41話 本当に1人。
街を出てから、どれくらい歩いただろう。
振り返ると、故郷の街はもうかなり小さくなっていた。
俺は足を止めて、遠くに見える街を眺める。
「……本当に出てきたんだな」
12歳。
今日から俺は、一人で旅をする。
そう考えると、胸の奥が少しだけ騒がしくなった。
「よし」
俺は前を向く。
「まずは次の街まで行こう」
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街道は思っていたより長かった。
歩いても歩いても景色が変わらない。
最初は楽しかった。
知らない景色。
知らない道。
遠くに見える山。
初めて見る草原。
全部が新鮮だった。
「旅って、こういう感じなのか」
俺は少し笑った。
けれど――
数時間後。
「……疲れた」
足が重い。
背中の荷物も、最初よりずっと重く感じる。
「一人旅って、こんなに大変なのか……」
今までなら、疲れたと言えば父親が休憩を提案してくれた。
冒険者と一緒なら、誰かが荷物を持ってくれることもあった。
でも今は違う。
自分で判断しなければならない。
「……もう少し歩こう」
俺は再び歩き出した。
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昼を過ぎた頃。
街道脇の大きな木を見つけた。
「ここで休もう」
木陰に座り、水筒を取り出す。
水を飲む。
「……うまい」
たったそれだけなのに、妙に嬉しかった。
荷物から保存食を取り出す。
パンを一つ食べる。
「これが今日の昼か」
昔なら、家に帰れば温かい食事が待っていた。
今は自分で用意するしかない。
「父さんって、こういうことも毎日やってたんだよな……」
少しだけ父親の顔が浮かぶ。
俺はパンを食べながら笑った。
「帰ったら、ちゃんとお礼言おう」
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太陽が傾き始める。
次の街までは、まだ距離がある。
「今日はここまでにするか」
俺は街道から少し離れた場所を探す。
木々があり、風を防げそうな場所を見つけた。
「ここなら大丈夫そう」
荷物を下ろす。
薪を集める。
火を起こす。
「……よし」
小さな火が燃え始める。
思ったより簡単だった。
「これくらいなら一人でもできるな」
少し自信がついた。
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辺りが暗くなる。
焚き火の音だけが聞こえる。
俺は剣を手元に置いて、周囲を確認した。
――そのとき。
「……」
何かを感じた。
俺は顔を上げる。
「魔力……?」
すぐに目を閉じる。
魔力感知。
周囲の魔力を探る。
「……いる」
少し離れた場所。
何かがいる。
俺は立ち上がった。
剣を抜く。
「来るなら……来い」
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草むらが揺れる。
――ガサッ。
小さな魔物が姿を現した。
「……ゴブリン?」
俺は剣を構える。
一体。
いや――
「二体……!」
後ろからもう一体出てきた。
俺は息を整える。
今までなら、父親やレオンがいた。
でも今は――
俺一人。
「落ち着け」
レオンの言葉を思い出す。
> 「相手の次の動きを考えろ」
ゴブリンが走ってくる。
「来た!」
――ガキン!
剣で受ける。
腕に衝撃が走る。
「くっ……!」
思ったより重い。
俺は後ろへ下がる。
もう一体が横から迫ってくる。
「こっちか!」
身体をひねる。
攻撃を避ける。
そのまま距離を取った。
「剣だけじゃ厳しい……!」
俺は左手を前へ向ける。
「《火球》!」
――ボッ!
炎が飛ぶ。
ゴブリンが避けようとする。
「そこ!」
俺は一気に踏み込む。
剣を振る。
――ザンッ!
一体が倒れる。
「あと一体!」
残ったゴブリンがこちらへ向かってくる。
俺は剣を構える。
しかし――
足が止まった。
「……怖い」
一瞬。
本当に怖かった。
もし失敗したら。
もし剣を受け損なったら。
助けてくれる人はいない。
でも――
「逃げるわけにはいかない!」
俺は踏み込む。
ゴブリンの攻撃をかわす。
剣を振る。
――ガキン!
弾かれる。
「くっ!」
もう一度。
今度は剣ではなく――
「《風刃》!」
風の刃が走る。
ゴブリンが倒れる。
「……終わった?」
俺はしばらく動かなかった。
周囲を確認する。
もう魔物の気配はない。
剣を下ろす。
「……勝った」
胸が大きく上下している。
手も少し震えていた。
でも――
「俺、一人で倒したんだ……」
思わず笑ってしまう。
「やった……!」
誰も見ていない。
だからこそ、俺は子供みたいに拳を握って喜んだ。
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再び焚き火の前に座る。
さっきまで怖かった。
今も少し怖い。
でも、一つ分かった。
俺はまだ弱い。
魔力だって、同世代より少ない。
剣だってレオンには遠く及ばない。
それでも――
「考えれば戦える」
魔法だけじゃない。
剣だけでもない。
その両方を使う。
それが今の俺の戦い方だ。
俺は腰の剣を見る。
「もっと強くなろう」
そして――
「もっと新しい魔法を作ろう」
焚き火を見つめながら、そう決めた。
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朝。
俺は荷物をまとめた。
火を消す。
周囲を確認する。
「よし」
街道へ戻る。
歩き始めてしばらくすると――
「あれか!」
遠くに街が見えた。
大きい。
故郷の街よりも大きく見える。
「どんな場所なんだろう」
俺の足が自然と速くなる。
新しい街。
新しい人。
新しい冒険。
期待に胸を膨らませながら、門へ向かった。
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門の前には数人の兵士がいた。
俺はそのまま門へ向かう。
「止まれ」
「はい?」
兵士が俺を見る。
そして、俺の荷物と剣を見る。
「一人か?」
「はい」
「年齢は?」
「12歳です」
兵士の顔が変わった。
「……12歳?」
隣の兵士も俺を見る。
「子供一人で?」
「旅をしています」
「親は?」
「故郷にいます」
二人の兵士が顔を見合わせる。
「本当に一人なのか……?」
「はい」
周囲にいた商人や旅人たちも、こちらを見始める。
「12歳で一人旅?」
「大丈夫なのか?」
「剣まで持ってるぞ」
思った以上に注目されている。
「……」
俺は少し恥ずかしくなった。
でも、胸を張る。
「大丈夫です」
兵士が俺を見る。
そして――
「……分かった。気をつけて入れ」
「ありがとうございます」
門をくぐる。
目の前には、今まで見たことのない大きな街が広がっていた。
俺は一歩進む。
「ここからだ」
12歳の一人旅。
その本当の始まりだった。
第41話 終




