32話 キラ剣を使う
森の入口で、俺たちは立ち止まっていた。
目の前の木々が大きく揺れている。
――ズドン。
――ズドン。
一歩進むたびに地面が震える。
「……近づいてる」
ミレアが弓を構える。
ガルドが斧を握り直した。
「全員、油断するな」
ダグラスの声が低くなる。
レオンも剣を抜いた。
「普通の魔物じゃない」
「どれくらい強い?」
俺が聞く。
「分からない」
ダグラスが答える。
「だが、少なくとも俺が現役だった頃には、この森にこんな魔物はいなかった」
俺は《魔力感知》を使う。
森の奥から、とてつもない魔力が近づいてくる。
「……すごい」
俺は思わず呟いた。
「キラ?」
「魔力が大きすぎる」
アルノが杖を構える。
「私にも感じます」
次の瞬間。
――バキバキバキッ!
巨大な木が倒れた。
その向こうから、巨大な魔物が姿を現す。
「……!」
全員が息を呑んだ。
---
全長は五メートル近い。
四本の足。
黒褐色の毛。
頭には二本の巨大な角。
そして胸元には、黒い魔力が脈打っていた。
――ドクン。
――ドクン。
まるで心臓のように黒い光が明滅している。
「これは……」
アルノが青ざめる。
「黒い魔力です」
「やっぱりか」
ダグラスが剣を抜く。
「全員、戦闘準備!」
魔物がこちらを見る。
「グルルル……」
低い唸り声。
俺は魔物の身体を解析する。
【対象:不明】
【推定危険度:A】
【魔力異常:確認】
【通常の魔物とは異なる】
「Aランク……」
俺が呟くと、ガルドが笑った。
「だったら俺たちもAランク相当の仕事をしてやろうぜ!」
「無茶はしないでよ」
ミレアが言う。
「分かってる!」
ガルドが前へ出る。
「来い!」
---
巨獣が地面を蹴った。
「速い!」
想像以上だった。
巨体からは考えられない速度。
「ガルド!」
「分かってる!」
ガルドが斧を構える。
――ドゴォン!
巨獣の角と斧がぶつかった。
「ぐっ……!」
ガルドの身体が後ろへ押される。
「こいつ……!」
足が地面に沈む。
「重すぎる!」
巨獣がさらに力を込める。
ガルドの腕が震え始める。
「ガルド!」
俺が魔法を使おうとした瞬間。
「撃たなくていい!」
ガルドが叫ぶ。
「俺が止める!」
「でも!」
「お前は隙を探せ!」
ガルドは歯を食いしばる。
「俺には俺の仕事がある!」
その言葉に、俺は一瞬驚いた。
ガルドはただ突っ込んでいるわけじゃない。
自分が攻撃を受け止めている間に、俺たちが攻撃する時間を作っている。
「……分かった!」
俺は魔物を見る。
---
「キラ!」
ミレアが叫ぶ。
「右足!」
「右?」
「よく見て!」
俺が見る。
右後ろ足だけ、わずかに動きが遅い。
「なるほど」
ミレアが矢を放つ。
――シュッ!
矢が足元へ飛ぶ。
巨獣が避けようとする。
しかし。
「そこ!」
俺が風魔法を使う。
「《風圧》!」
――ゴォッ!
魔物の身体がわずかに傾く。
ミレアの矢が足へ刺さった。
「入った!」
ミレアが叫ぶ。
「今!」
レオンが飛び出した。
---
レオンは巨獣の懐へ入り込む。
大きな身体を利用して、攻撃の死角へ回る。
「ここだ!」
――ズバッ!
剣が腹を切り裂く。
「グォォォォ!」
巨獣が暴れる。
レオンはすぐに距離を取る。
「浅い!」
俺は魔物の傷を見る。
「硬すぎる……」
レオンが言う。
「普通の剣じゃ決定打にならない」
ダグラスが前へ出る。
「なら、俺が試す」
剣を低く構える。
「レオン、左へ!」
レオンが飛ぶ。
ダグラスが踏み込む。
「《破砕斬》!」
――ズガァァン!
剣撃が巨獣の肩へ叩き込まれた。
黒い魔力が飛び散る。
「効いた!」
アルノが叫ぶ。
「黒い魔力の流れが乱れています!」
俺は目を凝らす。
「……本当だ」
---
「なら!」
アルノが杖を掲げる。
「キラ君!」
「うん!」
「魔力の流れを止められますか?」
「やってみる!」
俺は魔力感知を強める。
巨獣の体内を流れる黒い魔力。
心臓。
胸。
首。
四肢。
「見えた!」
「どこですか?」
「胸の中心!」
アルノが頷く。
「分かりました!」
魔法陣を展開する。
「《氷結槍》!」
――バシュッ!
巨大な氷の槍が飛ぶ。
巨獣が避ける。
しかし。
「《風制御》!」
俺が風を操る。
氷槍の軌道が変わった。
――ズドン!
