254話 リリーとアブソリューの決着
――戦場左側。
白い光が消えた。
その中心に――
リリーは立っていた。
「…………」
目の前には――。
消し飛んだベルガ。
そして、その周囲を埋め尽くすように群がる魔境軍。
「…………」
リリーはもう動けなかった。
魔力は空っぽ。
身体も限界。
ただ――
立っているだけ。
「はぁ……はぁ……」
それでも、倒れない。
そんなリリーへ――。
魔境軍が一斉に迫ってくる。
「大賢者を殺せぇぇぇ!!」
「囲め!!」
「今ならやれるぞ!!」
魔境兵たちが武器を構える。
その瞬間――。
「――リリーを守れ!!」
後方から大声が響いた。
「――!!」
リリーが振り返る。
そこには――。
キラの軍から加勢に来た戦士たちがいた。
先頭に立っていたのは――。
白髪のエルフ。
巨大な大剣を肩に担いでいる。
「俺が正面を突破する!」
――イグニット。
「うおおおおおおおお!!」
ドォン!!
イグニットが地面を蹴る。
巨大な大剣を振り下ろした。
ズガァァァァン!!
魔境兵がまとめて吹き飛ぶ。
「怯むな!!」
魔境軍が一斉に襲いかかる。
その横から――。
「水よ」
静かな声。
ザァァァァァ……!!
大量の水が戦場へと流れ込む。
「――ガイム」
両手を前へ出す。
「水流よ、道となれ」
ゴォォォォォ!!
水の流れが一直線に伸びる。
ガイムはその水へ乗った。
シュッ!!
一瞬で戦場を駆け抜ける。
「……失礼」
ドンッ!!
水の勢いを利用した蹴りが魔境兵を吹き飛ばした。
「な、なんだこいつは!?」
「まだいるぞ!!」
さらに――。
「ガハハハハ!!」
巨大な男が笑った。
「燃えてきたぜぇぇぇ!!」
全身に赤い炎をまとった竜人。
「――ゴルーツ!!」
「うおおおおお!!」
ゴォォォォ!!
炎が全身から噴き出す。
身体能力を一気に強化する。
「どけぇぇぇ!!」
ドゴォォォン!!
拳が魔境兵を吹き飛ばす。
さらに――。
「炎よ!!」
ボォォォォ!!
巨大な炎が戦場を薙ぎ払った。
「まだまだ行くぞぉぉ!!」
そして最後に――。
ズン。
巨大な盾を持った老人が歩いてきた。
「…………」
ドン。
また一歩。
ズン。
さらに一歩。
魔境兵たちが思わず後ずさる。
「なんだ……あの爺さん……」
老人は巨大な盾を前へ構えた。
「――ゴルドンじゃ」
ドォォォォン!!
魔境兵の攻撃が一斉に盾へ叩き込まれる。
剣。
槍。
魔法。
しかし――。
「…………」
ゴルドンは一歩も動かない。
「な……!」
「効いていない!?」
ゴルドンはゆっくりと顔を上げた。
「ドワーフを舐めるでない」
巨大な盾を構え直す。
「ワシは――」
一歩前へ出る。
「防ぐことしかできん」
そして――。
「じゃがな」
盾を叩きつける。
ドォォォォォン!!
「防ぐのは得意なんじゃよ!!」
魔境兵が吹き飛んでいく。
「うおおおおお!!」
「押し返せ!!」
「リリーを守れ!!」
キラの軍が一斉に魔境軍へ突撃していく。
戦場左側は――。
再び激戦となった。
――――――――――
「…………」
リリーはその光景を見つめていた。
自分の前に――。
一人の老人が立つ。
ゴルドンだった。
巨大な盾を構え――。
まるで壁のようにリリーを守っている。
「お前さん」
「…………?」
ゴルドンが振り返る。
「もう無理して立たんでええ」
リリーは少し笑った。
「……ありがとうございます」
ゴルドンは笑う。
「ワシはお前さんを守る」
巨大な盾を握り直す。
「盾の戦士の見せどころじゃ」
「…………」
リリーは静かにゴルドンを見る。
その時――。
ゴルドンがふと思い出したように言った。
「そうじゃ」
「?」
「安心せい」
ゴルドンは後方を見る。
「キラの指示で、リゼッタのほうにはオギデストラのみんなが向かった」
「…………」
「じゃから、あっちは心配せんでええ」
「そう……ですか」
リリーは小さく笑った。
「……よかった」
そして――。
ゆっくりと目を閉じる。
「…………」
ゴルドンが振り返る。
「お前さん?」
リリーは小さな声で――。
「……おやすみ」
そのまま――。
ドサッ。
リリーの身体が倒れた。
「――!!」
ゴルドンが慌てて振り返る。
「おい!!」
だが――。
「リリー!!」
チャルマとアルミンが駆け込んできた。
「ここは私たちに任せて!」
「リリー様を後方へ!」
二人はリリーを抱き上げる。
チャルマがリリーの身体を支え――。
アルミンが周囲を警戒する。
「行くよ!」
「うん!」
二人はリリーを抱え――。
一時後方へと下がっていった。
ゴルドンはその背中を見送る。
そして――。
「さて……」
巨大な盾を構える。
「ここからがワシの仕事じゃ」
ドォン!!
