272話 黒神の力――アルテミス
――異次元。
果てのない一本道。
その一角で――。
「…………」
ジュダとアルテミスが向かい合っていた。
周囲には、先ほど放たれた魔千雷光剣の残滓が漂っている。
黒い雷。
砕けた空間。
無数の亀裂。
それでも――。
アルテミスは立っていた。
「…………」
その身体には、いくつかの傷。
しかし。
致命傷には程遠い。
「……やはり」
ジュダが剣を構える。
「簡単にはいかないか」
アルテミスはゆっくりと顔を上げた。
「愚かな魔王よ」
その声は静かだった。
「貴様程度の力では――」
アルテミスの周囲に黒い魔力が集まる。
「私を倒すことなどできぬ」
――ゴォォォォォ……。
空間が震える。
ジュダの表情が険しくなる。
「……その黒い魔力」
「…………」
「エリオスから与えられたものか」
アルテミスは微笑んだ。
「そうだ」
黒い魔力が、さらに膨れ上がる。
「これこそが、黒神エリオス様の力」
「…………」
「すべてを飲み込み、すべてを破壊する力だ」
――ドンッ!!
アルテミスの背後に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
「まずは――」
無数の黒い光が収束する。
「これで消えろ」
「……!」
ジュダが身構える。
「ブラック――」
魔法陣が一斉に回転する。
「レイ!!」
ドォォォォォォォォォォォン!!
無数の黒い光線が放たれた。
「――ッ!!」
ジュダは横へ跳ぶ。
ズガァァァァァン!!
先ほどまで立っていた場所が吹き飛ぶ。
「ちっ!」
ジュダは空中で身体を捻る。
さらに――。
「逃がさん」
アルテミスが手を振る。
黒い光線が軌道を変えた。
「なっ……!?」
ズバァァァァァン!!
ジュダの肩をかすめる。
「ぐっ!!」
黒い魔力が鎧を削る。
ジュダは着地すると同時に走り出した。
「この程度――!」
「まだだ」
アルテミスの周囲に、さらに魔法陣。
「ブラック・スピア」
シュバババババババッ!!
無数の黒い槍が空間を埋め尽くした。
「…………!」
ジュダは剣を振る。
ガガガガガガガガッ!!
迫り来る槍を次々と弾き飛ばす。
だが――。
一本。
二本。
三本。
「くっ……!」
完全には防ぎきれない。
黒い槍がヴォルガの鎧へ突き刺さる。
「ぐあっ!!」
ジュダの身体が後方へ吹き飛んだ。
ドォォォォン!!
地面を削りながら転がる。
「ジュダ!!」
――遠く。
キラは走っていた。
しかし。
一瞬だけ足を止める。
「…………」
背後から聞こえた轟音。
ジュダの声。
「…………」
拳を強く握る。
戻るべきか。
助けるべきか。
そんな考えが頭をよぎる。
だが――。
「……ジュダ」
キラは前を見る。
「お前が任せろって言ったんだ」
そして――。
再び走り出す。
「俺は……先へ行く!」
――――――――――
「…………」
ジュダはゆっくりと立ち上がった。
ヴォルガの鎧には無数の傷。
肩から血が流れている。
それでも。
「……はは」
ジュダは笑った。
「なるほど」
剣を握り直す。
「面白くなってきたじゃないか」
アルテミスは静かに見下ろしている。
「まだ立つか」
「当たり前だ」
ジュダは魔剣を構える。
「私は魔王だぞ」
「…………」
「簡単に倒されるわけにはいかないんだよ!」
ドォォォォォォォン!!
ジュダが地面を蹴った。
一瞬で距離を詰める。
「ハァァァァァ!!」
横薙ぎ。
「遅い」
アルテミスが避ける。
「――そこだ!!」
ジュダは身体を回転させる。
下段から斬り上げる。
「ッ!」
アルテミスが腕で受ける。
ガァァァァン!!
「…………!」
ジュダはさらに踏み込む。
「まだだ!!」
右。
左。
上。
下。
連続斬撃。
ガガガガガガガガガッ!!
