267話 愛と勇気と信頼
――ドォォォォォン!!
黒い魔力と聖なる光が激突する。
大地が震える。
空気が震える。
そして――。
「ぐおおおおおおお!!」
アンデルフォンが咆哮した。
光の騎士が、正面から斬りかかる。
「――ッ!」
ズガァァァン!!
アンデルフォンは黒い腕で剣を受け止めた。
「この程度ォォォ!!」
ギギギギギ……!
黒い魔力と光の剣が激しくぶつかり合う。
アンデルフォンが力任せに光の騎士を弾き飛ばす。
「邪魔だぁぁぁ!!」
ドゴォォォン!!
光の騎士が地面を転がる。
しかし――。
「……!」
その身体に光が降り注ぐ。
パァァァ……。
セリーナが放つ――。
ライトレイン。
光の雨が光の騎士の身体を包み込む。
傷ついた鎧が修復される。
削れた盾が元へ戻る。
そして――。
「――――」
光の騎士が再び立ち上がった。
「な……!」
アンデルフォンの顔が歪む。
「また立ち上がるだと!?」
光の騎士が剣を構える。
「くそがぁぁぁ!!」
アンデルフォンが突進する。
――ズガァァァン!!
剣と拳。
――ドゴォォォン!!
盾と黒魔力。
――バギィィィン!!
光の騎士の鎧が砕ける。
だが――。
「ライトレイン……!」
パァァァァァ……。
再び光の雨が降る。
砕けた鎧が戻る。
傷が消える。
光の騎士は何度でも立ち上がる。
「ふざけるなァァァ!!」
アンデルフォンが叫ぶ。
「クソ野郎!!」
「…………」
セリーナは何も言わない。
ただ――。
アンデルフォンを見ていた。
「…………」
右手に光。
左手に光。
その視線だけは――。
一切逸らさない。
アンデルフォンが光の騎士へ殴りかかる。
「死ねぇぇぇ!!」
――ドゴォォォォン!!
光の騎士が吹き飛ぶ。
「まだだ!!」
追撃。
「消えろォォォ!!」
――ズガァァァァン!!
さらに一体の光の騎士が吹き飛ばされる。
「俺に勝てると思うなァァァ!!」
アンデルフォンの黒い魔力が膨れ上がる。
「こんな偽物の騎士どもがァァァ!!」
光の騎士たちを次々と殴り飛ばす。
一体。
また一体。
三体。
五体。
光の騎士が押され始める。
「…………」
セリーナは動かない。
ただ――。
じっと見ている。
アンデルフォンの動き。
呼吸。
魔力の流れ。
攻撃の瞬間。
「…………」
セリーナは拳を握った。
(まだ……)
アンデルフォンが光の騎士を斬り飛ばす。
(まだです……)
黒い魔力が爆発する。
(焦らないで……)
光の騎士が吹き飛ぶ。
(私は……)
セリーナの心臓が大きく鳴る。
ドクン。
(このために……ここまで来た)
ドクン。
(みんなが……私を信じてくれた)
ドクン。
(セリーも……私を信じてくれた)
セリーナはアンデルフォンを見つめる。
「…………」
そして――。
待った。
ただひたすらに。
その瞬間を。
アンデルフォンが吠える。
「これで終わりだァァァ!!」
「――!」
アンデルフォンが大きく踏み込んだ。
光の騎士へ向かって――。
巨大な黒い拳を振り上げる。
「消し飛べぇぇぇぇ!!」
――ドォォォォォォン!!
