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26話 レオンが倒せなかった魔物



 東門から侵入してきた異界狩り。


 そして、街の中心から空へ伸びる黒い魔力。


 その二つが同時に起きたことで、街は再び混乱に包まれていた。


「地下へ行く!」


 俺は叫んだ。


 6歳の身体には大きすぎる杖を握りしめ、街の中心へ向かって走る。


 隣には父さん。


 少し後ろにはガルド、ミレア、アルノ。


 そして――レオン。


「キラ!」


 父さんが叫ぶ。


「前!」


 俺は顔を上げた。


 通りの先から、異界狩りが三人走ってくる。


「邪魔するなら――」


 俺は杖を向ける。


「止める!」


 右手に魔力を集中。


「《風刃》!」


 ――ヒュンッ!


 三枚の風の刃が地面すれすれを走った。


 敵の足元へ到達した瞬間、風刃が地面を削る。


「うわっ!」


 三人が慌てて飛び退いた。


「無詠唱……!」


「まただ!」


「こいつ、本当に子供か!?」


 驚く声。


 俺は一瞬だけ敵を見る。


 その隙に。


「キラ、下がれ!」


 父さんが前へ出る。


 ――ガキィン!


 剣と剣がぶつかる。


 父さんが一人を抑えた。


「ここは俺がやる!」


「分かった!」


 俺は走る。


 背後から、


「キラ君!」


 ミレアの声。


「右から来てる!」


 振り返る。


 一人の敵が俺へ迫っていた。


 俺は杖を横へ振る。


「《土槍》!」


 ――ズガッ!


 地面から石の槍が突き出す。


 敵が跳び上がる。


「こんな小さな魔法陣で……!」


 驚いている。


 俺はそのまま走り抜けた。



---



 中央広場に到着すると、そこは以前とはまるで違う場所になっていた。


 噴水の周囲に亀裂。


 建物の壁は崩れ。


 空には黒い光が伸びている。


 そして。


 地下へ続く階段。


 その入口から黒い魔力が噴き出していた。


「……ひどい」


 アルノが呟く。


 俺は魔力感知を広げる。


 地下。


 さらに地下。


 その奥。


「いる」


「誰が?」


 ガルドが聞く。


「地下の少女」


 俺は答える。


「それと……何かいる」


 俺の背筋が寒くなった。


 黒い魔力の中に。


 巨大な何かがいる。



---



 階段を降りていく。


 ――コツ。


 ――コツ。


 靴音だけが響く。


 以前来たときよりも暗い。


 壁には黒い亀裂が走っている。


「……前と違う」


 俺が触れる。


 ――ビリッ!


「っ!」


 手を引っ込める。


「どうした?」


 父さんが心配そうに見る。


「触ったら、魔力が流れてきました」


「大丈夫か?」


「はい」


 俺は手を見る。


 黒い魔力が皮膚の上を一瞬だけ走った。


 だが。


 すぐに消える。


「……俺の身体が、黒い魔力を吸収した?」


 レオンが後ろから言った。


「そうだろうな」


「どうして?」


「君の中にある転生者の力が反応している」


「それって危険?」


「分からない」


 レオンが答える。


「だから慎重に進め」


 俺は頷く。



---




 しばらく進んだところで。


 ――グルルル……。


 暗闇から唸り声。


「止まれ」


 レオンが剣を抜く。


 俺も杖を構えた。


 暗闇から姿を現したのは。


 全身が黒く染まった狼だった。


 目だけが赤い。


【黒化魔獣】


【推定レベル:28】


「レベル28……」


 俺が呟く。


 以前の魔獣より強い。


 ガルドが前へ出る。


「俺がやる!」


「待って!」


 俺は魔力を感じ取る。


「普通の黒化魔獣じゃない」


「何?」


「身体の中に魔力核が三つある」


 アルノが驚く。


「三つ!?」


「はい」


 普通なら一つ。


 それが三つ。


 しかも。


「全部、黒い魔力でつながってる」


 俺は考える。


 普通に攻撃しても再生する可能性が高い。


「じゃあ、どうする?」


 ガルドが聞く。


「核を同時に壊します」


「同時?」


「はい」


 俺は手を広げる。


 三つの魔法陣を展開。


「《風刃》」


 左。


「《雷槍》」


 中央。


「《土槍》」


 右。


 三つの魔法が同時に飛ぶ。


 ――ズガァン!


 黒化魔獣が吹き飛んだ。


 その身体から黒い煙が噴き出す。


「グォォォォ!」


 まだ立ち上がる。


「まだ生きてる!」


 ミレアが叫ぶ。


「核が一つ残ってる!」


 俺は魔力感知を強める。


「そこ!」


 杖を向ける。


「《火弾》!」


 ――ドンッ!


 炎が魔獣の胸を貫いた。


 黒い魔力が消える。


 魔獣が倒れた。


 ――ズシン。


 静寂。


 ガルドが俺を見る。


「……お前」


「はい?」


「本当に6歳か?」


 ミレアも呆れた顔。


「私、もう驚くの疲れてきたわ……」


 アルノは苦笑する。


「でも、今の魔法は見事でした」


 俺は少し照れた。


「ありがとう」


 レオンだけは何も言わず、魔獣の死体を見ている。


「……どうしたの?」


「おかしい」


「何が?」


「この魔獣」


 レオンがしゃがむ。


 黒い魔力が残っている。


「誰かに作られた可能性がある」


「作られた?」


「普通の黒化じゃない」


 俺も調べる。


【解析】


【魔力構造:人工的改変を確認】


「……本当だ」


 俺は目を見開く。


「誰かが魔力を埋め込んでる」


 レオンが立ち上がる。


「つまり」


「黒い魔力を操ってる人がいる……?」


 俺たちは顔を見合わせた。



---



 そのとき。


『キラ……』


 頭の中に声が響いた。


「……!」


 地下の少女。


 俺はすぐに前を見る。


『早く……』


『もう、あの人が……』


「誰?」


 返事がない。


「誰がいるの?」


 ――ゴゴゴゴゴ……。


 地下深くから地響きがする。


 レオンが剣を構えた。


「来るぞ」


「何が?」


「分からない」


 次の瞬間。


 ――ドォォォォン!


 壁が吹き飛んだ。


「うわっ!」


 俺たちは一斉に飛び退く。


 瓦礫の向こうから。


 巨大な影が現れる。


 全長は三メートルを超えている。


 四本の腕。


 黒い鎧のような身体。


 そして。


 胸には巨大な赤い魔石。


【???】


【危険度:判定不能】


「……解析できない」


 俺は呟く。


 レオンの顔が険しくなる。


「こいつは……」


「知ってるの?」


「ああ」


 レオンが剣を握る手に力を込める。


「昔、俺が倒せなかった魔物だ」


「……!」


 巨大な魔物が咆哮する。


 ――グォォォォォン!


 地下全体が揺れた。


 遠くから。


 白い少女の声が響く。


『キラ……』


『その魔物は……』


 そして。


『封印を壊すために作られたもの』


 俺は杖を握り直した。


「……だったら」


 魔物が四本の腕を振り上げる。


「壊させない!」


 俺は魔力を集中する。


 まだ知らない。


 この戦いが。


 自分の新しい魔法を生み出すきっかけになることを。


 そして。


 この地下で。


 レオンの過去が明らかになっていくことを。


第26話 終

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