241話 双剣神
崩壊した建物が並ぶ街の一角。
「――――ッ!」
キィィィィン!!
鋭い金属音が響き渡った。
レティシアの二本の剣と、黒い剣士の巨大な剣が激しくぶつかる。
「くっ……!」
レティシアは両腕に力を込める。
黒い剣士も一歩も引かない。
互いの剣が押し合う。
ギギギギギ……!
火花が散る。
「…………」
黒い剣士は無言だった。
全身を黒い鎧で覆い、顔すら見えない。
ただ、その剣だけが異様な存在感を放っている。
レティシアは歯を食いしばる。
「……重い!」
ドンッ!!
力任せに押し返す。
その瞬間――。
黒い剣士の姿が消えた。
「――!」
レティシアの背後。
「っ!」
ギィン!!
振り向きざまに剣を交差させる。
巨大な剣が二本の剣に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
ズザザザザッ!!
レティシアの身体が地面を滑る。
靴底が地面を削り、砂埃が舞い上がる。
「……速い!」
レティシアが顔を上げる。
黒い剣士はすでに目の前まで迫っていた。
「――――!」
振り下ろされる大剣。
レティシアは身体を捻る。
ズドォォォン!!
地面が爆発した。
「危なっ……!」
大剣が地面に突き刺さる。
レティシアはその柄を踏み台にして跳ぶ。
空中で身体を回転させ――。
「双月斬!!」
キィン!!
左右から同時に斬り込む。
しかし。
ガキィィン!!
黒い剣士は大剣を横に構え、二本の斬撃を同時に受け止めた。
「なっ……!」
レティシアの目が見開かれる。
そのまま黒い剣士が身体を回す。
「――!」
ブォン!!
大剣が横薙ぎに振り抜かれる。
レティシアは空中で剣を交差させた。
「くぅっ!」
ドォン!!
吹き飛ばされる。
「――――っ!」
地面へ落下する寸前。
レティシアは身体を捻り、片手を地面につける。
ドンッ!
そのまま跳ね起きる。
「……やっぱり」
レティシアは口元を拭った。
「こいつ……強い」
黒い剣士は何も言わない。
ただ、剣を構える。
「…………」
レティシアも二本の剣を構え直した。
「だったら――」
ニッ。
「私も本気でいくよ!」
その瞬間。
レティシアの姿が――。
「分身!」
シュンッ!!
もう一人のレティシアが現れた。
「行くよ!」
二人のレティシアが同時に走り出す。
「――!」
黒い剣士も迎え撃つ。
ガキィン!!
右。
ガキィィン!!
左。
キィン!
正面。
ドドドドドドッ!!
二人のレティシアが交互に斬り込む。
「双牙連閃!!」
二本の剣が連続して閃く。
「幻影双閃!」
残像が生まれる。
「烈風双刃!!」
風を巻き込みながら二人が左右から挟み込む。
黒い剣士はそれを一つずつ受け流していく。
「――――」
ギィン!
ガキィン!
キィィン!
まるで二人を相手にしているのではない。
一人の剣士が二人に増えただけ。
そう思わせるほど、黒い剣士の防御は正確だった。
「……っ!」
レティシアは驚きながらも笑う。
「そうこなくっちゃ!」
一人のレティシアが正面。
もう一人が背後へ回る。
「無影連斬!!」
左右から同時に斬撃が襲う。
黒い剣士は身体を沈める。
二本の剣が頭上を通過。
その瞬間――。
「――――!」
黒い剣士の大剣が回転した。
ドォン!!
分身のレティシアが吹き飛ぶ。
「っ!」
もう一人のレティシアが斬り込む。
ガキィィン!!
受け止められる。
そして。
ドンッ!!
腹部へ蹴り。
「ぐっ!」
レティシアの身体が後ろへ飛ぶ。
黒い剣士は追撃。
一歩。
二歩。
三歩。
大地を踏み砕くような踏み込み。
「――――!」
大剣が迫る。
レティシアは紙一重でかわす。
「幻歩!」
シュッ!
身体が横へ滑る。
大剣が空を切る。
しかし。
黒い剣士はすぐに追ってきた。
「――!」
「速っ!」
ガキィィン!!
レティシアの二本の剣が大剣を受け止める。
だが。
「ぐぅぅぅ……!」
腕が震える。
力では勝てない。
なら――。
「速さで勝負する!」
レティシアは身体を低くした。
「空歩!」
ドンッ!
地面を蹴る。
一瞬で空中へ。
さらに――。
「瞬歩!」
シュンッ!!
