222話 失われた仲間
――これは、まだキラが生まれるよりも前。
そして、レオンがまだ若かった頃の物語。
---
地下深く。
長い年月の間、誰にも発見されることのなかった古代遺跡。
暗い研究室。
たくさんの魔法陣。
黒い魔力。
「エリオス! 何をしている!」
研究室の中央。
エリオスが立っている。
その前には巨大な魔法陣。
そして。
魔法陣の中に――
白い少女がいた。
エリオスが言う。
「この少女の力が必要なんだ」
レオンが剣を抜く。
「やめろ!」
巨大な水晶の存在
水晶の中で眠っているのは――。
リナ。
かつてアルテミスから分かれ、世界の地下に存在する封印を守っていた存在。
その水晶の周囲には、複雑な魔法陣が幾重にも刻まれている。
「…………」
その前に、一人の男が立っていた。
黒い魔力を纏う男。
研究者であるはずのエリオス。
その手には――赤い魔石。
普通の魔石とは明らかに違う。
内部で赤黒い光が脈打っている。
「さて……」
エリオスは目の前にいる魔物を見る。
四本の脚。
巨大な身体。
獣のような頭部。
そして胸の中央には――。
赤い魔石が埋め込まれていた。
ドクン……。
魔石が脈打つたび、魔物の身体から異様な魔力が溢れ出す。
「これを使えば……」
エリオスは水晶を見る。
「封印を破壊できるかもしれない」
ニヤリ。
「実験にはちょうどいい」
エリオスが魔物の背中へ手を置く。
「行け」
魔物が唸る。
「グルルルルル……」
そして――。
水晶へ向かって走り出した。
ドドドドドドドッ!!
巨大な四本足が床を踏み砕く。
魔物が跳ぶ。
「――――!!」
その瞬間。
研究室の入り口から声が響いた。
「止まれぇぇぇぇ!!」
エリオスが振り返る。
「……?」
暗闇の向こうから、四人の冒険者が現れた。
先頭に立っているのは、一本の剣を握った青年。
――レオン。
まだ若い。
しかし、その目には強い意志が宿っている。
その後ろには三人。
剣士――ディーン。
魔法使い――セリナ。
治癒術師――ミア。
ディーンが剣を抜く。
「おいおい……」
巨大な魔物を見て、目を丸くする。
「依頼に書いてあった魔物って、こんなのか?」
セリナが杖を構える。
「依頼書には地下遺跡の調査と魔物の討伐としか書いてなかったわよ」
ミアがレオンを見る。
「レオン……あれ、普通の魔物じゃないよ」
「ああ」
レオンは剣を握り直す。
「でも、放っておけば絶対やばいことになる」
ディーンが笑う。
「じゃあ、やるしかないな!」
レオンが横を見る。
「ディーン」
「なんだ?」
「無茶するなよ」
「お前に言われたくねぇよ!」
セリナが呆れたように言う。
「二人とも馬鹿なんだから……」
ミアが小さく笑う。
「帰ったらちゃんとご飯食べようね」
レオンも笑った。
「そうだな」
その様子を――。
エリオスは静かに見ていた。
「……なるほど」
そして、口元を歪める。
「ちょうどいい」
魔物へ視線を戻す。
「四人でどこまで戦えるか……見せてもらおうか」
---
「行くぞ!!」
レオンが走る。
「おおおおおっ!!」
ディーンも同時に飛び出した。
左右から挟み込む。
魔物が前脚を振り下ろす。
ドォォォン!!
「うおっ!」
ディーンが横へ転がる。
「危ねぇ!」
レオンが魔物の懐へ潜り込む。
「はぁっ!」
ザシュッ!!
剣が魔物の脚を斬る。
しかし――。
「浅い!」
魔物が咆哮する。
「グオオオオオオオオ!!」
赤い魔力が爆発した。
ドォォォォォン!!
レオンが吹き飛ばされる。
「レオン!」
ミアが叫ぶ。
「大丈夫だ!」
レオンは立ち上がる。
セリナが杖を掲げた。
「私が魔法で動きを止める!」
「頼む!」
「――拘束魔法!」
地面から魔力の鎖が伸びる。
魔物の四本の脚を絡め取る。
「今!」
ディーンが突っ込む。
「うおおおおお!!」
剣を振り下ろす。
ズガァン!!
