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『レベルリセットから始まる最強魔法剣士の英雄譚 ~五つの紋章と仲間たちと共に、滅びゆく世界を救います~』30000pv突破  作者: きらっち
青年期

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169話 祈り



――聖教都市シルオット。


街の地下。


薄暗く、湿った空気が漂う牢獄。


ガチャッ!!


「きゃっ……!」


セリーナは聖教騎士に腕を掴まれたまま、乱暴に牢屋の中へ放り込まれた。


「いたっ……」


ドサッ。


床に倒れ込むセリーナ。


「お、お待ちください……! 私は何も……!」


「黙れ」


「ひっ……」


ガチャッ!!


牢屋の扉が閉じられる。


「…………」


カツ、カツ、カツ……。


騎士の足音が遠ざかっていく。


セリーナはしばらく扉を見つめていた。


そして――


「……どうしよう……」


声が震える。


「どうしよう……どうしよう……」


今になって、猛烈な後悔が押し寄せてきた。


「キラさん……」


目に涙が溜まる。


「エリスさん……」


ポロッ。


涙が一粒、床に落ちた。


「私……どうして……」


セリーナは両手で顔を覆う。


「どうして勝手に行っちゃったんだろぅ……」


「キラさん、ごめんなさい……!」


「エリスさん、ごめんなさい……!」


「私のせいで……!」


「うわぁぁぁぁん!!」


牢獄にセリーナの泣き声が響く。


「怖いですぅぅぅ……!」


「帰りたいですぅぅぅ……!」


しばらく泣き続けた。


やがて――


「…………」


静かになる。


セリーナは鼻をすすりながら、自分の服を確認した。


そしてポケットに手を入れる。


「……あ」


取り出したのは――


少し潰れたパン。


昼食の時に食べきれず、ポケットに入れていたものだった。


「…………」


セリーナはじっとパンを見る。


「……お腹すいたですね」


パクッ。


「…………」


モグモグ。


「……おいしいです」


牢獄で一人、パンを食べるセリーナ。


その瞬間――


「グゥゥゥゥゥゥ……」


「…………」


セリーナの動きが止まった。


「…………?」


ゆっくり振り返る。


「グゥゥゥゥゥ……」


今度ははっきり聞こえた。


セリーナはパンを握りしめたまま、恐る恐る後ろを見る。


そこには――


一人の老人がいた。


牢獄の隅。


壁にもたれかかり、膝を抱えている。


やせ細った身体。


伸びきった白髪。


頬は痩せこけ、服もボロボロだった。


セリーナは固まる。


「…………」


老人もセリーナを見る。


「…………」


「…………」


二人の視線が交差する。


そして老人の視線が――


セリーナの持つパンへ。


「…………」


セリーナはパンを見る。


老人を見る。


そして、もう一度パンを見る。


「…………」


セリーナはパンを半分に割った。


「……どうぞ」


老人が驚いたように目を見開く。


「……わしに?」


「はい……」


セリーナはおそるおそるパンを差し出した。


「私、一人じゃ食べきれないので……」


老人は震える手でパンを受け取る。


「……ありがとう」


その声は、とても弱々しかった。


――――――――――


一方。


「セリーナ……どこにいるんだ……」


シルオットの街中。


キラは一人で走り回っていた。


「すみません!」


「ん?」


「メガネをかけた女の子を見ませんでしたか!?」


「メガネ……?」


「はい! 小さくて、長い髪をしていて……その……すごくドジな子です!」


「…………」


「見てませんか!?」


「悪いなぁ……」


「そうですか……!」


キラは次の店へ向かう。


「すみません!」


「はい?」


「このくらいの背丈で、メガネをかけた女の子を見ませんでしたか!?」


「うーん……」


「ドジっ子なんです!」


「ドジっ子……?」


「はい!」


「それだけじゃ分からないだろ」


「…………ですよね」


キラは頭を抱えた。


「聖魔法が使えるって言えばすぐ分かるんだけど……」


しかし、それは言えない。


セリーナが聖女だと知られるわけにはいかなかった。


「くそ……」


キラは走り出す。


一方、エリスも街の別の場所で聞き込みをしていた。


「すみません。このくらいの女の子を見ませんでした?」


「メガネをかけていて……」