姿が消える。
黒い剣士が振り向く。
だが――。
誰もいない。
「――!」
次の瞬間。
「ここ!」
背後。
ズバッ!!
鎧に斬撃が走る。
黒い剣士が振り返る。
しかし、そこにもレティシアはいない。
「こっち!」
ズバァッ!!
反対側。
「まだ!」
ズバッ!!
肩。
「もう一回!」
ズバァッ!!
背中。
黒い剣士の鎧に傷が増えていく。
「――――」
黒い剣士は初めて後退した。
「……効いてる!」
レティシアが笑う。
だが――。
次の瞬間。
黒い剣士が大剣を地面へ突き立てた。
ドォォォォン!!
衝撃波が周囲へ広がる。
「――っ!」
レティシアは吹き飛ばされる。
「くっ!」
空中で身体を回転させる。
だが。
黒い剣士が追ってくる。
「嘘でしょ!」
空中で大剣が振り下ろされる。
「空歩!」
空中を蹴る。
ギリギリで回避。
「瞬歩!」
さらに移動。
黒い剣士も方向を変える。
「――――!」
「速い!」
シュン!
シュン!
シュン!
二人の姿が街中を駆け抜ける。
瓦礫の上。
崩れた屋根。
壁。
地面。
空中。
あらゆる場所を足場にして、二人は縦横無尽に動き回る。
「――――!」
ガキィン!!
「っ!」
レティシアの剣が弾かれる。
「くっ!」
二本目。
ギィン!!
それも受け止められる。
黒い剣士の肩がぶつかる。
ドンッ!!
「ぐあっ!」
レティシアが吹き飛ぶ。
そのまま瓦礫へ叩きつけられる。
ガラガラガラッ!!
「レティシア!」
分身が叫ぶ。
「……大丈夫!」
レティシアは立ち上がる。
口元から血が流れている。
左腕にも痛み。
足も少し震えている。
それでも。
「まだまだ……!」
分身が隣に並ぶ。
二人ともボロボロだった。
だが。
黒い剣士も同じだった。
鎧には無数の傷。
肩。
胸。
脚。
背中。
レティシアの剣が確実に削っている。
「…………」
黒い剣士が大剣を構える。
レティシアも構え直す。
「……ほぼ互角だね」
黒い剣士は答えない。
「だったら――」
レティシアが笑う。
「最後まで付き合ってよ!」
二人のレティシアが同時に走る。
「双月斬!」
左右から斬撃。
黒い剣士が受ける。
「双牙連閃!」
連続攻撃。
ガガガガガガガッ!!
黒い剣士が大剣を振る。
「幻歩!」
二人が同時に消える。
「空歩!」
上。
「瞬歩!」
下。
「――――!」
黒い剣士が振り向く。
しかし。
「遅い!」
レティシアが背後から斬る。
ガキィン!!
黒い剣士が受ける。
「こっち!」
分身が反対から斬る。
ガキィン!!
さらに。
「烈風双刃!」
ブォォォォン!!
風をまとった二本の剣が叩き込まれる。
黒い剣士が大剣で受け止める。
「――――ッ!」
そのまま押し返す。
ドォン!!
二人のレティシアが同時に吹き飛ぶ。
「くっ……!」
「まだ!」
二人が同時に立ち上がる。
レティシアは息を荒くする。
「はぁ……はぁ……!」
身体が重い。
限界が近い。
分身も同じだ。
だが。
「……一つだけ」
レティシアは黒い剣士を見る。
「私には、まだできることがある」
速さ。
これまで何度も磨いてきた。
空歩。
瞬歩。
立体機動。
そして――。
「瞬間機動」
シュンッ!!
レティシアの姿が消えた。
「――!」
黒い剣士が反応する。
しかし。
「こっち!」
ズバッ!!
「――!」
背中。
「こっち!」
ズバッ!!
脚。
「まだ!」
ズバッ!!
腕。
「まだまだ!」
ズバッ!!
胸。
レティシアは一秒の間に何度も姿を現しては消える。
一方向ではない。
右。
左。
上。
下。
背後。
正面。
斜め。
あらゆる方向から攻撃が飛んでくる。
「――――!」
黒い剣士は必死に大剣を振る。
だが、追いつけない。
「これが!」
ズバッ!
「私の!」
ズバッ!
「速さだぁぁぁ!!」
ズバァァァン!!
黒い剣士の鎧が大きく裂ける。
「――――ッ!」
黒い剣士が初めて大きくよろめいた。
「今だ!」
レティシアが叫ぶ。
分身も同時に動く。
二人が左右から駆ける。
「無影連斬!!」
ズガガガガガガガッ!!