胸へ命中。
「グォォォッ!」
黒い魔力が一気に噴き出す。
「今です!」
アルノが叫ぶ。
---
俺は走った。
魔法だけじゃない。
剣を抜く。
「キラ!?」
ミレアが驚く。
俺は巨獣へ向かって走る。
「魔法で隙を作る!」
巨獣が俺を見る。
巨大な爪が振り下ろされる。
「《身体強化》!」
――ドン!
身体が軽くなる。
横へ跳ぶ。
爪が地面を砕いた。
――ドガァン!
「危ない!」
俺はそのまま懐へ入る。
「ここ!」
剣を振る。
――ザンッ!
黒い魔力が流れている場所を斬る。
「グォォォ!」
巨獣が暴れる。
俺は距離を取る。
「……やっぱり」
剣を握る手を見る。
「剣でも黒い魔力を切れる」
レオンが驚く。
「今の斬撃……」
「どうしたの?」
「魔力を斬ったのか?」
「たぶん」
レオンはしばらく俺を見る。
「……君は本当に規格外だな」
ダグラスも驚いた顔をしていた。
「魔法使いが剣で魔力を切るか……」
ガルドが笑う。
「キラらしいじゃねぇか!」
---
突然。
巨獣の身体が大きく膨らんだ。
「全員、離れろ!」
ダグラスが叫ぶ。
黒い魔力が一気に増える。
――ドクン!
――ドクン!
「まずい!」
アルノが叫ぶ。
「魔力が暴走しています!」
巨獣が吠える。
「グォォォォォォォ!」
黒い衝撃波が広がった。
「《防壁》!」
アルノが結界を張る。
――バァン!
衝撃波がぶつかる。
「くっ……!」
アルノの足が後ろへ滑る。
「アルノ!」
俺は結界へ魔力を重ねる。
「《魔力強化》!」
結界が強くなる。
「キラ君!」
「大丈夫!」
俺は魔力を流し続ける。
だが。
衝撃波は強い。
「このままじゃ……」
そのとき。
「キラ!」
ミレアの声。
「胸を見て!」
巨獣の胸。
黒い魔力が一点へ集中している。
「分かった!」
俺は魔法を解除する。
剣を握る。
「アルノ!」
「はい!」
「あと十秒!」
「分かりました!」
俺は走った。
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ガルドが巨獣の前へ立つ。
「キラ!」
「ガルド!」
「俺が止める!」
斧を構える。
「今度こそ!」
巨獣が突進。
「うおおおおお!」
――ドゴォン!
斧が角にぶつかる。
ガルドの足が沈む。
「ぐぅぅぅ……!」
「ガルド!」
「早く行け!」
俺は走る。
ミレアの矢が飛ぶ。
――シュッ!
巨獣の目に命中。
「グォッ!」
動きが止まる。
レオンが横から斬り込む。
「今だ!」
俺は巨獣の胸へ飛び込む。
黒い魔力が目の前にある。
俺は剣を構えた。
「これで――」
魔力を剣へ集中させる。
「終わりだ!」
――ズバァァァン!
黒い魔力の核が真っ二つになった。
巨獣の身体から黒い光が噴き出す。
そして。
――ドサッ。
巨獣が倒れた。
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誰もすぐには動かなかった。
ガルドがその場に座り込む。
「……疲れた」
ミレアが笑う。
「最初から無茶するからよ」
「お前だって危なかっただろ」
「私はちゃんと考えてたもの」
「俺だって考えてた!」
アルノが二人を見る。
「二人とも、怪我がないならいいじゃないですか」
ダグラスが倒れた巨獣を見る。
「……この魔物」
表情が険しくなる。
「黒い魔力が完全に消えている」
「うん」
俺も頷く。
「でも、普通の魔物じゃなかった」
レオンが魔物の胸を見る。
「誰かが黒い魔力を植え付けたんだろう」
俺は頷く。
「エリオス……」
誰も否定しなかった。
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その夜。
俺たちは森の近くで野営することになった。
焚き火を囲む。
ガルドは豪快に肉を焼き、ミレアはその横で野菜を切っている。
アルノは今日見つけた魔法についてノートに書き込んでいた。
レオンは少し離れた場所で剣の手入れをしている。
ダグラスは静かに酒を飲んでいた。
俺は剣を眺める。
今日、初めて実戦で剣と魔法を組み合わせた。
「……もっと練習しないとな」
そう呟くと。
「そうだな」
レオンが言った。
「剣はまだまだ甘い」
「やっぱり?」
「ああ」
レオンが立ち上がる。
「明日の朝、少し教えてやる」
「本当?」
「ああ」
俺は笑った。
「お願いします!」
こうして。
俺の新しい戦い方――
剣と無詠唱魔法を組み合わせた戦闘
その第一歩が始まった。
だが翌朝。
森のさらに奥から見つかったものによって、俺たちは再びエリオスの研究へと近づいていくことになる。
第32話 終




