224話 マニルでの依頼
オギデストラを出発して数日。
キラたちは、広大な森を抜け、ついにマニル連合国へと到着した。
かつて内乱に揺れた国。
そして今では、人間を含む五種族が協力し、一つの国として歩み始めている場所。
「マニル……」
キラが街を見渡す。
以前訪れたときよりも、街には活気が戻っていた。
「懐かしいな!」
レティシアが嬉しそうに声を上げる。
「エリスの故郷だもんね」
セリーナも辺りを見回す。
「はい」
エリスは少し嬉しそうに微笑んだ。
「おじいちゃん、元気かな」
「まずは挨拶だな」
キラが言う。
「マニル連合国の国王――そしてエリスの祖父、サーベンに会いに行こう」
「うん!」
五人はそのまま、マニル連合国の王城へ向かった。
---
王城へ入る。
案内された広間の大きな扉が開いた。
「おお!」
最初に声を上げたのは――
エルフ族の長、サーベンだった。
「キラ!」
「久しぶり、サーベン」
「よく来たな!」
サーベンは嬉しそうに笑う。
そして、
「エリス!」
「おじいちゃん!」
エリスが駆け寄る。
サーベンはエリスの肩に手を置き、しばらくその顔を見つめた。
「元気そうで何よりだ」
「うん。私も元気だよ」
「そうか……」
サーベンは目を細める。
「本当に強くなったようだな」
「まあね」
エリスが少し胸を張る。
「私も頑張ったから」
「聞いているとも」
サーベンが笑う。
そして広間には、他の四種族の代表も揃っていた。
「久しぶりだな、キラ!」
豪快な声。
竜人族の長――トライゴン。
「元気そうじゃの」
ドワーフ族の長――ベンガル。
「久しぶりですね」
人魚族の王――ハイドロ。
そして――
「……」
獣人族の王――ガミオン。
五人が揃っている。
キラは一人ずつ顔を見る。
「みんな、久しぶり」
「お前たちの話は聞いておるぞ!」
トライゴンが笑う。
「魔境軍と戦い、魔王と同盟を締結したそうではないか!」
「本当に大したものだ」
ベンガルも笑う。
ハイドロも頷く。
「世界各地で戦っていると聞いています」
「まあ、色々あったよ」
キラが苦笑する。
レティシアも笑った。
「ほんっとに色々あったんだから!」
「聞いているだけでも驚くわい」
ベンガルが笑う。
そして――
キラの視線がガミオンへ向く。
ガミオンは以前とは違う。
かつて黒い魔力に操られ、キラたちと敵対した。
だが今は、完全に正気を取り戻している。
「ガミオン」
「……キラ」
ガミオンも静かに答える。
「久しいな」
「ああ」
キラは少し心配そうにガミオンを見る。
「体の調子は大丈夫か?」
「問題ない」
ガミオンは胸に手を当てる。
「以前の黒い魔力による影響も、今は感じていない」
「本当に?」
「ああ」
それでもキラは納得しきれないようだった。
「無理はするなよ」
ガミオンが目を見開く。
「……心配しているのか?」
「当たり前だろ」
キラは即答した。
「一度操られて、あれだけのことがあったんだ。完全に元気になったからって、無理する必要はない」
ガミオンはしばらく黙っていた。
そして――
「……ありがとう」
小さく笑った。
「お前は変わらんな」
「そうかな?」
「ああ」
トライゴンが笑う。
「相変わらず仲間思いだ!」
「まあ、それがキラだからね」
エリスも微笑む。
ジュダは腕を組みながら、
「当然だ」
セリーナも頷く。
「キラさんは優しいですから」
「……そういうの本人の前で言うなよ」
キラが少し照れた。
レティシアが笑う。
「照れてる!」
「うるさい」
広間に笑い声が響いた。
久しぶりの再会。
五種族の代表たちとの話はしばらく続いた。
そして――
サーベンが少し真剣な表情になる。
「ところで、キラ」
「ん?」
「実はマニルでは、今かなり困っていることがある」
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マニル冒険者ギルド。
キラたちが入ると、受付の職員が慌てて駆け寄ってきた。
「キラ様!」
「サーベンから聞いた。高ランク依頼が溜まってるんだって?」
「はい……」
受付嬢は困ったように頷いた。
「先の内乱の影響で、高ランク冒険者が足りていないんです」
「なるほど」
「強力な魔獣が各地に出現しているのですが、討伐できる人間がいなくて……」
受付嬢は机の上に依頼書を並べた。
一枚。
二枚。
三枚。
そして――
五枚。
「特に緊急性が高いのが、この五件です」
キラが依頼書を見る。
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Sランク魔獣
レッドスネーク
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Sランク魔獣
オークロード
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S+ランク魔獣
怪鳥ゴルソック
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S+ランク魔獣
キマイラ
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S+ランク魔獣
レッドドラゴン
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「……」
キラが五枚を見る。
レティシアがニヤリと笑った。
「これ、全部受けようよ」
「そうだな」
キラが頷く。
受付嬢が驚く。
「五件すべて……ですか?」
「うん」
「ですが、S+が三体も……」
「大丈夫」
キラは依頼書をまとめて受け取った。
「全部、討伐してくる」
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◆ キラ――レッドスネーク
最初の標的。
深い森の奥。
キラが一人で歩いていると――
ザザザザザッ!!