無数の斬撃。
黒い剣士が大剣で受ける。
しかし。
「まだ終わらない!」
レティシアが上空へ。
「空歩!」
分身が地面を蹴る。
「瞬歩!」
二人の軌道が交差する。
そして――。
「烈風双刃!!」
二人の剣が同時に振り抜かれる。
ガァァァァァン!!
黒い剣士が大きく後退する。
「――――!」
だが、倒れない。
大剣を握り直す。
「……まだやるの?」
レティシアが息を切らしながら笑う。
黒い剣士が突進する。
「来た!」
大剣が振り下ろされる。
「幻歩!」
避ける。
横薙ぎ。
「空歩!」
跳ぶ。
突き。
「瞬歩!」
消える。
追撃。
「瞬間機動!」
一瞬で背後へ。
だが――。
黒い剣士も読んでいた。
「――――!」
振り向きざまの一閃。
「――っ!」
レティシアの肩を大剣がかすめる。
ドバッ!
「くぅぅっ!」
血が飛ぶ。
レティシアは地面へ転がる。
「レティシア!」
分身が駆け寄る。
「来ないで!」
レティシアが叫ぶ。
「……まだ、一人でできる」
ゆっくり立ち上がる。
肩から血が流れている。
足もふらつく。
それでも二本の剣を握る。
「私は……」
レティシアは剣を構えた。
「キラと並んで戦うために……」
一歩。
「剣神になるために……」
もう一歩。
「ずっと修行してきた!」
黒い騎士が迫る。
「だから――!」
レティシアの目が鋭くなる。
「この速さを……!」
シュンッ!!
消える。
「全部、剣に変える!!」
瞬間機動。
一秒。
その一秒の中に、何度も移動する。
黒い剣士が大剣を振る。
空振り。
「ここ!」
斬撃。
ガキィン!
受け止める。
「なら、こっち!」
シュン!
背後。
斬撃。
「まだ!」
シュン!
側面。
斬撃。
「まだまだ!」
シュン!
上空。
落下斬り。
ガァン!
黒い剣士がよろめく。
分身がそこへ入る。
「双月斬!」
左右から斬撃。
黒い剣士が受ける。
「双牙連閃!」
連続。
「無影連斬!」
さらに連続。
「烈風双刃!!」
最後の一撃。
レティシア本人が真正面から突っ込む。
「――――ッ!!」
二本の剣を交差させる。
「これで――!」
黒い剣士が大剣を振り上げる。
「終わりだぁぁぁぁ!!」
「――――!!」
レティシアの剣が交差する。
一瞬。
二人の姿が重なる。
そして――。
「双――」
踏み込む。
「剣――」
さらに加速。
「神――――!!」
ズガァァァァァァァァン!!!!
二本の剣が、黒い剣士の大剣を弾き飛ばした。
カラン……。
大剣が地面へ落ちる。
「――――」
黒い剣士が動きを止める。
胸元に、二本の斬撃が交差している。
レティシアはその場に立っていた。
「はぁ……はぁ……」
二本の剣を握ったまま。
身体中が傷だらけ。
服も破れ。
血も流れている。
それでも――。
「……私の勝ち」
黒い剣士の身体が、ゆっくりと揺れる。
そして。
ドサッ。
膝をついた。
「――――」
黒い鎧の隙間から、赤黒い光が漏れる。
やがてその身体は――。
サラサラ……。
黒い粒子となって崩れていく。
レティシアは黙ってそれを見つめた。
「…………」
粒子が風に流される。
黒い剣士がいた場所には――。
大剣だけが残された。
「…………終わった」
レティシアはその場に座り込む。
「……疲れたぁ」
分身も隣に座る。
「…………」
二人とも息を切らしている。
しばらくすると。
分身が少しずつ薄くなっていく。
「……あ」
シュゥゥゥ……。
消えていく。
「ありがと」
レティシアが小さく笑う。
「おかげで勝てた」
完全に分身が消える。
静かになった街。
レティシアは空を見上げる。
「……キラ」
まだ戦っている。
そして――。
「エリスも……」
先ほどまで聞こえていた戦闘音が、少しずつ遠くなっている。
レティシアは立ち上がる。
「私も……行かないと」
剣を握り直す。
身体は限界。
それでも足は止まらない。
「待ってて、キラ」
レティシアは走り出す。
「今度は――」
崩れた街並みの向こうへ。
「私も一緒に戦うから!」
その背中には――。
かつて剣士だった少女ではなく。
二本の剣を極めた――。
双剣神の姿があった。
第241話 終




