213話 エリスだけの力
――神の試練。
真っ白な世界。
そこには、終わりがなかった。
魔物。
魔物。
そして、また魔物。
そのすべてが――S級オーバー。
「――はぁっ!!」
エリスは地面を蹴った。
――シュンッ!!
巨大な魔物の爪を紙一重でかわす。
「そこっ!」
右手を前へ突き出す。
――パァァッ!!
魔力の矢が生まれる。
「――撃つ!!」
――ズガァァァン!!
至近距離から放たれた魔力の矢が、魔物の胸部へ突き刺さる。
「グォォォォォォ!!」
魔物が大きくのけ反る。
エリスはその隙を逃さない。
一気に懐へ入る。
「――はぁっ!!」
――ドガッ!!
掌底。
「――せいっ!!」
――ドゴォッ!!
肘。
さらに身体を回転させ――
「――っ!!」
――バキィィッ!!
蹴りを叩き込む。
魔物の巨体が吹き飛んだ。
「……はぁ……!」
エリスは荒い息を吐く。
だが――
「まだ……来る!」
背後。
左右。
上空。
四方八方から魔物が押し寄せてくる。
「……本当に……」
エリスは苦笑した。
「多すぎるよ……!」
――ドォォォォン!!
巨大な魔物が突っ込んでくる。
エリスは飛び上がった。
その下を魔物が通過する。
空中で身体を捻り――
「――ウィンドステップ!」
――シュンッ!!
一瞬で別の魔物の頭上へ。
「――撃つ!」
手を前へ。
――パァァァッ!!
魔力の矢が生まれる。
「――っ!」
だが――
エリスの動きが止まった。
「……魔力が……」
明らかに減っている。
精霊弓王を使い続けた。
魔法を何度も撃った。
身体強化にも魔力を使った。
もう――
余裕がない。
「このままじゃ……」
エリスは着地する。
周囲には、まだ数え切れない魔物。
一体倒せば、また一体。
その繰り返し。
「……どうする?」
エリスは拳を握った。
「……」
その瞬間。
目の前の魔物が襲いかかってくる。
「――っ!」
避ける。
だが――
エリスは逃げなかった。
「だったら……!」
拳を握る。
「魔力がないなら――」
――ドガァッ!!
拳を魔物の身体へ叩き込んだ。
「奪えばいい!!」
その瞬間。
――パァッ。
エリスの拳から、ほんの僅かな魔力が吸い込まれた。
「……え?」
魔物の身体から流れ込んだ魔力が――
エリス自身の魔力へ変換される。
ほんの僅か。
だが、確かに。
エリスの中へ力が戻った。
「……今の……何?」
もう一度。
「――はぁっ!!」
――ドゴォッ!!
拳。
そして――
――パァッ。
また、魔力が流れ込む。
エリスの目が大きく開く。
「……吸収……?」
さらに一撃。
――ドガッ!!
また僅かな魔力が戻る。
その瞬間。
頭の中に――
《スキルを取得しました》
という声が響いた。
エリスは驚いて動きを止める。
「……スキル……?」
視界に文字が浮かぶ。
---
【魔武】
打撃を与えた対象から、微量の魔力を吸収。
吸収した魔力を自身の魔力へ変換する。
---
「……魔武」
エリスは自分の拳を見る。
「打撃を与えれば……魔力が戻る」
ならば――
「まだ……戦える」
魔物が襲いかかる。
「――っ!」
エリスは踏み込む。
――ドガッ!!
拳。
――ドゴッ!!
肘。
――バキィッ!!
蹴り。
そのたびに――
――パァッ。
――パァッ。
僅かな魔力が、エリスの身体へ流れ込んでくる。
「……これなら!」
エリスは手を前へ出す。
「精霊弓王――!」
その瞬間。
――ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
身体の中で、二つの力が反応した。
精霊弓王。
そして――
魔武。
二つのスキルが激しく共鳴する。
「……え?」
――キィィィィィン!!
光がエリスを包み込む。
魔力が渦を巻く。
そして――
《スキルが変化します》
エリスの目の前に文字が浮かんだ。
《精霊弓王》
+
《魔武》
――――融合。
《精弓魔武》へ変換しました。
「……精弓……魔武?」
その瞬間。
エリスの背後に巨大な魔力の弓が出現する。
しかし――
今までの精霊弓王とは違う。
弓そのものが、エリスの身体から独立している。
そして。
周囲から魔力が集まり始めた。
「……これ……」
エリスが手を伸ばす。
――パァァァッ!!
一本の矢が生まれる。
しかし、その矢には――
三種類の力が混ざっていた。
先ほど魔物から吸収した魔力。
エリス自身の魔力。
そして――
周囲の空気、大地、世界そのものに漂う魔力。
「……外からも……」
エリスは理解した。
新しい力の使い方。
魔武で得た魔力。
自分自身の魔力。
そして――
外気から取り込んだ魔力。
そのすべてを、矢へ変換できる。
「……これなら」
エリスが弓を構える。
弦に触れる。
――ギリィィィィィ……。
空気が震える。
魔力が一点へ集まる。
そして――
「……!」
エリスの口元が上がった。
自分でも驚くほどの力。
エリスは目の前の巨大な魔物を見る。
魔物が咆哮する。
「グォォォォォォォォ!!」
大地が震える。
それでも――
エリスは笑った。
「……ちょうどいい」
矢を放つ。
「――撃てぇぇぇぇぇぇ!!」
――――ズガァァァァァァァァン!!
光が爆発した。
一本の矢。
それだけだった。
だが――
着弾した瞬間。
巨大な魔物の身体を光が貫き――
その後ろにいた魔物までまとめて吹き飛ばす。
――ドォォォォォォォォン!!
爆発。
爆発。
爆発。
白い世界が震える。
エリスはその光景を見ながら――
「……」
ニコッと笑った。
「私ももう化物ですね」
その瞬間。
エリスの身体が――
消えた。
「――ウィンドステップ!!」
――シュンッ!!
一体目。
「――魔武!!」
――ドガァッ!!
拳。
魔力吸収。
「――精弓魔武!!」
――パァァァッ!!
魔力の矢。
「撃つ!!」
――ズガァァァン!!
二体目、三体目、四体目――
次々と魔物が吹き飛んでいく。
さらにエリスは走る。
「――はぁっ!!」
拳。
「――せいっ!!」
肘。
「――っ!!」
回転。
蹴り。
魔物から魔力を吸収。
その魔力を――
次の矢へ。
「――撃つ!!」
――ドォォォォォン!!
また一体。
そして。
「まだまだぁ!!」
エリスは空中へ飛ぶ。
周囲に無数の魔力の矢が浮かび上がる。
右。
左。
頭上。
背後。
すべての方向に矢が現れる。
「逃がさないよ」
エリスが手を振る。
――ヒュンッ!!
――ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!
無数の矢が一斉に飛ぶ。
――――ドドドドドドドドドドッ!!
魔物の群れが吹き飛ぶ。
それでも――
まだいる。
まだまだいる。
だが。
エリスはもう止まらなかった。
「来なよ……!」
両手を広げる。
周囲の魔力が集まってくる。
「全部――」
巨大な弓が輝く。
「相手してあげる!!」
――――ズガァァァァァァァァン!!
新たな力。
精弓魔武。
それは――
弓と魔力。
魔力と武術。
自分の力と、敵から奪った力。
そして――
世界に満ちる魔力。
そのすべてを一つにした――
エリスだけの力だった。
神の試練は、まだ終わらない。
それでもエリスは――
笑いながら、戦場を駆け抜けていった。
第213話 終




