195話 新たな仲間
――魔人族の国。
あの歴史的な同盟から、しばらくの時が流れていた。
街では復興作業が続いていた。
壊された建物は次々と建て直され、崩れた城壁も少しずつ元の姿を取り戻している。
魔人族と人間族。
さらにエルフ、竜人、ドワーフ、人魚、獣人。
様々な種族が同じ街で働いていた。
「そっち持ってくれ!」
「分かった!」
「こっちの瓦礫はもう片付いたぞ!」
「お疲れ様!」
以前なら、絶対に見ることのできなかった光景。
それが今では日常になりつつあった。
そして――。
「もう少しで復興も終わりそうだな」
キラは街を見渡しながら呟いた。
隣にはレティシア。
その向こうにはエリスとセリーナ。
そして少し離れた場所には、魔王ジュダがいる。
「数か月前は酷い有様だったのにね」
レティシアが言う。
「うん」
エリスも頷く。
「みんな、本当によく頑張ったと思う」
セリーナも笑顔になる。
「これなら、もうすぐ普通の生活に戻れますね」
「そうだな」
キラが笑った、その時だった。
――バタバタバタッ!
遠くから、一人の兵士がものすごい勢いで走ってくる。
「はぁ……はぁ……!」
「どうした?」
ジュダが振り返る。
兵士は息を整える暇もなく叫んだ。
「キ、キラ様!!魔王様!!」
「何があった?」
「王都アークから……伝令が!!」
その言葉を聞いた瞬間。
キラの表情が変わった。
「アークから?」
「ああ」
兵士は震える手で伝令書を差し出した。
「内容は……」
兵士が一度息を吸う。
そして――。
「王都アーク――壊滅!!」
「…………」
その場にいた全員が固まった。
「……え?」
レティシアが目を見開く。
エリスも言葉を失う。
セリーナは口元を両手で覆った。
「ア、アークが……?」
キラの父、グランも驚愕している。
「何……だと……?」
兵士は続ける。
「王都は大規模な襲撃を受けました!」
「魔境三大天を名乗る者が突然現れ……」
「王都の各所を破壊!」
「城壁、街区、冒険者ギルドなどにも被害が及んでいます!」
「被害は……甚大です!」
「…………」
グランの拳が震える。
「何があった!」
「襲撃者の正体は!?」
「それが……」
兵士は歯を食いしばる。
「魔境三大天の一人……アンデルフォンと名乗っていました」
「アンデルフォン……」
キラが呟く。
その名には聞き覚えがあった。
以前、魔境で遭遇した男。
魔境三大天の一人。
「なぜだ……」
グランが悔しそうに拳を握る。
「なぜ今なんだ……!」
ついさっきまで。
この国では、人間族と魔人族が共存するという歴史的な出来事が起きていた。
それなのに――。
その直後。
王都アークが襲われた。
「魔人族との戦争を終えたと思ったら……」
グランが俯く。
「今度はアークだというのか……!」
魔人族の兵士たちも悔しそうに顔を歪める。
「くそ……!」
「俺たちが戦っている間に……」
「いや」
ジュダが静かに言った。
全員がジュダを見る。
「これは我々のせいではない」
「…………」
「魔境は……最初から全ての種族を敵としている」
ジュダの目が鋭くなる。
「我々が争いをやめたことで、奴らは別の場所へ狙いを変えただけだ」
キラは黙って伝令書を見る。
「……ルナは?」
その言葉に、ジュダの表情も変わった。
「…………」
キラの頭に嫌な予感が走る。
「ルナはアークにいる」
そう。
ルナは現在、アークの冒険者ギルドで保護されている。
そして――。
エリオスは知っている。
ルナの存在を。
「……狙いはルナかもしれない」
キラが言った。
「!」
レティシアが驚く。
「じゃあ、アークを襲った目的って……」
「まだ分からない」
キラは立ち上がる。
「でも、俺は一度アークに戻る」
「キラ……」
エリスが心配そうに見る。
「私たちも行くよ」
「当然!」
レティシアも立ち上がった。
セリーナも頷く。
「私も行きます」
ジュダはしばらく黙っていた。
そして――。
「……ならば」
ジュダが振り返る。
「ジオウを呼べ」
「はっ!」
魔人族兵士が走っていく。
---
しばらくして。
大きな扉が開く。
「魔王様、お呼びでしょうか」
現れたのは――。
魔王国最高司令官。
ジオウ。
魔人族軍の中でも、最高位に位置する男。
長年ジュダに仕え、国を守ってきた人物だ。
ジオウはジュダの前で跪いた。
「何なりと」
ジュダはジオウを見下ろす。
「ジオウよ」
「はい」
「貴様は我に忠誠を誓い――」
「その身も心も、この国に捧げる」
「そう誓ったな?」
ジオウは迷うことなく答えた。
「はい」
「覚えているか?」
「もちろんです」
ジオウは胸に手を当てる。
「魔王様に忠誠を誓ったあの日――」
「私は契約もしております」
「契約?」
キラが小さく呟く。
ジオウは続ける。
