236話 嬉しい助っ人
――第二次魔族国大戦。
魔人国南門。
戦場の中央では、左右の戦線よりもわずかに余裕が生まれていた。
右側ではパオとジミー。
左側ではジオウとヤルル、ヨルル。
それぞれが必死に魔境軍の進軍を食い止めている。
そのおかげで中央へ押し寄せる敵の数は、ほんの少しだけ減っていた。
しかし――
「余裕があるとはいえ……」
後方から戦場を見渡すジュダの目は鋭い。
遠くまで続く魔境軍。
倒しても倒しても、その後ろから次の兵士が現れる。
「……敵の数は尋常ではないな」
ジュダは周囲の状況を確認する。
そしてすぐに指示を飛ばした。
「右側へ兵を二千送れ!」
「はっ!」
「左側へ三千!」
「了解しました!」
伝令が走っていく。
ジュダはさらに戦場を見る。
「左右が崩れれば中央も終わる」
「今はまだ余裕がある。ならば、その余裕を他へ回す」
その隣では――
「こっちは任せてください!」
セリーナが後方に立っていた。
彼女の周囲には負傷した魔人兵たちが集まっている。
「次の方、どうぞです!」
「す、すまない……!」
セリーナは負傷した兵士へ手をかざす。
淡い聖なる光が広がった。
「ヒール……!」
ポゥゥ……。
傷がゆっくりと塞がっていく。
「ありがとうございます!」
「いえいえ! まだ戦えますか?」
「はい!」
「では無理はしないでくださいね!」
「分かりました!」
次の兵士が運ばれてくる。
「セリーナ様! こちらにも!」
「はいっ!」
セリーナは一人ずつ治療していく。
戦場の後方。
そこには――
戦いを支えるもう一つの戦場があった。
そして中央。
魔人軍の前線。
そこにエリスが立っていた。
「…………」
弓を構える。
魔力が矢へ集まる。
キィィィン……。
「――そこ」
シュッ!!
矢が放たれる。
一筋の光が戦場を駆け抜け――
ズドォォォン!!
魔境兵の集団が吹き飛ぶ。
「まだ……!」
エリスはすぐに次の矢を生成する。
「――行け!」
シュシュシュシュッ!!
無数の矢が降り注ぐ。
敵陣の動きが止まる。
「今だ!」
「中央を押せぇぇ!!」
魔人兵たちが前へ出る。
そのさらに前方。
二人の戦士がいた。
「はぁっ!!」
ガキィィン!!
「――っ!」
魔境兵の剣をキラが受け止める。
そのまま剣を滑らせ――
「そこだ」
ガンッ!!
敵の剣を弾き飛ばす。
そして魔法を発動。
「――テンペスト」
ゴォォォォォッ!!
猛烈な風が巻き起こり、敵をまとめて吹き飛ばす。
その横を――
「レティシア!」
「分かってる!」
シュンッ!!
レティシアが飛び込む。
空歩。
一歩。
さらに一歩。
空中を蹴るように移動しながら、敵の攻撃を紙一重でかわす。
「なっ!?」
「遅い!」
キィン!
短剣を弾く。
「――無影連斬!」
ザザザザザザッ!!
双剣が閃く。
敵の武器を弾き、足を崩し、次々と魔境兵を吹き飛ばしていく。
「すげぇ……!」
「中央の二人だけであれだけ……!」
魔人兵たちが驚く。
キラとレティシア。
二人は――
敵陣のど真ん中にいた。
「右!」
「分かった!」
キラが右へ向かって魔法を放つ。
「――ヴォルティック・アクア!」
バチィィィィン!!
水流と雷撃が渦を巻き、敵の集団を薙ぎ払う。
その直後。
レティシアが左から迫る敵を斬る。
「――双月斬!」
ズバァッ!!
「次!」
「任せろ!」
二人は言葉を交わしながら戦場を駆ける。
敵が多い。
いくら倒しても終わらない。
それでも――
レティシアが笑った。
「ねぇ、キラ」
「ん?」
「久しぶりだね」
レティシアは剣を構えたまま、キラを見る。
「二人で戦うの」
キラも敵を斬り飛ばしながら笑う。
「ああ」
そして、少しだけ昔を思い出す。
「そうだな」
二人で始まった。
まだ何も知らなかった頃。
キラが剣を握り。
レティシアが隣にいた。
二人だけで依頼を受け。
二人だけで魔物と戦い。
失敗して。
怒られて。
それでもまた立ち上がった。
あの頃は――
今のような戦場を想像することさえできなかった。
「懐かしいな」
キラが呟く。
「うん」
レティシアも笑う。
「でも……」
彼女の目が鋭くなる。
「今はあの頃とは違う」
「……ああ」
キラが剣を握り直す。
「数段強くなった」
「でしょ?」
レティシアがニヤッと笑う。
「私も強くなったんだからね!」
「知ってるよ」
「じゃあ、競争!」
「戦場でか?」
「そう!」
レティシアが走る。
「どっちが多く倒せるか!」
「お前、昔からそういうところ変わらないな」
「いいから来て!」
「はいはい」
キラも走る。
ドォン!!
