45話 始まったばかり
セレスタの朝。
冒険者ギルドには、昨日より多くの冒険者が集まっていた。
俺は掲示板の前で依頼書を眺めていた。
「今日は何にする?」
隣からレティシアが顔を出す。
「昨日は薬草採取だったから、今日は魔物討伐がいい!」
「いきなり危険な依頼はやめよう」
「えー」
「俺たちはまだFランクなんだから」
「でも昨日も魔物を倒したじゃん」
「だからって無茶していい理由にはならないよ」
レティシアは少し不満そうな顔をした。
俺は掲示板を見ていく。
薬草採取。
街道の簡単な見回り。
小型魔物の討伐。
その中に一つ気になる依頼があった。
『セレスタ南街道・魔物の目撃情報調査』
「これにしよう」
「調査?」
「うん。討伐じゃない」
「つまらなそう……」
「安全そうだから」
「……分かった」
レティシアは渋々頷いた。
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セレスタの街を出て、南街道を歩く。
街から少し離れると、人の姿も少なくなった。
「昨日の森より静かだね」
「だから気をつけよう」
「了解!」
俺は魔力感知を使う。
周囲に小さな魔力反応がいくつかある。
「……魔物がいる」
「何?」
「たぶんグレイウルフ」
「狼型の魔物?」
「うん」
グレイウルフ。
狼に似た姿をした魔物で、単独よりも群れで行動することが多い。
Fランク冒険者でも倒せる魔物だが、群れになると危険度が上がる。
「何体?」
「今のところ二体」
「倒す?」
「依頼は調査だから、まず確認しよう」
「分かった」
二人で街道脇の草むらへ入る。
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しばらく進むと、木の幹に大きな爪痕が残っていた。
「これ……グレイウルフ?」
レティシアが見る。
「違うと思う」
「え?」
俺は爪痕を調べる。
「グレイウルフより大きい」
「じゃあ、もっと強い魔物?」
「たぶん」
さらに地面を見る。
そこには複数の足跡があった。
「……こっちから来てる」
「森の方?」
「うん」
俺は少し考えた。
「一度戻ろう」
「え?」
「この依頼は調査だから、無理に追う必要はない」
「……分かった」
俺たちは街道へ戻ろうとした。
その瞬間――
――ガサッ!
「右!」
俺が叫ぶ。
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草むらから一匹のグレイウルフが飛び出してきた。
「来た!」
レティシアが双剣を抜く。
――キィン!
グレイウルフの爪を受け止める。
「はっ!」
レティシアが押し返す。
俺は魔力を集中させた。
「《火球》!」
炎の塊が飛ぶ。
――ドンッ!
グレイウルフが吹き飛ぶ。
「一体!」
しかし――
「キラ!」
「分かってる!」
魔力感知に次々と反応が現れる。
「まだいる!」
草むらからグレイウルフが現れる。
一匹。
二匹。
三匹。
さらに奥にも反応がある。
「全部で……六匹!」
「六匹!?」
レティシアが驚く。
グレイウルフは一匹ならFランクでも対応できる。
しかし、六匹の群れとなれば話は変わる。
「囲まれないように!」
「分かった!」
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レティシアが前に出る。
「こっちは私が抑える!」
双剣を構え、グレイウルフを迎え撃つ。
――ザンッ!
一匹の前足を斬る。
俺は後ろから別のグレイウルフへ魔法を放つ。
「《風刃》!」
――シュッ!
風の刃が足元を切り裂く。
動きが止まる。
「レティシア!」
「任せて!」
レティシアが一気に距離を詰める。
――ザンッ!
一匹倒れる。
「残り四匹!」
グレイウルフが俺へ向かってくる。
俺は剣を抜いた。
――ガキィン!
爪を受け止める。
「ぐっ……!」
重い。
腕が震える。
その瞬間――
「キラ!」
レティシアが横から飛び込む。
――ザシュッ!
グレイウルフが倒れる。
「助かった」
「お互い様!」
残りのグレイウルフが一斉に襲いかかる。
「右!」
「分かった!」
俺が《風刃》を放つ。
レティシアがその隙に突っ込む。
――ザンッ!
さらに一匹。
最後の一匹が逃げようとする。
「逃がす?」
「追わない!」
俺は答えた。
「依頼は調査だから!」
レティシアも剣を収める。
「了解!」
---
戦闘が終わる。
俺は改めて周囲を調べた。
「……やっぱり変だ」
「何が?」
「グレイウルフの数が多すぎる」
街道近くで六匹もの群れが確認された。
さらに森の奥へ続く足跡。
「何かに追われてるのかもしれない」
「グレイウルフが?」
「うん」
俺は木に残った爪痕を見る。
グレイウルフのものではない。
もっと大きい。
「この爪痕の魔物が原因かもしれない」
「じゃあ……」
「今日はここまで」
「うん」
俺たちは街へ戻ることにした。
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冒険者ギルドへ戻る。
受付の女性に依頼書を渡す。
「南街道でグレイウルフの群れを確認しました」
「何体ですか?」
「六体です」
受付の女性の表情が変わる。
「六体……?」
「それと、森の奥へ続く足跡がありました」
「足跡?」
「グレイウルフより大きな魔物のものだと思います」
周囲の冒険者たちも話を聞いていた。
「最近、南側で魔物が増えているって話もあったな」
「群れが森から追い出されたのか?」
「だとしたら、ちょっと厄介だな」
受付の女性が頷く。
「分かりました。上位ランクの冒険者にも調査を依頼します」
俺は少し安心した。
自分たちだけで調べるべきじゃない。
それが今回の依頼で学んだことだった。
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「キラさん、レティシアさん」
受付の女性が俺たちを見る。
「今回の依頼は調査です」
「はい」
「ですが、危険を感じた時点で無理に進まず、情報を持ち帰ったことは評価できます」
レティシアが俺を見る。
俺も頷いた。
「冒険者は、強ければいいというものではありません」
その言葉が心に残る。
強くなること。
魔法を覚えること。
剣を上達させること。
それだけではない。
危険を判断すること。
仲間を守ること。
そして、生きて帰ること。
それも冒険者の力なんだ。
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ギルドを出る。
夕方のセレスタは、少しずつ人が増えていた。
「今日もちゃんと仕事したって感じがする!」
レティシアが笑う。
「昨日も仕事だったよ」
「昨日は薬草を探してただけじゃん」
「それも依頼だよ」
「そっか」
レティシアは少し考える。
「ねえ、キラ」
「何?」
「私たち、もっと強くなろうよ」
「……うん」
「いつか、もっと難しい依頼も受けられるようになってさ」
レティシアが拳を握る。
「もっと遠くまで旅しよう!」
「そうだね」
今の俺たちはFランク。
まだ何も知らない。
世界には、もっと強い魔物がいる。
もっと難しい依頼もある。
そして――
俺たちの知らない場所には、まだ見たことのない人々がいる。
いつかは、この街を出て。
もっと遠くへ。
もっと強く。
俺はレティシアと並んで歩いた。
Fランク冒険者、キラ。
そして、
Fランク冒険者、レティシア。
俺たちの旅は、まだ始まったばかりだった。
第45話 終




