227話 パオの能力
魔族領を進み続けたキラたちは、ついに魔族国の中心部へと辿り着こうとしていた。
遠くに見える巨大な城。
魔族国の中心にそびえ立つ――魔王城。
「見えてきたね!」
レティシアが嬉しそうに声を上げる。
「あれが魔王城ですか……」
エリスも目を向ける。
「大きいですね……」
セリーナは城を見上げる。
ジュダは懐かしそうに魔王城を眺めていた。
「……久しぶりだな」
やがて一行は、魔王城の門へと到着した。
すると――。
門の前に、一人の女性が立っていた。
黒髪をまとめ、チャンパオを身に着けている。
どこか独特な雰囲気を持った女性だった。
ジュダが彼女を見る。
そして――。
「パオよ」
女性が振り向く。
「久しぶりじゃ」
「!」
女性は目を丸くしたあと、ニコッと笑った。
「ジュダ様、お久しぶりヨ」
彼女の名は――パオ。
魔族国に仕える女性だった。
「元気そうじゃな」
「ジュダ様も元気そうネ」
二人は軽く言葉を交わす。
するとジュダが思い出したように尋ねた。
「そうじゃ、パオ」
「何ヨ?」
「天空の塔について聞きたい」
「天空の塔?」
「うむ。我々は先日、天空の塔へ行ってきた」
キラたちも頷く。
「そこで神の書を見つけたんだ」
キラが説明する。
「そして……」
ジュダが続ける。
「天空の塔にあったはずの、魔境へ続く門がなかった」
「…………」
キラたちも改めて思い出す。
そう。
天空の塔には、かつて魔境へ繋がるとされていた魔境封門があったはずだった。
しかし――。
神の試練を終えた現在。
その門は存在していなかった。
パオは少しだけ考えた。
そして――。
ニコッと笑う。
「ここで話すのは疲れるヨ」
「え?」
「まずは、お城に入るヨ」
そう言ってパオは魔王城の中へ歩き出した。
「お、おう」
キラたちもその後を追う。
---
魔王城の中へ入る。
広大な廊下。
高い天井。
以前とは違う、穏やかな空気が城内には流れていた。
天空の塔での出来事を話しながら奥へと進む。
やがて一行は、大きな部屋へと案内された。
そこにいたのは――。
「ジュダ様!」
魔族国の現国王、ジオウ。
ジュダとジオウは顔を合わせる。
「久しいの」
「そうですね」
二人は軽く握手を交わした。
「国の様子はどうじゃ?」
ジュダが尋ねる。
ジオウは頷いた。
「今のところ、大きな問題はありません」
「魔境軍は?」
「動きはありません」
「そうか」
ジオウは続ける。
「国も少しずつ元の状態へ戻っています」
「人間族からの支援も大きかったですね」
「うむ」
ジュダは満足そうに頷いた。
「人間族との同盟も上手くいっているようじゃな」
「はい。今では互いに協力し合っています」
「分かった」
ジュダは立ち上がる。
「引き続き頼むぞ」
「はい!」
ジオウは頭を下げた。
「お任せください」
そしてジオウはキラたちへ向き直る。
「皆さんも、どうぞお座りください」
一行は用意された椅子へ座った。
キラ。
レティシア。
エリス。
セリーナ。
ジュダ。
そしてパオ。
全員が席についたところで――。
パオが口を開いた。
---
「では……天空の塔の魔境門について話すヨ」
キラが真剣な表情になる。
「頼む」
パオは手を組む。
「結論から言うと――」
一呼吸置く。
「恐らく、封印の強化が行われたことで、時空の裂け目そのものがなくなったと思われるヨ」
「時空の裂け目そのものが……?」
エリスが聞き返す。
「そうヨ」
パオは頷く。
「魔境へ繋がる門は、普通の扉ではないヨ」
「時空そのものにできた裂け目を利用して、向こう側へ移動するためのものヨ」
キラは腕を組む。
「つまり……」
「神の試練によって世界の封印が強化された」
ジュダが続ける。
「それによって、その裂け目自体が消滅したということじゃな」
「その可能性が高いヨ」
キラたちは頷いた。
「なるほど……」
「じゃあ、魔境へ行く方法は?」
キラが尋ねる。
パオの表情が変わった。
「現在、魔境へ行く方法は一つだけヨ」
「……一つ?」
「魔境国デダルクにある、魔境門」
部屋が静かになる。
「そこからしか、もう向こう側へ行くことはできないヨ」
キラは頷く。
「やっぱりデダルクか」
「そうヨ」
パオは続ける。