アルテミスはすべて受け流す。
だが――。
ジュダの攻撃は止まらない。
「おおおおおおおおお!!」
ヴォルガの黒い刃が何度も閃く。
アルテミスが一歩下がった。
「…………」
ジュダが笑う。
「下がったな」
「…………」
「なら――!」
魔力が爆発する。
「押し切る!!」
ドォォォォォォォン!!
ヴォルガの鎧から黒い炎が噴き出した。
「魔剣ヴォルガァァァ!!」
巨大な斬撃が走る。
アルテミスは両手を前へ出す。
「無駄だ」
黒い魔力が壁になる。
ドゴォォォォォォン!!
ジュダの斬撃が直撃する。
しかし――。
「なっ……!」
弾かれた。
「ぐっ!!」
ジュダの身体が後ろへ流れる。
「この私の黒魔力を――」
アルテミスの目が光る。
「斬れると思ったか?」
「…………」
ジュダは着地する。
足が地面を削る。
「……なるほど」
魔剣を握る手に力を込める。
「魔法で受けてるんじゃない」
「…………」
「黒い魔力そのものを盾にしているのか」
アルテミスは微笑んだ。
「理解したところで――」
その背後。
巨大な黒い魔法陣が開く。
「何も変わらぬ」
「…………!」
「ブラック・カタストロフ」
――ドォォォォォォォォォォォォン!!
巨大な黒い爆発が発生した。
「うおおおおおおお!!」
ジュダが正面から飲み込まれる。
「ジュダ!!」
遠くからキラの声が聞こえた。
だが――。
爆炎の中。
「…………」
黒い鎧が立っていた。
「…………まだだ」
ジュダだった。
全身傷だらけ。
ヴォルガの鎧も一部が砕けている。
それでも――。
「まだ……終わってないぞ」
ジュダは顔を上げる。
「アルテミス!!」
「…………」
「私を舐めるなぁぁぁぁぁ!!」
ジュダが突っ込んだ。
「…………!」
アルテミスも動く。
二人の距離が一瞬で消える。
ガァァァァァァン!!
魔剣と黒い魔力が激突した。
衝撃波が異次元を駆け抜ける。
ガガガガガガガガッ!!
斬撃。
魔法。
蹴り。
拳。
黒い光。
漆黒の炎。
すべてが入り乱れる。
「はぁぁぁぁぁ!!」
「消えろ!!」
ドォン!!
ガァン!!
ズガァァン!!
二人の姿が高速で交差する。
一瞬見えたと思えば消える。
次の瞬間には、遥か上空で激突。
そして――。
地面へ叩き落とされる。
「ぐっ!!」
ジュダが立ち上がる。
「まだだ!!」
また突っ込む。
「何度来ても同じだ!!」
アルテミスが黒い魔力を放つ。
ジュダは避ける。
「――ッ!」
横。
さらに横。
黒い光線が頬を掠める。
ジュダはそのまま懐へ潜り込む。
「もらった!!」
斬撃。
「…………」
アルテミスが腕を上げる。
ガキィィィィン!!
また――。
弾かれた。
「くっ……!」
ジュダの身体が後ろへ飛ぶ。
アルテミスが追撃する。
「終わりだ」
「まだだって言ってるだろぉぉぉ!!」
ジュダが魔剣を地面へ突き立てる。
ドォォォォォォン!!
黒い魔力が爆発する。
その勢いで身体を加速させる。
「うおおおおおおお!!」
アルテミスへ突撃。
アルテミスも迎え撃つ。
「来い!!」
――激突。
「「うおおおおおおおおお!!」」
ドォォォォォォォォォォォォン!!
異次元そのものが揺れた。
空間に無数の亀裂が走る。
そして――。
二人の戦いは。
さらに激しく。
さらに凄まじく。
誰にも止められない死闘へと変わっていった。
その頃。
キラはただ一人。
果てしない道を走っていた。
「…………」
前方に見えるものはない。
それでも。
キラは止まらない。
「ジュダ……」
小さく呟く。
「絶対に……生きて戻れよ」
その背後では――。
またしても。
凄まじい轟音が響いた。
ドォォォォォォォォォォォン!!
キラは振り返らない。
ただ――。
仲間を信じて。
走り続けた。
第272話 終




