259話 魔境門〜決戦の地へ〜
――デダルク。
魔境へ続く巨大要塞。
その日。
ついに――。
デダルクは、七つの軍勢によって完全に占拠された。
「デダルク城、制圧完了!」
「城壁の安全を確認!」
「魔境軍の残存兵力も、ほぼ制圧しました!」
戦場だった街に――。
少しずつ、落ち着きが戻っていく。
巨大な城壁。
広大な城下町。
そして――。
デダルク城。
かつて魔境軍の拠点として使われていた巨大な城は、今や同盟軍の拠点となっていた。
城壁の上には――。
七つの軍勢の旗が並んでいる。
「…………」
キラは城を見上げた。
「……本当に取ったんだな」
隣にいたレティシアが笑う。
「ここまで来たんだからね」
「うん」
エリスも頷く。
「みんな……本当に頑張りました」
セリーナも笑顔を見せる。
「はい!」
ジュダは腕を組む。
「当然だ」
「…………」
キラはデダルクを見渡した。
ここまで来るまで――。
何度も死にかけた。
仲間も傷ついた。
それでも――。
ついに。
魔境へ続く最後の要塞を手に入れた。
――――――――――
そして。
デダルク占拠から数日。
城内。
兵士たちは傷の治療を受け。
魔力を回復させ。
武器や魔導兵器の整備を行っていた。
食料も運び込まれた。
壊れた城壁の修復も進んでいる。
今は――。
誰もが、次の戦いへ向けて身体を休めていた。
「…………」
キラたちも同じだった。
長い戦いで消耗した身体を休ませる。
レティシアは剣の手入れ。
エリスは弓の弦を確認。
セリーナは負傷者の治療を手伝い。
ジュダは――。
「…………」
椅子に座って腕を組んでいた。
「お前、寝ないのか?」
キラが聞く。
「寝ている」
「目、開いてるけど?」
「魔王は目を開けたままでも眠れる」
「絶対嘘だろ」
「うるさい」
「…………」
キラは苦笑した。
こうして――。
戦士たちは束の間の休息を取っていた。
数時間後
デダルク城の奥。
誰も近づかない場所で。
五人の人間が――。
静かに歩いていた。
キラ。
レティシア。
エリス。
セリーナ。
ジュダ。
そして――。
その後ろには。
アシュレイン。
リゼッタ。
リリー。
レオン。
四人が続いていた。
「…………」
全員、口数が少ない。
向かっている場所は――。
デダルク城。
その最深部。
かつて――。
ベルゼルが魔王として君臨していた場所。
――魔王城。
そしてその中心。
王の間。
巨大な扉の前で――。
キラが足を止めた。
「…………」
重厚な扉。
表面には、古い傷跡が無数に残っている。
レオンが扉を見る。
「懐かしいな」
ジュダが静かに呟く。
「ここが……かつての魔王城」
アシュレインも周囲を見渡す。
「ここでベルゼルが……」
「そうだ」
ジュダが答える。
「かつて、この場所は魔族の中心だった」
そして――。
キラが扉に手をかけた。
ギィィィィィ……。
巨大な扉がゆっくりと開く。
――――――――――
「…………」
全員が王の間へ入る。
広大な空間。
高い天井。
巨大な柱。
かつて王座が置かれていた場所。
床には、長い年月を感じさせる傷が残っている。
そして――。
その一番奥。
「…………」
リゼッタが足を止めた。
「……あれは?」
全員の視線が――。
王の間の最奥へ集まる。
そこには――。
壁一面を覆うほど巨大な――。
黒い門があった。
「…………」
キラが目を細める。
「……これが」
レオンが頷く。
「魔境門だ」
「魔境門……」
エリスが呟く。
巨大な門。
高さは十数メートル。
横幅も数メートル以上。
壁に埋め込まれるように存在している。
普通の扉とは違う。
扉そのものが――。
黒い。
表面には奇妙な紋様が刻まれている。
まるで巨大な魔法陣のように――。
中央には、見たことのない文字が刻まれていた。
「…………」
セリーナが近づく。
だが――。
一歩手前で止まった。
「……この門」
セリーナの表情が変わる。
「凄い魔力です」
「どんな魔力?」
キラが聞く。
「分かりません」
セリーナは首を横に振る。
「でも……普通の転移魔法とは全然違います」
リリーも門を見つめる。
「空間そのものを……繋いでいる」
「空間を?」
「ええ」
リリーが頷く。
「この先に――」
一瞬。
言葉を止める。
「別の世界がある」
「…………」
王の間が静まり返る。
キラは魔境門を見る。
「つまり――」
「ここを通れば」
レティシアが続ける。
「魔境へ行ける」
「そういうことだ」
レオンが答える。
「…………」
キラは門へ近づく。
黒い表面に手を伸ばす。
だが――。
触れる直前。
手を止めた。
「…………」
冷たい。
触れていないのに――。
分かる。
この門の向こうには。
これまでとはまったく違う場所がある。
「この先が……魔境」
アシュレインが呟く。
「そうだろうね」
リゼッタが腕を組む。
「でも問題は――」
リリーが続ける。
「戻れる保証がないこと」
「…………」
全員が黙った。
キラが振り返る。
「戻れない?」
リリーは頷く。
「この門が、魔境側にも存在するとは限らない」
「…………」
「仮に存在していたとしても、同じようにこちらへ戻れるとは限らない」
セリーナが不安そうに門を見る。
「つまり……」
「一度入ったら――」
エリスが呟く。
「戻ってこられないかもしれない」
「そういうことだ」
レオンが静かに答えた。
「…………」
キラは再び魔境門を見る。
巨大な黒い門。
その向こうには――。
