218話 神の試練アルメリカ
純白の世界。
先ほどまで六千体近く存在していた魔物たちは、もう一体も残っていない。
静寂。
……だが。
その静寂を踏み砕くように、一歩。
ズン……!
巨大な足音が響いた。
キラたち五人の前方。
白い地面をゆっくりと歩いてくる、一人の騎士。
全身を純白の鎧で包み、背中には巨大な翼。
手には、光をまとった長大な剣。
兜の奥から見える瞳は、冷たく輝いている。
そして――。
「……天騎士アルメリカ」
キラが呟いた。
アルメリカは答えない。
ただ剣を構えた。
その瞬間。
世界そのものが震えた。
「……っ!」
レティシアが双剣を握り直す。
エリスも弓を構えた。
セリーナは一歩下がり、ジュダは赤黒い魔力を全身から噴き出す。
キラも剣を抜いた。
五人全員の身体に、キラのルミナル・聖によるルミナが宿っている。
それでも――。
目の前のアルメリカから感じる圧力は凄まじかった。
ジュダが小さく笑う。
「……面白いではないか」
「ジュダ、油断するな」
「分かっている!」
その直後。
アルメリカの姿が消えた。
「――え?」
レティシアが目を見開く。
次の瞬間。
ズガァァァァンッ!!
巨大な斬撃が五人のいた場所を横薙ぎに吹き飛ばした。
「うおおおおっ!!」
キラが剣を横に構える。
ギィィィィンッ!!
受け止めた瞬間、身体が後方へ数十メートル滑った。
「ぐっ……!」
剣が震える。
腕が痺れる。
「キラ!」
レティシアが叫ぶ。
しかしアルメリカはすでに次の標的へ向かっていた。
「させるかっ!」
レティシアが瞬歩を発動。
シュンッ!!
一瞬でアルメリカの懐へ。
「双牙連閃!!」
左右から双剣を叩き込む。
ガガガガガガガッ!!
だが。
「……硬っ!」
アルメリカの鎧に傷が入らない。
そのままアルメリカが剣を振り上げた。
「レティシア!」
キラが叫ぶ。
「分かってる!」
レティシアは瞬間機動。
シュンッ!!
消える。
直後。
アルメリカの背後。
「ここ!」
ザシュッ!!
今度は確かな手応え。
しかし――。
「……浅い!」
アルメリカが振り向きざまに蹴りを放つ。
「っ!」
レティシアは双剣で受ける。
ドゴォォォン!!
「きゃあああっ!」
吹き飛ばされた。
「レティシア!」
エリスが矢を放つ。
「アルテミス・レイン!!」
無数の矢が降り注ぐ。
ズドドドドドドドドッ!!
白い世界を埋め尽くすほどの矢。
アルメリカは剣を回転させた。
ギィィィィン!!
すべての矢を弾き飛ばす。
「嘘……全部……!?」
「まだよ!」
エリスが叫ぶ。
弓を引く。
魔力が一気に集中する。
「アルテミス・レイン――ゼロ!!」
一本。
極限まで圧縮された矢。
放たれた瞬間、空気が爆発した。
ズガァァァァァァン!!
アルメリカの胸部へ直撃。
だが――。
「……っ!」
エリスの表情が固まる。
煙の中から、アルメリカが歩いて出てきた。
無傷。
「……マジ?」
エリスが呟く。
その横を赤黒い閃光が走った。
「ならば私だ!」
ジュダ。
魔剣ヴォルガの鎧をまとったジュダが突っ込む。
背中の刃の翼が大きく展開する。
「魔千雷光剣!!」
ズババババババババッ!!
無数の剣が翼から飛び出した。
上下左右。
あらゆる方向からアルメリカを襲う。
アルメリカは剣一本で対応する。
ガンッ!
ギィンッ!
ガガガガガッ!!
一本。
二本。
十本。
二十本。
次々と迫る剣を弾いていく。
「ぬううううっ!!」
ジュダがさらに魔力を込める。
赤黒い魔力が爆発的に膨れ上がった。
「これでもか!!」
剣の数がさらに増える。
だが。
アルメリカは翼を広げた。
「――!」
光が爆発する。
ドォォォォォン!!
ジュダの剣が一斉に吹き飛ばされた。
「ぐっ……!」
ジュダ自身も後退する。
「ジュダ!」
セリーナが叫ぶ。
「問題ない!」
ジュダはすぐに立ち上がった。
しかし。
五人の顔には、同じ感情が浮かんでいた。
――強い。
想像以上だった。
これまで戦ってきた魔物とは、明らかに次元が違う。
速い。
硬い。
そして何より――。
隙がない。
「……このままじゃ勝てない」
キラが呟く。
アルメリカが剣を構え直す。
「来るぞ!」
キラが叫んだ。
アルメリカが突進。
「――!」
キラが正面から迎え撃つ。
ガァァァァン!!
