39話 それぞれの道
俺はいつもより少し早く目を覚ました。
窓から差し込む朝の光を眺めながら、昨日のことを思い出す。
旅に出る。
そう決めてから、街の景色が少し違って見えるようになった。
いつも通っている道。
見慣れた店。
冒険者ギルド。
そして、この街で出会った人たち。
もうすぐ、しばらく離れることになる。
「……その前に、会っておくか」
俺は服を着替え、家を出た。
向かったのは、街の外れにある小さな広場だった。
昔、俺がよく遊んでいた場所。
そこには、今でも三人の姿があった。
「キラ!」
一番先に気づいたのはトーマだった。
トーマは昔と変わらず元気に走ってくる。
「久しぶり!」
「久しぶり、トーマ」
その後ろからミナが歩いてくる。
「本当に久しぶりね、キラ」
「うん」
そして最後に、少し離れたところからカイルがやってきた。
「……久しぶり」
「カイルも元気だった?」
「うん」
カイルは小さく頷いた。
以前より背が伸びている。
相変わらず口数は少ない。
でも、俺が来たことをちゃんと喜んでくれているのが分かった。
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三人の成長
「キラ、最近すごいんだって?」
トーマが興奮した様子で聞いてくる。
「何が?」
「魔物を倒したんだろ?」
「まあ……何回か」
「やっぱり!」
トーマは嬉しそうに笑った。
「俺も早く冒険者になりたい!」
ミナが横から口を挟む。
「トーマは冒険者になったら、すぐ魔物に突っ込んでいきそう」
「そんなことしない!」
「絶対する」
「しないって!」
俺は思わず笑った。
「ミナは?」
「私は……いろんな場所に行ってみたい」
ミナは街の外を眺める。
「この街だけじゃなくて、もっと大きな街とか、遠い村とか。知らないところを見てみたい」
「いいな」
俺も同じことを考えていた。
そしてカイルを見る。
「カイルは?」
「……僕?」
「うん」
カイルは少し考えた。
「まだ、よく分からない」
「そっか」
「でも……」
カイルは少しだけ顔を上げた。
「いつか、自分で見てみたい」
「何を?」
「……外の世界」
短い言葉だった。
でも、カイルらしい答えだった。
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俺は三人に話した。
「俺、もうすぐ旅に出るんだ」
「え?」
トーマが目を丸くする。
「本当に?」
「うん」
「どこへ?」
「まずは西にある大きな街へ行く予定」
ミナが驚く。
「一人で?」
「うん」
「危なくない?」
「危ないと思う」
俺は正直に答えた。
「でも、行ってみたいんだ」
三人が黙る。
少しだけ風が吹いた。
広場の木の葉が揺れる。
トーマが最初に口を開いた。
「……すげえな」
「そうかな?」
「ああ。俺もいつか行く!」
ミナも笑う。
「そのときは、私もいろんなところを見てみたい」
カイルは黙って俺を見る。
「カイルは?」
「……僕も」
「一緒に冒険者になる?」
カイルは少し考えた。
「うん」
それだけだった。
でも、その目にはしっかりとした意思があった。
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少しだけ剣の練習
「じゃあ、旅に出る前に何か教えてよ!」
トーマが木の枝を拾う。
「剣?」
「うん!」
「いいよ」
俺も地面に落ちていた枝を拾う。
「ただし、無理はしないこと」
「分かった!」
三人に基本的な構えを教える。
「足はこう」
トーマはすぐに真似をする。
「こう?」
「うん」
「できた!」
「まだ早いよ」
ミナも枝を持つ。
「こうかな?」
「そう。ミナはトーマより姿勢が安定してる」
「本当?」
「うん」
そしてカイルを見る。
カイルは少し離れたところで、俺たちの動きを見ていた。
「カイルもやってみる?」
「……うん」
カイルが枝を握る。
動きは遅い。
でも、よく見ている。
一度教えただけで、俺の足の位置まで真似している。
「上手いね」
「……そう?」
「うん」
カイルは少しだけ嬉しそうにした。
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「ねえ、キラ」