「デダルクは魔境との繋がりが非常に深い場所ヨ」
「だから、世界の封印が強化された今も、魔境門だけは残っているはずヨ」
「なるほど」
キラは考える。
「つまり、俺たちはデダルクへ行く必要がある」
「そういうことヨ」
しかし――。
パオの次の言葉で、空気が変わった。
「でも……」
「簡単には行けないヨ」
---
「現在、デダルクの周囲には――」
パオは静かに告げる。
「1万を超える魔境軍が待ち構えているヨ」
「1万……!?」
レティシアが目を見開く。
「そんなに……」
エリスも驚く。
セリーナは少し青ざめる。
「い、一万……」
ジュダは腕を組む。
「なるほどな」
パオは続けた。
「デダルクへ入るには、その軍勢を突破する必要があるヨ」
「それだけじゃないヨ」
「魔境軍には、さらに厄介な存在がいる」
キラが聞く。
「……魔境将軍か?」
「そうヨ」
パオは頷いた。
「調査の結果、現在確認されている魔境将軍は――」
「六人」
「六人……」
キラが呟く。
パオは分かりやすく説明するため、こう続けた。
「強さを例えるなら――」
「SS級【天災】クラスの魔物に匹敵するヨ」
「…………」
全員が黙った。
SS級。
それは、S+をさらに上回る領域。
まさに災害そのものと呼べる存在。
それが――六人。
「魔族国には、そいつらと対抗できる戦力がないヨ」
パオが言う。
「……」
ジュダは黙って聞いている。
「今の各国で対抗できる可能性があるのは――」
パオは名前を挙げる。
「レオン」
「そして――前魔王ベルゼル」
「この二人くらいヨ」
キラは頷く。
「やっぱりレオンとベルゼルか」
しかし、パオは首を横に振った。
「それでも足りないヨ」
「だから今、人間族にも協力を求めて、他にも対抗できる戦士を招集しているところヨ」
「でも……」
パオは少し困ったように笑う。
「まだ足りないヨ」
---
そこでキラが思い出した。
「……魔法兵器」
「!」
パオが反応する。
「ジミーの研究所にあった兵器だ」
キラが言う。
「あれがあればなんとかなるかも」
レティシアも頷く。
「でも、実験では魔境軍には効かなかったヨ」
パオが言う。
「だと思って俺がルミナを魔力石に込めた」
ジュダが口を開いた。
「そうじゃジミーからの提案じゃがの」
「魔境の奴らに効果を発揮する魔法を授けてきたところだ」
パオが目を見開く。
「ほんとカ?」
「うむ」
ジュダは得意そうに笑う。
「ジミーは今頃、研究を始めていると思うぞ」
「……それなら」
パオは少しだけ表情を明るくした。
「兵器が完成するまで時間を稼ぐ必要があるヨ」
「そしてレオンとベルゼルが来るまでの時間も必要ヨ」
キラは頷く。
「なるほど」
デダルクへ向かうには、まず戦力を整えなければならない。
六人の魔境将軍。
一万を超える魔境軍。
それを突破して、魔境門へ辿り着く。
「……いよいよだな」
キラが呟く。
その時だった。
「ジオウ様!」
「パオ様!」
バンッ!
部屋の扉が勢いよく開いた。
兵士が駆け込んでくる。
「緊急です!」
「どうした?」
ジオウが立ち上がる。
兵士は息を切らしながら叫んだ。
「アンデットの集団が現れました!」
「何!?」
キラたちも一斉に立ち上がる。
「アンデットだと?」
ジュダが聞き返す。
「はい!」
「どこに現れた?」
「魔王城からそれほど遠くない場所です!」
レティシアが剣へ手を伸ばす。
「じゃあ、私たちも――」
しかし。
「待て」
ジュダが手を上げた。
「アンデットか?」
ジュダはパオを見る。
そして――。
「なら、パオに任せておけば大丈夫じゃろう」
「え?」
キラが驚く。
パオはニコッと笑った。
「任せるヨ」
「一人で大丈夫なのか?」
キラが尋ねる。
「大丈夫ヨ」
パオは椅子から立ち上がる。
「私が行ってくるヨ」
そう言うと――。
パオは一人、王城を後にした。
「…………」
キラたちは、去っていくパオの背中を見つめる。
レティシアが首を傾げた。
「……そんなに強いの?」
ジュダは意味深に笑った。
「見ていれば分かる」
「パオが何者なのかをな」
キラは静かに城の外へ目を向ける。
遠くから――。
地響きのような音が聞こえてきていた。
第227話 終




