246話 デダルク
――魔境国。
その最前線に位置する巨大都市――デダルク。
そこには、人間たちの想像を遥かに超える軍勢が集結していた。
「…………」
城壁の上。
一人の魔境将軍が、遠くを見つめている。
その視線の先には――。
地平線を埋め尽くすほどの魔境軍。
「…………十万」
誰かが呟いた。
「いや……」
別の兵士が答える。
「十万を超えている」
「…………」
城壁の上にいる者たちが、言葉を失う。
魔境軍。
その数――十万以上。
黒い鎧。
巨大な魔物。
魔境兵。
獣人。
異形の戦士。
巨大な武器を持つ者。
空を飛ぶ魔物。
大地を這う怪物。
その全てが――。
デダルクの前に集められていた。
「これほどの軍勢を……」
兵士が呟く。
「本当に必要なのか?」
すると――。
「必要だ」
低い声が響いた。
「…………!」
兵士たちが振り返る。
そこにいたのは――。
残された魔境将軍たち。
かつて魔境軍を率いていた六人の将軍。
そのうち――。
すでに一人、ガムランは倒されている。
残る魔境将軍たちは、全員がデダルクへ集結していた。
「奴らは……」
一人の将軍が口を開く。
「我々の想像以上の戦力を集めている」
別の将軍が笑う。
「だからこそ面白い」
「…………」
「人間だけではない」
将軍は遠くを見る。
「魔族」
「エルフ」
「竜人」
そして――。
「剣士」
「弓使い」
「魔法使い」
「聖職者」
「……全てまとめて来たか」
将軍の口元が歪む。
「まるで……」
「世界中の戦士を集めたようだな」
「それだけではない」
別の将軍が言った。
「魔王までいる」
「…………」
空気が変わる。
「そして――」
将軍はゆっくりと目を細めた。
「キラたちか」
「そうだ」
「…………」
誰も笑わなかった。
魔境将軍たちは、キラたちの名前を知っている。
ガムランを倒した男。
黒の騎士を倒した女。
黒の狩人を倒した女。
黒魔導師を倒した男。
そして――。
一人の将軍が呟く。
「……厄介だな」
「だからこそ――」
別の将軍が前へ出る。
「ここで止める」
「…………」
「デダルクを突破させるな」
「魔境への門を開かせるな」
「エリオス様のもとへ――」
将軍が巨大な武器を握り締める。
「一歩たりとも近づけるな!!」
「おおおおおおおおおおおおおお!!」
城壁の上から歓声が上がる。
地上でも――。
「グオオオオオオオオオ!!」
魔境軍が咆哮する。
大地が震える。
無数の武器が掲げられる。
「迎え撃つぞ!!」
「敵を一人も通すな!!」
「デダルクを守れ!!」
「エリオス様のために!!」
「うおおおおおおおおおお!!」
デダルク全体が――。
戦場へと変わっていく。
――――――――――
その頃。
遥か彼方。
大地を揺らしながら――。
一つの巨大な軍勢が進んでいた。
ドドドドドドドドドドド……。
無数の足音。
馬の蹄。
鎧が擦れる音。
武器がぶつかる音。
魔力の奔流。
その全てが――。
一つの巨大な音となって大地を震わせていた。
「…………」
先頭を歩くキラが、遠くを見つめる。
その後ろには――。
七つの軍団。
世界中から集まった戦士たち。
人間。
魔族。
エルフ。
竜人。
ドワーフ。
獣人。
様々な種族が、同じ方向へ向かっている。
その光景は――。
かつて誰も見たことがないほど巨大だった。
――第一軍。
マニルの戦士一団。
イグニット。
ガイム。
ゴルーツ。
ゴルドン。
その後ろには、マニルの精鋭たち。
「…………」
イグニットは無言で歩いている。
巨大な大剣を肩に担いでいる。
ガイムは静かに前方を見る。
ゴルーツは拳を握る。
ゴルドンは巨大な盾を背負っている。
――第二軍。
オギデストラの戦士一団。
ガルディオ。
アニー。
フォン。
コニス。
そして――。
オギデストラの精鋭たち。
「ふぁ~……」
アニーが大きく欠伸をする。
「長いなぁ……」
「寝るなよ!」
フォンが怒鳴る。
「分かってるって~」
アニーはのんびり歩く。
コニスは前方を見ながら笑う。
「いよいよね!」
ガルディオは無言で頷く。
――第三軍。
聖教騎士団。
そして魔法星団。
白銀の鎧。
巨大な杖。
聖なる紋章。
無数の魔法使いたち。
その中心には――。
「…………」
聖教騎士団の騎士たちが、静かに歩いている。
魔法星団の魔法使いたちは、杖を手にしている。
――第四軍。
魔族軍。
ジオウ。
パオ。
ジミー。
そして数多くの魔族兵。
「デダルク……」
ジオウが呟く。
「久しぶりだな」
パオは隣で笑う。
「いっぱい敵いるネ!」
ジミーは青ざめる。
「い、いや……いっぱいどころじゃないです……」
