252話 覇王之力
――デダルク正面、中央戦場。
「はぁ……はぁ……!」
ベルゼルは片膝をついていた。
全身傷だらけ。
息も荒い。
それでも――。
目の前を見つめていた。
そこに残っている魔境軍は――。
数千。
先ほどまで何万もの兵がひしめいていた戦場。
それが今では、数千にまで減っている。
「……ここまで減ったか」
ベルゼルが呟く。
その時――。
「ベルゼル」
背後から声がした。
「……レオン」
レオンが歩いてくる。
そして――。
ベルゼルの肩へ手を置いた。
「ありがとう」
「…………」
「あとは俺がやる」
ベルゼルはレオンを見る。
そして――。
小さく笑った。
「……任せた」
レオンも笑う。
「おう」
ベルゼルが後ろへ下がる。
レオンは――。
一人で魔境軍を見据えた。
その時。
魔境軍の奥から――。
ズ……。
ズ……。
ゆっくりと一人の男が歩いてくる。
魔境兵たちが道を開ける。
「…………」
巨大な身体。
圧倒的な威圧感。
そして――。
全身から放たれる殺気。
「……来たか」
レオンが呟く。
魔境将軍――。
ドンドニン。
「フフ……」
ドンドニンが笑う。
「ようやく出てきたか」
「お前がドンドニンだな」
「ああ」
ドンドニンはレオンを見る。
「お前が相手か?」
「そうだ」
レオンは――。
背中に背負っていた剣を抜く。
カチャ。
鞘からゆっくりと剣が抜かれる。
ギラリ。
刃が光を反射する。
ドンドニンが笑った。
「剣か」
「俺は剣士だからな」
レオンは剣を肩に乗せる。
「拳で戦う理由なんてねぇだろ」
「…………」
ドンドニンがニヤリと笑う。
「面白い」
レオンも――。
ニヤリと笑う。
「覚悟を決めとけ」
「…………」
「すぐ終わらせてやる」
ドンドニンが笑う。
「ハハハハハ!」
「随分と威勢がいいな!!」
「来い!!」
ドンドニンが構える。
レオンは剣を下げる。
そして――。
目を閉じた。
「…………」
静かに息を吸う。
「スキル――」
次の瞬間。
レオンの身体から――。
凄まじい力が噴き出した。
「覇王之力【エンペラー】!!」
ドォォォォォォォォォン!!!!
大地が震える。
周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。
レオンの身体を――。
圧倒的な覇気が包み込む。
そして。
その力が――。
握られた剣へ集中していく。
ギィィィィン……。
剣そのものが震える。
ドンドニンの表情が変わる。
「……その剣」
レオンは目を開く。
「行くぞ」
ドンッ!!
消える。
「――なっ!?」
一瞬。
レオンの姿が消えた。
次の瞬間。
ズバァァァァァン!!
ドンドニンの胸へ――。
凄まじい斬撃が走った。
「ぐおおおおお!!」
ドンドニンが後ろへ吹き飛ぶ。
ズガァァァァン!!
巨大な身体が瓦礫へ叩きつけられる。
だが――。
「ハハハハハ!!」
ドンドニンが立ち上がる。
胸から血が流れている。
「いいぞ!!」
「もっと来い!!」
レオンが剣を構える。
「望むところだ!!」
ドンドニンが突進。
「おおおおおおお!!」
レオンも踏み込む。
「はぁぁぁぁぁ!!」
ガキィィィィィン!!
拳と剣がぶつかる。
凄まじい衝撃波。
ドォォォォォン!!
レオンが剣を振り抜く。
ズバァァァァン!!
ドンドニンが腕で受ける。
「ぐっ!!」
さらに――。
レオンが回転する。
「せぇぇぇい!!」
ズバァァァァン!!
横薙ぎ。
ドンドニンが避ける。
「ぬおおおお!!」
拳が飛んでくる。
レオンは剣の腹で受け止める。
ガァァァァァン!!
そのまま――。
剣を振り上げる。
「おおおおお!!」
ズガァァァァァン!!
ドンドニンの身体が再び吹き飛ぶ。
「ぐおっ!!」
しかし――。
ドンドニンは空中で身体を捻る。
ドンッ!!
着地。
「ハハハハハ!!」
「素晴らしい!!」
「その剣……!」
「その力……!」
ドンドニンが拳を握る。
「もっと見せろぉぉぉ!!」
レオンも笑う。
「いくらでも見せてやる!!」
再び激突。
ガキィィィィィン!!
ズバァァァァン!!
ドォォォォォン!!
剣と拳。
斬撃と打撃。
互いの攻撃が何度も交差する。
「おおおおおおお!!」
「うおおおおおお!!」
レオンの剣がドンドニンの肩を斬る。
ドンドニンの拳がレオンの腹を捉える。
「ぐっ……!」
レオンが吹き飛ぶ。
だが――。
空中で身体を捻る。
ドンッ!!
地面へ剣を突き刺して止まる。
「まだだ!!」
剣を抜く。
そして――。
再び突っ込む。
「おおおおおおお!!」
ズバァァァァァン!!
