219話 無
天騎士アルメリカとの戦いは、激しさを増していた。
純白の世界。
その中央で、キラたち五人とアルメリカが激突する。
「はぁぁぁぁっ!!」
キラが剣を振り抜く。
ガキィィィィン!!
アルメリカの剣とぶつかり、凄まじい衝撃が周囲へ広がる。
「ぐっ……!」
キラは後ろへ弾き飛ばされた。
空中で身体をひねり、着地する。
その瞬間――。
アルメリカの追撃。
「――来る!」
キラが剣を構える。
だが。
「キラ!」
レティシアが横から飛び込んだ。
ガァン!!
アルメリカの剣を双剣で受け流す。
「まだ終わってないよ!」
「助かった!」
キラが距離を取る。
そして――。
ふと、自分の身体を包んでいる白い装備を見る。
天使の羽衣。
敵の攻撃を同じ威力で反射する。
強力な能力。
だが――。
「……これじゃダメだ」
キラが呟いた。
「キラ?」
エリスが振り返る。
「アルメリカみたいな強すぎる相手には、反射するだけでも大量の魔力を使う。それに……」
キラは天使の羽衣を見る。
「このままじゃ、最後まで魔力が持たない」
「じゃあ……どうするの?」
セリーナが不安そうに聞く。
キラは静かに答えた。
「解除する」
「えっ!?」
レティシアが驚く。
「それ、せっかく手に入れたスキルなのに!?」
「強いからこそ、今は使わない」
キラは笑った。
「俺たちが必要なのは、勝つための力を最後まで残すことだ」
そして――。
「天使の羽衣、解除」
シュゥゥゥ……
白い羽衣と翼が光の粒となって消えていく。
いつものキラの姿へ戻った。
「これでいい」
キラは剣を握る。
そして仲間たちを見る。
「みんな」
「ん?」
「少しだけ……時間を稼いでくれ」
その言葉に、四人が一瞬黙った。
ジュダが目を細める。
「……何をするつもりだ?」
「とっておきを作る」
キラはそれだけ言った。
レティシアがニヤッと笑う。
「分かった」
「レティシアさん!?」
セリーナが驚く。
レティシアは双剣を構えた。
「キラがこういう顔してる時ってさ」
そしてアルメリカを見る。
「絶対、何か考えてるんだよ」
エリスも弓を構える。
「なら、私たちの仕事は決まってるね」
ジュダが赤黒い魔力を噴き出す。
「だから時間を稼げということか」
「うん」
キラが頷く。
「頼む」
「……ふっ」
ジュダが笑った。
「ならば任せろ」
四人が一斉にアルメリカへ向かう。
「行くよ!!」
レティシアが消えた。
シュンッ!!
瞬間機動。
右。
左。
上空。
背後。
四方八方から双剣が襲い掛かる。
「無影連斬!!」
ザザザザザザッ!!
アルメリカが剣を振る。
「――!」
レティシアが紙一重でかわす。
その背後からエリス。
「アルテミス・レイン!」
ヒュヒュヒュヒュッ!!
無数の矢が降り注ぐ。
アルメリカが翼を広げる。
「させるか!」
ジュダが突っ込む。
「魔千雷光剣!!」
ズババババババッ!!
背中の刃の翼から大量の剣が放たれる。
無数の剣。
無数の矢。
そして――。
「ソーンチェイン!」
セリーナの光の茨が地面から伸びる。
ズバァッ!!
アルメリカの足へ絡みつく。
「今!」
レティシアが斬り込む。
「双月斬!!」
ガキィィィィン!!
しかし。
アルメリカの反撃。
巨大な光の剣が横薙ぎに振られる。
「――っ!」
レティシアが瞬間機動で逃げる。
それでも間に合わない。
ドォォォン!!
