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『レベルリセットから始まる最強魔法剣士の英雄譚 ~五つの紋章と仲間たちと共に、滅びゆく世界を救います~』30000pv突破  作者: きらっち
青年期

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185話 瞑想


――ドーラ。


剣神アブソリューが構える剣神流道場。


その裏手にある広大な修練場では、今日も朝早くから剣戟の音が響いていた。


カァンッ!


カンッ!


キィンッ!


木剣と木剣がぶつかる。


その音が何度も何度も繰り返される。


「――っ!」


レティシアは二本の木剣を握り、必死にアブソリューへ食らいついていた。


右。


左。


一歩踏み込む。


斬る。


避ける。


反撃。


しかし――。


「遅い」


カンッ!


「くっ!」


右の剣を弾かれる。


「浅い」


カァンッ!


今度は左。


「っ!」


レティシアは身体をひねってかわす。


そして低く沈み込み――。


「そこっ!」


左右の剣を交差させるように振り抜いた。


しかし。


アブソリューはわずかに身体を後ろへ引いただけ。


紙一重。


レティシアの刃は空を切った。


「……!」


次の瞬間。


トンッ。


アブソリューの木剣が、レティシアの肩に触れた。


「……一本」


「くぅぅぅ……!」


レティシアは悔しそうに歯を食いしばった。


そして――。


「もう一回!」


「休め」


「まだいける!」


「休めと言っている」


「……はい」


レティシアは渋々、地面に座った。


汗が頬を伝って落ちる。


肩で息をしながら、アブソリューを睨む。


「……」


そして。


「もう半年ですよ」


「そうだな」


「半年!」


「聞こえている」


レティシアは頬を膨らませた。


「もう半年も同じ修行!」


「同じではない」


「同じだよ!」


レティシアは立ち上がる。


「毎日、相手を見る! 足を見る! 呼吸を見る! 距離を見る! 視線を見る! 次の動きを予測する!」


「それが剣術だ」


「でも!」


レティシアは両手を広げた。


「もうあきちゃうよっ!」


道場の周囲にいた弟子たちが、一瞬こちらを見る。


アルミンも木剣を肩に担ぎながら、苦笑していた。


「また言ってる」


「だって本当なんだもん!」


レティシアは不満そうに言う。


「技も使わせてもらえないし!」


「当然だ」


アブソリューは淡々としていた。


「技に頼れば、お前はそこで止まる」


「……」


「流水剣も、幻歩も、双月斬も、双牙連閃も――すべて忘れろ」


「そこまで!?」


「技を使うなとは言っていない」


アブソリューはレティシアを見る。


「技がなくても戦える身体と感覚を作れと言っている」


「……」


レティシアは黙る。


半年。


本当に半年。


毎日、同じような修行を繰り返してきた。


最初は何度やっても相手の動きを読めなかった。


剣を見る。


剣だけを見てしまう。


相手の肩。


腕。


腰。


足。


呼吸。


視線。


それらすべてを見る。


そして、相手が動くより前に動く。


それがアブソリューの教えだった。


「……でもさ」


レティシアはぽつりと言った。


「私、ちゃんと強くなってる?」


「なっている」


即答だった。


「……え?」


レティシアが目を丸くする。


アブソリューは続ける。


「最初のお前なら、今の攻撃で三回は斬られている」


「……」


「今のお前は一度しか斬られていない」


「それ、強くなってるのかな……」


「十分だ」


アブソリューは背を向ける。


「それなら――」


そして一言。


「早く強くなれ」


「……」


レティシアは目を丸くした。


「それだけ!?」


「それだけだ」


「もうちょっと褒めてよ!」


「強くなれば褒めてやる」


「くぅぅぅ……!」


レティシアは拳を握った。


「絶対に追いついてやる!」


「やってみろ」



---


そして数カ月後


再び修練場。


今度は――。


アブソリューとレティシアが向かい合っていた。


周囲には弟子たちが集まっている。


「師範とレティシアの模擬戦か」


「久しぶりだな」


「半年間の修行の成果が見られる」


アルミンも腕を組んで見ていた。


レティシアは二本の木剣を構える。


右手。


左手。


身体を低く。


視線はアブソリューの胸元。


呼吸は静か。


「……」


アブソリューも木剣を構えた。


「始め」


その瞬間。


レティシアが消えた。


「――!」


地面を蹴る。


一歩。


二歩。


三歩。


真正面から突っ込んでいるように見せて――。


右へ。


アブソリューの視線が動く。


その瞬間。


レティシアは左へ踏み込んだ。


「そこ!」


キィンッ!