「十万以上ヨ!」
「分かってますよ!」
――第五軍。
剣神アブソリューたち。
チャルマ。
アルミン。
そして――。
剣士たち。
アブソリューは歩きながら、静かに前を見る。
「…………」
その手には――。
剣。
ただ、それだけ。
だが――。
周囲の剣士たちは誰も口を開かなかった。
剣神。
その名を知っているからだ。
――第六軍。
レオン。
ベルゼル。
そして魔王軍の戦士たち。
レオンは黙って歩いている。
「…………」
その目には――。
怒り。
「エリオス……」
小さく名前を呟く。
ベルゼルは隣を歩きながら言う。
「レオン」
「ん?」
「焦るな」
「分かってる」
レオンは前を見る。
「だが……」
拳を握る。
「今度こそ、あいつを止める」
――そして。
第七軍。
キラ。
レティシア。
エリス。
セリーナ。
ジュダ。
五人が並んで歩いている。
レティシアは二本の剣を腰に携えている。
エリスは弓を背負っている。
セリーナは眼鏡を直す。
ジュダは腕を組んでいる。
「…………」
キラは何も言わない。
ただ――。
前を見ている。
「キラ」
レティシアが声をかける。
「ん?」
「……本当にいるんだよね」
「ああ」
キラは答える。
「この先に」
エリスが静かに呟く。
「エリオス……」
ジュダが目を細める。
「黒神の化身……か」
セリーナは少しだけ緊張した顔をする。
「…………」
そして――。
七軍団は歩き続けた。
ドドドドドドドドド……。
大地を揺らしながら。
――――――――――
数時間後。
「…………」
キラが足を止めた。
「……?」
レティシアたちも止まる。
「どうした?」
キラは何も答えない。
ただ――。
前を見ている。
そして。
その表情が――。
少しずつ変わった。
「…………」
遠く。
地平線の向こう。
黒い山のようなものが見えている。
いや。
山ではない。
巨大な――。
「……あれは?」
エリスが呟く。
さらに近づく。
大地が少しずつ高くなる。
視界が開ける。
そして――。
「…………」
全員が――。
言葉を失った。
目の前に広がっていたのは――。
巨大な都市だった。
「…………」
キラは立ち尽くす。
レティシアも。
エリスも。
セリーナも。
ジュダも。
七軍団の兵士たちも――。
誰一人として、言葉を発しなかった。
そこにあったのは――。
巨大な黒い城壁。
どこまでも続いている。
まるで山脈のような城壁。
その高さは――。
見上げても頂上が遠い。
そしてその向こうには――。
無数の巨大建造物。
黒い塔。
巨大な城。
異様な形をした建物。
空へ伸びる無数の柱。
黒い煙のようなものが、都市のあちこちから立ち上っている。
空は薄暗い。
雲が渦を巻いている。
太陽の光すら――。
どこか弱々しい。
「…………」
セリーナが震える声で呟く。
「これが……」
一歩だけ前へ出る。
そして――。
「これが……魔境国……」
その言葉が――。
全軍へ広がった。
「魔境国……」
「これが……」
「…………」
誰もが目の前の景色に圧倒されていた。
魔境。
そこは――。
今まで聞いてきた話の中にしか存在しなかった場所。
だが。
今。
目の前にある。
本当に――。
存在している。
そして。
その中心にある巨大な都市。
デダルク。
「…………」
キラは目を細めた。
「デダルク……」
巨大すぎる。
強固すぎる。
そして――。
不気味なほど静かだった。
七軍団が進む。
一歩。
また一歩。
やがて――。
デダルクの城壁が、はっきりと見える距離まで近づいた。
すると――。
「…………」
キラが足を止める。
七軍団も――。
一斉に停止した。
ドォン……。
巨大な軍勢の足音が止まる。
静寂。
風だけが吹いている。
ヒュゥゥゥ……。
そして――。
城壁の上。
無数の魔境兵が並んでいた。
黒い鎧。
巨大な武器。
魔物。
魔境将軍。
さらに――。
城門の前にも。
数え切れないほどの魔境軍が整列している。
十万を超える軍勢。
その全てが――。
こちらを見ていた。
「…………」
キラは静かに前を見る。
レティシアが二本の剣へ手を添える。
エリスが弓へ手を伸ばす。
セリーナが息を呑む。
ジュダの赤い瞳が鋭くなる。
七軍団の戦士たちも――。
一斉に武器を構えた。
巨大な城壁。
巨大な軍勢。
そして――。
その中心に立つ、残された魔境将軍たち。
一人の将軍が――。
ゆっくりと前へ出る。
城壁の上から。
こちらを見下ろす。
そして――。
「…………」
小さく笑った。
「来たか……」
その声が――。
静まり返った大地に響き渡った。
――――――――――
第246話 終




