40話 いってきます!
朝。
窓から差し込む光で目が覚めた。
いつもと同じ朝のはずなのに、今日は何かが違う。
俺はベッドから起き上がり、部屋を見渡した。
今日で、この部屋を見るのもしばらく最後になる。
「……今日か」
俺――キラは、12歳。
幼い頃から過ごしてきたこの街を、今日出る。
机の上には、昨日までに準備した旅の道具が並んでいた。
地図。
水筒。
保存食。
薬。
魔法道具。
そして、腰にある剣。
何度も確認した。
忘れ物はない。
俺は荷物を背負った。
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「準備できたか?」
部屋の外から父親の声が聞こえる。
「うん」
扉を開ける。
父親が俺を見る。
しばらく何も言わなかった。
「……大きくなったな」
「急にどうしたの?」
「いや」
父親は少し笑う。
「6歳の頃のお前は、魔法を使うだけでも必死だったからな」
俺は笑った。
「今は結構使えるよ」
「ああ」
父親は俺の腰の剣を見る。
「剣も使えるようになった」
「レオンのおかげだよ」
「そうだな」
俺は少し黙った。
6歳の頃。
初めて魔力を感じた日。
7歳で無詠唱魔法を使えるようになった日。
8歳で新しい魔法を作ろうと夢中になった日。
9歳で初めて木剣を握った日。
10歳でレオンと出会ったこと。
11歳で初めて本格的な実戦を経験したこと。
いろんな記憶が頭の中を通り過ぎる。
そして今、12歳。
ここまで来た。
「……行ってくる」
「ああ」
父親が頷いた。
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家を出る。
朝の街は、いつもと変わらない。
店が開き始めている。
パン屋から焼きたての匂いがする。
商人が荷物を運んでいる。
子供たちが走っている。
冒険者たちがギルドへ向かっている。
何度も見た景色。
でも今日は、違って見える。
「しばらく見られないんだな……」
俺は歩きながら、街の景色を一つ一つ目に焼きつけた。
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ギルドへ行くと、レオンたちが待っていた。
「来たな」
レオンが声をかける。
「うん」
ガルドが豪快に笑う。
「今日から一人旅か!」
「そうなるね」
「ずいぶん大きくなったもんだ!」
ミレアが俺に袋を渡す。
「これ、持っていって」
「薬?」
「薬草と簡単な治療道具よ」
「ありがとう」
アルノも小さな瓶を渡してくる。
「魔力回復用です」
「これも?」
「旅先では何があるか分かりませんから」
「ありがとう」
ダグラスが俺の肩を叩く。
「最後に一つだけ言っておく」
「何?」
「魔物だけを警戒するな」
俺は黙って聞く。
「旅では、人間の方が厄介なこともある」
「……分かった」
「誰を信じるかは、自分で決めろ」
俺はその言葉を心に刻んだ。
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「キラ」
レオンが剣を抜く。
「少しだけやるぞ」
「今?」
「ああ」
俺も剣を抜く。
周囲の冒険者たちが少し離れる。
「始める」
レオンが踏み込んだ。
――ガキン!
俺は受ける。
次の一撃。
――キン!
剣を滑らせる。
レオンがさらに踏み込む。
俺も踏み込む。
――ガキィン!
剣がぶつかる。
昔なら、ここで押し負けていた。
でも今は違う。
身体を回して受け流す。
そして一歩下がる。
「……いい」
レオンが剣を下ろす。
「前よりずっと良くなった」
「本当?」
「ああ」
レオンは俺を見る。
「だが、旅に出れば今までより強い敵に会う」
「うん」
「魔法が効かない敵もいる」
「分かってる」
「剣が通じない敵もいる」
「……うん」
「だから――」
レオンが言う。
「考えろ」
「自分の力だけで勝とうとするな」
「環境も、相手も、仲間も全部使え」
俺は頷く。
「分かった」
「それと」
「?」
「死ぬな」
一瞬、言葉が止まった。
レオンは真剣な顔だった。
「必ず帰ってこい」
「……うん」
俺は剣を鞘に戻した。
「ありがとう、レオン」
「礼は帰ってきてから聞く」
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街の門へ向かう。
そこには――
「キラ!」
トーマ。
「待ってたよ」
ミナ。
そして少し後ろに、
「……」
カイルがいた。
「みんな……」
俺は笑う。
「来てくれたんだ」
「当たり前だろ!」
トーマが笑う。
「俺もいつか冒険者になる!」
「トーマなら本当にやりそう」
ミナが笑う。
「キラ、旅先の話を聞かせてね」
「もちろん」
俺はカイルを見る。
「カイルは?」
「……気をつけて」
「うん」
カイルが小さな包みを差し出した。
「これ……」
開けてみる。
木で作られた小さな飾りだった。
「昨日、作った」
「俺に?」
「……うん」
俺は大切にしまう。
「ありがとう」
カイルは小さく頷いた。
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街の門が開き始める。
――ゴゴゴゴ……。
大きな音が響く。
その向こうには、街道が続いている。
俺は一歩前へ出る。
振り返る。
父親。
レオン。
ガルド。
ミレア。
アルノ。
ダグラス。
そして――
トーマ。
ミナ。
カイル。
俺がこの街で出会った大切な人たち。
俺は手を上げた。
「行ってきます!」
「絶対帰ってこいよ!」
トーマが叫ぶ。
「気をつけて!」
ミナが手を振る。
カイルも静かに手を振っている。
父親は何も言わない。
ただ、しっかりと俺を見ていた。
俺は笑った。
「行ってきます!」
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新しい世界へ
街を出る。
一歩。
また一歩。
背後の街が少しずつ遠くなっていく。
寂しい。
それでも、胸の奥には大きな期待があった。
まだ知らない魔法。
まだ知らない魔物。
まだ知らない街。
まだ知らない人々。
そして、自分自身がどこまで強くなれるのか。
俺は腰の剣に触れた。
「……ここからだ」
6歳から始めた魔法。
7歳で覚えた無詠唱。
8歳から続けてきた新魔法の研究。
9歳から始めた剣。
10歳からのレオンとの訓練。
11歳からの実戦。
そして12歳。
ここまで積み重ねてきたものを、これからは外の世界で試していく。
もちろん、まだ分からないことだらけだ。
俺の持つレベルリセット。
時々感じる黒い魔力。
そして、この世界に転生した意味。
答えはまだ見えない。
でも――
「旅をしながら探せばいい」
俺は前を向いた。
街道の先に、大きな街が見える。
俺は歩き出した。
故郷を離れた12歳の少年は、まだ何も知らない。
けれど、その一歩が――
これから始まる長い物語の最初の一歩だった。
第40話 終
幼少期・完
次回より「少年期・旅編」




