うん。でも、簡単な依頼が少ない」
掲示板には、魔物の目撃情報や街道の警戒依頼が増えている。
セレスタの周辺で、明らかに異変が起きていた。
「南にも魔物」
「北にも魔物」
レティシアが指を折る。
「これで東や西にも出たら大変だね」
「……」
俺は黙って掲示板を見る。
昨日の森で感じた、あの巨大な魔力。
どうしても気になる。
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緊急の依頼
「キラ、これ」
レティシアが一枚の依頼書を取った。
『西部街道・魔物調査』
「西側でも?」
「うん」
俺は依頼書を読む。
西部街道で、通常より多くの魔物が確認されている。
しかも、ゴブリンだけではない。
ホーンラビット。
グレイウルフ。
フォレストボア。
本来なら別々の場所に生息している魔物まで、同じ地域に現れているらしい。
「……やっぱりおかしい」
「受けよう」
「うん」
二人で受付へ向かった。
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街を出て、西へ向かう。
しばらく歩くと、街道脇に小さな魔物が現れた。
「ホーンラビット!」
レティシアが剣を抜く。
ホーンラビットは、頭に一本の角を持つ兎型の魔物だ。
普段なら臆病な魔物で、人間を見ると逃げる。
しかし――
「逃げない?」
レティシアが構える。
ホーンラビットはこちらを睨んでいる。
「おかしい」
俺は魔力感知を使う。
「魔力が乱れてる」
「どういうこと?」
「分からない」
ホーンラビットが突然こちらへ突進してきた。
「来る!」
レティシアが横へ避ける。
――ドンッ!
角が地面に突き刺さる。
「今!」
レティシアの双剣が閃く。
一撃で仕留める。
「……変だったね」
「うん」
俺は倒れたホーンラビットを見る。
まるで何かに怯えているようだった。
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さらに西へ進む。
今度は森の近くで、大きな音がした。
――ドドドドドッ!
「何か来る!」
木々の間から巨大な猪が飛び出してきた。
「フォレストボア!」
レティシアが叫ぶ。
大型の猪型魔物。
突進力が強く、正面から受ければ危険だ。
「避けて!」
二人で左右に飛ぶ。
フォレストボアが通り過ぎる。
「速い!」
「でも、動きは直線的!」
俺は魔力を集中する。
「《風刃》!」
――シュッ!
脚を狙う。
フォレストボアがバランスを崩した。
「今!」
「任せて!」
レティシアが一気に距離を詰める。
――ザンッ!
攻撃を受けたフォレストボアが倒れる。
「……これで二種類」
俺は周囲を見る。
「やっぱり、魔物が普段と違う場所にいる」
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依頼の目的は討伐ではない。
俺たちは周囲を調べる。
そして、街道から少し離れた場所で奇妙なものを見つけた。
「キラ、これ……」
レティシアが指差す。
地面に黒っぽい跡が残っている。
「何だろう」
俺は近づく。
魔力感知を使った瞬間――
「……!」
頭に軽い痛みが走った。
反射的に後ろへ下がる。
「キラ?」
「触らない方がいい」
「何?」
「魔力が残ってる」
普通の魔物の魔力とは違う。
濃い。
そして、どこか不気味だった。
「これが魔物を追い出してる原因?」
「分からない」
俺は少し考える。
「でも、持って帰って調べてもらった方がいい」
近くの木の枝を使い、直接触れないように黒い跡の一部を採取する。
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セレスタへ戻る途中。
レティシアが口を開いた。
「ねえ、キラ」
「何?」
「私たち、昨日より強くなってる気がする」
「そうかな」
「昨日のゴブリンの群れも、今日の魔物も倒せた」
「でも、まだまだだよ」
「分かってる」
レティシアは笑う。
「だから強くなるんでしょ?」
「……うん」
俺は剣を見る。
旅を始めてから、まだほんの少ししか経っていない。
でも、毎日新しいことを知っている。
魔物。
冒険者。
街。
そして――仲間。
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ギルドへ戻る。
受付へ報告をすると、担当の女性が依頼書を確認する。
「西部街道でホーンラビットとフォレストボアを確認?」
「はい」
「さらに、この黒い魔力の痕跡も」
俺は採取したものを渡す。
受付の女性が慎重に確認する。
「……これは上に報告します」
「お願いします」
そして彼女が少し笑った。
「それと、お二人に伝えておきたいことがあります」
「?」
「昨日までの依頼実績を確認しました」
レティシアが身を乗り出す。
「まさか……」
「まだです」
「えー!」
レティシアが肩を落とす。
受付の女性が苦笑する。
「ただ、昇格候補として記録しておきます」
「本当!?」
「はい」
俺も少し嬉しかった。
まだFランク。
でも、少しずつ実績が積み上がっている。
「まずはFランクの仕事をしっかりこなしてください」
「はい!」
レティシアが元気よく返事をする。
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ギルドを出る。
空はすっかり暗くなっていた。
街の明かりが、通りを照らしている。
「今日は疲れたね」
レティシアが言う。
「うん」
「何か食べて帰ろうよ!」
「……また?」
「だってお腹空いた!」
「仕方ないな」
二人で歩き出す。
すると――
街の門の方から、騒ぎ声が聞こえた。
「何だ?」
二人で振り返る。
門番たちが慌ただしく動いている。
遠くから、誰かが叫んだ。
「南街道から魔物が来たぞ!」
俺とレティシアは顔を見合わせる。
「……南?」
「昨日の森……」
俺の胸に嫌な予感が走った。
森の奥で感じた、あの巨大な魔力。
それが、少しずつ街へ近づいている。
そして今夜。
セレスタの街に――
初めての本格的な魔物襲撃の夜が訪れようとしていた。
第48話 終




