226話 魔族兵器研究所
町を出たキラたちは、再び魔族領の奥へと進んでいた。
目的地は魔人族の国。
その先にあるのは、魔境国デダルク。
そして、世界を脅かしている魔境軍との戦い。
「この辺りまで来ると、さすがに景色も変わってくるな」
キラが周囲を見渡す。
人間の国とは違い、魔族領には荒々しい岩山や深い森が多い。
「…………」
その時だった。
ジュダが突然、足を止めた。
「ん?」
「どうした?」
キラが振り返る。
ジュダは周囲を見渡している。
「……たしか、このあたりに……」
「何かあるの?」
レティシアが首を傾げる。
「いや……昔、ここを通ったことがあるのだ」
ジュダは辺りをキョロキョロと見回す。
「もう少し先だったような……」
「何を探してるんですか?」
セリーナも周囲を見る。
「建物、、らしきものだ」
「分からないの!?」
レティシアがツッコむ。
「うるさい。記憶など曖昧になるものだ」
「魔王なのに?」
「魔王でも忘れることくらいある!」
そんなやり取りをしながら、しばらく歩く。
そして――。
ジュダの目が大きく開いた。
「あっ!」
「見つかった?」
エリスが聞く。
「あった!」
ジュダが指を差した。
そこには、森の中にひっそりと建っている大きな建物があった。
「……あれは?」
キラが目を細める。
建物自体はかなり古い。
壁には苔が生え、ところどころヒビも入っている。
そして入口の上には――。
『魔法兵器研究所』
と、汚い字で書かれた看板がぶら下がっていた。
「…………」
キラは看板を見つめる。
「字、汚いな」
「そこは言うな」
ジュダが即座に返した。
そして――。
「あそこへ行くぞ」
ジュダが先頭に立つ。
「みんな、来い」
「お、おう」
キラたちはジュダについていった。
---
研究所の前に立つ。
ジュダが扉へ手を伸ばす。
「入るぞ」
ギィィィィ……。
古びた扉が開く。
「……!」
中へ入った瞬間。
キラたちは言葉を失った。
そこには――。
巨大な兵器が並んでいた。
人間の身体など簡単に超えてしまうほど巨大な砲台。
巨大な魔力炉。
見たこともない形をした機械。
そして、壁一面に張り巡らされた魔法陣。
「すご……」
レティシアが目を輝かせる。
「こんなの見たことないよ」
「私もです……」
エリスも周囲を見渡す。
セリーナは巨大な機械を見上げ、
「これ……どうやって使うんでしょう?」
「さあな」
キラも興味深そうに兵器を観察する。
すると――。
「……ひょこ」
巨大な兵器の影から、小さな顔が出てきた。
「……?」
その人物はキラたちを見る。
そして、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
ジュダがその姿を見て笑った。
「久しぶりじゃのぉ、ジミー」
「……!」
少女は少しびくっとする。
そしておどおどしながら頭を下げた。
「お、お久しぶりです……ジュダ様……」
---
少女はキラたちの前に立つ。
低い身長。
ジト目。
頬にはそばかす。
どこか小動物のような雰囲気をしている。
「えっと……」
少女はキラを見る。
「は、初めまして……」
「初めまして」
キラが笑顔で返す。
「俺はキラ。冒険者だ」
「キラ……様……」
「様はいらないよ」
「は、はい……」
ジミーは小さく頷く。
ジュダが説明する。
「こやつはジミー。この研究所で魔法兵器の研究をしておる」
「魔法兵器……」
キラが周囲を見る。
「これ全部?」
「は、はい……」
ジミーが頷く。
「元々ここは……人間を相手にするための兵器を研究する場所でした」
レティシアが少し驚く。
「人間と戦うため?」
「はい……」
ジミーは目を伏せる。
「ですが……」
少し間を置いて、
「人間と魔族が同盟を結んだことで……研究の目的がなくなってしまいました」
「なるほど」
キラが頷く。
「それで、今は?」
「ジオウ様が……」
ジミーは少しだけ顔を上げた。
「対魔境軍用の兵器を作れ、と指示してくださいました」
「ジオウが?」
ジュダが嬉しそうに笑った。
「さすがジオウじゃ!」
「魔族同士で戦うための兵器から、世界を守るための兵器へ……か」
キラも感心する。
「それで、研究はどこまで進んだ?」
ジュダが聞く。
ジミーは少し困った顔をした。
「破壊力だけなら……申し分ありません」
