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30話 胸糞悪い



 地下遺跡の奥へ進む。


 先ほどまでの戦闘で、全員の疲労はかなり溜まっていた。


 それでも誰も戻ろうとは言わなかった。


 レオンが先頭を歩き、父さんがその後ろ。


 俺はアルノと並んで歩き、最後尾をガルドとミレアが担当している。


「……静かすぎない?」


 ミレアが小声で言った。


「さっきまで魔物がいたのに」


 ガルドが周囲を見る。


「だからこそ警戒しろ。こういう場所は静かになった後が一番危ない」


「ガルドさんって、意外と慎重なんですね」


 アルノが言う。


「意外とはなんだ、意外とは」


「すみません」


 アルノが小さく笑った。


 そのやり取りを見て、俺も少し笑う。


 緊張していた空気が、少しだけ和らいだ。



---




 しばらく進むと、レオンが足を止めた。


「ここだ」


 目の前には大きな扉。


 古びているが、扉そのものはほとんど傷ついていない。


「この先に、あいつの研究室がある」


 レオンが言った。


「昔、ここまで来たことがあるの?」


 俺が聞く。


「ああ」


 レオンは扉を見つめる。


「でも、開けられなかった」


「どうして?」


「魔力認証が必要だった」


 レオンが手をかざす。


 何も起きない。


「俺には開けられない」


 俺も扉を調べる。


 魔法陣。


 複雑な術式。


 そして中央に小さな穴がある。


「これ……」


 俺はペンダントを取り出す。


 レオンの仲間が持っていた銀色のペンダント。


「使えるかもしれない」


「待て」


 レオンが俺を見る。


「それは仲間の形見だ」


「うん」


「無理に使う必要はない」


 俺は少し考えた。


「でも、これがここを開けるためのものなら……」


 レオンは黙った。


 そして。


「……頼む」


 ペンダントを俺に渡した。


 俺は穴に差し込む。


 ――カチッ。


 扉の奥で何かが動いた。


 巨大な扉がゆっくりと開く。


 ――ゴゴゴゴゴ……。


「開いた……」


 アルノが呟く。


 レオンは何も言わず、扉の向こうを見つめていた。



---



 中には大量の本と魔道具が並んでいた。


 壁には魔法陣。


 棚には小さな魔石。


 そして中央には巨大な装置。


「すごい……」


 アルノが目を輝かせる。


「これ全部、魔法研究の道具ですよ」


「分かるのか?」


 ガルドが聞く。


「全部ではありません。でも、かなり高度なものです」


 アルノは一冊の本を手に取る。


「この術式……普通の属性魔法じゃない」


「どんな魔法?」


「魔力そのものを変換しています」


 俺も本を覗き込む。


「……本当だ」


 術式を目で追う。


 すると、頭の中で自然と構造が組み上がっていく。


「この部分を変えれば、もっと効率が良くなる」


「え?」


 アルノが俺を見る。


「ここを?」


「うん」


 俺は指を差す。


「この術式だと魔力の流れが一度戻ってる。ここを直接繋げれば、消費が減る」


 アルノが目を見開く。


「……本当だ」


 何度も本を見る。


「すごい……」


「そんなに?」


「はい。私、何日もかけないと気づけないと思います」


 アルノは悔しそうに笑った。


「やっぱりキラ君には敵わないですね」


「そんなことないよ」


 俺は首を振る。


「アルノがいなかったら、俺はこの本をちゃんと読めない」


「え?」


「魔法の知識はアルノの方がずっと多いから」


 アルノは少し驚いた後、笑った。


「……それなら、これからも一緒に研究しましょう」


「うん」



---




 その頃。


「ねえ!」


 ミレアが壁を指差した。


「ここ、おかしくない?」


 全員が振り向く。


「何が?」


 ガルドが聞く。


「この壁だけ、埃が少ない」


 ミレアが壁に近づく。


「誰か最近触ったんじゃない?」


 俺も近づいて調べる。


「本当だ」


 壁の一部に小さな隙間がある。


 ミレアが笑う。


「やっぱり!」


 ガルドが感心したように言う。


「よく気づいたな」


「冒険者なんだから、それくらい見るわよ」


 ミレアは少し得意そうだった。


 俺は壁を調べる。


 隠し扉。


 魔法で封印されている。


「開けられる」


「キラ、お願い」


 俺は魔力を流す。


「《解除》」


 ――カチッ。


 壁が横へ動いた。


 その奥には小さな部屋があった。


「何かある」


 ミレアが先に入る。


「ちょっと待て!」


 ガルドが止める。


「罠があるかもしれねぇ」


「……そうだった」


 ミレアが苦笑する。


「先に確認して」


「任せろ」


 ガルドが慎重に部屋へ入る。


 何も起きない。


「大丈夫だ」


 全員が入る。


 部屋の中央には一つの箱。


 レオンが近づく。


 箱には名前が書かれていた。


「……ミア」


 レオンの顔が固まった。



---



 箱を開ける。


 中には古い手紙が入っていた。


 レオンが震える手で取る。


「……」


 誰も急かさない。


 しばらくして、レオンが読み始める。


「エリオスについて書いてある」


「何て?」


 父さんが聞く。


 レオンは手紙を読む。


「『エリオスは、黒い魔力を研究している』」


「『目的は、転生者の魔力を利用すること』」


「『この研究が成功すれば、大きな力になる』」


 レオンが顔を上げる。


「……俺たちは、最初から利用されていた」


 ガルドが拳を握る。


「胸糞悪い話だな」


 ミレアも表情を曇らせる。


「じゃあ、あの魔物も……」


「ああ」


 レオンが答える。


「俺たちを実験材料にするために作った可能性がある」


 沈黙。


 俺は手紙を見る。


「でも、まだ全部は分からない」


「そうだな」


 レオンが頷く。


「だから俺は、ここで終わらせない」


 レオンが剣を抜く。


「エリオスを追う」


 その目に迷いはなかった。



---



 研究室の奥。


 俺は一冊の本を見つけた。


 そこには魔力を遮断する術式が書かれている。


 さっき魔物に使った《魔力遮断》。


 その原型だった。


「……これだ」


 俺はページをめくる。


「この魔法を改良できる」


 魔力を止めるだけではない。


 魔力を一時的に切断して、再接続する。


 それができれば。


「レベルリセットにも使えるかもしれない」


 俺は考え込む。


 レベルリセットには、まだ分からないことが多い。


 能力を引き継げる。


 魔法も引き継げる。


 でも。


 なぜそんな能力が俺にあるのか。


 その答えはまだ分からない。


「キラ」


 レオンが呼ぶ。


「行こう」


「うん」


 俺は本を閉じた。


 研究室を出る。



---


 地下遺跡を出る頃には、空が明るくなり始めていた。


 長い夜が終わろうとしている。


 街へ戻る道で。


「キラ」


 父さんが隣を歩く。


「今日はよく頑張ったな」


「みんながいたからだよ」


「そうか」


 父さんは笑った。


「それなら、これからも人を頼れ」


「……うん」


 俺は前を見る。


 ガルドとミレアが言い合っている。


 アルノは拾った本について話している。


 レオンは一人で静かに歩いている。


 それぞれ違う。


 考え方も。


 強さも。


 目指すものも。


 だけど今は、一緒に歩いている。


 俺は少しだけ嬉しくなった。


 そして街へ戻った俺たちを待っていたのは――


「キラ!」


 街の人々の声だった。


 どうやら地下で起きていたこと以上に、地上でも大きな騒ぎが起きていたらしい。


第30話 終

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