20話 黒化魔獣と封印されしモノ
――ゴゴゴゴゴゴ……。
地面が揺れている。
俺は街の中央に立ったまま、足元から伝わってくる振動を感じていた。
建物の窓が震える。
屋根から瓦が落ちる。
通りにいた人々が悲鳴を上げながら建物の中へ逃げ込んでいく。
「地震か!?」
「違う!」
「また魔物が来るぞ!」
街中が混乱していた。
だが、俺には分かっていた。
これは地震じゃない。
地下にある何かが動いている。
そして、その影響で黒い魔力が街へ流れ込んでいる。
「キラ!」
父さんの声。
振り返ると、父さんが剣を構えている。
「どうする?」
「……」
俺は周囲を見る。
東門。
西門。
ギルド。
住宅街。
商業区。
魔力の反応が、街のあちこちにある。
「黒い魔力に侵された魔物が、街の中に入ってる」
「数は?」
「……多い」
正確には数えられない。
でも。
今までとは比べ物にならない。
俺は《魔力感知》を広げた。
すると――。
「……!」
今まで見えなかったものが、はっきり見えた。
街の地下を走る黒い魔力。
その流れが一本の線のようにつながっている。
「見える……」
「何がだ?」
「地下の魔力の流れ」
俺は目を閉じる。
ギルドの地下。
東門。
西門。
中央広場。
そして――。
「中心がある」
「中心?」
「街の真ん中」
俺は指を向けた。
「黒い魔力が、そこへ集まってる」
父さんの顔が険しくなる。
「なら、そこを止めればいい」
「……たぶん」
そのときだった。
――ガァァン!
近くの建物の扉が吹き飛んだ。
「来る!」
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黒い魔物の群れ
建物の中から、一匹の黒い魔物が飛び出してきた。
犬に似た姿。
だが、昨日東門で戦ったものより一回り大きい。
さらにその後ろから。
二匹。
三匹。
「嘘だろ……」
近くにいた冒険者が顔を引きつらせる。
「こんな数……」
魔物たちが一斉にこちらを向く。
赤い目。
黒い身体。
口から黒い霧が漏れている。
「全員、構えろ!」
父さんが叫ぶ。
冒険者たちが武器を構える。
魔物が走り出す。
「来るぞ!」
――ドドドドッ!
「《風》!」
俺が手を振る。
強烈な風が正面から吹きつける。
先頭の魔物が吹き飛ぶ。
だが。
「まだ来る!」
後ろから別の魔物が飛び込んでくる。
ガルドが前へ出た。
「俺に任せろ!」
斧を横薙ぎに振る。
――ガギィン!
魔物の爪と斧がぶつかる。
「ぐっ……!」
ガルドの身体が押される。
「硬すぎる!」
魔物が口を開く。
黒い魔力が集まる。
「ガルド!」
「分かってる!」
ガルドが飛び退く。
直後。
――ドォン!
黒い衝撃波が地面をえぐった。
「魔法まで使うのかよ!」
ガルドが驚愕する。
俺も驚いた。
昨日までの魔物には、こんな攻撃はなかった。
「黒い魔力を使ってる……」
魔物の身体から黒い魔力が噴き出す。
俺は《構造解析》を使った。
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構造解析Lv2
【構造解析Lv2】
【対象:黒化魔獣】
【魔力構造を解析】
【身体構造:正常】
【外部魔力:侵食】
【魔力核:通常】
【黒色魔力:外部から接続】
「……そういうことか」
俺は気づいた。
「黒い魔力は、魔物そのものじゃない!」
ミレアが聞く。
「どういうこと?」
「魔物の魔力核とは別に、外から黒い魔力がつながってる!」
「つまり?」
「黒い魔力が魔物を強化してる!」
アルノが驚いた。
「そんなことが可能なのか……?」
「たぶん」
俺は魔物を見る。
胸。
背中。
首。
そこから黒い魔力の線が伸びている。
そして、その線は――。
「地下につながってる」
俺は呟いた。
「全部の魔物が……地下の黒い魔力につながってる」
その場にいた冒険者たちがざわめいた。
「じゃあ、あの魔物を倒しても……」
「地下から魔力が供給されている限り、また強くなる」
父さんが言う。
「なら、魔力の供給を止めればいい」
「うん」
俺は頷いた。
「でも、その前に――」
目の前の魔物が吠える。
「こいつらを止めないと」
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無詠唱魔法
俺は両手を広げた。
「キラ?」
父さんが驚く。
俺は魔物たちを見る。
数が多い。
一匹ずつ倒していたら時間がかかる。
なら。
まとめて動きを止める。
「《重力》」
――ズンッ!
