237話 キラとレティシア
――第二次魔族国大戦。
魔人国南門。
戦場右側。
「はぁ……はぁ……」
パオは肩で息をしていた。
額には大量の汗。
顔色も明らかに悪い。
「……ちょっと、使いすぎたヨ」
目の前には、パオが操る大量の死霊。
その数はあまりにも多い。
一体一体を動かすだけでも魔力を消費する。
それを何千、何万という規模で維持しているのだ。
「パオさん!」
少し離れた場所では、ジミーも息を切らしていた。
「はぁ……はぁ……」
白衣は泥だらけ。
髪も乱れている。
それでも手には、小型の魔導兵器。
「まだ……撃てます……!」
「ジミー」
パオが振り向く。
「もう休むヨ」
「でも……!」
「顔色悪いヨ」
「パオさんもです!」
「…………」
二人が顔を見合わせる。
そして――
「ふふ」
「ふふふ……」
なぜか同時に笑った。
「お互い様ヨ」
「ですね……!」
しかし、その直後。
「――そこ、どいて!」
声が響いた。
「え?」
パオが振り返る。
シュンッ!!
一人の少女が戦場を駆け抜けてきた。
二本の剣を手にしている。
「レティシア!」
「遅くなった!」
レティシアが二人の前に着地する。
「パオ、ジミー」
二人を見る。
「ちょっと休んで」
「でも……」
ジミーが言いかける。
レティシアは笑った。
「あとは任せて」
「…………!」
双剣を構える。
「私が戦う」
パオが目を細めた。
「レティシア……」
「うん」
「頼んだヨ」
「任せて!」
レティシアが前を見る。
そこには――
まだ大量の魔境兵。
「よし……」
レティシアが息を吸う。
「行くよ!」
ドンッ!!
地面が弾けた。
一瞬で敵陣へ飛び込む。
「なんだ!?」
「敵が来たぞ!」
魔境兵が剣を振る。
しかし――
レティシアは身体を横へ流した。
「甘い!」
キィン!!
双剣で攻撃を弾く。
そのまま身体を回転させ――
「双月斬!」
ザシュッ!!
二本の剣が同時に閃いた。
敵が倒れる。
「次!」
シュンッ!!
空歩。
空中を蹴る。
「そこ!」
瞬歩。
一瞬で敵の背後へ。
「無影連斬!」
ザザザザザッ!!
双剣が連続して閃く。
敵の武器を弾き。
身体を崩し。
次々と敵を倒していく。
「囲めぇぇぇ!!」
「一人だ!」
「数で押せ!!」
大量の魔境兵がレティシアを囲む。
「一人……?」
レティシアが笑う。
「それはどうかな?」
両手の剣を交差させる。
「――分身」
パァァァッ!!
光が弾ける。
レティシアの隣に――
もう一人のレティシアが現れた。
「……!」
「さあ」
本体が笑う。
「二人ならどう?」
二人のレティシアが同時に走り出す。
「行くよ!」
「うん!」
シュンッ!!
左。
右。
上。
背後。
二人の動きが完全に噛み合う。
片方が攻撃を受け流し。
もう片方が死角から斬り込む。
「な、なんだこいつら!?」
「同じ動きだと!?」
「速すぎる!!」
「――双牙連閃!」
ザザッ!!
「――幻影双閃!」
シュンッ!!
二人の剣が交差する。
魔境兵が次々と吹き飛ぶ。
さらに――
「立体機動!」
レティシアが空へ跳ぶ。
分身も同時に跳ぶ。
二人が空中で方向を変える。
「瞬間機動!」
消えた。
「どこだ!?」
「上だ!」
「いや、後ろ!!」
「遅い!」
ドン!!
背後から蹴り。
そして――
「無影連斬!!」
ザザザザザザッ!!
魔境兵が崩れ落ちる。
パオはその姿を見ながら、小さく笑った。
「……頼もしいヨ」
ジミーも目を輝かせる。
「すごい……」
「今は休むヨ」
「はい……!」
二人は後方へ下がる。
戦場右側。
今度は――
レティシアが戦線を支える。
---
一方。
戦場左側。
「はぁ……!」
ジオウが槍を振るう。
「――アイスランス!!」
ズガガガガガッ!!
氷の槍が地面から突き出し、魔境兵を吹き飛ばす。
しかし――
「多すぎる……!」
ジオウの息も荒くなっていた。
その左右ではヤルルとヨルルが戦っている。
「まだ来る!」
「分かってる!」
双子が短剣を振る。
キィン!
ガキィン!
