257話 君を超える
「…………」
激しい衝撃が戦場を駆け抜ける。
アシュレインとライオ。
二人の剣士は――。
未だに一歩も引いていなかった。
「ハァァァァァ!!」
アシュレインが踏み込む。
ドォォォォォン!!
地面が爆発する。
一瞬でライオとの距離を詰め――。
「――白閃!!」
ズバァァァァン!!
白銀の斬撃が横一文字に走る。
ライオは黒剣を立てる。
ギィィィィィン!!
受け止めた。
だが――。
「まだだ!!」
アシュレインが剣を返す。
「――銀月連斬!!」
シュバッ!!
シュバッ!!
シュバッ!!
シュバッ!!
白銀の斬撃が連続して放たれる。
右。
左。
斜め。
さらに――。
頭上。
「…………」
ライオはすべてを黒剣で受け流す。
ギィン!!
キィン!!
ギィィン!!
ズバァン!!
「――!!」
アシュレインは止まらない。
一歩。
さらに一歩。
「まだまだぁぁぁ!!」
白銀の光が剣へ集まっていく。
「――天翔裂光!!」
ドォォォォォン!!
アシュレインが跳んだ。
空高く舞い上がる。
そして――。
一気に急降下する。
「はぁぁぁぁぁ!!」
ズガァァァァァン!!
巨大な白銀の斬撃が地面へ叩き込まれる。
ドォォォォォン!!
大地が大きく割れた。
砂埃が舞い上がる。
「…………」
ライオの姿が――。
消えていた。
「……!」
アシュレインが振り返る。
「後ろか!」
ギィィィィィン!!
黒剣が迫る。
アシュレインは咄嗟に剣を横に構える。
だが――。
「ぐっ……!」
ドォォォォン!!
身体が吹き飛ぶ。
「アシュレイン!!」
セリーナが叫ぶ。
アシュレインは地面を転がり――。
ザザザザザッ!!
数十メートル先でようやく止まった。
「…………」
ゆっくりと立ち上がる。
「大丈夫……」
アシュレインは口元の血を拭う。
「まだ……終わってない」
ライオが歩いてくる。
「…………」
黒い剣を肩に担いでいる。
「剣技の名前を叫ぶだけでは――」
一歩。
「俺には届かない」
さらに一歩。
「…………」
アシュレインは笑った。
「そうだね」
剣を握り直す。
「だから――」
白銀の光が再び強くなる。
「もっと本気でいく」
「…………」
ライオの黒い魔力が膨れ上がる。
ゴォォォォォォ……。
二人の間に――。
凄まじい圧力が生まれる。
――――――――――
「来るぞ……」
ガルディオが呟いた。
誰もが二人を見つめている。
フォン。
コニス。
アニー。
パオ。
ジミー。
リゼッタ。
そして――。
レオン。
ベルゼル。
アブソリュー。
誰も動かなかった。
「…………」
キラたちも――。
黙っている。
キラはただ、アシュレインを見つめていた。
「…………」
その拳が――。
強く握られる。
「アシュレイン……」
レティシアも何も言わない。
エリスも弓を握ったまま。
セリーナは胸の前で両手を握っている。
ジュダも静かに見つめる。
誰も――。
戦いを止めようとはしなかった。
それが――。
アシュレイン自身の戦いだから。
――――――――――
「行くよ」
アシュレインが呟いた。
次の瞬間――。
ドォォォォォン!!
姿が消える。
「――!」
ライオが黒剣を構える。
ギィィィィィン!!
真正面から激突。
「ハァァァァァ!!」
「…………」
アシュレインが斬る。
ライオが受ける。
アシュレインがさらに斬る。
ライオが弾く。
「――白閃!!」
ズバァァァン!!
「――黒断!!」
ズガァァァン!!
白と黒。
二つの斬撃が真正面から衝突する。
ドォォォォォォン!!
爆発。
二人が同時に後退する。
しかし――。
一瞬。
次の瞬間には――。
またぶつかる。
「うおおおおおおお!!」
「…………!」
ギィィィィィン!!
キィィィィン!!
ズバァァァン!!
ドォォォォン!!
斬撃が飛び交う。
二人の足元から大地が砕ける。
建物の壁が崩れる。
瓦礫が吹き飛ぶ。
それでも――。
二人は止まらない。
「――銀月連斬!!」
シュババババババッ!!
無数の白銀の斬撃。
「…………」
ライオが黒剣を振る。
ギィィィィィィン!!
すべてを弾き飛ばす。
「――遅い」
「まだだ!!」
アシュレインが一気に懐へ潜り込む。
「――聖翔一閃!!」
ズバァァァァァン!!
超至近距離からの一撃。
ライオの黒い鎧が――。
ガキィィィン!!
大きく弾かれる。
「…………!」
ライオが初めて大きく体勢を崩した。
「今だぁぁぁ!!」
アシュレインが追撃する。
「――天翔裂光!!」
ドォォォォォン!!
白銀の剣が振り下ろされる。
ライオは黒剣を両手で構える。
「――ッ!!」
ズガァァァァァン!!