ミナが言う。
「魔法も見せて」
「魔法?」
「うん。無詠唱ってやつ」
「分かった」
俺は手のひらを上に向ける。
三人がじっと見つめる。
「小さい魔法だけね」
魔力を集める。
「《光球》」
詠唱はない。
――ポッ。
手のひらの上に、小さな光が浮かんだ。
「……!」
トーマが目を見開く。
「本当に何も言ってない!」
「すごい……」
ミナも光を見つめる。
カイルは何も言わない。
ただ、じっと光を観察している。
「カイル?」
「……どうやって魔力を集めてるの?」
「え?」
思わず驚く。
カイルは光球を見たまま続ける。
「魔法を使うとき……普通は言葉を使うんだよね?」
「うん」
「じゃあ、キラは頭の中だけで魔法を作ってるの?」
「……そうだと思う」
カイルは小さく頷いた。
「すごいね」
それだけ言った。
でも、その言葉は妙に嬉しかった。
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夕方。
空が赤く染まる。
そろそろ帰る時間だった。
「じゃあ、俺は帰るね」
「もう?」
ミナが少し寂しそうにする。
「うん。また準備しないと」
「旅、いつ出るの?」
「まだ少し先」
トーマが笑う。
「じゃあ、旅から帰ってきたらまた会おう!」
「もちろん」
「そのときは俺、もっと強くなってるから!」
「楽しみにしてる」
ミナも笑った。
「私も、いろんな場所について調べておく」
「うん」
最後にカイルを見る。
「カイルも」
「……うん」
少し間を置いて。
「気をつけて」
「ありがとう」
俺は三人に手を振った。
そして広場を後にした。
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街の中心へ向かう。
夕方の街は賑わっていた。
露店には明かりが灯り始めている。
焼きたてのパンの匂い。
肉を焼く音。
商人たちの呼び声。
仕事を終えた人々が家へ帰っていく。
冒険者ギルドからは、今日の依頼を終えた冒険者たちが出てくる。
俺はその光景を眺めながら歩く。
この街で生まれた。
この街で育った。
父親と暮らして。
レオンたちと出会って。
そして、トーマ、ミナ、カイルとも出会った。
たくさんの人に支えられてきた。
「……いい街だな」
そう思った。
今までは当たり前だった景色。
でも、旅に出ると決めた今は、その一つ一つが大切に感じられる。
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家に帰る。
「ただいま」
「おかえり」
父親が夕食の準備をしていた。
「三人には会えたか?」
「うん」
「何か話したか?」
「みんな冒険者になりたいって」
父親が笑う。
「そうか」
「トーマはすぐにでも魔物と戦いたそうだった」
「想像できるな」
「ミナはいろんな場所を見たいって」
「ミナらしいな」
「カイルは……」
俺は少し考える。
「まだ分からないって」
「そうか」
「でも、いつか外の世界を自分で見たいって言ってた」
父親は頷いた。
「それでいい」
「え?」
「子供のうちから、何になるかを決める必要なんてない」
父親は料理を並べながら言った。
「自分で歩いて、自分で見て、それから決めればいい」
「……うん」
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その夜。
俺は旅の荷物をもう一度確認した。
剣。
地図。
水筒。
保存食。
薬。
魔法具。
必要な道具。
一つずつ確認していく。
そして最後に、窓の外を見る。
夜の街。
静かな家々。
遠くの街灯。
その向こうにある城壁。
さらにその先には、まだ見たことのない世界が広がっている。
「もうすぐだ」
俺は小さく呟いた。
旅に出る。
一人で。
でも、完全に一人になるわけじゃない。
この街で出会った人たちがいる。
父親がいる。
レオンたちがいる。
そして、トーマ、ミナ、カイルもいる。
いつか旅の途中で再会するかもしれない。
そのとき、俺たちはどんな冒険者になっているだろう。
そんなことを考えながら、俺は眠りについた。
第39話 終