剣と剣がぶつかる。
「ぐっ……!」
キラの足が沈む。
その瞬間。
「キラ!」
レティシアが横から入る。
「双月斬!」
アルメリカがキラに集中している隙を狙い、背後から斬り込む。
アルメリカが振り返る。
だが――。
「そこ!」
エリスの矢。
ヒュンッ!!
アルメリカの視界を遮る。
一瞬。
ほんの一瞬だけ動きが止まった。
キラはその瞬間を逃さない。
「今だ!」
魔力を剣へ流し込む。
「魔法剣術――!」
ドンッ!!
剣が炎を纏う。
次の瞬間には雷。
そして風。
属性を高速で切り替えながら、アルメリカの剣を弾く。
「レティシア!」
「任せて!」
レティシアが瞬間機動。
シュンッ!!
消えた。
アルメリカの右。
左。
上。
下。
四方向から同時にレティシアが現れたように見える。
「幻影双閃!」
ザザザザザッ!!
アルメリカの鎧に、初めて複数の傷が走った。
「入った!」
エリスが叫ぶ。
「なら、そこを狙う!」
弓を引く。
魔力を凝縮。
「アルテミス・レイン――ゼロ!」
ズドォォォォォン!!
今度は傷の一点へ直撃。
アルメリカの身体が初めて大きく揺れた。
「効いてる!」
セリーナが目を輝かせる。
「私もいきます!」
両手を地面につける。
「ソーンチェイン!」
ズバァッ!!
地面から光の茨が飛び出す。
一本。
十本。
百本。
それらが蛇のようにアルメリカへ絡みつく。
「今です!」
「よし!」
ジュダが笑う。
背中の刃の翼が開く。
「魔千雷光剣!!」
大量の剣が一斉に発射される。
アルメリカが光の剣を振る。
だが――。
「逃がさない!」
セリーナの茨が足を絡め取った。
ほんの一瞬。
アルメリカの動きが止まる。
その瞬間。
「もらったぁぁぁぁ!!」
キラが踏み込む。
「ルミナ・アポカリプス!!」
炎と聖なる光が混ざり合う。
ゴォォォォォォォォォ!!
巨大な光炎がアルメリカを包み込んだ。
さらに。
「――インフェルノ・テンペスト!!」
炎と風が渦を巻く。
ズガガガガガガガッ!!
爆炎が竜巻のように巻き上がる。
「まだまだ!」
キラが剣を振り抜く。
炎の渦を切り裂き、そのまま斬撃を叩き込む。
ガキィィィィィン!!
アルメリカの鎧に大きな亀裂。
「――!」
五人全員が息を呑んだ。
アルメリカが初めて後ろへ下がった。
一歩。
二歩。
三歩。
そして――。
白い床に、巨大な足跡が刻まれた。
「……押してる」
レティシアが呟く。
エリスが笑う。
「うん。最初よりずっと戦えてる」
セリーナも拳を握る。
「みんなで戦えば……勝てます!」
ジュダが赤黒い魔力を滾らせる。
「当然だ」
キラは剣を構え直した。
「一人じゃ無理でも――」
レティシアが双剣を構える。
「五人なら!」
エリスが弓を引く。
「合わせられる!」
セリーナが地面に手を置く。
「私も!」
ジュダが翼の刃を展開する。
「魔王の力も貸してやる!」
キラが笑った。
「行くぞ!」
五人が同時に走り出す。
その瞬間。
アルメリカも剣を構えた。
先ほどまでとは違う。
アルメリカの全身から、凄まじい量の光が噴き出す。
ゴォォォォォォォ……!!
白い世界が震える。
キラの表情が変わった。
「……まだ本気じゃなかったのか」
アルメリカが剣を振り上げる。
五人も止まらない。
「関係ない!」
キラが叫ぶ。
「俺たちも――」
レティシアが笑う。
「ここから全力だぁぁぁ!!」
五人の力が一斉にぶつかる。
ドォォォォォォォォォォン!!
光と炎。
赤黒い魔力。
無数の矢。
光の茨。
そして超高速の双剣。
純白の世界が、五人と天騎士の戦いによって激しく揺れ始めた。
神の試練――。
最終戦。
その戦いは、今ようやく本当の意味で始まった。
第218話 終




