27話 土壇場の新魔法
――グォォォォォン!
地下空間を揺らす咆哮。
巨大な魔物が四本の腕を振り上げた。
その瞬間。
「散れ!」
レオンの声が響いた。
俺たちは左右へ飛び退く。
――ドガァァン!
魔物の拳が地面を叩きつける。
石床が砕け、無数の破片が飛び散った。
「キラ!」
父さんが俺の前へ出る。
飛んできた石を剣で弾く。
――カン! カン! カン!
「怪我はないか!」
「大丈夫!」
「よし!」
父さんは魔物を睨みつける。
「なら、あいつは俺たちで止めるぞ!」
俺は頷いた。
今までなら、俺が魔法で全部倒そうとしていたかもしれない。
でも。
今回は違う。
この魔物は強すぎる。
一人では危険だ。
「みんな!」
俺は叫ぶ。
「一緒に戦おう!」
「おう!」
ガルドが斧を構える。
「こういうデカブツは俺の得意分野だ!」
ミレアが弓を引く。
「なら、私は目を狙う!」
アルノが杖を掲げる。
「私は援護します!」
レオンは無言で剣を構える。
そして父さんも剣を握り直した。
「行くぞ!」
---
「うおおおおおっ!」
最初に飛び出したのはガルドだった。
巨大な身体に正面から突っ込んでいく。
「グォォッ!」
魔物が右腕を振る。
ガルドは避けない。
「受けてやる!」
斧を両手で構える。
――ズガァン!
巨大な拳と斧が激突した。
「ぐっ……!」
ガルドの身体が後ろへ滑る。
石床に二本の線が刻まれた。
「ガルド!」
「まだだ!」
ガルドは歯を食いしばる。
「こんなんで負けてたまるか!」
斧を振り上げる。
「《剛撃》!」
――ドゴォン!
斧が魔物の腕を弾き飛ばした。
俺は思わず目を見開いた。
「すごい……」
以前より明らかに強くなっている。
ガルドが笑った。
「驚いたか、キラ!」
「うん!」
「俺だって、ずっとお前に驚かされてばかりじゃねぇんだよ!」
その言葉に、俺も笑った。
「分かった!」
こういう戦い方もある。
一人で全部やる必要はない。
---
次の瞬間。
「キラ!」
ミレアの声。
「上!」
俺が見上げる。
魔物の左腕が俺へ向かっていた。
――シュッ!
一筋の矢が飛ぶ。
矢は魔物の手首に突き刺さった。
「グォッ!?」
動きが止まる。
俺はすぐに後ろへ飛んだ。
「助かった!」
「当然でしょ!」
ミレアが次の矢をつがえる。
「私は魔法が苦手だからね」
弓を引く。
「だから――」
目が鋭くなる。
「私にしかできないことをする!」
――シュッ!
二本目。
三本目。
矢が連続して飛んでいく。
魔物の関節。
足。
目。
それぞれ正確に狙い撃つ。
「動きが止まった!」
アルノが叫ぶ。
「今です!」
---
アルノが杖を掲げる。
「《拘束陣》!」
地面に巨大な魔法陣が広がった。
青白い光の鎖が魔物の足へ絡みつく。
――ギギギギ……。
魔物が動こうとする。
「くっ……!」
アルノの額に汗が浮かぶ。
「長くは持ちません!」
「十分!」
俺が答える。
アルノが驚いた顔をする。
「キラ?」
「ありがとう!」
俺は魔物を見る。
今なら。
胸の魔石を狙える。
---
「キラ!」
父さんが叫ぶ。
「まだ早い!」
「え?」
魔物の背後。
別の影が動いた。
――シュッ!
黒い短剣。
異界狩りの男が俺たちへ迫っていた。
「キラ!」
父さんが割り込む。
――ガキィン!
短剣を受け止める。
「この子には触れさせない」
父さんの声は静かだった。
敵の男が笑う。
「ただの人間の父親が、よく立ち向かう」
「ただの父親だからだ」
父さんが剣を押し返す。
「この子を守る理由なら、誰にも負けない」
――キィン!
二人の剣がぶつかる。
俺は父さんを見た。
強い。
でも。
俺より強いわけじゃない。
それでも。
父さんは俺にとって大切な人だ。
だからこそ。
「父さん!」
「行け!」
俺は頷いた。
「うん!」
---
俺が魔物へ向かおうとしたとき。
「キラ!」
レオンが叫んだ。
「その魔石には触れるな!」
「どうして?」
「俺が説明する!」
レオンが魔物の攻撃を受け止める。
――ガキィィン!
「こいつは昔――」
レオンの顔が苦しそうに歪む。
「俺の仲間を殺した魔物だ」
俺は驚いた。
「……!」
レオンが魔物を睨む。
「俺たちは四人だった」
魔物の拳を避ける。
「俺と、剣士と、魔法使いと、治癒術師」
剣を振る。
――ズガッ!
