229話 超すごい半端ない砲
魔族国の門前。
先ほどまで響いていた激しい戦闘音は、少しずつ遠ざかっていた。
パオが操る数千体のアンデットたちが、魔境軍へ向かって進軍したことで、魔族国へ迫っていた敵の勢いは大きく削がれていた。
「……今のうちだな」
キラが呟く。
ジュダも頷いた。
「うむ。戻るぞ」
一行は急いで魔王城へと戻った。
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城へ戻ると、すぐにジオウのもとへ向かう。
「ジオウ!」
ジュダが声をかける。
「ジュダ様!」
ジオウが立ち上がる。
「アンデットの群れはどうなりました?」
「パオが操っておる」
ジュダが答える。
「魔族国へ向かってきたアンデットを反転させ、魔境軍へ向かわせた」
「……!」
ジオウが目を見開く。
「つまり、今はアンデットが魔境軍と戦っているのですね?」
「ああ」
キラが続ける。
「かなりの数だった。しばらくは時間を稼げると思う」
「そうですか……」
ジオウは少しだけ安堵する。
しかし――。
すぐに表情を引き締めた。
「ですが……」
「分かっておる」
ジュダが言う。
「守りを万全にせねばならん」
「はい」
ジオウは城内の兵士たちへ指示を出し始める。
門の防衛。
城壁の補強。
負傷者の治療。
食料。
武器。
魔力。
必要なものを次々と確認していく。
しかし――。
「……足りません」
ジオウが呟いた。
「兵力も」
「武器も」
「魔力も」
「時間も……」
ジュダが黙り込む。
魔境軍は一万を超える。
さらに、その上には六人の魔境将軍がいる。
SS級【天災】クラス。
魔族国の戦力だけで正面から戦えば――。
勝ち目はない。
「何もかもが足りん……」
ジュダが拳を握る。
「このままでは……」
誰も言葉を続けられなかった。
その時だった。
「……方法がないわけじゃない」
「!」
全員が振り返った。
キラだった。
「キラ?」
ジオウが尋ねる。
キラは全員を見渡す。
「今の戦力で、あの数を何度も相手にするのは無理だ」
「……そうじゃな」
ジュダも頷く。
「でも」
キラは続ける。
「二回」
「二回?」
パオが聞き返す。
「二回だけなら、敵軍を大きく退けられる」
キラの声は落ち着いていた。
しかし、その言葉に込められた意味は重い。
「まず一回目」
キラが右手を上げる。
「俺の広範囲魔法――」
光が集まり始める。
「天の刃」
ジオウが息を呑む。
「そして二回目」
キラはセリーナを見る。
「セリーナの――」
「ライトニングブラスト……!」
セリーナが自分で答える。
「そう」
キラは頷く。
「この二つなら、あの数を相手に大規模な時間稼ぎができる」
レティシアが腕を組む。
「二回だけか……」
「うん」
キラは真剣な顔で答えた。
「今の俺たちに、あの規模の軍勢を一気に押し返せる手段はそれくらいしかない」
「……なるほど」
エリスが呟く。
キラは続ける。
「それに――」
パオを見る。
「アンデットなら、パオに任せられる」
「私に?」
パオが首を傾げる。
「数千のアンデットを操れるなら、普通の魔境軍を相手にするよりずっと効率がいい」
ジュダが頷く。
「そうじゃな」
キラは少し考える。
「運が良ければ……あと三回」
「三回?」
レティシアが聞く。
「パオがまたアンデットを操れるなら、時間稼ぎはできる」
「……なるほどヨ」
パオが頷く。
キラは少しだけ視線を落とす。
「そのうち一回は――」
「今なのかもしれないけど」
全員が黙る。
「今、魔境軍とアンデットが戦っている」
「だから、この戦いでどれだけ敵軍を削れるか……それ次第だ」
ジオウは拳を握った。
「……それでも」
「備える時間が増える」
「そういうこと」
キラは頷いた。
「だから、その時間を無駄にしない」
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その時――。
バタバタバタッ!!
