273話 最高の仲間
第273話 最高の仲間
――異次元。
轟音が響き渡っていた。
ドォォォォォォォォォォン!!
「ぐっ……!!」
ジュダの身体が大きく吹き飛ばされる。
地面を何度も跳ね――。
ズザザザザザッ!!
ようやく止まった。
「…………」
ジュダは片膝をついた。
ヴォルガの鎧には無数の亀裂。
肩からは血が流れている。
呼吸も荒い。
「はぁ……はぁ……」
目の前には――。
アルテミス。
傷を負いながらも、未だに立っている。
それどころか。
その身体から溢れ出す黒い魔力は――。
戦いが始まった時よりも、さらに増していた。
「…………」
ジュダが歯を食いしばる。
「……なんだよ」
魔剣を握り直す。
「その魔力……」
アルテミスは静かに笑った。
「気づいたか」
「…………」
「私の魔力は尽きぬ」
「……無限……」
ジュダが呟く。
「そうだ」
アルテミスの周囲に、黒い魔力が渦巻く。
「黒神エリオス様から与えられた力」
「私の魔力は――」
黒い魔力が空間を埋め尽くす。
「無限だ」
「…………!」
ジュダの目が見開かれる。
「無限……だと?」
「そうだ」
アルテミスが一歩進む。
「どれほど攻撃しても」
さらに一歩。
「どれほど魔力を使わせても」
さらに一歩。
「私の力は尽きない」
「…………」
ジュダは剣を握る。
これまで何度攻撃しても。
何度斬りつけても。
何度魔力を叩き込んでも――。
アルテミスは倒れない。
それどころか。
時間が経つほど――。
ジュダの方が追い詰められていた。
「…………」
ジュダは自分の身体を見る。
限界。
魔力も――。
体力も――。
もうほとんど残っていない。
対して。
アルテミスには――。
まだ余裕がある。
「……くそっ」
ジュダが立ち上がる。
「なら……」
魔剣を構える。
「私が全部出し切るだけだ!!」
「来い」
アルテミスが笑う。
「その程度では――」
次の瞬間。
アルテミスが消えた。
「…………!」
「遅い」
ジュダの目の前。
「ブラック――」
黒い魔力が拳へ集まる。
「インパクト」
ドォォォォォォォォォン!!
「ぐあああああああああ!!」
ジュダの身体が――。
吹き飛んだ。
「――ッ!!」
空中を何十メートルも飛ばされる。
ドゴォォン!!
壁へ激突。
「がっ……!」
そのまま地面へ落下する。
ドサッ。
「…………」
ジュダは動かない。
「…………」
アルテミスがゆっくり歩いてくる。
「終わりか?」
「…………」
ジュダの指が――。
僅かに動く。
「……まだ……」
「…………」
「まだ……終わってない……」
ジュダは魔剣を支えにして立ち上がろうとする。
しかし――。
「無駄だ」
アルテミスの手が上がる。
「ぐっ……!」
黒い魔力がジュダを包む。
「な……!」
ドォォォォォォォォォォォン!!
再び爆発。
ジュダの身体が地面を転がる。
「がぁぁぁぁぁぁ!!」
さらに――。
ズドォォォォォォォン!!
もう一撃。
「ぐあああああああ!!」
吹き飛ばされる。
ヴォルガの鎧が砕ける。
「ジュダ……!!」
「…………」
ジュダは倒れていた。
視界が霞む。
音も遠い。
身体の感覚が――。
ない。
「…………」
指一本。
動かせない。
「……くそ……」
意識が遠のいていく。
「私は……」
目の前が暗くなる。
「こんな……ところで……」
アルテミスが歩いてくる。
「もう終わりだ」
ジュダの前に立つ。
「黒神エリオス様の前へ行くことなく――」
右手に黒い魔力を集める。
「ここで消えろ」
巨大な黒い魔力が膨れ上がる。
ジュダは――。
もう動けない。
「…………」
目を閉じかける。
その時――。
――――。
何かが見えた。
「…………?」
遠く。
ぼやけた視界の中。
人影。
一人。
二人。
三人――。
「…………」
ジュダは目を凝らす。
誰だ。
分からない。
でも――。
見覚えがある。
その時。
「――――!!」
ヒュンッ!!
空気を切り裂く音。
「…………!」
アルテミスが顔を上げた。
一本の魔法の矢が――。
凄まじい速度で飛んでくる。
「ゼファリアスアロー!!」
ドォォォォォォォォォン!!
アルテミスが横へ跳ぶ。
矢が地面を貫く。
「…………!」
その直後。
「――双月斬・極!!」
シュバァァァァァァァァン!!
