264話 インフィニット・ストー厶
――ドォォォォォォォン!!
大地が――砕けた。
巨大な衝撃波が魔境を駆け抜ける。
黒い岩山が崩れ。
大地が大きくえぐれ。
地面には無数の亀裂が走っていた。
その中心で――。
「はぁ……はぁ……!」
レティシアが二本の剣を構えている。
全身傷だらけ。
服はボロボロ。
血が頬を伝っている。
しかし――。
その瞳だけは。
決して死んでいなかった。
「…………」
向かい側。
ヤーミリオンもまた、全身に傷を負っていた。
黒い魔力の鉤爪は、何度もレティシアの剣によって削られている。
「…………」
ヤーミリオンが自分の腕を見る。
傷。
そして――。
その傷が黒い魔力に包まれていく。
ズズズズズ……。
傷口が塞がる。
「…………ふふ」
ヤーミリオンが笑う。
「いやぁ……」
口元を歪める。
「楽しいねぇ」
「…………」
レティシアは答えない。
「さっきまで死にかけてた女がさぁ」
ヤーミリオンは指を動かす。
黒い鉤爪が伸びる。
「今じゃ俺っちと互角だもん」
「…………」
レティシアは剣を握り直す。
「互角じゃない」
「ん?」
「私が――」
一歩。
踏み込む。
「勝つ」
「…………」
ヤーミリオンが笑う。
「言うじゃん」
次の瞬間――。
「――来いよぉ!!」
ドンッ!!
二人の姿が消えた。
――ガキィィィィィン!!
剣と鉤爪が激突。
「はぁぁぁぁっ!!」
レティシアが斬り込む。
「双月斬・極!!」
左右から同時に斬撃。
ヤーミリオンは身体を捻る。
ギィン!!
ギィン!!
二本の鉤爪で弾く。
「甘い!」
反撃。
「――っ!」
黒い爪がレティシアの首を狙う。
レティシアは首を傾ける。
紙一重。
シュッ!!
髪が数本、宙を舞う。
「まだ!」
レティシアが踏み込む。
「双牙連閃・極!!」
ドドドドドドドドッ!!
無数の斬撃。
ヤーミリオンは後退しながら防ぐ。
「くっ……!」
ガキン!!
ガキン!!
ガキィィン!!
「速ぇなぁ……!」
「まだまだ!」
レティシアの姿が――。
消える。
「幻影双閃・極!!」
一人。
二人。
十人。
二十人。
無数のレティシアが――。
ヤーミリオンを包囲する。
「チッ!」
ヤーミリオンの黒い鉤爪が唸る。
「こんなもん――!」
ズバァッ!!
幻影が一体消える。
「消えた!」
ズバッ!!
また一体。
だが――。
「残念」
背後。
「――っ!」
レティシア。
「ここだよ!」
ズガァァァン!!
二本の剣がヤーミリオンの背中を斬り裂く。
「ぐぁっ!!」
ヤーミリオンが吹き飛ぶ。
ドォォォン!!
地面を転がる。
そして――。
「…………」
立ち上がる。
身体の傷が再生していく。
ズズズズズ……。
「はぁ……」
ヤーミリオンが笑う。
「ほんっと……」
「面白いねぇ」
「…………」
レティシアも息を整える。
「はぁ……はぁ……」
身体は限界に近い。
だが。
ヤーミリオンも同じだった。
二人とも――。
もう何度も限界を超えている。
それでも。
「行くよ」
レティシアが構える。
「来いよ」
ヤーミリオンも構える。
そして――。
再び激突した。
――――――――――
ドォォォォォォォン!!
大地が吹き飛ぶ。
ズガァァァァン!!
岩山が真っ二つになる。
ガガガガガガッ!!
二人の斬撃が地面を削る。
戦いが続くたびに――。
魔境の地形そのものが変わっていく。
巨大な岩山が消える。
谷が生まれる。
大地が盛り上がる。
黒い森が斬り倒される。
まるで――。
二人の戦いによって、この場所そのものが作り変えられているようだった。
「はぁぁぁぁぁ!!」
レティシアが叫ぶ。
「無影連斬・極!!」
一瞬で姿が消える。
「そこか!」
ヤーミリオンが反応。
鉤爪を振る。
しかし――。
「遅い!」
レティシアがその腕を紙一重で避ける。
「流水の舞!」
身体を滑らせる。
斬撃。
一閃。
二閃。
三閃。
「ぐっ……!」
ヤーミリオンの身体に傷が走る。
「くそっ!」
黒い鉤爪が襲いかかる。
レティシアは避ける。
右。
左。
前。
後ろ。
一歩。
半歩。
ほんの数センチ。
すべて紙一重。
「当たらねぇ……!」
ヤーミリオンが叫ぶ。
「なんで当たらねぇんだよ!!」
「見えてるから!」
レティシアが叫び返す。
「あなたの動きが――全部!」
「…………!」
ヤーミリオンが歯を食いしばる。
そして――。
黒い魔力を一気に解放した。
「だったら――」
ドォォォォォォォン!!
黒い魔力が爆発する。
「全部まとめて潰す!!」
無数の鉤爪。
巨大な黒い刃。
四方八方からレティシアへ襲いかかる。
「…………!」
レティシアの瞳が鋭くなる。
「流水の舞――!」
右。
左。
身体を捻る。
前へ。
跳ぶ。
回る。
落ちる。
紙一重。
紙一重。
紙一重。
――すべて避ける。
そして。
「そこっ!!」
ズバァァァァン!!
