38話 旅立ちの準備
翌朝。
窓から差し込む朝日で目が覚めた。
昨日のロイドとの手合わせが、まだ頭に残っている。
剣を握る。
魔法を使う。
どちらも以前より上達した。
それでも、まだ足りない。
「……旅に出るなら、もっと準備しないとな」
ベッドから起き上がる。
俺にはまだやることがある。
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朝食を終えた俺は、冒険者ギルドへ向かった。
扉を開けると、昨日とは違って少し落ち着いた雰囲気だった。
「おはようございます、キラ君」
「おはようございます」
受付嬢が一枚の紙を差し出してきた。
「昨日の手合わせ、話題になってるわよ」
「……もう忘れてほしい」
「無理ね」
受付嬢が笑う。
「それより、これ」
紙を見る。
そこにはいくつかの依頼が書かれていた。
「依頼?」
「ええ。あなたもそろそろ、正式に冒険者として経験を積んでみたら?」
俺は依頼書を見る。
薬草採取。
街道の護衛。
森の魔物討伐。
荷物の運搬。
どれも旅に必要そうなものばかりだ。
「これ、受けてもいいんですか?」
「もちろん」
俺は依頼書を一枚取った。
「これにします」
選んだのは、街の近くにある森での薬草採取だった。
「どうしてこれ?」
「旅に出るなら、薬草の場所を知っておいた方がいいと思って」
受付嬢が少し驚いた。
「ちゃんと考えてるのね」
「父さんにも言われたから」
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森へ向かう。
今回は戦闘が目的ではない。
必要な薬草を探すだけ。
でも俺にとっては、それも冒険の一つだった。
「この辺りだったかな」
依頼書に描かれた薬草の絵を見る。
周囲を見回す。
普通の草。
木。
小さな花。
「……分からない」
俺は少し困った。
「薬草って、見分けるの難しいな」
「それなら、匂いを覚えるといい」
後ろから声がした。
「え?」
振り向く。
レオンだった。
「どうしてここに?」
「近くで依頼を受けていた」
「そうなんだ」
「薬草採取か」
「うん」
レオンはしゃがみ込み、地面の草を見る。
「これだ」
葉の形を教えてくれる。
「この葉は三つに分かれている」
「うん」
「裏側が少し白い」
「本当だ」
「薬草は見た目だけじゃなく、匂いや触った感触でも覚えろ」
俺は薬草を手に取る。
「覚えておく」
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薬草を集めていると、近くから物音がした。
――ガサッ。
「魔物?」
俺はすぐに剣へ手を伸ばす。
レオンも構える。
草むらから出てきたのは――
一匹の小さな角兎だった。
「……」
「……」
俺とレオンは顔を見合わせる。
「魔物じゃないの?」
「ただの角兎だ」
角兎は俺たちを見ると、森の奥へ走っていった。
「びっくりした」
「気配を感じたら、すぐ敵だと思わないことだ」
「うん」
レオンが続ける。
「冒険では、戦わないことも強さの一つだ」
俺は頷いた。
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しかし、その直後。
――ドン!
木が倒れた。
「今度は本物だ」
森の奥からゴブリンが二匹現れた。
俺は剣を抜く。
「二匹なら――」
「待て」
レオンが止める。
「よく見ろ」
ゴブリンの後ろ。
さらに三匹いる。
「……五匹」
「そういうことだ」
俺は魔力感知を広げる。
さらに奥。
「もう一匹いる」
「六匹だな」
レオンが頷く。
「どうする?」
俺は少し考えた。
昨日のロイドとの戦い。
魔法を避けられた後。
その先を考えろ。
「まず、後ろの一匹を魔法で狙う」
「その後は?」
「前の二匹が来るから、剣で止める」
「いい」
レオンが少し下がる。
「やってみろ」
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俺は手を前に出す。
「《風刃》」
詠唱なし。
――ズバッ!
後方にいたゴブリンが倒れる。
「無詠唱……!」
近くにいたゴブリンが驚いたようにこちらを見る。
俺はそのまま前へ。
――ガキン!
剣で一匹目の攻撃を受ける。
続けて二匹目。
――キン!
剣を滑らせる。
「今度は――」
身体を低くする。
一匹目の足元を狙う。
――ザン!
倒れたところへ、魔法を放つ。
「《火球》」
――ドン!
残ったゴブリンが後ろへ吹き飛ぶ。
最後の一匹が逃げようとする。
「逃がさない」
俺は追いかける。
だが、そこで止まった。
ゴブリンは武器を捨てている。
俺は剣を下ろした。
「……逃げるなら、追わなくてもいいか」
レオンが頷く。
「それでいい」
「全部倒す必要はないんだね」
「ああ」
俺は剣を鞘へ戻した。
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依頼を終えて街へ戻る。
採取した薬草を受付へ渡す。
「お疲れ様」
受付嬢が確認する。
「数も合っています」
「ありがとうございます」
「それにしても、ゴブリンまで倒してきたの?」
「途中で出てきたので」
「本当に冒険者らしくなってきたわね」
俺は少し嬉しくなった。
冒険者。
その言葉が、以前より身近に感じる。
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家へ帰る。
父親が机の上にいくつかの物を並べていた。
「帰ったか」
「何これ?」
「旅に必要なものだ」
並んでいるのは、
小さなナイフ
水筒
火打石
保存食
地図
薬草
簡単な治療道具
魔物避けの道具
など。
「これ、全部?」
「少しずつ揃えていけばいい」
父親が地図を広げる。
「旅に出るなら、まずこの街から西へ向かうといい」
「西?」
「ああ。街道が整備されている」
地図を見る。
街。
村。
森。
そして遠くに大きな街がある。
「ここには何があるの?」
「商業都市だ」
「大きい?」
「この街よりずっと大きい」
俺は目を輝かせる。
「行ってみたい」
「そう言うと思った」
父親が笑った。
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その日の夜。
俺は旅の荷物を整理していた。
剣。
魔法具。
地図。
食料。
水。
必要なものを一つずつ確認する。
ふと、昔のことを思い出した。
幼い頃。
街の中だけが俺の世界だった。
そこから少しずつ森へ行くようになった。
冒険者と出会った。
魔物と戦った。
そして今。
街の外へ出ようとしている。
「……もうすぐだ」
旅立ちの日は近い。
でも。
俺にはまだ一つだけ、やっておきたいことがあった。
昔から一緒に過ごしてきた三人の子供たち。
今では少しずつ大きくなっている。
「みんなにも会っておこう」
明日。
俺は久しぶりに三人のもとへ向かうことにした。
ここで過ごす最後の時間は、少しずつ近づいていた。
第38話 終