魔物の腕から黒い血が飛ぶ。
「こいつを倒すために地下へ来た」
レオンの声が低くなる。
「でも俺は……」
魔物の攻撃を受ける。
――ドン!
壁へ叩きつけられる。
「レオン!」
「……俺だけが生き残った」
レオンが立ち上がる。
服は破れ、額から血が流れている。
「だから俺は、こいつを知っている」
レオンは魔物を見る。
「こいつは倒されるたびに強くなる」
「……!」
「普通の攻撃じゃ駄目だ」
俺は魔物を見る。
《魔力感知》。
確かに。
傷つくたびに黒い魔力が増えている。
「じゃあ……」
俺は考える。
「倒すんじゃなくて、魔力を止めればいい」
レオンが俺を見る。
「できるのか?」
「やってみる」
---
俺は目を閉じた。
魔力を集中する。
魔物の身体を流れる黒い魔力。
胸の魔石。
四本の腕。
すべてが一本の魔力経路でつながっている。
「見える……」
俺の《構造解析》が少しずつ魔物の構造を捉えていく。
【解析進行率:32%】
【41%】
【57%】
【68%】
「もう少し……!」
魔物がこちらを見る。
「グォォォォ!」
拘束を破ろうとしている。
「アルノ!」
「はい!」
「あと少しだけ止めて!」
「分かりました!」
アルノが魔力を振り絞る。
「《拘束陣・強化》!」
魔法陣がさらに輝く。
「ミレア!」
「任せて!」
矢が飛ぶ。
――シュッ!
魔物の目に刺さる。
「ガルド!」
「おう!」
ガルドが斧を振り上げる。
「ここだぁぁぁ!」
――ズガァン!
魔物の足を斬りつける。
そして。
レオンが動く。
「キラ!」
「はい!」
「今だ!」
レオンが魔物の胸へ飛び込む。
魔石の前に立つ。
「ここは俺が止める!」
灰銀の剣を突き立てた。
――ズドン!
魔石の動きが止まる。
俺は両手を前へ出す。
「新しい魔法を――」
頭の中で魔法式を組み替える。
攻撃するのではない。
魔力を消す。
流れを切る。
「作る!」
魔力が渦を巻く。
「《魔力遮断》!」
――パァァァン!
青白い光が魔物を包み込んだ。
黒い魔力の流れが。
一本。
また一本。
次々と途切れていく。
「グ……」
魔物が動きを止める。
「グォ……」
四本の腕が落ちる。
――ドサッ。
巨大な身体が崩れた。
静寂。
---
誰も喋らなかった。
やがて。
「……倒した?」
ミレアが呟く。
アルノが魔物を見る。
「魔力反応……消えています」
ガルドが斧を肩に担ぐ。
「はぁ……」
大きく息を吐く。
「疲れた……」
父さんも剣を収める。
「よくやったな、キラ」
俺は笑う。
「みんなのおかげだよ」
すると。
レオンがこちらを見る。
「……違う」
「え?」
「最後に魔法を作ったのは君だ」
レオンが魔物を見る。
「俺たちだけでは倒せなかった」
ガルドが笑う。
「じゃあ全員のおかげってことでいいだろ」
「そうね」
ミレアも笑う。
「今回はキラ一人じゃなかったし」
アルノが頷く。
「役割分担がうまくいきました」
俺はみんなを見る。
少しだけ嬉しかった。
いつも一人で戦ってきた。
自分の魔法。
自分の能力。
自分の力。
でも。
誰かと一緒に戦うと。
自分一人ではできないことができる。
「……仲間って、こういう感じなのかな」
俺が呟く。
レオンが少しだけ笑った。
「そうかもしれないな」
---
しかし――
そのとき。
――ピシッ。
魔物の胸に残った魔石に亀裂が入った。
「……?」
俺たちは一斉に振り返る。
――ピシッ。
もう一度。
魔石が割れる。
中から。
黒い液体のような魔力が流れ出した。
「離れろ!」
レオンが叫ぶ。
しかし。
黒い魔力は地面を這い。
地下の奥へ向かっていく。
「逃げてる……?」
俺は《魔力感知》を使う。
「違う」
俺は顔を上げる。
「誰かのところへ戻ってる」
レオンの表情が変わった。
「……まさか」
「知ってるの?」
「ああ」
レオンが地下の奥を見る。
「この魔物を作った奴だ」
その瞬間。
暗闇の奥から。
――パチ。
拍手の音が聞こえた。
一回。
二回。
三回。
「素晴らしい」
知らない男の声。
「まさか、あれを壊すとは思わなかった」
全員が戦闘態勢を取る。
暗闇から。
一人の青年が歩いてくる。
白い服。
長い銀髪。
穏やかな笑顔。
「初めまして」
青年が俺を見る。
「転生者の少年」
俺の背筋に寒気が走った。
「君に興味がある」
そして。
青年の目が赤く光る。
「とてもね」
俺は杖を握り直した。
新たな敵。
そして。
まだ見ぬ世界の秘密が。
地下の奥で待っていた。
第27話 終