「きゃあああっ!!」
吹き飛ばされる。
「レティシア!」
セリーナが叫ぶ。
「大丈夫!」
レティシアは地面を転がりながら立ち上がる。
「まだまだ!」
しかし――。
四人は少しずつ追い詰められていた。
ジュダの鎧に傷が増える。
エリスの呼吸が荒くなる。
セリーナの魔力も減っていく。
レティシアの身体も限界に近づく。
それでも。
四人はアルメリカを止め続けた。
その間――。
キラは動かなかった。
少し離れた場所。
目を閉じている。
「…………」
剣を地面に突き立てる。
両手を柄に置く。
そして。
魔力を集中させる。
「……もっと」
魔力が集まる。
「もっと……」
身体の中にある魔力を、一点へ。
周囲の空間そのものが僅かに歪む。
「……まだだ」
キラは目を開けない。
アルメリカの攻撃音。
仲間たちの叫び声。
爆発音。
すべてが聞こえている。
「……もう少し」
一方。
「ぐあっ!」
ジュダが吹き飛ばされた。
「ジュダ!」
セリーナが駆け寄る。
「来るな!」
ジュダが叫ぶ。
アルメリカが迫る。
レティシアが立ちはだかる。
「させない!」
シュンッ!!
瞬間機動。
斬る。
避ける。
また斬る。
しかし――。
アルメリカの一撃がレティシアを捉える。
ドガァァァン!!
「ぐっ……!」
地面に叩きつけられる。
「レティシア!」
エリスが叫ぶ。
「まだ……!」
エリスが弓を引く。
だが、腕が震えている。
それでも放つ。
「アルテミス・レイン――!」
ドドドドドッ!!
アルメリカが進む。
止まらない。
セリーナが両手を地面につく。
「ソーンレクイエム!!」
光の茨が爆発的に広がる。
ズガァァァァン!!
しかしアルメリカは、それすらも切り裂いた。
「……っ!」
セリーナの顔から血の気が引く。
「もう……」
ジュダも膝をつく。
「これ以上は……」
エリスが弓を下ろす。
レティシアも立ち上がれない。
アルメリカが剣を振り上げる。
「…………」
キラはまだ目を閉じている。
「キラ……」
セリーナが呟く。
アルメリカの剣が――。
振り下ろされる。
「キラぁぁぁぁぁ!!」
その瞬間。
キラが目を開いた。
「――十分だ」
空気が変わった。
キラの周囲から、音が消える。
光も。
風も。
何もかも。
キラが静かに右手を伸ばす。
「俺の……最後の切り札」
空間が歪む。
「――無」
ズンッ!!
何もない。
本当に何もない。
光すら飲み込む、完全なる無。
アルメリカが異変を察知した。
「――!」
即座に身体を横へ。
回避。
だが――。
刹那。
ほんの僅かな差。
「……遅い」
キラが呟く。
シュッ――!!
無の力がアルメリカの身体を通過した。
「――――」
アルメリカの右腕。
そして右足。
そこだけが、まるで最初から存在しなかったかのように削り取られた。
「…………!」
アルメリカが静止する。
右腕と右足を失った身体。
だが血は流れない。
削り取られた部分から、光の粒が舞い始める。
キラたちは息を呑んだ。
アルメリカの身体全体が――。
光へ変わっていく。
「……終わった?」
レティシアが呟く。
アルメリカは何も言わない。
ただ静かにキラたちを見つめ――。
シュゥゥゥ……
全身が無数の光の粒となって消えていった。
そして――。
白い世界が崩れる。
「――――!」
五人の視界が真っ白になる。
次の瞬間。
ドサッ。
キラが床へ倒れ込んだ。
「……はぁ……」
レティシアもその場に座り込む。
「……もう……動けない……」
エリスも壁にもたれかかる。
「疲れた……」
セリーナはその場にへたり込んだ。
「……終わったんでしゅか……?」
ジュダも片膝をつく。
赤黒い魔力が消えていく。
「……これほどの戦いになるとはな」
五人は誰一人として立っていなかった。
ただ、その場にうなだれている。
しばらく誰も話さない。
静寂。
そして――。
キラが小さく笑った。
「……勝ったな」
レティシアが顔を上げる。
「……うん」
エリスも笑う。
「勝ったね……」
セリーナが胸を撫で下ろす。
「よかった……」
ジュダは目を閉じる。
「……当然だ」
そう言いながらも、その表情にはわずかな安堵が浮かんでいた。
神の試練。
最後の戦い。
五人は全力を出し切り――。
ついに天騎士アルメリカを突破した。
第219話 終




