35話 黒い核
黒い光の中に、俺は立っていた。
周囲には何もない。
音もない。
ただ、目の前に巨大な黒い塊が浮かんでいる。
「……これが核」
魔物の胸にあった黒い魔力。
今は俺の目の前に集まっている。
手を伸ばす。
だが、触れようとした瞬間――
――ドクン。
黒い核が脈打った。
「……っ!」
一気に強い魔力が流れ込んでくる。
頭が重くなる。
身体が押し潰されるような感覚。
「これ……魔力が強すぎる」
俺は剣を握り直した。
普通に斬るだけでは駄目だ。
昨日の巨獣とは違う。
この黒い魔力は、まるで俺の魔力そのものを吸おうとしている。
「なら……」
俺は目を閉じた。
魔力感知を広げる。
黒い魔力の流れを見る。
外側。
内側。
中心。
そして、その中心に小さな歪みがある。
「見つけた」
俺は剣へ魔力を集中させる。
しかし、黒い魔力が剣にまとわりついてくる。
「くっ……!」
剣を握る手が震える。
それでも離さない。
「俺の魔力まで持っていかれるなら……」
一気に魔力を絞る。
「こっちから切る!」
剣を振り抜いた。
――ズバァッ!
黒い核に亀裂が入る。
だが、完全には壊れない。
「まだ!」
もう一度。
――ズバッ!
さらに亀裂が広がる。
そして三度目。
「これで……!」
――バァァァン!
黒い核が砕け散った。
---
「キラ!」
誰かの声が聞こえた。
次の瞬間。
俺は床に膝をついていた。
「……戻ってきた」
目の前にはレオン。
その後ろにはガルド、ミレア、アルノ、ダグラス。
そして、地下施設の少女が立っている。
「大丈夫?」
ミレアが駆け寄ってくる。
「うん。ちょっと疲れただけ」
「ちょっとって顔じゃないわよ」
ミレアが心配そうに俺を見る。
アルノも俺の魔力を確認する。
「かなり魔力を消耗しています」
「でも、無事だ」
レオンが言う。
「よくやった」
俺は立ち上がる。
「魔物は?」
少女が答えた。
「もう大丈夫」
振り返る。
巨大な魔物は、黒い魔力を失って倒れていた。
しかし、死んではいない。
静かに呼吸している。
「助かった……」
少女が小さく息を吐いた。
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「聞きたいことがある」
レオンが少女を見る。
「エリオスについてだ」
少女は少し黙った。
「……分かってる」
「知っていることを全部話してくれ」
「全部は無理」
レオンの表情が険しくなる。
「なぜだ?」
「私自身、全部を知っているわけじゃないから」
少女は地下施設の奥を見る。
「ここでは昔から魔法の研究が行われていた」
「エリオスもその研究に関わっていた」
アルノが聞く。
「黒い魔力は、その研究の結果ですか?」
「そう」
少女は頷いた。
「でも、エリオスが作ったものなのか、それとも元々存在していたものなのか……そこまでは分からない」
俺は聞く。
「じゃあ、どうして魔物に黒い魔力を入れたの?」
「魔力の実験」
「実験?」
「どれくらい強くなるのか」
少女は答える。
「そして、どこまで黒い魔力に耐えられるのか」
ガルドが顔をしかめる。
「魔物を実験台にしていたってことか」
「そういうこと」
レオンが拳を握る。
「……許せないな」
---
俺は自分の手を見る。
さっき黒い核を斬ったとき。
一瞬だけ、黒い魔力の構造が見えた。
「俺……少し分かったかもしれない」
アルノが振り向く。
「何がですか?」
「黒い魔力」
俺は剣を見る。
「魔力そのものを切ることができる」
「それは昨日もやっていましたね」
「うん。でも今日は違った」
俺は考える。
「魔力をただ切るんじゃなくて、魔力の流れを見て、必要な部分だけ切れる」
アルノが驚く。
「それって……かなり高度な魔力操作ですよ」
「まだうまくできないけど」
「それでもすごいです」
レオンも頷く。
「剣術と魔法の両方を使うなら、その能力は大きな武器になる」
俺は剣を握る。
「もっと練習する」
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俺は少女を見る。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかった」
「あ……」
少女が少し戸惑う。
「私はリナ」
「リナ?」
「うん」
「俺はキラ」
「知ってる」
「え?」
リナが俺を見る。
「さっきみんなが呼んでたから」
「ああ、そういうことか」
少しだけ笑う。
「よろしく、リナ」
「……よろしく」
リナも小さく笑った。
だが、レオンが口を開く。
「リナ。この施設から出るつもりはあるのか?」
「……まだ決めてない」
「なぜ?」
「ここには、まだ調べていないものがあるから」
リナは奥を指差した。
「黒い魔力について、もっと知りたい」
アルノが反応する。
「私も興味があります」
リナを見る。
「もしよかったら、一緒に調べませんか?」
「いいの?」
「もちろんです」
アルノが笑う。
「魔法の研究仲間が増えるのは嬉しいです」
「……ありがとう」
リナが少し嬉しそうに答えた。
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俺たちは施設の奥へ進むことにした。
黒い魔力を失ったことで、施設の一部が停止している。
魔法灯もいくつか消えていた。
「気をつけろ」
ダグラスが先頭を歩く。
しばらくすると、一つの部屋が見つかった。
中には大量の資料が並んでいる。
「これは……」
アルノが本棚へ駆け寄る。
「魔法研究の記録です」
「エリオスのもの?」
レオンが聞く。
「分かりません」
アルノが一冊を開く。
「でも、ここに何か書いてあります」
全員が集まる。
古い記録の一部分。
そこには――
『魔力を失った者は、再び力を得ることができる』
と書かれていた。
「……」
俺はその文字を見つめる。
「レベルリセット……?」
まだ確証はない。
けれど。
俺の能力と関係している可能性がある。
レオンが俺を見る。
「キラ」
「うん」
「この記録は持って帰ろう」
「そうだね」
アルノが慎重に本を閉じる。
「この研究が、キラ君の能力と関係しているなら……」
その先は誰も言わなかった。
まだ何も分からない。
ただ一つ。
俺の力には、俺自身も知らない秘密がある。
それだけは確かだった。
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地下施設を出る頃には、日が傾き始めていた。
森の木々の間から夕日が差し込んでいる。
俺たちは街へ戻る準備をする。
ガルドが大きく伸びをした。
「今日は疲れたな!」
「お前はいつもそれだろ」
レオンが呆れる。
「そういうレオンも疲れてるだろ?」
「……否定はしない」
ミレアが笑う。
「二人とも本当に昔から変わらないのね」
「だろ?」
ガルドが笑う。
俺も笑った。
今回の旅で、俺は新しい戦い方を知った。
そして、黒い魔力についても少しだけ分かった。
でも――。
まだ旅は始まったばかりだ。
俺たちは森を抜け、街へ向かって歩き始めた。
その先で待っているのは、また新しい依頼。
そして、俺がまだ知らない人々との出会いだった。
第35話 終