右の木剣。


アブソリューが受ける。


だが――。


「まだ!」


左。


カァンッ!


アブソリューが弾く。


さらに右。


左。


右。


「速い……!」


弟子の一人が声を漏らす。


レティシアの二刀が、まるで別々の生き物のように動いていた。


以前とは違う。


ただ技を繋げているわけではない。


相手の反応を見て、次の一手を変えている。


アブソリューが右へ動けば左を狙う。


左へ避ければ右を狙う。


後ろへ下がれば追う。


前へ出れば――。


レティシアは半歩だけ下がった。


「……!」


アブソリューの木剣が空を切る。


その瞬間。


レティシアが懐へ入った。


「もらった!」


二本の剣が同時に振り抜かれる。


「……!」


アブソリューは両方を受けた。


だが――。


ズズッ。


足が地面を滑った。


ほんのわずか。


それだけだった。


しかし。


周囲の弟子たちは息を呑んだ。


「師範が……下がった?」


アブソリュー自身も目を細める。


「……」


レティシアは笑った。


「今の、ちょっと効いたでしょ?」


「……ああ」


アブソリューの口元がわずかに上がった。


「以前とは別人だな」


「でしょ!」


「だが――」


「!」


次の瞬間。


アブソリューの姿が消えた。


「速っ――!」


レティシアは反射的に身体をひねる。


木剣が頬をかすめた。


「っ!」


レティシアは後ろへ跳ぶ。


着地。


そのまま回転。


二本の剣を構える。


アブソリューが迫る。


一閃。


レティシアは受けない。


紙一重で避ける。


二閃。


身体を沈める。


三閃。


左足を引く。


四閃。


右へ。


「……!」


今までなら、ここで反撃していた。


だが――。


レティシアは違った。


アブソリューの足を見る。


呼吸。


肩。


視線。


そして――。


「ここ!」


アブソリューが踏み込む瞬間。


レティシアも踏み込んだ。


木剣が交差する。


「……!」


二人の動きが止まった。


レティシアの剣がアブソリューの肩に触れている。


同時に。


アブソリューの剣もレティシアの胸元へ触れていた。


「……相打ち」


弟子の一人が呟く。


静寂。


そして。


アブソリューが木剣を下ろした。


「……見事だ」


「!」


レティシアの目が輝いた。


「今、褒めた!?」


「ああ」


「やった!」


レティシアは嬉しそうに笑った。


しかしアブソリューは続ける。


「だが、まだ足りない」


「……」


「お前には、もう一段階先へ進む資格がある」


レティシアの表情が変わった。


「一段階……?」


アブソリューは木剣を置いた。


「試練を受けるか」


「試練?」


「ああ」


「どんな?」


「剣聖の道を選ぶか」


アブソリューはレティシアを見る。


「それとも――」


少し間を置く。


「剣神の道を選ぶか」


「……!」


レティシアは目を見開いた。


「剣聖……」


そして。


「剣神……」


「これはお前自身が選ぶものではない」


「え?」


「試練を受ければ分かる」


アブソリューは静かに言った。


「お前の中に、どちらの力が宿るのか」


「……スキルとして?」


「そうだ」


「じゃあ、私が選ぶんじゃないんだ」


「選ぶのはお前の魂だ」


アブソリューは首を振る。


「何が宿るかを決めるのは、レティシアではない」


レティシアは黙った。


「……やる」


迷いはなかった。


「試練、受けるよ」



---


翌朝。


剣神道場の裏手。


そこには、今までレティシアが一度も足を踏み入れたことのない山道があった。


「この山を登れ」


アブソリューが言う。


「頂上に神殿がある」


「神殿?」


「ああ」


レティシアは山を見る。


かなり高い。


道も険しい。


「そこに行けばいいの?」


「そうだ」


「何をするの?」


「瞑想だ」


「……」


レティシアの顔が引きつった。


「また?」


「三日間」


「三日!?」


「三日間、一度も立つな」


「食事は?」


「必要ない」


「水は?」


「必要ない」


「……」


レティシアはアブソリューを見る。


「それ、本当に生きて帰れる?」


「心配ならやめろ」


「やる!」


即答。


アブソリューが少し笑った。


「行ってこい」


「わかった!」


レティシアは山を登り始めた。



---


山道は険しかった。


岩。


木の根。


急な斜面。


それでもレティシアは進んだ。


やがて――。


木々の向こうに、それが見えた。


「……」


レティシアは立ち止まった。


そこには。


巨大な神殿があった。


山の頂に静かに佇む、古代の神殿。


白い石で造られた階段。


巨大な柱。


高い天井。


壁面には、剣を持つ戦士たちの彫刻が刻まれている。