魔境軍へ向かって突撃した。
――――――――――
その頃。
少し離れた場所では――。
「ハァァァァァ!!」
「オラァァァァァ!!」
アブソリューとゾルガ。
二人の激闘が続いていた。
剣と剣。
斬撃がぶつかり合う。
ギィィィィン!!
「ハハハハハ!!」
ゾルガが笑う。
「いいぞ! 剣神!!」
「貴様もな!!」
アブソリューも笑う。
二人の周囲には無数の斬撃跡。
地面は抉れ――。
建物は崩れ――。
それでも二人は止まらない。
「ハァッ!!」
ズバァァァン!!
アブソリューの斬撃。
ゾルガが紙一重で避ける。
「甘い!!」
ゾルガが反撃する。
キィン!!
アブソリューが受け止める。
その瞬間――。
アブソリューの視線が、遠くへ向いた。
「…………」
戦場の向こう。
チャルマとアルミンに抱えられて運ばれていく――。
リリー。
「…………」
アブソリューが笑った。
「……あの少女」
ゾルガが眉をひそめる。
「何?」
アブソリューは剣を構え直す。
「やりおったな」
「…………」
「大したものだ」
アブソリューの口元が上がる。
そして――。
「俺もそろそろ――」
剣を握る手に力を込める。
「決めるか!!」
「――!!」
アブソリューが踏み込む。
ドォォォォン!!
一瞬で距離を詰める。
「速い!?」
ゾルガが剣を構える。
ギィィィィン!!
一撃。
二撃。
三撃。
斬撃が雨のように降り注ぐ。
「ぐっ……!」
ゾルガが後退する。
「これが……鬼神か!!」
アブソリューの身体から――。
凄まじい闘気が噴き上がる。
「まだまだだ!!」
ズバァァァァン!!
ゾルガの剣が弾き飛ばされる。
「な――!」
アブソリューは止まらない。
「剣神の名――」
さらに一歩。
「舐めるなぁぁぁ!!」
ズガァァァァァン!!
ゾルガが斬撃を受け止める。
だが――。
「ぐおおおおお!!」
足が地面へめり込む。
「まだだ!!」
アブソリューがさらに斬る。
右。
左。
上。
下。
あらゆる方向から斬撃が襲いかかる。
ゾルガも必死に剣を振る。
「ハァァァァァ!!」
ギィィィィン!!
キィィィィン!!
ドォォォォン!!
長い激闘。
互いの身体には無数の傷。
血が流れる。
それでも――。
二人は笑っていた。
「最高だ……!」
ゾルガが笑う。
「この戦い……!」
アブソリューも笑う。
「なら――」
アブソリューが剣を低く構える。
「最後まで付き合え!!」
ゾルガも剣を構え直す。
「来い!!」
――――――――――
静寂。
一瞬だけ。
戦場から音が消えた。
アブソリューが目を閉じる。
「…………」
そして――。
ゆっくり目を開く。
「――鬼神」
全身から凄まじい力が噴き出す。
地面が震える。
「これで終わりだ!!」
アブソリューが踏み込む。
ドォォォォォォォォォン!!
一瞬。
二人の姿が交差する。
――――。
キィィィィン。
静かな金属音。
二人が止まった。
「…………」
ゾルガの剣が――。
真っ二つに折れていた。
そして――。
ゾルガの身体に一本の大きな斬撃が走る。
「…………」
ゾルガがゆっくりと膝をつく。
「……見事だ」
血を吐きながら笑う。
「剣神……」
そのまま――。
ドサッ。
ゾルガが倒れた。
「…………」
アブソリューは剣を振り抜いた姿勢のまま立っている。
やがて――。
剣を鞘へ収める。
「……終わったか」
そして――。
背後を見る。
そこにはまだ――。
大量の魔境軍が残っていた。
アブソリューの口元が上がる。
「なら――」
剣を抜く。
「残りも全部、斬り伏せる!!」
ドォォォォォォォォォォン!!
アブソリューが魔境軍へ突撃する。
一閃。
二閃。
三閃。
魔境兵が次々と吹き飛ぶ。
「うおおおおおおお!!」
戦場左側で――。
剣神アブソリューが再び暴れ始めた。
第254話 終




