33話 剣を握る理由
翌朝。
森の中には、まだ薄い霧が残っていた。
焚き火の跡から白い煙が細く上っている。
俺は少し早く目を覚ました。
昨日の戦いで疲れているはずなのに、妙に頭が冴えている。
昨日、初めて本格的に剣と魔法を組み合わせて戦った。
思った以上に動けた。
でも――。
「まだまだだ」
昨日のレオンの言葉を思い出す。
俺は剣を手に取った。
「やってみるか」
少し離れた場所へ移動する。
木の枝を相手にするように、剣を振る。
――ヒュン。
もう一度。
――ヒュン。
さらに踏み込む。
「……!」
身体が少しふらついた。
剣を使うと、魔法だけのときとは違う。
足の位置。
身体の向き。
相手との距離。
全部を考えながら動かなければならない。
「難しいな……」
「当然だ」
後ろから声がした。
振り向くと、レオンが立っていた。
「剣は魔法ほど簡単に結果が出ない」
「魔法も簡単じゃないよ」
「君の場合はな」
レオンが苦笑する。
「普通の魔法使いなら、今の魔法だけでも十分すごい」
「……」
「だが君は、自分で新しい魔法まで作る」
レオンが剣を抜く。
「だからこそ、剣を覚えるなら中途半端にはするな」
「分かった」
「構えろ」
俺も剣を構えた。
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レオンの剣術
「まず、力を入れすぎるな」
「こう?」
「肩が上がっている」
レオンが俺の腕を軽く押す。
「もっと自然に」
「こう?」
「そうだ」
レオンが一歩下がる。
「剣を振るのは腕だけじゃない」
レオンがゆっくりと剣を振る。
――ヒュン。
「足から腰、肩、腕へ力を伝える」
もう一度。
――ヒュッ。
「そして最後に手首」
「……なるほど」
「やってみろ」
俺は真似して剣を振る。
――ヒュン。
「悪くない」
「本当?」
「ああ。ただ――」
レオンが俺を見る。
「魔法を使うときほど、頭で考えすぎない方がいい」
「え?」
「君は魔力を感知して、相手の動きを予測する癖がある」
「うん」
「剣では、それだけじゃ足りない」
レオンが構える。
「相手の動きを見てから動くのでは遅い」
一瞬。
レオンが消えたように見えた。
――カン!
俺の剣が弾かれた。
「……!」
いつの間にか、俺の目の前にレオンがいる。
「今のが実戦なら、君は武器を失っている」
「速い……」
「魔法だけに頼ると、こういう相手に苦戦する」
レオンが剣を収める。
「だから剣を覚えろ」
俺は剣を握り直した。
「もう一回お願いします」
レオンが少し笑う。
「いいだろう」
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それぞれの朝
しばらくして。
「おーい!」
遠くからガルドの声がした。
「朝飯できたぞ!」
俺とレオンが戻ると、焚き火の周りにみんなが集まっていた。
「キラ、顔が疲れてるわよ」
ミレアが言う。
「レオンに剣を教えてもらってた」
「なるほど」
ミレアがレオンを見る。
「厳しそうね」
「普通だ」
「それ、絶対普通じゃないでしょ」
ガルドが笑う。
「俺なんて新人の頃、レオンに一日中走らされたぞ」
「……それはお前が逃げたからだ」
「だってきつかったんだよ!」
アルノが笑う。
「二人とも昔から変わらないんですね」
レオンが少し困った顔をする。
昨日まで張り詰めていた空気が、少しずつ和らいでいた。
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朝食を終えた俺たちは、森の奥へ向かった。
目的は二つ。
一つは、昨日の巨獣がどこから来たのかを調べること。
もう一つは、黒い魔力の痕跡を探すこと。
森を進むにつれ、普通の動物や魔物の姿が減っていく。
「静かですね」
アルノが言う。
「昨日より静かだ」
ダグラスが答える。
「魔物が逃げているのかもしれない」
「どうして?」
ミレアが聞く。
「強い魔力を持った奴が近くにいると、普通の魔物は近寄らない」