廊下から激しい足音が響いた。
「……?」
レティシアが振り返る。
そして扉が――。
バンッ!!
勢いよく開いた。
「み、みなさん……!」
そこに立っていたのは――。
白衣姿の少女。
「ジミー!」
ジュダが驚く。
ジミーは息を切らしていた。
そして、おどおどしながらも何かを抱えている。
「はぁ……はぁ……」
「どうした?」
キラが聞く。
ジミーは小さく息を整える。
そして――。
「魔法兵器……」
一同が身構える。
「完成しました……!」
「……!」
ジュダの目が見開かれる。
「もう完成したのか!?」
「は、はい……」
ジミーは頷く。
「ただ……」
少し申し訳なさそうな顔をする。
「移動させて……設置するまでには……かなり時間を使います……」
「それでも早いな」
ジュダが驚く。
ジミーは少し照れたように笑った。
「えへへ……」
そして――。
「実は……」
「そんなに大したことはしてないんです」
「?」
キラが首を傾げる。
「魔法兵器そのものは、もうほとんど完成していました」
「ならば何をした?」
ジュダが尋ねる。
ジミーは胸元から、小さな魔力石を取り出した。
「これを……」
白く輝く魔力石。
「キラさんからもらったルミナを込めた石を……」
「兵器に――」
ジミーは指を立てる。
「はめただけです」
「…………」
一同が沈黙する。
ジュダが呆れたように笑った。
「……それはもう」
「完成しておるのと同じではないか」
「えへへ……」
ジミーは照れながら笑う。
だが――。
次の瞬間。
ジミーの表情が変わった。
少し胸を張る。
そして――。
今までにないほど自信満々な顔をした。
「でも!」
「?」
「名前はちゃんと考えました!」
「名前?」
キラが聞く。
ジミーは拳を握る。
そして――。
「この魔法兵器の名前は!」
一拍。
「超すごい半端ない砲です!!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
キラ。
レティシア。
エリス。
セリーナ。
ジュダ。
パオ。
ジオウ。
全員――。
ポカーン。
誰一人として言葉が出なかった。
「……」
「……」
「……」
最初に口を開いたのはレティシアだった。
「……名前、それ?」
「は、はい!」
ジミーは満面の笑み。
「分かりやすいですよね!」
「いや……」
キラが困った顔をする。
「分かりやすいけど……」
ジュダは頭を抱えた。
「ジミー……」
「はい!」
「おぬし……昔からそういうところは変わらんのぉ……」
「えっ?」
「いや、なんでもない」
その横でパオがジミーを見る。
そして――。
「……超すごい半端ない砲」
「うん!」
「名前……強そうヨ」
「ですよね!」
パオが真顔で頷く。
「うむ」
ジュダがツッコむ。
「おぬしも納得するな!」
「ふふっ」
セリーナが笑い始める。
「す、すごい名前です……!」
エリスも思わず微笑む。
「でも……」
キラは魔力石を見る。
そこには確かに――。
ルミナの光が宿っている。
「名前はともかく……」
キラの表情が真剣になる。
「本当に魔境軍へ通用するなら、これは大きな戦力になる」
ジミーは頷いた。
「はい!」
「絶対に……」
小さな拳を握る。
「役に立たせてみせます!」
キラは笑った。
「期待してる」
こうして――。
魔族国には新たな切り札が生まれた。
その名も――。
超すごい半端ない砲。
しかし。
その兵器を設置するためには、まだ時間が必要だった。
そしてその時間を稼ぐため――。
キラたちは、二つの大魔法とパオの死霊軍に希望を託す。
一方、魔族国の外では――。
数千のアンデットと魔境軍が、今も激しくぶつかり続けていた。
轟音が――。
魔王城まで響いている。
第229話 終