魔物の肩を深く斬る。
「効いてる!」
ディーンが笑う。
「レオン! 今だ!」
レオンが走る。
「――――!」
魔物の胸。
そこに埋め込まれた赤い魔石が見える。
「魔石を狙う!」
「分かった!」
四人が一斉に動いた。
だが――。
「……ふふ」
遠くからエリオスが笑う。
「そこだ」
魔物の身体から、赤黒い魔力が噴き出した。
「――っ!?」
セリナが気づく。
「まずい!」
ドゴォォォォォン!!
爆発。
ディーンが吹き飛ぶ。
「ぐあああああ!!」
「ディーン!!」
ミアが駆け寄る。
その瞬間。
魔物の尾が振り抜かれた。
バキィィィィン!!
ミアの身体が宙へ舞う。
「……ミア……?」
レオンの声が震える。
ミアは地面へ落ちた。
動かない。
「ミアァァァァァ!!」
レオンが駆け出す。
しかし魔物が立ちはだかる。
「どけぇぇぇぇ!!」
剣を振る。
何度も。
何度も。
「どけぇぇぇぇぇ!!」
だが。
魔物の身体から放たれる魔力が、レオンを押し返す。
「ぐっ……!」
背後からセリナが叫ぶ。
「レオン!!」
レオンが振り返る。
セリナの身体を、魔物の魔力弾が貫いた。
「――――っ」
杖が落ちる。
「セリナ……?」
セリナがゆっくり倒れる。
「嫌……」
レオンが駆ける。
「嫌だ……!」
その横で――。
ディーンが立ち上がった。
身体中から血を流している。
それでも笑っていた。
「レオン……」
「ディーン!」
「俺が……時間を稼ぐ」
「やめろ!」
「お前は……」
ディーンが剣を握る。
「……真っ直ぐ行け」
「……!」
「お前なら……大丈夫だ」
魔物へ向かって走る。
「うおおおおおおおお!!」
剣を振る。
一撃。
二撃。
三撃。
「まだだぁぁぁぁ!!」
魔物の攻撃がディーンを襲う。
ドォン!!
それでも立ち上がる。
「気にするな……!」
レオンの脳裏に、いつものディーンの声が蘇る。
> 『失敗したなら次に成功すればいい!』
「ディーン……!」
最後の一撃。
魔物の爪が――。
ディーンを捉えた。
ズガァァァァン!!
ディーンの身体が吹き飛ぶ。
そして。
動かなくなった。
「…………」
レオンの中で、何かが切れた。
「……お前ら」
剣を握る。
震えている。
「俺は……」
歯を食いしばる。
「俺は……!」
魔物が迫る。
レオンが一人で迎え撃つ。
何度斬られても立ち上がる。
何度吹き飛ばされても立ち上がる。
しかし――。
力の差は明らかだった。
「ぐああああああ!!」
レオンが壁へ叩きつけられる。
「……っ」
もう剣を持つ手に力が入らない。
その様子を見ていたエリオスが、静かに歩き出す。
「十分だな」
「……何……?」
レオンが顔を上げる。
エリオスは魔物を見る。
「実験としては……まあまあだ」
ニヤリ。
「赤い魔石による強化」
「そして、封印への干渉能力」
エリオスは満足そうに笑う。
「データは取れた」
レオンが睨む。
「エリオス……!」
エリオスが振り返る。
「お前に用はない」
「……!」
「その魔物も置いていこう」
エリオスの身体が黒い魔力に包まれる。
「まだ使い道がある」
そして――。
空間が歪む。
ズン……!
エリオスの姿が消えていく。
「待てぇぇぇぇぇぇ!!」
レオンが叫ぶ。
しかし届かない。
「エリオス――――!!」
完全に消えた。
遺跡に残されたのは――。
倒れた三人。
そして。
赤い魔石を埋め込まれた四本足の魔物。
レオンは、震える手で剣を握った。
「……ディーン」
返事はない。
「セリナ……」
返事はない。
「ミア……」
返事はない。
「…………」
レオンは三人の前に座り込む。
拳を握る。
涙が落ちる。
それでも泣き崩れることはなかった。
しばらくして――。
レオンは立ち上がる。
剣を腰へ戻す。
「……俺は行く」
誰も答えない。
「エリオスを探す」
握った拳が震える。
「絶対に見つける」
そして最後に。
三人へ向かって呟く。
「……待っててくれ」
レオンは一人。
地下遺跡を後にした。
エリオスを追うために。
そして――。
いつか再び、この世界を脅かすことになる存在を止めるために。
この日からレオンは、一人でエリオスを探す旅へ出た。
それは――。
長い、長い旅の始まりだった。
第222話 終