「くっ……!」
「数が減らない!」
そのとき。
「――ジオウ!」
聞き慣れた声。
「……!」
ジオウが振り向く。
そこにいたのは――
キラ。
「キラ!」
キラは戦場を見渡した。
ジオウ。
ヤルル。
ヨルル。
三人とも限界に近い。
「三人とも、少し休んでて」
「しかし……」
「大丈夫」
キラが剣を抜く。
「ここは俺がやる」
ヤルルが驚く。
「お一人で?」
キラが笑う。
空を見上げる。
「魔法がある」
そして――
キラは剣を地面へ突き立てた。
魔力が膨れ上がる。
空気が震える。
雲が割れていく。
「…………」
ジオウが息を呑む。
「なんだ……この魔力は……」
キラが右手を空へ向ける。
「――天の刃」
ゴォォォォォォォォ……!!
空が光った。
魔境兵たちも異変に気づく。
「なんだ!?」
「空が……!」
「上を見ろ!!」
遥か上空。
巨大な光の剣が――
現れた。
一本。
いや。
一本ではない。
巨大すぎる。
戦場全体を覆うほどの光。
「…………」
キラが静かに呟く。
「落ちろ」
――――ズガァァァァァァァァァン!!
天から巨大な光の刃が落下した。
地面が爆発する。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
「逃げろ!!」
「無理だ!!」
光が戦場を飲み込む。
ドォォォォォォン!!
ドドドドドドドドド!!
衝撃波が走る。
地面が大きく揺れる。
魔境兵が次々と吹き飛ばされていく。
光が晴れたとき――
そこには巨大な光の斬撃跡が残っていた。
魔境軍の大軍勢。
そのほとんどが――
消えていた。
「…………」
ジオウは言葉を失う。
ヤルルも。
ヨルルも。
「これが……」
「キラ様の力……」
キラはゆっくりと息を吐いた。
「……ふぅ」
しかし。
戦場は完全には終わっていなかった。
残った魔境兵たちが、まだ動いている。
キラが剣を構え直す。
「まだいるか」
その瞬間。
空気が変わった。
「…………」
ジオウが顔を上げる。
「何だ……?」
魔境兵たちが突然、動きを止めた。
その後ろ。
ゆっくりと――
一人の男が歩いてくる。
「…………」
誰も何も言わない。
魔境将軍。
その圧倒的な存在感だけで、戦場の空気が変わった。
ヤルルが短剣を構える。
「……あれが」
ヨルルも構える。
「魔境将軍……」
キラは剣を握る。
しかし――
魔境将軍は何も言わなかった。
ただ、キラを一度見た。
そして――
くるり。
背を向けた。
「……?」
ジオウが目を疑う。
魔境将軍はそのまま歩いていく。
残った魔境兵たちも――
一斉に後退を始めた。
「撤退……?」
キラが呟く。
魔境軍が引いていく。
まるで、これ以上戦う意味がないと判断したかのように。
「なぜだ……」
ジオウが呟く。
キラは魔境将軍の背中を見つめる。
「…………」
何かがおかしい。
だが――
今は追うべきではない。
そのとき。
「キラ!」
中央から声が飛んできた。
「…………!」
振り返る。
アブソリューだった。
その隣にはチャルマとアルミン。
三人ともまだ戦える状態だ。
アブソリューが剣を納める。
「ここは私たちに任せろ」
キラが見る。
「でも――」
「敵は退き始めている」
アブソリューが言う。
「今なら行ける」
そして遠くを見る。
そこには――
魔境の地。
デダルクへ続く道。
「お前たちの目的は、ここで戦い続けることではないだろう」
「…………」
「デダルクへ向かえ」
キラは黙った。
そして――
「……分かった」
アブソリューが頷く。
「ここは任せろ」
「中央は私たちが守る」
チャルマも笑う。
「レティシアにもそう伝えておいて」
アルミンが続ける。
「先に行って」
キラは剣を鞘へ戻す。
「ありがとう」
そして振り返る。
遠くには――
右側で戦うレティシア。
後方のセリーナ。
ジュダ。
エリス。
そしてジオウたち。
キラは拳を握る。
「みんな……」
その声に――
ジュダが気づいた。
「キラ!」
キラが振り向く。
ジュダは戦場の中央から叫ぶ。
「先へ行け!」
キラは笑った。
「ああ!」
そして――
「デダルクへ向かうぞ!!」
その声が戦場に響いた。
レティシアも振り返る。
「……キラ!」
キラは走り出す。
レティシアも一度だけ仲間たちを見る。
「みんな!」
そして双剣を握る。
「あとで絶対追いつくから!」
戦場では、まだ戦いが続いている。
だが――
キラたちは次の戦場へ向かう。
目指す場所は一つ。
デダルク。
その先に待つ――
魔境の本拠地へ。




