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16話 魔物の大群

街の外に現れた大量の魔物。


 そして、森の奥から近づいてくる巨大な存在。


 その日の朝まで、俺は「森で何が起きているのか」を調べることしか考えていなかった。


 けれど、今は違う。


 森の異変は、もう森だけの問題ではない。


 街にまで届いている。



---


街門の戦い


「前衛、魔物を門に近づけるな!」


 衛兵隊長の怒鳴り声が響く。


 街の門前は混乱していた。


 冒険者たちが魔物を迎え撃ち、衛兵たちがその後ろを固めている。


 門の向こうから次々と魔物が走ってくる。


「右からウルフ!」


「任せろ!」


 ガルドが斧を振り抜く。


 ――ズガンッ!


 ウルフの身体が地面を転がる。


 別の魔物が飛び込んでくる。


 俺は手を向けた。


「《風》」


 詠唱はない。


 手のひらから発生した風が魔物を横へ吹き飛ばす。


「助かった!」


 近くの冒険者が叫ぶ。


 俺は返事をする暇もなく、次の魔物へ視線を向けた。


「……多すぎる」


 倒しても倒しても、魔物が来る。


 普通なら街を襲うために集まっているように見える。


 でも《魔力感知》を使えば、違うことが分かる。


 魔物たちのほとんどは――


街を目指しているわけではない。


 森から逃げている。


 何かから。


「……怖がってる」


 魔物の目を見る。


 ウルフも。


 ゴブリンも。


 ホーンラビットも。


 みんな必死に走っている。


 その後ろから追い立てるように、黒い魔力が迫っている。


「だったら……」


 俺は森を見る。


「本当に危険なのは、魔物じゃない」



---


黒い魔力


 突然。


 俺の頭の中に警告が浮かんだ。


【高濃度魔力反応】


【接近】


「……来る」


 俺は森を見つめる。


 木々の間。


 何かが動いた。


 ――ドン。


 地面が揺れる。


 ――ドン。


 また揺れる。


 昨日聞いた足音。


 間違いない。


「キラ!」


 父さんが叫ぶ。


「何が見える?」


「まだ姿は……」


 言葉を止める。


 木々の隙間から、巨大な腕が見えた。


 太い。


 普通のオーガより遥かに大きい。


 黒い魔力が腕を包んでいる。


 そして――


 赤い目。


「……あれだ」


 俺は息を呑んだ。


 昨日、森の奥で見た存在。


 その姿が、少しずつ見えてくる。


 巨大な四足の身体。


 狼にも似ている。


 しかし、その大きさは普通の魔物とは比べ物にならない。


 背中には黒い魔力が煙のように渦巻いている。


「なんだ……あれ」


 周囲の冒険者たちも言葉を失う。


 誰も動けない。


 その魔物が、街を見つめる。


 そして。


 ゆっくりと一歩踏み出した。


 ――ドンッ。



---


街へ向かう魔物


「全員、下がれ!」


 衛兵隊長が叫ぶ。


「門を閉めろ!」


 巨大な門が動き始める。


 ギギギギ……。


 だが。


「間に合わない!」


 ガルドが叫んだ。


 巨大な魔物が走り出した。


 ――ドドドドドッ!


 地面が揺れる。


 普通の魔物とは速度が違う。


「迎撃!」


 弓矢が一斉に放たれる。


 無数の矢が飛ぶ。


 だが。


 魔物の身体を包む黒い魔力に触れた瞬間。


 バキバキッ!


 矢が砕けた。


「効いてない……?」


 誰かが呟く。


 魔法も飛んでいく。


「《火球》!」


 炎の塊が直撃。


 爆発。


 ――ドォン!