黒神エリオスがいる。
そして。
十万を超える魔境軍。
これまで戦ってきた敵とは――。
比べ物にならないほどの戦いが待っている。
だが――。
それだけではない。
リゼッタが口を開いた。
「もう一つ問題がある」
「何?」
キラが振り返る。
「この門から――」
リゼッタは門を指差す。
「敵が出てくる可能性もある」
「…………」
全員が門を見る。
「魔境からこちらへ侵入できる門なら」
「逆もできる可能性がある」
リリーが続ける。
「もし魔境側が、この門を使ってこちらへ攻め込んできたら――」
「デダルクが危ない」
レオンが言った。
「…………」
キラはしばらく黙っていた。
デダルクには――。
七つの軍勢。
負傷した兵士。
多くの仲間。
そして。
ここまで戦ってきた仲間たちがいる。
もし魔境門から敵が出てきたら。
全員を巻き込むことになる。
「…………」
キラが静かに口を開いた。
「じゃあ――」
全員を見る。
「俺たちだけで行こう」
「…………」
レティシアが目を見開く。
「五人で?」
キラは頷いた。
「俺」
剣を握る。
「レティシア」
レティシアが剣に手を添える。
「エリス」
エリスが弓を握る。
「セリーナ」
「はい!」
セリーナが胸に手を当てる。
そして――。
「ジュダ」
ジュダが魔剣ヴォルガを肩に担ぐ。
「当然だ」
キラは四人を見る。
「この五人で魔境へ行く」
「…………」
アシュレインが静かに口を開いた。
「分かった」
キラを見る。
「僕たちはここに残る」
「アシュレイン……」
「デダルクを守る」
アシュレインは笑った。
「もし魔境門から敵が出てきても――」
白銀の剣へ手を添える。
「僕たちが止める」
リゼッタも頷く。
「私も残る」
弓を背負う。
「ここを守る役が必要だからね」
リリーも続く。
「私もデダルクに残ります」
「…………」
レオンは腕を組んだ。
「俺もだ」
キラがレオンを見る。
「レオン……」
「魔境の中に入るのは――」
レオンがキラを見る。
「お前たち五人に任せる」
「…………」
そして――。
「ただし」
レオンが笑う。
「絶対に帰ってこい」
キラも笑った。
「分かってる」
アシュレインが一歩近づく。
「キラ」
「ん?」
「魔境の中で何があるか分からない」
「ああ」
「だから――」
アシュレインはキラの肩に手を置いた。
「無茶はしていい」
「え?」
「でも――」
アシュレインは笑う。
「死ぬなよ」
「…………」
キラも笑った。
「あなたもね」
「もちろん」
セリーナが少し寂しそうに笑う。
「……みんなで帰ってきてくださいね」
エリスも頷く。
「必ず」
レティシアが笑う。
「心配しすぎよ」
ジュダは鼻を鳴らした。
「魔王である私がいる」
「…………」
キラが四人を見る。
そして――。
王の間にいる仲間たちを見る。
アシュレイン。
リゼッタ。
リリー。
レオン。
ここに残る仲間たち。
「…………」
キラはゆっくりと振り返る。
巨大な魔境門。
「よし――」
キラが言う。
「いこう」
「…………」
誰も答えない。
ただ――。
全員がキラたちを見つめている。
キラが魔境門へ歩く。
一歩。
また一歩。
五人が並ぶ。
キラ。
レティシア。
エリス。
セリーナ。
ジュダ。
そして――。
キラが門の前に立った。
「…………」
右手を――。
巨大な魔境門へ伸ばす。
触れる。
その瞬間。
――ズズズズズズズズ……。
巨大な門が震え始めた。
「――!」
セリーナが目を見開く。
門に刻まれていた紋様が――。
一つ。
また一つ。
白く光り始める。
ゴォォォォォォォ……。
王の間全体に――。
低い音が響く。
「魔境門が……」
リリーが呟く。
キラは手を離さない。
「…………」
さらに力を込める。
――ズズズズズズズズズズ!!
巨大な黒い門が――。
ゆっくりと開き始める。
ギギギギギギギギギ……。
門の隙間から――。
黒い霧が流れ込んでくる。
「…………!」
エリスが弓を構える。
ジュダも魔剣を抜く。
レティシアが剣を握る。
セリーナが杖を構える。
だが――。
キラは動かない。
ただ。
その先を見つめている。
「…………」
門の向こう。
何も見えない。
ただ――。
底のない暗闇。
その奥から。
遠く――。
何かの声が聞こえた。
「…………」
キラの目が細くなる。
「……行くぞ」
四人が頷く。
そして――。
五人が一歩前へ進もうとした。
その瞬間。
魔境門の向こうから――。
ゴォォォォォォォォォォォォ……。
凄まじい風が吹き込んできた。
「――――!」
キラたちの髪が激しく揺れる。
黒い霧が王の間を覆っていく。
それでも――。
キラは前を向く。
「…………」
魔境。
黒神エリオスが待つ場所。
そして――。
二度と戻れないかもしれない場所。
キラは仲間たちを振り返る。
最後に――。
小さく笑った。
「……じゃあ、行ってくる」
そして――。
キラ。
レティシア。
エリス。
セリーナ。
ジュダ。
五人は――。
ゆっくりと。
魔境門の向こうへ――。
足を踏み入れた。
――――――――――
「いっちゃったね」
リリーが呟く。
「……始まったわね」
デダルクの王の間に――。
巨大な魔境門が残される。
その先へ向かったのは――。
たった五人。
だが。
その五人は――。
この世界の運命を左右する戦いへ向かっていた。
第259話 終
ここまでで、天空の塔〜魔境門編はおしまいですm(_ _)m
次回から最終章 エリオス編ですm(_ _)m