「魔王様に忠誠を誓う」
「そして――」
「もし私が魔王様を裏切った場合」
「この身は消滅する」
「その契約です」
キラたちは驚く。
レティシアも目を丸くした。
「消滅って……」
「はい」
ジオウは平然と答えた。
「それほどまでに、私は魔王様への忠誠を誓っております」
ジュダは静かに頷く。
「……そうか」
そして――。
「ならば」
ジュダは立ち上がった。
「ジオウ」
「はい」
「お前に――」
一瞬の間。
「魔王を任せる」
「…………」
ジオウの目が見開かれた。
「……え?」
キラたちも驚く。
「ジュダ!?」
レティシアが声を上げる。
「ちょっと待って!」
ジュダは落ち着いたままだ。
「アークが襲われた」
「そして今、世界各地で魔境が動いている」
「私は――」
ジュダはキラを見る。
「キラと共に行く」
ジオウは驚いた表情のまま尋ねた。
「ジュダ様は……どちらへ?」
ジュダはキラの隣へ歩いていく。
「私はキラと共に世界を救う」
「…………」
「留守を頼めるな?」
ジオウはしばらくジュダを見る。
そして――。
ゆっくりと頭を下げた。
「……はい」
「この国は、私が守ります」
「魔王様がお戻りになるまで」
「必ずや魔人族を守り抜いてみせます」
ジュダは頷いた。
「頼んだぞ」
「お任せください」
ジオウは立ち上がる。
そしてキラを見る。
「キラ様」
「様はいらない」
「……では、キラ」
「ああ」
「ジュダ様を頼みます」
キラは笑った。
「任せろ」
ジュダが少しだけ頬を赤くする。
「……なぜ貴様が頼まれる側なのだ」
「え?」
「いや……何でもない」
---
そして。
アークへ戻る準備が整った。
馬車。
食料。
武器。
回復薬。
必要な物を次々と用意する。
キラは最後に魔人族の街を見る。
復興途中の街。
人間族と魔人族が共に歩く姿。
「……絶対に戻ってくる」
キラが呟く。
ジュダも隣で街を見る。
「当然だ」
「ここは私の国だ」
「そして――」
ジュダは小さく笑った。
「我々には、まだやることがある」
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そして出発直前。
キラが馬車へ向かおうとした、その時。
「キラ」
「ん?」
ジュダがこちらへ歩いてくる。
「どうした?」
ジュダは少しだけ躊躇する。
そして――。
「我も……」
「?」
「我も、お前のパーティに入れてくれ」
「…………」
時間が止まった。
「…………え?」
キラが固まる。
レティシアも。
エリスも。
セリーナも。
全員がジュダを見る。
「ええええええええええ!?」
レティシアが叫ぶ。
「魔王がパーティに入るの!?」
「……そうだ」
ジュダは堂々としている。
だが――。
耳が赤い。
「アークには強大な敵がいる」
「私も戦力になろう」
キラは少し考える。
そして――。
「いいよ」
「…………!」
ジュダの目が輝く。
「本当か!?」
「うん」
「……そ、そうか」
ジュダはすぐに顔を背ける。
「べ、別に貴様と一緒に旅がしたいわけではないぞ!」
「え?」
「世界を救うためだ!」
「分かってるって」
「……本当だな?」
「もちろん」
ジュダは小さく笑う。
「……ならば、決まりだ」
レティシアがニヤニヤする。
「ジュダ」
「なんだ」
「嬉しそうだね?」
「う、うるさい!」
エリスも微笑む。
「これから五人だね」
セリーナも嬉しそうに手を叩く。
「仲間が増えました!」
「仲間……」
ジュダがその言葉を聞いて、少し黙る。
そして。
「……そうだな」
小さく呟いた。
「仲間、か」
その表情には、ほんの少しだけ嬉しさが滲んでいた。
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こうして。
キラ。
レティシア。
エリス。
セリーナ。
そして――。
魔王ジュダ。
五人のパーティが誕生した。
「よし!」
キラが剣を腰に差す。
「アークへ戻るぞ!」
「おー!」
レティシアが拳を上げる。
「行こう!」
エリスも頷く。
「はい!」
セリーナも元気に答える。
ジュダは腕を組む。
「……ふん」
そして――。
小さく笑った。
「世界を救うぞ、キラ」
「ああ!」
五人は馬車へ乗り込む。
向かう先は――。
王都アーク。
だが。
そこには既に――。
アンデルフォンによって破壊された街。
そして。
彼が狙っている可能性の高い――。
ルナがいる。
キラたちはまだ知らない。
今回の襲撃が、ただの破壊ではないことを。
そして――。
リナとルナ。
二人を巡る戦いが、再び動き始めていることを。
「待ってろ、アーク」
キラは前を見据える。
「今度は俺たちが助ける」
馬車は走り出した。
五人の新たな旅が――。
始まる。
第195話 終