突然、地面が盛り上がった。
「!」
ドォォォン!!
巨大な蛇が地面を突き破って現れる。
赤い鱗。
鋭い牙。
巨大な体躯。
レッドスネーク。
「シャァァァァァァァ!!」
口を大きく開ける。
そして――
一直線。
キラへ噛みつく。
ズガァン!!
地面が砕ける。
だが、そこにキラはいない。
「遅い」
レッドスネークの頭上。
キラが空中にいた。
「――テンペスト・ゼロ」
ゴォォォォォォ!!
極限まで圧縮された風が炸裂する。
レッドスネークの巨体が横へ吹き飛ぶ。
ズドォォォン!!
木々を何本もへし折る。
それでも立ち上がろうとする。
「シャアアアアッ!!」
「まだ動くか」
キラは剣を抜いた。
左手に魔力。
「ヴォルティック・アクア」
水流が渦巻く。
そこへ雷が走る。
バチバチバチッ!!
巨大な水の渦がレッドスネークを包み込む。
「シャ――」
一瞬、動きが止まる。
キラは踏み込んだ。
「終わりだ」
一閃。
ズバァァァン!!
レッドスネークの巨体が地面へ沈んだ。
「討伐完了」
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◆ レティシア――オークロード
山岳地帯。
レティシアの前に巨大なオークが立つ。
身長五メートル。
手には巨大な斧。
「ブモォォォォォォ!!」
斧が振り下ろされる。
ドゴォォォォン!!
岩盤が砕ける。
「おっと!」
レティシアは横へ跳ぶ。
「結構力あるじゃん!」
オークロードが咆哮。
再び斧を振る。
ブンッ!!
「遅い!」
レティシアの姿が消える。
瞬歩。
次の瞬間。
オークロードの背後。
「双月斬!」
ザンッ!!
二本の剣が交差する。
オークロードが振り返る。
「ブモォ!?」
「こっち!」
今度は上。
空中を走る。
空歩。
そのまま、
「瞬間機動!」
――消える。
右。
左。
背後。
正面。
無数の残像が生まれたように見える。
「ブモォォォォ!?」
オークロードが斧を振り回す。
しかし一撃も当たらない。
「そんな大振りじゃ――」
レティシアが真正面に現れる。
「私には当たらないよ!」
「無影連斬!!」
ズバババババババッ!!
斬撃の嵐。
最後に二本の剣が同時に走る。
ズバァァァン!!
オークロードが崩れ落ちる。
「よし!」
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◆ エリス――怪鳥ゴルソック
空。
巨大な怪鳥が旋回している。
翼を広げれば三十メートルを超える。
「ギャァァァァァァ!!」
風圧だけで木々が揺れる。
ゴルソックが急降下。
ヒュォォォォォォ!!
同時に大量の風刃。
ヒュンッ!
ヒュンッ!
ヒュンッ!
エリスは目を細める。
「……」
一歩。
身体を傾ける。
風刃が髪を数本切り裂く。
「見えた」
エリスが手を伸ばす。
「精霊弓王」
シュンッ!!
光が集まり、巨大な魔力の弓が現れる。
そして矢を一本。
「アルテミス・レイン――ゼロ」
引き絞る。
キィィィィィン……!
一本の矢が異常なほどの魔力を蓄える。
ゴルソックが突っ込んでくる。
「ギャアアアアア!!」
エリスは笑った。
「――そこ」
放つ。
ドォォォォォォォン!!
矢が空を貫く。
竜巻を突き破り、ゴルソックの翼を貫通。
「ギャアアアアア!!」
巨体が落下する。
ズドォォォォン!!
エリスは弓を消した。
「よしっ」
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◆ セリーナ――キマイラ
荒野。
三つの頭を持つ巨大な魔獣。
キマイラ。
獅子の頭が唸り。
山羊の頭が吠え。
蛇の頭が舌を伸ばす。
「グルルルル……」
三つの口が同時に開く。
炎。
雷。
毒。
三つの攻撃がセリーナへ殺到する。
「ひゃっ!」
セリーナは慌てて横へ転がる。
ドォン!!