ダグラスは地面を見る。
「だが、この森には別の異常がある」
地面に手を触れる。
「木々の魔力が弱っている」
俺も感知してみる。
「……本当だ」
土。
草。
木。
全部の魔力が少しずつ減っている。
「黒い魔力が吸っている?」
俺が言う。
「可能性は高い」
ダグラスが立ち上がる。
「この先に何かある」
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さらに一時間ほど歩いた。
やがて。
「止まって」
ミレアが言った。
全員が止まる。
ミレアが木の上を見る。
「鳥がいない」
「……」
確かに。
森の中なのに、鳥の声が全く聞こえない。
「こっち」
ミレアが先へ進む。
少し開けた場所に出る。
そこには巨大な岩があった。
「ただの岩じゃない」
俺が近づく。
岩の表面に魔法陣が刻まれている。
「これ……」
アルノが驚く。
「地下遺跡と同じ術式です」
レオンが顔をしかめる。
「やっぱりか」
「知ってる?」
「地下遺跡にあったものと同じだ」
俺は魔法陣を調べる。
「この下に何かある」
「どうする?」
ガルドが聞く。
俺は魔法陣へ手をかざす。
「開けてみる」
「待て」
レオンが止める。
「罠かもしれない」
「じゃあ――」
ミレアが岩の周りを見る。
「私が確認する」
「え?」
「仕掛けがあるなら、見つけられるかもしれない」
ミレアが慎重に周囲を調べる。
しばらくして。
「あった」
岩の横に小さな魔石。
「これを踏むと起動する仕組みみたい」
ガルドが感心する。
「よく見つけたな」
「昨日も隠し扉を見つけたでしょ」
「確かにな」
ミレアが少し得意そうに笑った。
「じゃあ、キラ」
「うん」
俺は魔石を外す。
そして魔法陣へ魔力を流した。
――ゴゴゴゴゴ……。
巨大な岩が左右に開く。
その下に。
地下へ続く階段が現れた。
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階段を下りる。
壁には古い魔法灯。
まだ微かに光っている。
「これ、何年前のものなんでしょう」
アルノが壁を調べる。
「かなり古いです」
「でも魔法が動いている」
俺が言う。
「誰かが魔力を補充しているのかもしれない」
レオンが警戒する。
「つまり、ここは今も使われている」
その言葉で全員の表情が変わった。
しばらく進むと。
前方から音が聞こえてきた。
――カン。
――カン。
――カン。
金属を叩くような音。
「誰かいる」
ミレアが小声で言う。
俺たちは慎重に進む。
曲がり角の先。
そこには――
一人の少女がいた。
年齢は俺と同じくらい。
銀色の短い髪。
作業着のような服。
大きな魔道具を前にして、一人で何かを修理している。
「……誰?」
少女がこちらを見た。
俺たちも止まる。
少女は俺の顔を見て。
「……あなた」
「え?」
「その剣」
少女が俺の腰を見る。
「それ、どこで手に入れたの?」
俺は剣に触れる。
「普通の剣だけど」
「違う」
少女が立ち上がる。
「その剣に使われている金属――」
少女の表情が変わった。
「それ、エリオスの研究所にあったものと同じ」
「……!」
レオンが剣を抜く。
「お前、エリオスを知っているのか?」
少女は一歩後ろへ下がった。
「……知ってる」
「何者だ?」
「私は――」
少女が答えようとした瞬間。
地下施設全体が揺れた。
――ドォォン!
「何!?」
アルノが驚く。
壁の奥から、黒い魔力が噴き出した。
「全員、構えろ!」
ダグラスが叫ぶ。
少女も工具を捨て、腰から短剣を抜いた。
「話は後!」
少女が叫ぶ。
「ここから出るよ!」
俺たちの足元に亀裂が走る。
――バキッ!
「走れ!」
レオンが叫んだ。
俺たちは一斉に走り出した。
地下施設の奥から。
大量の魔物の気配が近づいてくる。
俺は剣を抜いた。
魔力も集中する。
今度は――
剣だけでも、魔法だけでもない。
両方を使って戦う。
「来る!」
暗闇の向こうから、無数の赤い目が現れた。
第33話 終