 煙が上がる。


「やったか?」


 煙の中。


 巨大な影が動く。


「……嘘だろ」


 無傷。


 魔物は何事もなかったかのように歩き続ける。



---


キラの解析


 俺は《構造解析》を使う。


「《構造解析》!」


 視界が変わる。


 魔物の身体の構造が、頭の中へ流れ込んでくる。


 骨。


 筋肉。


 血液。


 魔力回路。


 そして――


「……!」


 胸の奥。


 巨大な魔力の核。


 昨日よりもはっきり見える。


【対象:解析開始】


【種族:不明】


【魔力核:確認】


【再生能力:極めて高い】


【未知の魔力:高濃度】


【完全解析――失敗】


「やっぱり……」


 俺は歯を食いしばる。


 全部は分からない。


 でも。


 一つだけ分かった。


「あの黒い魔力が、身体を守ってる」


「何?」


 父さんが聞く。


「魔物そのものが強いんじゃない!」


 俺は叫ぶ。


「身体を覆ってる黒い魔力が、攻撃を防いでる!」


 アルノが反応した。


「なら、その魔力を剥がせばいい!」


「でも、どうやって……」


 俺は考える。


 普通の魔法では無理。


 炎。


 風。


 氷。


 重力。


 全部、黒い魔力に阻まれている。


「……なら」


 俺は魔物の足を見る。


 身体全体を覆っている黒い魔力。


 だが。


 足元だけ。


 ほんの一瞬。


 薄くなっている。


「そこだ」



---


魔法の組み合わせ


 俺は右手を地面へ向ける。


「《重力》」


 魔物の前足に重力を集中させる。


 ――ズンッ!


 巨体が一瞬だけ沈む。


「今!」


 ガルドが走る。


「おおおおっ!」


 斧を振り下ろす。


 ――ガギィン!


 魔物の前足に傷が入った。


「効いた!」


 だが。


 傷がすぐに塞がる。


「再生が速すぎる!」


 俺はもう一度《構造解析》を使う。


 黒い魔力が傷口へ集中している。


「……やっぱり」


 俺は気づいた。


「黒い魔力は身体を守るだけじゃない」


 傷を塞いでいる。


「なら……」


 俺は両手を前へ出す。


「《冷却》」


 魔物の傷口を凍らせる。


 黒い魔力の流れが一瞬止まる。


「今だ!」


 父さんが踏み込む。


 剣が傷口を深く切り裂く。


「グォォォォ!」


 魔物が咆哮する。


 地面が揺れる。


 俺は吹き飛ばされそうになる。


「くっ……!」


 足を踏ん張る。


 まだだ。


 これだけでは倒せない。



---


魔物の反撃


 魔物が身体を低くする。


「危ない!」


 ミレアが叫ぶ。


 次の瞬間。


 巨体が突っ込んできた。


「うわっ!」


 冒険者たちが散る。


 俺も逃げようとする。


 しかし。


 足が止まった。


 目の前に、小さな女の子がいる。


 街の住民だ。


 避難の途中で転んだらしい。


「……!」


 魔物が迫る。


 考えるより先に、身体が動いた。


「《風》!」


 女の子の身体を風で押し飛ばす。


 同時に。


「《重力》!」


 魔物の動きを鈍らせる。


 だが。


 魔物の爪が迫る。


「キラ!」


 父さんが俺の前に飛び込む。


 ――ガキィン!