バチィッ!!
ブシュゥゥ!!
「危なかったです……」
立ち上がる。
そして眼鏡を直す。
「でも……」
キマイラが突進。
「頑張ります!」
両手を地面につける。
「――ソーンレクイエム!」
ズガガガガガガガッ!!
大地から無数の光の棘が噴き出す。
キマイラの足を拘束。
「グオオオオオ!!」
キマイラが力ずくで引き抜こうとする。
「逃がしません!」
セリーナが両手を前へ。
「ソーンチェイン!」
シュルルルルッ!!
光の棘が伸びる。
逃げるキマイラを追い続ける。
ガシィッ!!
身体を拘束。
「グオッ!?」
そして――
セリーナは両手を額の前へ。
人差し指と中指でダイヤを作る。
「聖なる力よ……」
周囲の空気が震える。
キマイラが暴れる。
「グオオオオオオオ!!」
「――ライトニングブラスト!!」
ズガァァァァァァァァン!!
巨大な光が荒野を走る。
キマイラの姿が光の中へ消える。
数秒後。
静寂。
セリーナがゆっくり目を開ける。
「……倒せました」
嬉しそうに笑った。
---
◆ ジュダ――レッドドラゴン
火山地帯。
空が赤く染まっている。
その中央。
巨大な翼を持つ竜がいた。
レッドドラゴン。
「グオオオオオオオオオ!!」
咆哮。
大地が震える。
ジュダは一人、その前に立つ。
「……」
レッドドラゴンが口を開く。
ゴォォォォォォォォ!!
巨大な炎が放たれる。
ジュダは右手を前へ。
「ヘル・ブラックフレイム」
ゴォォォォォォン!!
ジュダの赤黒い炎が正面からぶつかる。
炎と炎。
二つの力が激突。
ドドドドドドド!!
周囲の岩が熱で砕けていく。
だが――
徐々に。
レッドドラゴンの炎が押し戻される。
「……私に炎で挑むか」
ジュダの目が赤く光る。
「身の程を知れ」
右手を掲げる。
「ヘル・ブラックボルト」
バァァァァァン!!
赤黒い雷が空から落ちる。
レッドドラゴンの身体を直撃。
「グオオオオオオオオ!!」
巨大な翼が痙攣する。
ジュダは走る。
一瞬で間合いへ。
「魔剣――ヴォルガ」
魔剣を抜く。
赤黒い魔力が刀身を覆う。
「終わりだ」
ズバァァァァァァァン!!
巨大な斬撃。
レッドドラゴンの巨体が崩れ落ちる。
ドォォォォォン!!
ジュダは剣を振り払い、静かに鞘へ収めた。
「……弱い」
---
夕方。
マニルのギルド。
受付嬢はキラたちが戻ってくるのを見て目を見開いた。
「お、お帰りなさい!」
キラは受付へ五枚の依頼書を置いた。
「全部終わったよ」
「……」
受付嬢が固まる。
「レッドスネーク……討伐済み」
一枚。
「オークロード……討伐済み」
二枚。
「怪鳥ゴルソック……討伐済み」
三枚。
「キマイラ……討伐済み」
四枚。
「レッドドラゴン……」
最後の一枚。
「……討伐済み」
ギルド内が静まり返る。
そして――
「う、うおおおおおおおお!!」
歓声が爆発した。
「全部やったのか!?」
「S+まで!?」
「一日で!?」
「これで溜まってた依頼が一気に減ったぞ!」
冒険者たちが駆け寄ってくる。
「ありがとう!」
「本当に助かった!」
「これでようやく他の依頼にも人を回せる!」
セリーナは少し照れながら、
「いえ……」
レティシアは笑う。
「思ったより簡単だったね!」
エリスも頷く。
「うん」
ジュダは腕を組む。
「当然だ」
キラはギルド内を見渡した。
以前は高ランク冒険者不足に苦しんでいた場所。
だが今は――
皆が笑っている。
「これで少しでも役に立てたならよかった」
その言葉を聞き、受付嬢が深く頭を下げる。
「本当にありがとうございます」
五人はギルドを後にする。
外には夕暮れのマニル。
エリスが森の向こうを見る。
「次は……魔族国だね」
「ああ」
キラが頷く。
「そこを越えれば――デダルクだ」
レティシアが拳を握る。
「いよいよだ!」
セリーナも頷く。
「取り戻しましょう。デダルクを」
ジュダは静かに前を見つめる。
「魔境軍が占領する地を――我々の手で取り戻す」
五人は再び歩き出した。
その先に待つのは、
魔族国。
そして――
魔境国デダルク。
5000年前から続く戦いの、核心へ。
第224話 終