二人が同時に敵陣へ飛び込んだ。
キラは剣。
そして魔法。
レティシアは双剣。
空歩。
瞬歩。
瞬間機動。
二人の姿が戦場を駆け抜ける。
「――アブソリュート・ゼロ!」
ゴォォォォォッ!!
絶対零度の冷気が敵を包む。
その氷の間をレティシアが走る。
「――無影連斬!」
ザザザザザッ!!
氷に足を取られた敵を一気に切り崩す。
「キラ!」
「分かってる!」
キラが剣を振る。
魔力が刃に集まる。
「魔法剣術――!」
ズガァァァァン!!
魔力を纏った斬撃が敵陣を横一文字に切り裂いた。
「やった!」
「まだだ!」
「え?」
キラが前を見る。
「来るぞ」
「…………!」
その先。
数百の魔境兵が一斉に押し寄せていた。
「うわ……」
レティシアが苦笑する。
「多すぎない?」
「まあな」
キラも苦笑した。
「でも――」
レティシアが双剣を構える。
「楽しいね」
キラは一瞬だけ目を丸くした。
そして――
「ああ」
剣を構える。
「楽しいな」
余裕があるわけではない。
一瞬でも気を抜けば囲まれる。
傷を負えば、そのまま押し潰される。
それでも二人は――
笑っていた。
激戦。
その中にある、ほんの少しの楽しさ。
昔と同じだった。
ただ――
二人は、あの頃とは比べ物にならないほど強くなっていた。
「行くよ、キラ!」
「おう!」
二人が同時に飛び出す。
そのときだった。
「――おい」
敵陣の奥から声が響いた。
「…………?」
レティシアが振り返る。
魔境兵たちの向こう。
誰かがこちらへ歩いてくる。
「なんだ?」
キラも足を止める。
魔境兵たちが左右なぎ倒され分かれていく。
そして――
「久しぶりだな、レティシア」
「…………!」
その声。
聞き覚えがある。
レティシアの目が大きく開く。
「……え?」
人の波の向こうから現れたのは――
一人の男。
その隣に二人の女性。
「…………」
剣を肩に担ぐようにして立っている。
剣神――
アブソリュー。
そして、その横には――
「チャルマ!」
「久しぶりね、レティシア!」
さらにその隣。
「……アルミン!」
「久しぶり!」
三人が立っていた。
「…………」
レティシアは一瞬、言葉を失った。
「なんで……?」
アブソリューが笑う。
「戦場だからな」
「助けに来た」
レティシアの顔が一気に明るくなる。
「アブソリュー!!」
彼女は嬉しそうに駆け寄ろうとする。
しかし――
「危ない!」
キラが叫ぶ。
「――っ!」
横から魔境兵が斬りかかってきた。
ガキィィン!!
レティシアが双剣で受け止める。
「っと!」
さらに後ろから別の敵。
「レティシア!」
アルミンが飛び込む。
キィン!!
その一撃を弾く。
チャルマも続く。
「再会を喜ぶのは後よ!」
「敵が多すぎる!」
ズガァァン!!
魔法が炸裂する。
次から次へと魔境兵が押し寄せてくる。
アブソリューが前へ出た。
「……なるほど」
周囲を見渡す。
「中央もかなり厳しいな」
キラが答える。
「そうだな」
「左右も激戦になってる」
レティシアが叫ぶ。
「アブソリュー! 私たちも戦う!」
アブソリューは静かに頷いた。
「その必要はない」
「え?」
アブソリューは剣を抜く。
ギラリ。
その瞬間――
空気が変わった。
「中央は私とチャルマ、アルミンが引き受ける」
「…………!」
アブソリューの周囲から凄まじい闘気が溢れ出す。
チャルマも剣を構える。
アルミンも一歩前へ出た。
「ここは私たちに任せろ」
アブソリューが言う。
「君たちは――」
敵陣の左右を見る。
「他を助けに行くといい」
レティシアが一瞬だけキラを見る。
キラも頷いた。
「分かった」
レティシアがアブソリューを見る。
「アブソリュー……」
「なんだ?」
「絶対に死なないでよ」
アブソリューは小さく笑った。
「誰に言っている」
「……そうだった」
レティシアも笑う。
「じゃあ、行ってくる!」
「行け」
「はい!」
レティシアは右側を見る。
そこでは魔境軍がパオ軍を押し込もうとしている。
「私は右!」
キラは左を見る。
ジオウ軍がかなり押し込まれている
「じゃあ俺は左だ」
「うん!」
二人はそれぞれ反対方向へ走り出した。
シュンッ!!
レティシアが瞬歩で加速する。
キラも地面を蹴る。
その背後。
中央に残ったアブソリュー、チャルマ、アルミン。
三人の前には――
数え切れないほどの魔境兵。
アブソリューが剣を構える。
「さあ」
チャルマが笑う。
「久しぶりに暴れますか」
アルミンも静かに構える。
「レティシアに負けていられない」
アブソリューが一歩踏み出す。
「来い」
「中央は――」
剣が閃く。
「我々が守る」
ズガァァァァン!!
三人が同時に敵陣へ突撃した。
一方――
右へ向かったレティシア。
左へ向かったキラ。
二人はそれぞれ、仲間たちが戦う場所へ向かっていた。
戦場はさらに広がっていく。
左右。
中央。
すべての場所で――
戦いが激しさを増していった。
236話 終。