しかし、どの彫刻にも顔はなかった。


ただ剣だけが、それぞれ違う構えで刻まれている。


神殿の入口には巨大な扉。


その中央には――。


二本の剣が交差した紋章。


「……すごい」


レティシアは思わず呟いた。


扉に手を触れる。


ギィィィ……。


重い音とともに扉が開いた。


中は薄暗い。


しかし、不気味ではなかった。


むしろ――。


神聖だった。


天井から細い光が差し込んでいる。


床には円形の巨大な魔法陣。


その中心には、一人の剣士を模した石像。


周囲には小さな水路があり、透明な水が静かに流れている。


風はない。


それなのに。


神殿の奥から、かすかに風の音が聞こえる。


「……」


レティシアは自然と背筋を伸ばした。


ここは――。


剣を学ぶ場所というより。


剣そのものを祀る場所。


そんな印象だった。


「……ここで三日間か」


レティシアは中央へ歩いていく。


そして正座する。


目を閉じる。


呼吸を整える。


「……」


静かだ。


とても静か。


聞こえるのは水の流れる音だけ。


レティシアはアブソリューに言われた通り、瞑想を始めた。



---


一日目。


何も起きない。


二日目。


何も起きない。


三日目。


それでも何も起きなかった。


しかし――。


レティシアは目を開けなかった。


「……」


さらに時間が過ぎる。




レティシアは、ずっと瞑想を続けていた。







神殿の中。


レティシアは静かに座っていた。


呼吸すら、ほとんど感じられない。


すると――。


「……」


目の前に。


誰かが立っていた。


レティシアはゆっくり目を開ける。


「……私?」


そこにいたのは――。


自分自身だった。


顔。


髪。


身体。


服。


すべて同じ。


ただ一つ違う。


その手には――。


二本の剣。


「……」


もう一人のレティシアが、ゆっくりと剣を抜いた。


カチャ。


その音が神殿に響く。


レティシアも立ち上がった。


「……そういうこと?」


腰に手を伸ばす。


二本の剣を抜く。


「私自身と戦えってことね」


もう一人のレティシアが構えた。


そして――。


「来なさい!」


ドンッ!


二人が同時に駆け出した。


キィィンッ!


剣と剣が激突する。


「――っ!」


右。


左。


右。


左。


完全に同じ動き。


同じ速度。


同じ剣技。


同じ身体能力。


「くっ……!」


レティシアが後ろへ下がる。


もう一人の自分が追う。


「速い!」


レティシアが避ける。


しかし。


シュッ!


頬に傷。


「……!」


血が流れる。


「そういうことか……!」


目の前の自分は。


自分が今まで積み上げてきたもの、そのもの。


だから――。


自分の技を知っている。


自分の癖も。


自分の動きも。


次に何をするかも。


「だったら……!」


レティシアが踏み込む。


二刀を振るう。


相手も同じ動き。


ガキィン!


互いの剣がぶつかる。


「ぐっ!」


弾かれる。


その瞬間。


相手の左剣が迫る。


レティシアは身体をひねる。


避ける。


右剣。


さらに避ける。


左剣。


しゃがむ。


「――っ!」


蹴り。


レティシアが吹き飛ぶ。


床を転がる。


「くぅ……!」


立ち上がる。


口元から血。


腕にも傷。


それでも――。


笑った。


「面白いじゃん……!」


再び構える。


「自分と戦うなんて!」


もう一人のレティシアも構える。


二人は再び激突した。





どれほど戦ったのか。


分からない。


一時間か。


一日か。


それとも――。


もっと長い時間か。


傷が増えていく。


服は裂ける。


腕。


肩。


脚。


頬。


身体中に傷が刻まれる。


それでも二人は止まらない。


「はぁ……はぁ……!」


レティシアの息が荒い。


向こうも同じ。


「……」


そして。


レティシアは気づいた。


相手は自分だ。


だから。


自分と同じ戦い方をする。


なら――。


「……」


レティシアは剣を下げた。


もう一人のレティシアが踏み込む。


「――!」


その瞬間。


レティシアは攻撃を避けた。


しかし反撃しない。


さらに避ける。


一歩。


また一歩。


「……」


相手の足。


呼吸。


視線。


肩。


重心。


アブソリューに教えられたこと。


半年間。


毎日繰り返したこと。


相手の次の動きを読む。


そして――。


「そこだ!」


レティシアが踏み込んだ。


相手の動きより、一瞬早く。


右の剣を弾く。


左の剣を受け流す。


身体を回転。


そして――。


「これで……!」


二本の剣を交差させる。


「終わり!」


ズバッ!