街の通りにいた魔物たちの身体が、一斉に沈んだ。
「グガッ!」
「ギャウッ!」
魔物たちが地面へ押しつけられる。
冒険者たちが驚いて立ち止まる。
「全部まとめて……?」
「何だ、この魔法……」
「キラ君がやったのか?」
俺はさらに魔力を流す。
「まだ……!」
魔物たちが抵抗する。
黒い魔力が膨れ上がる。
「ぐっ……!」
身体に負担がかかる。
魔力が急速に減っていく。
それでも。
「動かせない……!」
ガルドが叫ぶ。
「今だ!」
冒険者たちが一斉に攻撃する。
剣。
槍。
斧。
魔法。
次々と魔物に命中していく。
「グギャアア!」
一匹。
二匹。
そして。
最後の一匹が倒れた。
周囲が一瞬静かになる。
「……」
冒険者たちが俺を見る。
ガルドが目を丸くしている。
「お前……」
「何?」
「今の魔法……」
「重力だけど」
「そうじゃねぇ!」
ガルドが頭を抱える。
「六歳があんな広範囲の魔法を無詠唱で使うな!」
周囲からも、
「確かに……」
「俺、一瞬何が起きたのか分からなかったぞ」
「子供がやる魔法じゃないだろ……」
という声が聞こえてくる。
俺は少し恥ずかしくなる。
「……ごめん」
「謝るところじゃないだろ!」
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地下へ向かう
魔物が一旦片付いた。
ギルドマスターが叫ぶ。
「中央広場へ向かう!」
俺たちは走った。
街の中央。
そこには大きな噴水がある。
普段なら人が集まる場所だ。
だが今は。
噴水の水が黒く染まっていた。
「……」
全員が言葉を失う。
水面から黒い霧が立ち上っている。
「これは……」
アルノが震える声で言う。
「地下から魔力が噴き出している」
俺は《構造解析》を使う。
【魔力源:地下】
【流量:急増】
【危険度:高】
さらに。
噴水の底に魔法陣がある。
「ここが魔力の出口だ」
俺はしゃがむ。
「なら、これを壊せば――」
手を伸ばす。
その瞬間。
――ドンッ!
噴水が爆発した。
「うわあああ!」
水と石が周囲へ飛び散る。
父さんが俺を抱えて後ろへ飛ぶ。
――ガシャァン!
石が地面に落ちる。
「キラ!」
「大丈夫!」
俺は父さんの腕から降りる。
噴水の跡。
そこに。
巨大な穴が開いていた。
「……地下道」
暗闇が広がっている。
その奥から。
黒い魔力が噴き出している。
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地下から現れたもの
俺たちが穴を見つめていると。
暗闇の中から。
何かが動いた。
――ズル……。
「……?」
黒い影。
ゆっくりと這い上がってくる。
「魔物か?」
ガルドが斧を構える。
だが。
出てきたものを見て。
「……は?」
ガルドが固まった。
それは魔物ではなかった。
人間のような形。
しかし身体全体が黒い魔力で覆われている。
顔は見えない。
腕だけが異様に長い。
「なんだ……あれ」
ミレアが後ずさる。
アルノも杖を握る手を震わせている。
「生物……なのか?」
俺は《構造解析》を使う。
【対象:解析開始】
【生命反応:確認】
【人間種との類似:43%】
【魔力構造:異常】
【解析不能】
「人間に近い……」
俺が呟く。
「人間?」
父さんが驚く。
黒い影がこちらを見る。
そして。
口らしき場所が開いた。
「……た……」
「?」
「……す……」
小さな声。
俺は耳を澄ます。
「……け……て……」
「助けて……?」
全員が凍りついた。
目の前の黒い存在は。
敵意を見せていない。
むしろ。
苦しんでいる。
「待って」
俺は一歩近づく。
「あなたは誰?」
黒い影が震える。
「……逃げ……ろ……」
「え?」
「……ここから……」
その瞬間。
黒い影の身体が大きく膨れ上がった。
「危ない!」
父さんが俺を引き寄せる。
――ドォォォン!
