46話 まだ俺たちはFランク
翌朝。
俺はセレスタの冒険者ギルドに来ていた。
昨日の南街道で見つけた、大きな爪痕。
あれがどうしても気になっていた。
「キラ!」
後ろから声がする。
振り返ると、レティシアが走ってきた。
「おはよう!」
「おはよう。今日は早いね」
「昨日の話、気になって眠れなかった!」
「昨日の?」
「森の奥にいる、グレイウルフより大きな魔物!」
やっぱりレティシアも気になっていたらしい。
「俺も調べたいと思ってた」
「じゃあ、行こう!」
「待って」
俺は掲示板を見る。
「勝手に森へ入るのは危ないよ」
「じゃあ依頼を探そう」
二人で掲示板を確認する。
すると、一枚の新しい依頼書が貼られていた。
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『南部森林・魔物の生息域調査』
昨日のグレイウルフの群れについて、正式な調査依頼が出ていた。
「これだ!」
レティシアが指差す。
「でも、推奨ランクはEだ」
「私たちFランクだよ?」
「だから慎重にやる」
受付へ向かう。
「この依頼を受けたいです」
受付の女性が俺たちを見る。
「お二人だけですか?」
「はい」
「昨日のグレイウルフの件があります。危険な魔物がいる可能性もあります」
「分かっています」
俺は答える。
「危険だと判断したら戻ります」
受付の女性は少し考えたあと、依頼書を渡してくれた。
「分かりました。ただし、討伐は目的ではありません」
「はい」
「異常を見つけたら、必ず報告してください」
「分かりました」
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セレスタを出て、昨日の南街道を進む。
森へ入った瞬間、空気が変わった。
「……静かだね」
レティシアが呟く。
「うん」
鳥の声がほとんど聞こえない。
普通の森なら、小さな魔物や動物の気配があるはずだ。
俺は魔力感知を広げる。
「……おかしい」
「何?」
「魔物が少なすぎる」
「昨日はグレイウルフがいたのに?」
「そう」
まるで何かに怯えて、森から逃げたようだった。
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しばらく進むと、地面に足跡があった。
「これ……」
レティシアがしゃがむ。
「大きい」
俺も確認する。
四本足。
爪の跡。
そして、かなり深く地面に沈んでいる。
「大型の魔物だと思う」
「何の魔物?」
「まだ分からない」
俺は足跡を追う。
少し進んだところで、木の幹に傷があった。
昨日見たものと同じ。
「やっぱり、同じ魔物だ」
「この先にいるのかな」
「分からない。でも……」
俺は魔力感知を使う。
何かいる。
遠い。
でも、確かに感じる。
「レティシア」
「うん」
「ここから先は慎重に行こう」
「分かった」
レティシアも剣を抜いた。
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しばらく進む。
すると、森が突然開けた。
そこには大量の倒木があった。
「……すごい」
レティシアが息を呑む。
木が何本も折れている。
まるで何か巨大なものが暴れたようだった。
その中心に――
大きな魔物の足跡。
「これは……」
俺はしゃがみ込む。
「グレイウルフの何倍も大きい」
レティシアが周囲を見る。
「何か戦った跡もあるよ」
地面には血痕が残っていた。
そして、その血の匂いを追うと――
「こっち」
二人で進む。
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木の陰。
そこに一匹のグレイウルフが倒れていた。
「生きてる?」
レティシアが近づく。
「待って」
俺は魔力感知を使う。
「まだ生きてる」
傷はかなり深い。
俺は回復魔法を使う。
「《ヒール》」
淡い光が傷を包む。
しばらくすると、出血が止まった。
「助かった……」
レティシアが安心する。
「でも、この傷……」
俺は傷口を見る。
鋭い爪。
かなり強い力で攻撃されている。
「この魔物は、何かに襲われた」
「昨日の爪痕の魔物?」
「たぶん」
グレイウルフが弱々しく立ち上がる。
そして森の奥を見る。
「……逃げろってことかな」
レティシアが言う。
「そうかもしれない」
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そのとき――
――ドン。
遠くから地響きが聞こえた。
俺たちは顔を見合わせる。
――ドン。
また。
少しずつ近づいている。
「キラ……」
「分かってる」
俺は魔力感知を最大まで広げる。
そして――
感じた。
「……いる」
「どこ?」
「前方」
木々の向こう。
巨大な魔力。
今まで感じたことのないほどの圧力。
「戻ろう」
俺はすぐに言った。
「え?」
「俺たちだけじゃ無理だ」
レティシアは少し悔しそうな顔をした。
「……分かった」
二人で引き返す。
その瞬間――
森の奥から低い咆哮が響いた。
――グォォォォォッ!!
鳥たちが一斉に飛び立つ。
レティシアが剣を握る。
「……あれ、何?」
「分からない」
俺は振り返らない。
「だから、今は逃げる」
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森を抜け、街道まで戻る。
俺たちは息を整えた。
「……怖かった」
レティシアが正直に言った。
「俺も」
「キラでも怖いんだ」
「当たり前だよ」
俺は森を見る。
あの魔力。
今の俺たちでは勝てない。
それだけは分かった。
「強くならないと」
レティシアが呟く。
「うん」
俺も頷く。
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ギルドへ戻り、見たものをすべて報告した。
「大型魔物の足跡?」
「はい」
「グレイウルフが襲われていました」
「それから?」
「森の奥から、かなり強い魔力を感じました」
受付の女性は真剣な顔になる。
「分かりました。すぐに上位ランクの冒険者へ調査を依頼します」
「お願いします」
俺たちは依頼達成の報告を終える。
今回、魔物を討伐したわけではない。
でも――
危険な存在を見つけ、情報を持ち帰った。
それも冒険者の仕事だった。
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ギルドを出る。
「ねえ、キラ」
「何?」
「私、もっと強くなりたい」
「俺も」
「いつか、ああいう魔物とも戦えるくらい」
レティシアが双剣を見る。
「でも今日は逃げて正解だったね」
「うん」
「じゃあ、もっと強くなってから戻ろう!」
レティシアが笑う。
俺も笑った。
まだ俺たちはFランク。
知らない魔物もたくさんいる。
まだまだ力が足りない。
だけど――
今日の経験は、きっと無駄じゃない。
そして俺は知らなかった。
この森の異変が――
やがてセレスタの街を巻き込む、大きな事件へと繋がっていくことを。
第46話 終