二本の剣が、もう一人の自分を捉えた。



もう一人のレティシアは、その場で静かに消えていく。


光の粒となって。


そして――。


レティシアの身体へ吸い込まれていった。


「……?」


その瞬間。


頭の中に声が響いた。


『スキル――双剣神を取得しました』


「……え?」


『能力補正がかかります』


「……」


レティシアの目の前に光が浮かぶ。


そこに文字が表示される。



---


スキル:双剣神


双剣装備時


攻撃力+500


素早さ+500



---


「……」


レティシアは言葉を失った。


「……双剣神?」


自分の二本の剣を見る。


すると――。


さらに文字が浮かぶ。



---


魔法取得


分身


魔力を消費せず、自分の分身体を生み出す。



---


「…………」


レティシアは固まった。


そして。


「……魔法?」


ゆっくり自分の手を見る。


「私が……?」


レティシアは魔法が使えない。


それは今まで何度も変わらなかった。


魔法を使う仲間たち。


キラ。


エリス。


セリーナ。


彼らが魔法を使う姿を、ずっと見てきた。


自分には――。


剣しかない。


そう思っていた。


だから。


「……」


レティシアの顔が、少しずつ笑顔になる。


「私……」


手を握る。


「魔法……覚えた……!」


「やったぁぁぁぁぁぁぁ!!」


神殿にレティシアの声が響き渡った。


「魔法だ!」


両手を上げる。


「私にも魔法がある!」


嬉しくて仕方がない。


「分身!」


早速使おうとする。


「……」


しかし。


「……どうやるの?」


レティシアは首を傾げた。


「魔法なんて使ったことないんだけど……」


少し考える。


「……こう?」


手を前へ出す。


「分身!」


ポンッ!


光が弾ける。


「……」


そこには。


レティシアがいた。


「……」


レティシアと同じ顔。


同じ姿。


「……」


二人のレティシアが見つめ合う。


「……こんにちは?」


分身が首を傾げる。


「こんにちは!」


「……」


レティシアは笑った。


「すごい!」


分身も笑った。


「すごい!」


「私が二人いる!」


「二人いる!」


「面白い!」


「面白い!」


「……」


レティシアは笑いながら分身を消した。


「……魔法かぁ」


胸が温かくなる。


剣しかなかった自分に。


新しい力が生まれた。


そして――。




ゆっくりと目を開ける。


「……」


神殿の中。


静寂。


レティシアは立ち上がった。


「……終わった」


そして神殿の外へ出る。


扉が開く。


眩しい光が差し込む。


「……」


レティシアは目を細めた。


山の景色。


雲。


青空。


そして――。


神殿の前に立っている男。


「アブソリュー」


「……」


アブソリューはレティシアを見る。


そして。


「……一ヶ月か」


「え?」


レティシアは首を傾げる。


「私、三日間だったよね?」


「三日間の予定だった」


「……?」


「お前は一ヶ月、神殿から出てこなかった」


「……」


レティシアの目が丸くなる。


「えぇぇぇぇぇ!?」


「ようやく出てきたか」


アブソリューは笑った。


「ついに覚醒したか」


「覚醒……?」


レティシアは自分の手を見る。


そして。


「……双剣神」


アブソリューの目が鋭くなる。


「そうか」


「知ってるの?」


「ああ」


アブソリューは頷く。


「お前が選んだのではない」


「……」


「お前自身が、自分の剣を極めた結果だ」


レティシアは二本の剣を見る。


「……」


そして。


「ねえ、アブソリュー」


「なんだ」


「一回……」


レティシアは剣を構えた。


「戦ってみない?」


アブソリューが笑う。


「いいだろう」


二人は神殿の前で向かい合う。


レティシアが二本の剣を構える。


以前とは違う。


身体から溢れる力。


速度。


そして――。


双剣神。


アブソリューも剣を抜く。


「来い」


「――うん!」


レティシアが地面を蹴った。


ドンッ!


一瞬で距離が縮まる。


キィィンッ!!


二本の剣がアブソリューの剣へ叩き込まれる。


「……!」


アブソリューの目が見開かれた。


速い。


半年間の修行で磨き上げた感覚。


そして――。


双剣神によって強化された身体能力。


レティシアは笑う。


「今までとは――」


さらに踏み込む。


「違うよ!」


キィン!


キィン!


キィィン!


神殿の前に、激しい剣戟が響き始めた。


アブソリューの口元にも――。


久しぶりに、はっきりとした笑みが浮かんでいた。


「……面白くなってきたな」


そして――。


新たな力を手にしたレティシアと、剣神アブソリュー。


二人の模擬戦が始まった。


第185話 終

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