黒い魔力が爆発した。
全員が吹き飛ばされる。
「うわあああ!」
俺も地面を転がる。
「キラ!」
「大丈夫!」
立ち上がる。
黒い影は消えていた。
その代わり。
地下から。
大量の黒い魔力が噴き出している。
「……逃げろって言ってた」
俺は呟いた。
その意味が。
まだ分からなかった。
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街全体が揺れる
突然。
――ゴゴゴゴゴゴ!
街が大きく揺れ始めた。
「またか!」
建物が揺れる。
人々が悲鳴を上げる。
「地面が!」
中央広場の石畳に亀裂が走る。
一本。
二本。
三本。
そして。
街の中心から放射状に広がっていく。
「危ない!」
冒険者たちが住民を避難させる。
俺は《魔力感知》を最大まで広げる。
「……!」
地下。
黒い魔力が一気に膨れ上がる。
そして。
森の巨大な魔物の魔力も反応した。
「……あいつも来る」
「誰が?」
「森の魔物」
俺は森を見る。
遠くから。
――ドン。
――ドン。
巨大な足音。
「こっちへ向かってる……」
ガルドが唖然とする。
「まさか、街へ?」
俺は首を振る。
「違う」
《魔力感知》で分かる。
巨大な魔物が向かっている先。
それは――。
街の地下。
「……あいつは」
俺は息を呑む。
「地下にいる何かを止めに来てる」
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キラの決断
街は混乱している。
地下には未知の存在。
街には黒い魔物。
森からは巨大な魔物が近づいている。
普通なら逃げるべきだ。
でも。
俺は思った。
ここで逃げたら。
街はどうなる?
「ギルドマスター」
「なんだ?」
「地下へ行かせてください」
全員が俺を見る。
「危険すぎる」
「分かっています」
「お前はまだ子供だ」
ギルドマスターの言葉に。
俺は一瞬黙った。
そして。
「でも」
街を見る。
怯えている人たち。
避難している子供たち。
壊れた建物。
傷ついた冒険者。
「俺には黒い魔力が見える」
「……」
「だから、俺にしかできないことがある」
父さんが俺の隣へ立つ。
「なら、俺も行く」
「父さん……」
「お前一人には行かせない」
ガルドも斧を担ぐ。
「俺も行くぞ」
ミレアが弓を構える。
「私も」
アルノも杖を持つ。
「ここまで来たら最後まで付き合おう」
俺はみんなを見る。
胸が少し熱くなった。
「……ありがとう」
---
その瞬間。
森から。
巨大な咆哮が響いた。
――グォォォォォォォン!
街中の人々が一斉に森を見る。
「来た……」
巨大な魔物が街の外に姿を現す。
だが。
その魔物は街を見ていない。
街の地下を睨んでいる。
そして。
その背後。
森の奥から。
さらに大量の黒い魔力が立ち上った。
俺はその光景を見て、確信した。
これはただの魔物の襲撃じゃない。
街の地下にある何かが。
目を覚まそうとしている。
そして次の瞬間。
俺の視界に新たな表示が浮かんだ。
【構造解析Lv2】
【新たな解析対象を確認】
【対象:封印】
【解析進行率:47%】
さらに。
【警告】
【封印強度:18%】
「……18%」
俺は呟いた。
昼間は31%だった。
たった一日で。
ここまで減っている。
父さんが俺の顔を見る。
「キラ?」
俺は地下を見つめる。
「……急がないと」
街の地下深く。
封印の向こうから。
――ドン。
また。
何かが扉を叩いた。
そして今度は。
はっきりと聞こえた。
『……起きる……』
俺は息を呑む。
封印の中の何かが、目を覚まし始めていた。
第20話 終