二本の剣閃が同時に走った。
「……!」
アルテミスが腕を交差させる。
ガァァァァァン!!
斬撃を弾き飛ばす。
「…………」
アルテミスの前に――。
一人の少女が立っていた。
二本の剣を構えて。
「…………」
ジュダの霞んだ視界。
その姿が――。
少しずつ鮮明になる。
「……レティ……シア……」
そして――。
もう一人。
少女が前へ出た。
「ソーンレクイエム!!!」
ドォォォォォォォォォォン!!
無数の光の茨が地面から伸びる。
アルテミスが後方へ飛ぶ。
「…………!」
茨が空間を縦横無尽に走る。
その中央に――。
「ジュダさん!!」
セリーナがいた。
「…………!」
ジュダの目が大きく開く。
「……セリ……ーナ……?」
セリーナはジュダへ駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「…………」
ジュダは言葉が出ない。
セリーナはすぐに両手をジュダへ向ける。
「ヒール!!」
パァァァァァ……。
暖かな光がジュダの身体を包み込む。
砕けかけていた身体に――。
少しずつ力が戻ってくる。
「…………」
ジュダの指が動く。
そして。
ゆっくりと上半身を起こした。
「お前……たち……」
セリーナが笑う。
「やっと追いつきました!」
「…………」
ジュダは呆然とする。
「どうして……ここに……」
セリーナは笑顔のまま答えた。
「戦いが終わったあと――」
「まずレティシアさんのところへ行きました」
レティシアが二本の剣を構える。
「傷がひどかったので、回復させました」
レティシアがアルテミスを睨む。
「そのあと――」
セリーナはエリスを見る。
「エリスさんのところへ」
「…………」
エリスは弓を構えていた。
「エリスさんもかなり疲れていました」
エリスが小さく笑う。
「でも……動けるようになりました」
「そして――」
セリーナはジュダを見る。
「最後に、ジュダさんです!」
「…………」
ジュダは三人を見る。
レティシア。
エリス。
セリーナ。
三人とも――。
傷だらけ。
それでも。
ここまで来た。
自分を助けるために。
「…………」
ジュダの胸が――。
熱くなる。
「……お前ら……」
声が震える。
「遅いんだよ……」
セリーナが笑った。
「すみません!」
エリスも微笑む。
「でも、間に合いました」
レティシアが剣を構えたまま言う。
「ジュダ」
「…………?」
「もう一人で戦わなくていい」
「…………」
ジュダは目を見開いた。
その言葉が――。
胸に突き刺さる。
アルテミスが静かに笑った。
「仲間が増えただけか」
黒い魔力が再び膨れ上がる。
「まとめて消してやろう」
「…………」
レティシアが一歩前へ出る。
エリスも並ぶ。
セリーナも杖を構える。
三人が――。
ジュダの前に立った。
「…………」
ジュダはその背中を見つめる。
小さく笑った。
「……そうか」
魔剣ヴォルガを握り直す。
「最高の仲間だ」
その言葉に――。
三人が笑う。
セリーナが元気よく叫んだ。
「はい!」
そして――。
「ジュダさんが回復したら!」
セリーナはアルテミスを見る。
「全員で反撃開始ですよ!!」
「…………」
アルテミスの笑みが消えた。
「愚かな……」
黒い魔力が爆発する。
「ならば――」
レティシアが双剣を構える。
「来い」
エリスが弓を引く。
「今度は――」
セリーナが両手を広げる。
「私たちが相手です!」
ドォォォォォォォォォォン!!
アルテミスが突進する。
「消えろォォォォォ!!」
レティシアが迎え撃つ。
「――流水の舞!!」
シュバァァァァァ!!
二本の剣が閃く。
エリスも同時に矢を放つ。
「ゼファリアスアロー!!」
無数の光の矢が飛ぶ。
セリーナも叫ぶ。
「ソーンチェイン!!」
光の鎖がアルテミスへ迫る。
「…………!」
アルテミスが黒い魔力を爆発させる。
ドォォォォォォォォォォン!!
四人の力が――。
正面から激突した。
光。
黒。
剣。
矢。
茨。
雷光。
すべてが異次元の空間を埋め尽くしていく。
「うおおおおおおおお!!」
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
「いけぇぇぇぇぇ!!」
「負けません!!」
そして――。
その中心で。
ジュダは立ち上がっていた。
まだ身体は痛い。
まだ力も完全には戻っていない。
それでも――。
もう一人ではない。
ジュダは三人の背中を見る。
そして――。
笑った。
「…………」
「最高の仲間だ」
その目に――。
再び、戦う者の光が宿った。
第273話 終




