251話 理【ことわり】
――デダルク正面、左戦場。
「おおおおおおおおお!!」
「グォォォォォォォォ!!」
ガキィィィィィン!!
ズガァァァァァン!!
大地を揺らすほどの衝撃が、何度も戦場を駆け抜けていた。
その中心で――。
剣神アブソリューと魔境将軍ゾルガが、激しく剣を交えていた。
「はぁぁぁぁぁ!!」
アブソリューが斬り込む。
ズバァァァァン!!
ゾルガが受け止める。
ガキィィィィィン!!
「ぬおおおおお!!」
ゾルガが押し返す。
アブソリューは後ろへ飛ぶ。
そして――。
空中で身体を捻る。
「まだだ!!」
ドンッ!!
一瞬で距離を詰める。
ズバァァァァン!!
ゾルガが剣を振る。
ガキィィィィン!!
再び剣がぶつかる。
「おおおおおおお!!」
「グオオオオオオ!!」
衝撃波が周囲へ広がる。
ドォォォォォン!!
地面が砕ける。
近くにいた魔境兵たちが吹き飛ばされる。
「な、なんだこの戦いは……!」
「近づけない……!」
それほどまでに――。
二人の戦いは凄まじかった。
だが。
「ハハハハハ!!」
アブソリューは笑っていた。
ゾルガも――。
「フフフ……!」
笑っている。
「いいぞ!!」
「貴様こそな!!」
ガキィィィィィン!!
斬撃。
斬撃。
斬撃。
何度も剣が交差する。
互いに一歩も引かない。
それどころか――。
二人とも、この戦いを楽しんでいた。
「こんな強い剣士と戦えるとはな!」
アブソリューが笑う。
「俺も同じだ!」
ゾルガが叫ぶ。
「もっとだ!!」
「来い!!」
ドォォォォォン!!
二人が同時に踏み込む。
ガァァァァァン!!
剣と剣が激突する。
「おおおおおおお!!」
「ぬおおおおおお!!」
さらに――。
何度も。
何度も。
二人は戦い続けた。
――そして。
「はぁぁぁぁぁ!!」
アブソリューが攻める。
ズバァァァァン!!
ゾルガが受ける。
「ぐっ……!」
さらに――。
ズバァァァァン!!
「くっ……!」
一歩。
ゾルガが下がる。
アブソリューが追う。
「まだだ!!」
「ぬおおおおお!!」
ゾルガが斬り返す。
ガキィィィィィン!!
アブソリューが受け止める。
二人の剣が押し合う。
「グググググ……!」
「ぬぅぅぅぅ……!」
互いに――。
引かない。
その時。
アブソリューがニヤリと笑った。
「……そういえば」
ゾルガが睨む。
「何だ?」
アブソリューは剣を構える。
「レティシアは――」
一歩。
「速さを極めた」
「…………」
「だが――」
アブソリューの身体から、凄まじい気迫が溢れ始める。
ズズズズズズズ……。
「俺は――」
拳を握る。
「力を極めた!!」
ドォォォォォォォォン!!
大地が震える。
ゾルガの表情が変わった。
「……何だ、その力は!?」
アブソリューが笑う。
「見せてやる」
そして――。
「スキル――」
身体からさらに力が溢れ出す。
「鬼神!!」
ドォォォォォォォォォン!!!!
爆発的な力が戦場を包み込んだ。
「…………!」
ゾルガが目を見開く。
アブソリューは剣を握り直す。
「このスキルは――」
「戦えば戦うほど……」
一歩。
「強くなるぞ?」
ドンッ!!
消えた。
「――なっ!?」
ゾルガが咄嗟に剣を構える。
ガァァァァァン!!
凄まじい斬撃が叩き込まれる。
「ぐっ……!」
ゾルガが吹き飛ぶ。
ズガァァァァン!!
瓦礫へ叩きつけられる。
「まだだ!!」
ゾルガが立ち上がる。
「この程度で――!」
ズバァァァァン!!
斬り返す。
アブソリューが受け止める。
ガキィィィィン!!
「…………」
アブソリューが笑う。
「そうだ!!」
「もっと来い!!」
ドォォォォォン!!
再び激突。
だが――。
ゾルガが押される。
「ぐっ……!」
アブソリューの力は――。
先ほどより明らかに増していた。
「くそっ……!」
ゾルガが後退する。
アブソリューが追う。
「逃がさん!!」
ズバァァァァン!!
「ぐあっ!!」
さらに一撃。
ドォォォォォン!!
ゾルガの足元が砕ける。
「まだだ!!」
アブソリューが踏み込む。
「これが――」
ズバァァァァン!!
「力を極めた男の――」
ガキィィィィン!!
「剣だぁぁぁぁぁ!!」
ドォォォォォォン!!
ゾルガが大きく吹き飛ばされる。
「グォォォォォォ!!」
ズガァァァァン!!
ゾルガは瓦礫の中へ沈む。
「…………」
アブソリューは剣を構えたまま、じっと見つめる。
「まだ終わってないぞ」
瓦礫の中から――。
「……フフ」
笑い声。
「面白い……」
ゾルガがゆっくり立ち上がる。
「ならば……もっと戦おう!!」
アブソリューも笑う。
「望むところだ!!」
二人は再び――。
真正面から激突した。
ガァァァァァァン!!!!
――――――――――
その頃。
少し離れた場所では――。
「はぁ……はぁ……!」
リリーが苦しそうに息をしていた。
「くっ……!」
目の前には――。
魔境将軍ベルガ。
「どうした、大賢者!」
ベルガが笑う。
「先ほどまでの威勢はどうした!?」
「…………」
リリーは歯を食いしばる。
ベルガの周囲からは――。
ズズズズズズズズ……。
黒い魔力が、次々と湧き出していた。
「また……!」
リリーが魔法を放つ。
「セレスティアル・レイ!!」
パァァァァァン!!