凄まじい衝撃。
二人の間で爆発が起こる。
「ぐおおおおお!!」
ライオが押し返す。
アシュレインの身体が弾かれる。
「くっ……!」
だが――。
空中で回転。
着地。
そして――。
すぐに走る。
「まだまだぁぁぁ!!」
――――――――――
時間が経つほど。
アシュレインの身体は――。
傷だらけになっていった。
頬。
肩。
腕。
脚。
至るところから血が流れている。
白銀の服は破れ――。
呼吸も荒い。
「はぁ……はぁ……!」
それでも。
剣だけは――。
離さない。
「…………」
ライオにも傷はある。
黒い鎧には無数の斬撃跡。
だが――。
アシュレインほどではない。
ライオはまだ立っている。
そして――。
「…………」
アシュレインを見つめる。
「もう終わりか」
「…………」
アシュレインは答えない。
「以前のお前と同じだ」
ライオが黒剣を構える。
「力の差は埋まっていない」
「…………」
アシュレインは俯いた。
血が――。
地面へ落ちる。
ポタ。
ポタ。
ポタ。
「…………」
キラの表情が変わる。
「アシュレイン……」
セリーナも心配そうに見つめる。
「もう……限界なんじゃ……」
だが――。
アシュレインは。
「…………ふっ」
笑った。
「そうかもしれない」
ゆっくり顔を上げる。
「身体は……もうボロボロだ」
剣を握る手が震えている。
「足も……動かしにくい」
一歩。
ふらつく。
それでも立つ。
「でも――」
アシュレインの目が変わった。
「僕には――」
白銀の光が――。
僅かに強くなる。
「まだ剣がある」
「…………」
ライオが黙る。
アシュレインは剣を見る。
白銀の刀身。
ところどころ血で赤く染まっている。
「僕は前……」
静かに口を開く。
「君に負けた」
「…………」
「何もできなかった」
一歩。
「剣を振ることしかできなかった」
さらに一歩。
「守ることもできなかった」
アシュレインはライオを見る。
「でも――」
剣を両手で握る。
「今回は1人じゃない」
「…………」
ライオは何も言わない。
アシュレインの身体から――。
白銀の光が流れ始める。
しかし――。
今までとは違う。
光が身体を包むのではない。
そのすべてが――。
剣へ集まっている。
「…………!」
キラが目を見開く。
「……何だ?」
レティシアも息を呑む。
「剣に……全部集めてる?」
エリスが呟く。
「…………」
ジュダも目を細める。
「まさか……」
アシュレインの剣が――。
震える。
キィィィィィィン……。
白銀の刀身が輝きを増していく。
だが――。
アシュレインの身体からは。
逆に――。
どんどん力が失われていく。
「…………」
膝が――。
ガクッ。
「アシュレインさん!」
セリーナが叫ぶ。
「大丈夫だ!」
アシュレインが叫び返す。
「まだ……立てる!」
足に力を込める。
「…………っ!」
震えながら――。
立ち上がる。
「僕の全部を――」
さらに光が剣へ集まる。
「この一撃に込める」
ライオの目が――。
僅かに細くなった。
「…………」
初めて。
その構えを警戒する。
「その技は――」
ライオが黒剣を構える。
「何だ?」
アシュレインは――。
静かに答えた。
「僕が……ずっと磨いてきた」
剣を頭上へ掲げる。
白銀の光が天へ伸びる。
「最後の剣技」
――ゴォォォォォォォ……!!
空気が震える。
大地が震える。
雲が割れていく。
「…………」
戦場にいる全員が――。
アシュレインを見る。
アブソリューも。
レオンも。
ベルゼルも。
そして――。
キラたちも。
誰も声を出さない。
ただ。
その一撃を見つめている。
アシュレインの身体は――。
もうボロボロだった。
血だらけ。
傷だらけ。
それでも――。
その目だけは。
誰よりも強く輝いていた。
「この一撃で――」
白銀の光がさらに膨れ上がる。
「君を超える」
ライオは黒剣を両手で構えた。
「…………」
黒い魔力が爆発する。
ゴォォォォォォォォォ!!
漆黒の炎のような魔力が周囲を包む。
「来い」
ライオが言う。
「その程度の覚悟なら――」
黒剣を低く構える。
「俺には届かない」
「…………」
アシュレインは笑った。
「じゃあ――」
剣をさらに高く掲げる。
「確かめてみよう」
白銀の光が――。
限界まで膨れ上がる。
「僕の――」
アシュレインが叫ぶ。
「全部を!!」
ドォォォォォォォォォォォォン!!
凄まじい光が爆発する。
「――――!!」
キラたちが腕で顔を覆う。
「何だ、この光は……!」
戦場全体が白銀に染まる。
そして――。
アシュレインの周囲に。
巨大な白銀の剣の幻影が――。
一本。
二本。
三本。
無数に浮かび上がっていく。
「…………」
アブソリューが目を細める。
「なるほど……」
そして――。
「最後の一撃に全部を賭けるか」
アシュレインは叫ぶ。
「これが――」
白銀の剣を――。
ゆっくりと振り上げる。
「僕の――」
ライオが黒剣を構える。
「…………」
アシュレインの目が――。
鋭く光る。
「最後の技だぁぁぁぁぁぁ!!」
その瞬間――。
無数の白銀の剣が――。
一斉にライオへ向かって動き始めた。
ドォォォォォォォォォォォン!!
「――――!!」
ライオが構える。
アシュレインも――。
最後の一歩を踏み出す。
そして。
二人の剣が――。
真正面からぶつかろうとしていた。
第257話 終




