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29話 レオン


 地下に残された静寂の中。


 レオンは、銀色のペンダントを握ったまま動かなかった。


 さっきまで戦っていたときとは、明らかに様子が違う。


 怒っている。


 悲しんでいる。


 そして――何かを恐れている。


「レオン……」


 俺が声をかける。


「それ、誰の?」


 レオンはしばらく黙っていた。


 やがて、ゆっくりと口を開く。


「……俺の仲間だ」


「前に言ってた四人の?」


「ああ」


 レオンはペンダントを見つめる。


「俺がまだ、この世界に来て間もなかった頃の話だ」



---




「俺たちは四人で冒険者をやっていた」


 レオンが話し始める。


「俺、ディーン、セリナ、そして――」


 少しだけ間を置く。


「ミア」


 父さんが聞く。


「全員、転生者だったのか?」


「違う」


 レオンは首を横に振る。


「転生者だったのは俺だけだ」


「……え?」


 俺は驚いた。


「じゃあ、他の三人は?」


「この世界で生まれた人間だ」


 レオンは少し笑った。


「それでも、俺にとっては家族みたいな存在だった」


 その言葉に、俺は黙った。


「俺はこの世界に来たばかりで、何も知らなかった」


 レオンが続ける。


「文字も、魔法も、冒険者の仕組みも分からない」


「そんな俺を拾ってくれたのが、あいつらだった」



---




「ディーンは剣士だった」


 レオンが右手を握る。


「馬鹿みたいに真っ直ぐな奴だった」


 少し笑う。


「俺が失敗すると、いつも笑ってた」


> 『気にするな!』


『失敗したなら次に成功すればいい!』




「そんな奴だった」



---




「セリナは魔法使い」


 レオンの表情が柔らかくなる。


「頭が良くて、いつも俺の魔法を馬鹿にしていた」


「レオンも魔法を使えたんだ」


「一応な」


 苦笑する。


「でも、セリナには全然敵わなかった」



---




「そしてミア」


 レオンがペンダントを見る。


「治癒術師だった」


 声が少し震えた。


「一番優しかった」


 誰も口を挟まない。


「俺が怪我をすれば治してくれた」


「飯を食ってないと怒ってくれた」


「無茶をすると、三時間くらい説教された」


 レオンは小さく笑った。


「……今思えば、幸せだった」



---




 レオンの顔から笑みが消える。


「ある日、俺たちは依頼を受けた」


「地下遺跡の調査だった」


「そこで――」


 拳を握る。


「エリオスと出会った」


「敵だったの?」


 俺が聞く。


「最初は違った」


 レオンは首を振る。


「エリオスは遺跡の研究者として、俺たちに協力してくれた」


「でも」


 レオンはペンダントを握る。


「地下の奥で、あの魔物を見つけた」



---




「エリオスは言った」


> 『これは危険だ』


『絶対に近づくな』




「俺たちは信じた」


 レオンが目を伏せる。


「でも、その夜」


 地下から黒い魔力が溢れた。


「魔物が目を覚ました」


「ディーンが戦った」


「セリナが魔法を撃った」


「ミアが治療した」


「俺も戦った」


 レオンの声が低くなる。


「でも」


「強すぎた」



---




「ディーンが倒れた」


「セリナも」


「ミアも」


 レオンは目を閉じる。


「俺だけが逃げた」


 ガルドが口を開く。


「逃げたんじゃねぇ」


 レオンを見る。


「生き残ったんだ」


 レオンが顔を上げる。


「……」


「生き残った奴が悪いなんてことはねぇ」


 ガルドはそれだけ言った。


 レオンはしばらく何も言わなかった。


 そして。


「……ありがとう」


 小さく呟いた。



---




 俺はずっと気になっていた。


「じゃあ、エリオスは何をしてたの?」


 レオンの表情が変わる。


「……分からない」


「でも、魔物を作ったのはエリオスなんだよね?」


「そうだ」


「なら――」


 俺はペンダントを見る。


「どうしてこれが魔物の中にあったんだろう?」


「……」


 全員が黙る。


 俺は魔力感知を使った。


 ペンダントに触れる。


 すると。


 ――ドクン。


 頭の中に映像が流れ込んできた。


「――っ!」


 目の前が真っ白になる。



---


過去の映像


 暗い研究室。


 たくさんの魔法陣。


 黒い魔力。


 そして。


 若い頃のレオン。


 その隣に三人の仲間。


 ディーン。


 セリナ。


 ミア。


「……!」


 俺は声が出なかった。


 映像の中のレオンが叫んでいる。


> 「エリオス! 何をしている!」




 研究室の中央。


 エリオスが立っている。


 その前には巨大な魔法陣。


 そして。


 魔法陣の中に――


 白い少女がいた。


「……地下の少女?」


 俺は息を呑む。


 映像のエリオスが言う。


> 「この少女の力が必要なんだ」




 レオンが剣を抜く。


> 「やめろ!」




 映像が途切れる。


「……!」


 俺はその場に膝をついた。


「キラ!」


 父さんが支える。


「大丈夫か?」


「……大丈夫」


 息を整える。


 レオンが俺を見る。


「何を見た?」


「エリオスが……」


 俺は言葉を選ぶ。


「地下の少女を知ってる」


 レオンの目が見開かれる。


「……何?」



---




「エリオスは、少女の力が必要だって言ってた」


「……」


「そして」


 俺はペンダントを見る。


「レオンの仲間たちも、その事件に関わっていた」


 レオンは黙っている。


 しばらくして。


「……俺たちは知らなかった」


「何も?」


「ああ」


 レオンが答える。


「俺たちはただの冒険者だと思っていた」


「でも違った」


「俺たちが受けた依頼そのものが――」


 レオンがペンダントを握る。


「最初から仕組まれていたのかもしれない」



---



 そのとき。


『キラ』


 また声が聞こえた。


「……!」


 俺は地下の奥を見る。


『こっち』


 白い少女の声。


『お願い……』


『来て』


 俺は立ち上がった。


「少女が呼んでる」


 レオンも立つ。


「なら行こう」


「レオン?」


「俺も知りたい」


 レオンは剣を握る。


「仲間たちが死んだ理由を」


 父さんが頷く。


「なら、全員で行くぞ」


 ガルドが斧を担ぐ。


「またデカい魔物が出てきたら、今度は俺が一発でぶっ飛ばしてやる」


 ミレアが笑う。


「無理しないでよ?」


「お前こそ、矢を外すなよ」


「外さない!」


 アルノも杖を握る。


「私も行きます」


 俺はみんなを見る。


 少しだけ胸が温かくなった。


 さっきまで、この地下は怖い場所だった。


 でも今は違う。


 みんながいる。


 俺は杖を握る。


「行こう」


 そして俺たちは、地下のさらに奥へ進み始めた。



---


 だが。


 その頃。


 地下遺跡の最深部。


 誰もいないはずの部屋で。


 一人の男が目を開いた。


「……来たか」


 エリオスだった。


 その手には、黒い魔石。


 そしてその背後には――


 巨大な白い扉。


 扉には、俺がまだ知らない紋章が刻まれていた。


「キラ」


 エリオスが笑う。


「君がここへ来るのを待っていたよ」


 白い扉の奥から。


 ――ドクン。


 何かが鼓動した。


第29話 終

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