巨大な光がベルガへ向かう。
ドォォォォォン!!
黒い魔力が吹き飛ぶ。
だが――。
ズズズズズズ……。
消えたはずの黒い魔力が、再び湧き上がる。
「…………!」
リリーの表情が曇る。
「無限に……」
まただ。
いくら消しても。
いくら破壊しても。
黒い魔力は次々と生まれてくる。
「そんな……」
リリーの呼吸が荒くなる。
「私の魔力が……!」
減っている。
凄まじい速度で。
「はぁ……はぁ……!」
もう一度。
「ホーリー・ブレイカー!!」
ドォォォォォン!!
聖なる光が黒い魔力を吹き飛ばす。
しかし――。
「無駄だ!!」
ベルガが叫ぶ。
ズズズズズズズ……。
また黒い魔力が湧き出る。
「我の魔力は尽きぬ!!」
「…………!」
リリーが後退する。
一歩。
また一歩。
「くっ……!」
ドォォォォォン!!
黒い魔法が炸裂する。
「きゃっ!」
リリーが吹き飛ばされる。
ズガァァァァン!!
地面を転がる。
「ぐっ……!」
立ち上がろうとする。
だが――。
足に力が入らない。
「はぁ……はぁ……」
衣服は破れ。
身体には傷。
頬には血。
杖を握る手も震えている。
「まだ……」
リリーは立ち上がる。
「まだよ……!」
ベルガが笑う。
「いつまで立っていられるかな?」
ズズズズズズズ……。
黒い魔力が巨大な塊となっていく。
「これで終わりだ!!」
ドォォォォォォォォン!!
巨大な黒い魔法が――。
リリーへ向かって放たれる。
「…………」
リリーは動かなかった。
いや――。
動けなかった。
目の前を埋め尽くすほどの黒い魔力。
逃げる場所もない。
防ぐ魔力も――。
ほとんど残っていない。
「…………」
リリーは静かに目を閉じる。
そして――。
小さく呟いた。
「やるしかない……」
「…………」
「まだ一度も使ったことないし……」
リリーは杖を握り直す。
「使いたくなかったけど……」
ゆっくりと目を開く。
「もう……これしかない」
その瞬間。
リリーの周囲の空間が――。
止まった。
――――――――――
「…………」
世界が静止する。
黒い魔法も。
舞い上がった砂埃も。
戦場を飛んでいた矢も。
すべてが――。
止まった。
ベルガも動かない。
そして。
リリーの目の前に――。
不思議な文字が浮かび上がった。
『スキル――』
『理の改変』
「…………」
リリーはその文字を見つめる。
そして――。
文字が続く。
『発動条件を選択してください』
『犠牲にする部位――』
『1 右手』
『2 左手』
『3 右足』
『4 左足』
『5 武力』
『6 魔力』
『7 右目』
『8 左目』
リリーは――。
しばらく黙っていた。
「…………」
そして。
「だよね……」
苦笑する。
「こんなスキルだもんね」
リリーは選択肢を見る。
右手。
左手。
右足。
左足。
武力。
魔力。
右目。
左目。
「じゃあ……」
リリーは静かに笑った。
「左目にしよっかな!」
その瞬間。
『選択を確認しました』
『左目――』
『成立しました』
『スキル――』
『理の改変を発動します』
――世界が動き出す。
ドォォォォォォォン!!
目の前には――。
ベルガの最大火力。
巨大な黒い魔法。
「…………」
リリーはそれを見つめる。
そして――。
ゆっくりと。
目を閉じる。
「…………」
深く。
ゆっくりと。
息を吸う。
スゥゥゥ……。
そして――。
「…………」
静かに呟いた。
「改変」
その瞬間。
ベルガの魔法が――。
消えた。
いや。
違う。
消えたように見えただけだった。
魔法そのものの仕組みが――。
分解された。
構成していた魔力。
術式。
属性。
すべての繋がりが崩れ――。
存在していたはずの魔法が、成立しなくなった。
「…………」
ベルガが固まる。
「……え?」
目の前にあったはずの魔法が――。
ない。
「な……」
ベルガが周囲を見る。
「何をした……?」
「…………」
リリーは答えない。
ただ――。
左目を閉じたまま。
杖を握っていた。
ベルガの表情が初めて――。
焦りへ変わる。
「何だ……?」
「何が起きた!?」
リリーはゆっくり顔を上げる。
「まだ……終わってないよ」
そして――。
杖を前へ向ける。
「キラの技……」
リリーが小さく笑う。
「借りちゃうね」
ベルガが目を見開く。
「何……!?」
リリーの身体から――。
残されたすべての魔力が溢れ出す。
「…………!」
パァァァァァァァァァ!!
杖の先に――。
巨大な光が集まっていく。
「理の改変――!」
光が渦を巻く。
「ホーリーブレイカーを――」
さらに魔力が膨れ上がる。
「エクリプス・レゾナンス・ルミナへ!!」
ドォォォォォォォォォォン!!!!
その瞬間。
ホーリーブレイカーの術式が――。
別の形へと変わっていく。
光。
闇。
聖。
すべての属性が重なり合う。
リリーは――。
キラの技をコピーした。
「…………」
ベルガは呆然と立ち尽くす。
目の前にあるのは――。
かつて見たこともないほど巨大な光。
リリーの魔力。
そのすべてを込めた――。
究極の一撃。
「これが……」
リリーが呟く。
「私の――」
光が戦場すべてを覆い始める。
「改変……!」
そして――。
目の前が――。
真っ白になった。
第251話 終