光の騎士が盾で受け止める。
だが――。
「ぐっ……!」
盾が大きくひしゃげる。
光の騎士の身体が沈む。
アンデルフォンはさらに力を込める。
「どうしたァァァ!!」
その瞬間。
ほんの一瞬――。
アンデルフォンの身体が開いた。
胸元。
完全な無防備。
セリーナの目が――。
見開かれる。
「…………」
そして。
「ここです!」
セリーナが叫んだ。
「――今!!」
全身から光が溢れ出す。
「…………っ!」
セリーナは両手を胸の前へ。
全魔力を――。
一点へ。
集める。
ドクン。
心臓が鳴る。
ドクン。
身体が震える。
ドクン。
聖なる力が爆発的に膨れ上がっていく。
「すべて……」
セリーナの足元から光が広がる。
「全部……!」
地面が白く染まる。
「私の魔力も……!」
光の騎士たちがセリーナを振り返る。
「勇気も……!」
聖堂が輝く。
「仲間を想う気持ちも……!」
セリーナの背後から、巨大な光の門が開いていく。
「全部――!」
セリーナは両手をおでこの前へ。
人差し指と中指。
左右の指を合わせ――。
ダイヤの形を作る。
「…………」
光が、その中心へ集まっていく。
アンデルフォンが振り返った。
「……何だ?」
セリーナを見て――。
その表情が変わる。
「貴様……何をするつもりだァァァ!!」
セリーナは答えない。
ただ――。
静かに目を閉じる。
そして。
「我に宿りし――」
大地が震える。
「聖なる力よ――」
天へ光が昇る。
「勇気ある魂よ――」
聖堂が輝く。
「愛する仲間を守る力となりて――」
光の騎士たちが一斉にセリーナのもとへ集まる。
その身体が光となって――。
セリーナへ吸い込まれていく。
「なっ……!?」
アンデルフォンが目を見開く。
「騎士どもが……!?」
すべての光がセリーナへ集まる。
「聖域を超え――」
セリーナの身体が――。
眩いほどの光に包まれる。
「すべてを貫く――」
アンデルフォンが叫ぶ。
「やめろォォォォォ!!」
そして――。
セリーナが目を開いた。
「光の勇愛聖域砲――」
その声は。
今までのセリーナとは違っていた。
震えていない。
怯えていない。
ただ――。
強かった。
「ライトニング・サンクチュアリ・ブラスト!!」
その瞬間。
「――――!!」
アンデルフォンが咆哮する。
光の騎士を――。
両腕の黒い魔力でまとめて薙ぎ払う。
「邪魔だァァァァァ!!」
――ドゴォォォォォォン!!
一体。
二体。
三体。
光の騎士が次々と吹き飛ばされる。
「ハァァァァァ!!」
アンデルフォンの身体から凄まじい黒い魔力が噴き出す。
そして――。
「セリーナァァァァァ!!」
アンデルフォンがセリーナへ突撃した。
地面が爆発する。
「死ねぇぇぇぇぇ!!」
その顔は――。
今まで以上に凄まじい形相だった。
怒り。
憎しみ。
焦り。
すべてが混ざっている。
「――――っ!」
セリーナは動かない。
ただ。
両手をおでこの前で構えたまま。
ダイヤの形を維持する。
アンデルフォンが迫る。
十メートル。
五メートル。
三メートル。
「食らえぇぇぇぇ!!」
その瞬間。
セリーナは――。
大きく息を吸った。
「…………」
そして――。
「ふぅーーーーーーーーーー……」
長く。
長く。
大きく。
息を吐く。
恐怖を吐き出す。
迷いを吐き出す。
震えを吐き出す。
そして――。
最後に。
仲間への想いだけを残す。
セリーナが目を開く。
「…………」
アンデルフォンが目の前まで迫っていた。
「終わりだァァァァァ!!」
セリーナは――。
微笑んだ。
「いいえ」
その瞬間。
「――――」
ダイヤの中心から――。
一筋の光が生まれた。
「あなたの方が――」
光が膨張する。
「終わりです!!」
――――――――――
「光の勇愛聖域砲――!!」
ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!
――――――――――
放たれた光は――。
天へ。
一直線に昇っていった。
あまりにも巨大。
あまりにも眩しい。
それは砲撃という言葉では足りなかった。
まるで――。
天そのものが開いたかのようだった。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
光の柱が魔境を貫く。
黒い雲を突き破る。
大地を照らす。
山を照らす。
森を照らす。
遠く離れた場所までも――。
すべてを白く染め上げる。
その光景は。
まるで――。
神がこの魔境へ降臨したかのようだった。
「…………」
アンデルフォンの姿が――。
光の中へ消えていく。
「ぐ……お……」
その声すら――。
巨大な光に飲み込まれていく。
「セリ……ナ……!」
そして。
「――――!!」
魔境全体を揺るがすほどの轟音が響き渡った。
ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!
光はさらに高く。
高く。
天へ昇っていく。
その瞬間――。
魔境は。
昼間のような明るさに包まれた。
そして――。
セリーナは静かに、その光を見上げていた。
「…………」
その瞳には――。
もう恐怖はなかった。
第267話 終