「あと、すごくドジっ子です」


「…………」


「……やっぱり難しいですよね」


エリスは苦笑する。


セリーナの特徴。


眼鏡。


小柄。


長い髪。


そして――


ものすごいドジっ子。


それだけ。


聖女であることは伏せるしかない。


「セリーナさん……どこにいるんでしょう」


――――――――――


しばらくして。


キラとエリスは街の広場で合流した。


「キラさん!」


「エリス!」


二人とも疲れた表情をしている。


「見つかった?」


「いえ……」


エリスが首を横に振る。


「そっちは?」


「俺も駄目だ」


「特徴が少なすぎますね……」


「眼鏡のドジっ子だけじゃな……」


二人とも黙り込む。


すると――


「でも、ちょっと妙な噂を聞きました」


「噂?」


「はい」


エリスは少し声を落とす。


「酒場で聞き込みをしていたんです」


「そこで……」


――――――――――


数時間前。


エリスが入った酒場。


「セリーナさんという女の子を探してるんですけど……」


店員に尋ねるエリス。


「眼鏡をかけていて、小さくて……」


「うーん……知らないねぇ」


「そうですか……」


その時。


隣の席にいた男が口を開いた。


「……そういえばさ」


「?」


「聖教様が代わってから、聖騎士団も教会の連中も変わったよな」


「……!」


エリスの耳がピクリと動く。


「どういう意味です?」


「いや……前の聖教様の時は、こんな雰囲気じゃなかった」


「今の聖騎士団は妙にピリピリしてる」


「教会関係者もそうだ」


「何かに怯えてるみたいでな……」


エリスは黙って話を聞いていた。


「それに最近じゃ、処刑まで増えた」


「…………」


「俺たちも余計なことは言わない方がいいってことだ」


男は酒を飲み、話を終えた。


――――――――――


「……それが妙な噂?」


キラが聞く。


「はい」


エリスは頷いた。


「前の聖教様が亡くなってから、聖教都市そのものがおかしくなった……」


「…………」


「セリーナさんが連れていかれたのも……」


キラの表情が険しくなる。


「……偶然とは思えないな」


「私もそう思います」


二人は顔を見合わせる。


そして――


「もう一度、大聖堂へ行こう」


「はい」


二人は大聖堂へ向かった。


――――――――――


大聖堂。


巨大な扉を開ける。


ギィィィィ……。


中へ入った瞬間。


「…………」


キラは足を止めた。


「なんだ……これ」


大聖堂の内部には――


数え切れないほどの人々がいた。


何百人。


いや、それ以上。


全員が跪いている。


「…………」


中央には巨大な祭壇。


その前に聖教関係者たちが並んでいる。


そして――


「祈りなさい」


一人の司祭が声を上げた。


「我らが聖教様の御心のために」


「「「はい」」」


一斉に返事が響く。


「祈りなさい」


「「「はい」」」


「この世界から――」


司祭が両手を広げる。


「異なる思想を持つ者を消し去るために」


「…………!」


キラの目が見開かれる。


エリスも息を呑む。


「そして――」


司祭の声が大聖堂中に響き渡る。


「聖教様に逆らう者に――」


「救いを与えぬために」


「「「聖教様に栄光を」」」


「「「聖教様に栄光を」」」


何百もの声が重なった。


「「「聖教様に栄光を!!」」」


大聖堂が揺れるほどの大合唱。


キラは拳を握りしめた。


「…………これが」


エリスが小さく呟く。


「聖教都市……?」


かつてセリーナが暮らしていた街。


かつて彼女が敬愛した聖教様がいた場所。


その姿は――


もうどこにもなかった。


そしてキラは低い声で呟く。


「……セリーナを連れていった理由」


「この教会そのものにあるのかもしれないな」


二人は静かに大聖堂を見つめた。


――その頃。


牢獄では。


「…………」


セリーナと老人が向かい合っていた。


老人は、もらったパンを大切そうに食べている。


そして――


「お嬢ちゃん」


「はい?」


老人は小さな声で言った。


「……お前さんも、あの方に目をつけられたのか?」


「……あの方?」


老人は震える指で、牢獄の外を指差した。


「聖教様……ボギーに」


セリーナの顔から――


血の気が引いた。


169話 終。


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