 剣と爪がぶつかる。


「父さん!」


「大丈夫だ!」


 だが、父さんの身体が押される。


「ぐっ……!」


 力が違う。


 俺はすぐに魔法を使う。


「《重力》!」


 魔物の身体を押さえる。


 さらに。


「《風》!」


 父さんを後ろへ吹き飛ばす。


 魔物の爪が空を切る。


「キラ……」


 父さんが驚いた顔をする。


「早く下がって!」


「分かった!」



---


キラの決断


 魔物がこちらを見る。


 赤い目。


 黒い魔力。


 巨大な身体。


 怖い。


 正直に言えば、逃げたい。


 でも。


 後ろには街がある。


 俺が毎日暮らしている街。


 家がある。


 ギルドがある。


 冒険者たちがいる。


 友達もいる。


 ここで逃げたら。


 あの魔物は街へ入る。


「……ダメだ」


 俺は短剣を握る。


「ここから先には行かせない」


 俺は《魔力感知》を使う。


 黒い魔力の流れを見る。


 身体全体を包んでいる。


 だが。


 完全ではない。


 魔力が流れる場所がある。


 胸。


 背中。


 前足。


 そして――


「核につながってる」


 俺は気づいた。


 黒い魔力は、胸の核から全身へ流れている。


 なら。


 核への流れを一瞬だけ止めれば。


「……できるかもしれない」



---


初めての魔法


 俺は両手を前に出す。


「《風》」


 風を生み出す。


 その風を細くする。


 さらに。


「《冷却》」


 風を冷やす。


 冷たい風が魔物の胸へ向かう。


 黒い魔力が揺れる。


「《重力》」


 さらに重力を一点へ集中。


 黒い魔力の流れが乱れる。


 魔物が苦しそうに吠える。


「今だ……!」


 俺は全ての魔法を一つに重ねる。


 風。


 冷却。


 重力。


 そして。


 無詠唱。


 普通なら一つずつ発動する魔法。


 でも俺は。


 同時に使う。


「――いけ!」


 魔物の胸で。


 黒い魔力が一瞬だけ途切れた。


【魔力核への経路を確認】


【構造解析】


【部分解析成功】


「見えた!」


 俺は叫ぶ。


 胸の奥。


 黒い魔力の中心。


 そこに小さな亀裂のようなものがある。


「父さん!」


「分かった!」


 父さんが走る。


 ガルドも続く。


「俺も行くぞ!」


 三人が同時に魔物へ向かう。


 魔物が咆哮する。


 だが。


 俺は最後まで魔法を維持する。


 魔力が急激に減っていく。


「くっ……!」


 身体が重い。


 視界が揺れる。


 それでも。


 離さない。


「あと少し……!」


 父さんの剣が。


 ガルドの斧が。


 同時に振り下ろされる。


 ――ズガァァン!


 魔物の胸に深い傷が入った。


 黒い魔力が吹き飛ぶ。


「グォォォォォォ!」


 巨大な咆哮。


 だが。


 倒れない。


「……まだだ」


 魔物は再生を始める。


 黒い魔力が傷口へ集まる。


 俺は息を切らしながら、それを見つめる。


「……やっぱり、普通に攻撃するだけじゃダメか」


 でも。


 今日、一つ分かった。


 あいつにも弱点がある。



---


その夜


 魔物は完全には倒せなかった。


 しかし、街へ侵入することもなかった。


 一定の距離まで近づいたあと、森へ戻っていった。


 冒険者たちと衛兵は、街の門を固く閉じた。


 ギルドでは緊急会議が開かれている。


 街の人々も、不安そうに家へ戻っていく。


 俺は自分の部屋で、一人ステータスを確認していた。


【名前:キラ】


【年齢:6】


【レベル:5】


【魔力:11】


【構造解析:部分解析Lv1】


【魔力感知】


【再構築:未解放】


「……」


 今日は何度も魔法を使った。


 なのに、レベルは上がっていない。


 でも。


 俺は少しだけ笑った。


「レベルじゃなくても、強くなれる」


 今日、初めてそう思った。


 そして。


 俺は紙に魔物の構造を書き始める。


黒い魔力は核から流れている。


魔力の流れを乱せば、一時的に防御が弱くなる。


核そのものには、まだ届かない。


 最後に。


もっと強くならなきゃいけない。


 そう書いた。


 窓の外を見る。


 街は静かだった。


 でも。


 遠くの森には、まだ黒い魔力が漂っている。


 あの魔物も。


 まだ生きている。


 そして俺は知らなかった。


 今日の戦いで流れた黒い魔力が――


 街の地下へ、ほんの少しだけ染み込んでいたことを。


 それが後に、街で起こる異変の始まりになる。


第16話 終

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