レティシアの二本の剣が――。
ヤーミリオンの胸を大きく斬り裂いた。
「――がっ!!」
ヤーミリオンが膝をつく。
黒い血が地面へ落ちる。
「はぁ……はぁ……」
レティシアも膝に手をつく。
「…………」
二人とも――。
限界だった。
それでも。
まだ立っている。
まだ終わっていない。
「…………」
ヤーミリオンがゆっくり立ち上がる。
傷が再生する。
だが――。
いつもより遅い。
「…………」
レティシアが気づく。
「再生が……」
ヤーミリオンの顔から――。
初めて余裕が消えた。
「…………チッ」
「もう……」
レティシアは二本の剣を見る。
「あなたの再生も追いつかなくなってきたね」
「…………」
ヤーミリオンは笑う。
「だったら……」
「最後までやろうぜぇ」
「…………うん」
レティシアも笑った。
「そうしよう」
二人は――。
最後の力を振り絞る。
「「――――!!」」
ドォォォォォォォォォォン!!
二人が激突する。
剣。
鉤爪。
斬撃。
黒い魔力。
無数の衝撃波。
魔境の空が揺れる。
大地が割れる。
巨大な岩盤が浮き上がる。
そして――。
レティシアは。
二本の剣を交差させた。
「…………」
ヤーミリオンが眉を上げる。
「……何だ?」
レティシアは――。
静かに目を閉じる。
「これで……」
「終わらせる」
「…………」
ヤーミリオンが笑う。
「へぇ」
「まだ切り札があるのかよ」
「うん」
レティシアが目を開く。
その瞳に――。
凄まじい光が宿る。
「私の――」
二本の剣から。
風が生まれる。
「最終奥義」
――ゴォォォォォォォォ……。
風が渦を巻く。
二本の剣が――。
無数の剣閃を生み始める。
一つ。
十。
百。
千。
数え切れないほどの斬撃が――。
レティシアの周囲を覆っていく。
「…………!」
ヤーミリオンの表情が変わる。
「なんだ……」
レティシアは剣を構える。
「――インフィニット・ストーム」
その瞬間。
――――世界が斬撃で埋め尽くされた。
「な――」
ヤーミリオンが鉤爪を構える。
「ぐっ……!」
ドガガガガガガガガガガガガガッ!!
無限とも思える斬撃の嵐が――。
ヤーミリオンへ殺到する。
「こんなもん――!」
黒い鉤爪で防ぐ。
ガキィィン!!
ガキィィン!!
ガキィィン!!
「ぐぅぅぅぅっ!!」
防ぐ。
弾く。
受け流す。
それでも――。
斬撃が止まらない。
「なんだよ……!」
一閃。
二閃。
十閃。
百閃。
千閃。
「終わらねぇ……!!」
ヤーミリオンが叫ぶ。
「終わらない……!」
黒い鉤爪が削れていく。
身体に傷が増えていく。
「ぐあああああああああ!!」
斬撃が――。
身体を刻む。
一度。
二度。
十度。
百度。
再生する。
だが――。
再生した瞬間。
また斬られる。
「な……!」
ズバッ!!
「ぐっ!!」
ズバァッ!!
「がぁっ!!」
ズババババババババッ!!
再生する暇すら――。
与えられない。
「俺っちの再生が……!」
ヤーミリオンが叫ぶ。
「追いつかねぇ……!!」
レティシアは叫ぶ。
「これが――!」
剣を振る。
「私の全部!!」
さらに斬撃が増える。
「これが――!」
一閃。
「私が!!」
十閃。
「みんなと旅してきた――!」
百閃。
「私の力だぁぁぁぁぁぁ!!」
――ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
ヤーミリオンの身体が――。
無数に刻まれていく。
黒い魔力が剥がれる。
鉤爪が砕ける。
腕が斬られる。
身体が斬られる。
再生する。
また斬られる。
再生する。
また斬られる。
「や……め……」
ヤーミリオンの声が――。
初めて震えた。
「やめろ……!」
斬撃は止まらない。
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!」
そして――。
最後の一閃。
ズバァァァァァァァァァン!!
ヤーミリオンの身体が――。
完全に停止した。
「…………」
レティシアも止まる。
静寂。
風だけが――。
吹いている。
ヤーミリオンの身体から――。
黒い魔力が抜けていく。
「…………」
そして。
身体が――。
崩れ始めた。
腕が。
肩が。
胸が。
顔が。
すべてが――。
黒い灰となっていく。
「…………嘘だろ」
ヤーミリオンが呟く。
「俺っちが……」
「こんな……」
レティシアは――。
黙って見つめる。
「…………」
ヤーミリオンの身体が――。
完全に塵へ変わった。
そして。
風が吹く。
黒い塵が――。
魔境の空へ舞い上がる。
「…………」
静かに。
静かに。
消えていった。
――三大天、ヤーミリオン。
完全消滅。
「…………」
レティシアは――。
二本の剣をゆっくり下ろした。
「…………勝った」
小さく呟く。
「私……」
息を吐く。
「勝ったんだ……」
足元が――。
ふらつく。
それでも。
レティシアは――。
拳を強く握った。
そして。
空へ突き上げる。
「…………」
「キラ……」
「私も――」
拳を高く掲げる。
「勝ったよ……!」
声が震える。
涙が――。
頬を伝う。
「だから……」
「キラも……」
「絶対……勝ってね……」
そのまま――。
レティシアの身体から力が抜けた。
「…………」
ドサッ。
大地へ倒れる。
二本の剣が――。
その横に落ちる。
カラン……。
カラン……。
「…………」
レティシアは目を閉じた。
意識が――。
ゆっくり遠ざかっていく。
最後に思い浮かんだのは――。
キラの笑顔だった。
「…………」
そして――。
魔境の静寂の中。
レティシアは――。
静かに眠りについた。
第264話 終