「ほう」
「人間どころか……普通の魔物なら、一撃で倒せます」
「それは凄いな」
キラが兵器を見る。
しかしジミーは続けた。
「でも……」
「魔境軍には……通用しません」
「…………」
空気が変わる。
「なぜだ?」
ジュダが尋ねる。
「分からないんです……」
ジミーは兵器を見上げる。
「威力は十分。魔力出力も問題ない。何度実験しても、普通の魔物には効果があります」
「でも魔境軍には効かない」
「はい……」
ジミーは頭を抱える。
「理由が……分からなくて……」
その時だった。
レティシアが何気なく言った。
「え?」
全員がレティシアを見る。
「キラのルミナがないからじゃないの?」
「…………え?」
ジミーが固まった。
「ルミナ……?」
「うん」
レティシアは淡々と説明する。
「魔境軍とか黒魔法って、普通の魔法とは違うじゃん」
「……はい」
「キラのルミナなら、黒魔法を浄化したり、魔境の力に対抗できる」
「…………」
「だから兵器そのものの威力が足りないんじゃなくて、魔境軍に対抗するための力が入ってないんじゃない?」
「…………!」
ジミーの目が大きくなる。
「そうか……」
「え?」
「そういうことだったのか……!」
ジミーは兵器を見つめる。
「今まで私は、単純な破壊力ばかりを上げていました……」
そして――。
「魔境軍そのものに対抗する力を入れていなかった……」
「たぶんね」
レティシアが頷く。
「なら……!」
ジミーは突然研究所の奥へ走っていった。
「ちょっと待ってください!」
「?」
しばらくすると――。
小さな魔力石を持って戻ってきた。
「キラさん!」
「これ?」
「はい!」
ジミーは魔力石を両手で持つ。
「これに……魔力は込められますか?」
キラは魔力石を見る。
「もちろん」
「どれくらい……?」
「入るだけ入れてみようか」
「えっ……」
キラは魔力石に手をかざした。
「――ルミナ」
シュゥゥゥ……。
白い光がキラの手から流れ込む。
魔力石が淡く輝く。
さらに光が強くなる。
「……!」
ジミーが目を見開く。
「まだ入るな」
キラはさらにルミナを注ぐ。
魔力石全体が白く輝く。
「よし」
キラが手を離した。
「これで十分だろ」
ジミーは魔力石を両手で包み込む。
「…………」
そして――。
「……ふふ」
小さく笑った。
キラは驚いた。
ジミーが笑ったのを初めて見たからだ。
「ルミナ……」
ジミーは魔力石を見つめる。
「ほんの少しでも……効果があるんですか?」
「ああ」
キラは頷く。
「ルミナは量だけが重要じゃない。少しでも混ざれば、力の性質そのものを変えられる」
「…………」
ジミーの目が輝く。
「だったら……」
魔力石を胸元へ抱える。
「やってみます!」
「頑張って」
キラが笑う。
「魔境軍に通用する兵器、作ってみてくれ」
「はい!」
ジミーは勢いよく頭を下げた。
「完成まで……頑張ります!」
そして研究室へ戻っていく。
「あ、ジミー」
「はい?」
「無理はするなよ」
「…………」
ジミーは少し驚いた顔をして――。
「はい」
今度は、さっきよりもはっきり笑った。
そして研究室の奥へ消えていった。
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しばらく沈黙が続いた。
ジュダがジミーの消えた方向を見る。
「…………」
「どうした?」
キラが尋ねる。
ジュダは小さく呟いた。
「あやつが笑った顔など……初めて見た」
「え?」
「私が知る限り、あやつはいつもおどおどしておった」
ジュダは少し嬉しそうに笑う。
「研究しか頭になく、人と話すことすら苦手な奴だった」
「でも、今は違ったな」
「うむ」
ジュダは研究室の奥を見る。
「……良い顔をしておった」
そして突然、ジュダが振り返った。
「よし」
「?」
「もう一人、会わせたい奴がおる」
「もう一人?」
「そうだ」
ジュダは歩き始める。
「魔族国の城へ向かうぞ」
「城?」
レティシアが目を輝かせる。
「誰がいるの?」
「それは着いてからのお楽しみだ」
ジュダは意味深に笑った。
キラたちは顔を見合わせる。
「……行くか」
「ああ!」
こうして一行は、魔族国の中心へと向かう。
そこには――。
ジュダが「もう一人会わせたい」と思う人物が待っていた。
第226話 終




