168話 セリーナ捕縛
「違う!!」
処刑台の上。
一人の男が、必死に叫んでいた。
両手を拘束され、逃げることもできない。
「俺は何もしていない!!」
声が街中に響き渡る。
「聖教ボギー様に逆らった覚えなんてない!!」
処刑人は冷たい目で男を見下ろしていた。
「黙れ」
「違うんだ!! 本当に違う!!」
男は何度も否定する。
「俺はただ――!」
「黙れと言っている!」
それでも男は叫び続けた。
「誰か信じてくれ!!」
「俺は何も悪いことなんてしていない!!」
声は次第に掠れていく。
それでも止めなかった。
喉が壊れてしまうのではないかと思うほど、必死に叫び続ける。
「お願いだ!! 誰か――!!」
その声を聞いていたセリーナは――。
「……」
俯いていた顔を上げた。
「……あの人」
キラが振り返る。
「セリーナ?」
セリーナは処刑台を見つめている。
男の叫び声が、何度も耳に入ってくる。
『俺は何もしていない』
その言葉が、セリーナの胸を締めつけた。
「……違う」
「セリーナ?」
「このままじゃ……」
セリーナの足が動く。
「セリーナ!」
キラが呼び止める。
しかし――。
「待ってください!」
セリーナは人混みの中へ飛び込んでいった。
「おい!」
キラも追いかける。
「セリーナさん!」
エリスも続く。
しかし、処刑を見ようと集まった人々で道は完全に塞がれていた。
「すみません! 通してください!」
「ちょっと、通してくれ!」
キラが人をかき分ける。
だが、前へ進めない。
「くそ……!」
その間にも、セリーナの姿はどんどん遠ざかっていく。
「セリーナ!」
キラの声は、人々のざわめきにかき消された。
---
一方――。
セリーナは必死に人混みをかき分けていた。
「すみません!」
「通してください!」
「お願いします!」
何度も謝りながら、人の間を抜けていく。
そして――。
ようやく処刑台の前まで辿り着いた。
「おやめください!!」
セリーナの声が響き渡った。
処刑人が振り返る。
「……なんだ、貴様は?」
セリーナは息を切らしながら叫ぶ。
「その人を処刑してはいけません!」
「何?」
「この人は、何もしていないと言っています!」
「だから何だ?」
処刑人は冷たく言い放つ。
「聖教ボギー様に逆らった罪だ」
「ですが――!」
「貴様も聖教ボギー様に逆らうつもりか?」
「違います!」
「ならば、なぜ邪魔をする?」
セリーナは言葉に詰まる。
それでも――。
「……人を殺していい理由にはなりません!」
「……」
処刑人の目が細くなる。
「貴様……」
そして。
「聖教ボギー様に逆らう者は、誰であろうと許さん!」
「え……?」
次の瞬間。
「捕らえろ!」
「はい!」
後ろから聖教騎士たちがセリーナを取り囲む。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
腕を掴まれる。
「離してください!」
「抵抗するな!」
「私はただ――!」
セリーナの両腕が拘束される。
「セリーナ!」
遠くからキラの声が聞こえた。
「……キラさん!」
セリーナが振り返る。
しかし――。
人混みが邪魔をして、キラの姿は見えない。
「キラさん……!」
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「セリーナ!」
キラは必死に人をかき分けていた。
「どけ! 通してくれ!」
エリスも必死についてくる。
「キラさん、もう少しです!」
「くそっ……!」
だが、人が多すぎる。
前へ進もうとしても、押し戻される。
「セリーナはどこだ!?」
「見えません!」
「……!」
キラが周囲を見渡す。
その瞬間――。
「キラさん!」
エリスが指を差した。
「いました!」
処刑台の近く。
聖教騎士たちに囲まれているセリーナの姿が見えた。
「セリーナ!」
キラが叫ぶ。
セリーナもこちらを見る。
「キラさ――」
しかし、その口を聖教騎士が遮る。
「連れていけ!」
「はい!」
「待て!!」
キラが走ろうとする。
だが――。
「くそっ!」
人混みが邪魔をする。
「どけ!!」
それでも前へ進めない。
セリーナは騎士たちに連れていかれていく。
「キラさん!」
「セリーナ!!」
その声だけが、人混みの中で交差する。
そして――。
セリーナの姿は建物の向こうへ消えていった。
「……!」
キラは歯を食いしばる。
「くそ……!」
その直後。
処刑人が処刑台の上から声を上げる。
「本日の処刑は中止する!」
「え……?」
集まっていた人々がざわめく。
「解散しろ!」
「これ以上ここにいる必要はない!」
人々は次々と散っていく。
処刑台の周囲から、人がいなくなっていく。
ほんの数分前まで騒然としていた広場。
そこにはもう――。
処刑されるはずだった男も。
セリーナも。
聖教騎士団も。
誰一人として残っていなかった。
キラとエリスだけが、その場に立ち尽くしていた。
「……セリーナが」
キラは拳を握りしめる。
「連れていかれた」
エリスも静かに頷く。
「はい……」
キラは、セリーナが消えていった方向を睨む。
「……取り戻すぞ」
その目には、怒りが宿っていた。
聖教都市シルオット。
そこはかつて、セリーナが聖女を目指して修行した場所。
しかし今――。
この街では何かが起きている。
そしてキラたちは、その闇の中へ踏み込もうとしていた。
第168話 終