ドンドニンの胸を斬り裂く。
「ぐおおおおお!!」
ドンドニンが吠える。
それでも倒れない。
「まだまだぁぁぁ!!」
戦いは続いた。
何度も。
何度も。
剣が交差する。
拳がぶつかる。
大地が砕ける。
建物が吹き飛ぶ。
二人の戦いは――。
完全な互角だった。
――そして。
ドンドニンが笑った。
「……なぁ」
レオンが剣を構える。
「なんだ」
「お前のその力――」
「…………」
「五分しかもたないんだよな?」
「…………!」
レオンの表情が変わる。
ドンドニンは笑う。
「知っているぞ」
「その覇王之力は――」
「五分しか使えない」
レオンが舌打ちする。
「……チッ」
そして――。
剣を握り直す。
「だったら――」
ドンッ!!
一気に加速。
「五分以内に――」
ズバァァァァン!!
「お前を斬り倒す!!」
ドンドニンが拳で受け止める。
ガァァァァァン!!
「そう簡単に――」
ドンドニンが笑う。
「斬られるかぁぁぁ!!」
さらに激闘。
剣。
拳。
斬撃。
打撃。
何度もぶつかる。
そして――。
「…………」
レオンの動きが止まった。
シュゥゥゥ……。
身体を包んでいた覇気が――。
消えていく。
「…………」
五分。
終わった。
レオンは――。
その場に膝をついた。
ガクッ。
そして、そのまま座り込む。
「はぁ……!」
「はぁ……!」
剣を地面に突き立て、身体を支える。
ドンドニンは――。
ゆっくりと歩いてくる。
「……終わりだな」
レオンは答えない。
「五分しかもたない力」
「それが消えれば――」
ドンドニンが拳を握る。
「お前は終わりだ」
「…………」
ドンドニンが拳を振り上げる。
「最後だぁぁぁ!!」
その瞬間。
レオンが顔を上げた。
「…………」
血だらけの顔。
それでも――。
その目だけは死んでいない。
「俺は――」
剣を握る。
「まだ……」
ゆっくり立ち上がる。
「まだやることがある」
ドンドニンの表情が変わる。
「……何?」
レオンは――。
剣を構える。
そして。
「スキル――」
ドンドニンが叫ぶ。
「馬鹿な!?」
レオンの身体から――。
再び覇気が爆発する。
「覇王之力【エンペラー】!!」
ドォォォォォォォォォン!!!!
二度目の発動。
その瞬間。
「――ぐっ!!」
レオンの目から――。
血が噴き出す。
鼻からも。
口からも。
血が流れ落ちる。
それでも――。
レオンは剣を握り続ける。
「……まだだ」
ドンドニンの顔から笑みが消える。
「お前……」
レオンは――。
血を吐き捨てる。
「まだ終わってねぇぞ」
そして――。
消える。
「――ッ!?」
ズバァァァァァン!!
ドンドニンの胸を斬り裂く。
「ぐおおおおお!!」
ドンドニンが吹き飛ぶ。
レオンが追う。
「おおおおおおお!!」
ズバァァァァン!!
横薙ぎ。
ズガァァァァン!!
逆袈裟。
「ぐっ……!」
ドンドニンが拳を振るう。
レオンは紙一重で避ける。
そして――。
「はぁぁぁぁ!!」
ズバァァァァァン!!
斬撃。
「ぐおおおおお!!」
ドンドニンが反撃。
ガァァァァァン!!
レオンの身体が吹き飛ぶ。
「ぐっ……!」
だが。
地面へ着地した瞬間。
ドンッ!!
再び踏み込む。
「俺は……!」
ズバァァァァァン!!
「まだ……!」
ガキィィィィィン!!
「倒れねぇぇぇぇ!!」
ドンドニンも吠える。
「俺もだぁぁぁ!!」
二人は最後の力を振り絞る。
レオンの剣が――。
ドンドニンの拳を弾く。
ガァァァァァン!!
そのまま――。
「これで――」
レオンが剣を振り上げる。
ドンドニンが拳を構える。
「終わりだぁぁぁぁ!!」
「おおおおおおお!!」
「うおおおおおおお!!」
ズガァァァァァァァァァン!!!!
凄まじい衝撃。
しばらくして――。
「…………」
静寂。
ドンドニンの拳が止まっていた。
レオンの剣が――。
ドンドニンの胸を貫いていた。
「……ぐ……」
ドンドニンの身体が震える。
「……な……ぜ……」
レオンは荒い息を吐く。
「……俺には……」
剣を握る手に力を込める。
「まだ……やることがあるんだよ」
ドンドニンの身体から力が抜ける。
ドサッ。
巨大な身体が地面へ倒れる。
魔境将軍――。
ドンドニン。
敗北。
「…………」
レオンは剣を抜く。
そして――。
一歩。
歩こうとする。
「…………」
足が動かない。
「……はぁ……」
その場に――。
ドサッ。
レオンも倒れた。
剣が地面へ落ちる。
カラン……。
「…………」
その瞬間。
「――――!!」
残った魔境軍が一斉に動き始める。
「魔境将軍が倒れたぞ!!」
「敵を殺せぇぇぇ!!」
数千の魔境兵が――。
レオンへ押し寄せる。
だが――。
「ドンッ!!」
その前へ一人の男が立った。
ベルゼル。
「…………」
ベルゼルはレオンの落ちた剣を見る。
そして――。
ゆっくりと魔境軍へ向き直る。
「――あとは俺に任せろ」
ベルゼルが武器を構える。
「レオン」
レオンは薄く目を開く。
ベルゼルの背中が見える。
「ゆっくり休め」
「…………」
レオンは――。
小さく笑った。
そして。
ゆっくりと目を閉じた。
第252話 終




