157話 8年前の男
獣人族の街。
キラたちは、四種族の代表たちと共に街へと足を踏み入れた。
しかし――
「……なんだ、これ……」
イグニットが足を止める。
「ひどい……」
ガイムも目を見開いた。
街の至るところに、獣人族が歩いている。
だが、その姿は以前の獣人族とは明らかに違っていた。
目は白く濁り、口元からはよだれが垂れている。
まるで――
「アンデッド……みたいじゃのう」
ゴルドンが低く呟く。
「こんなの……獣人族じゃねぇだろ……」
ゴルーツも拳を握りしめた。
シエラは震えていた。
「みんな……どうして……」
その瞬間。
一人の獣人族がキラたちを振り向いた。
「…………」
白い目。
そして――
「お前たちは……獣人族か?」
「違う!」
キラが答えた瞬間。
獣人族たちが一斉に走り出した。
「来るぞ!」
イグニットが大剣を構える。
ゴルーツも拳を握り、ガイムは水を生み出す。
レティシアは二本の剣を抜いた。
エリスも弓を構える。
そしてキラも剣を抜いた。
「……っ」
しかし。
キラは目の前に迫る獣人族を見て、ふと思った。
――待て。
――俺たちは、この人たちを倒していいのか?
以前も同じだった。
彼らは自分たちの意思で襲っているようには見えない。
「……セリーナ!」
「は、はいっ!」
キラは振り返る。
「これ、状態異常なんじゃないか!?」
「状態異常……?」
「もしそうなら、お前の魔法で治せるんじゃないか!」
セリーナは目を見開いた。
「……やってみます!」
セリーナは杖を握る。
「状態回復魔法――!」
淡い光が街へ広がっていく。
「――ピュリフィケーション!」
ふわぁっ……!
光が獣人族たちを包み込む。
すると――
「う……」
一人。
「……あ……」
また一人。
「…………」
バタッ。
バタッ。
バタッ。
獣人族たちが次々とその場に倒れていった。
「えっ!?」
レティシアが驚く。
「倒れた!?」
セリーナが慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫です!」
「本当に!?」
「はい! 状態異常が解除されて、意識を失っているだけです!」
キラは胸を撫で下ろした。
「よかった……」
レティシアも剣を下ろす。
「これなら、斬らずに済むな!」
「うん!」
エリスもほっとした表情を浮かべる。
ゴルーツも拳を下ろした。
「なるほどな……。こいつら、やっぱり操られてやがったのか」
「まだ断定はできぬ」
イグニットが周囲を見回す。
「だが、少なくとも彼ら自身の意思ではない可能性が高い」
ガイムも頷く。
「ならば、ガミオン王を探しましょう」
「そうじゃな」
ゴルドンが髭を撫でる。
「この異変の元凶を突き止めるのが先じゃ」
「行こう」
キラたちは、獣人族の城へ向かって歩き始めた。
---
しばらく街を進んでいると――
「……止まれ」
キラが突然足を止めた。
「キラ?」
レティシアが振り返る。
キラは前方を見つめていた。
「……いる」
「何が?」
エリスが尋ねる。
次の瞬間。
黒いローブをまとった男が、建物の影から姿を現した。
「久しぶりだな……」
キラの目が鋭くなる。
「……お前」
その男。
黒い紋章。
黒い魔力。
そして――
八年前。
キラたちの前に立ちはだかった男。
「八年ぶりだな、キラ」
「……やっぱり、お前か」
レティシアも驚く。
「こいつ……八年前の……!」
エリスも弓を構える。
しかしキラは一歩前へ出た。
「みんな、下がっててくれ」
「キラ?」
「こいつとは……俺がやる」
男が笑う。
「ほう。一人で私と戦うというのか?」
「ああ」
キラは剣を構えた。
「一騎打ちだ」
男から黒い魔力が噴き出す。
「八年前のお前とは違うようだな……!」
ドンッ!!
男が一瞬で距離を詰めた。
黒い刃がキラへ振り下ろされる。
ガキィン!!
キラは剣で受け止める。
「遅い」
「な――」
キラは剣を滑らせる。
そのまま一歩踏み込み――
「はあっ!」
ズバッ!!
男の体勢が崩れる。
「ぐっ……!」
そこへキラの左手。
「――テンペスト・ゼロ」
ドンッ!!
暴風が男を吹き飛ばす。
「ぐあああっ!!」
男が地面を転がる。
だが、すぐに立ち上がろうとする。
「まだ……!」
「終わりだ」
キラの姿が消える。
次の瞬間。
男の目の前にキラ。
「なっ――」
キィン!
黒い武器を弾き飛ばす。
そして――
「これで!」
キラの剣が男の腹部を捉える。
ドンッ!!
男は大きく吹き飛び、そのまま地面に倒れた。
「…………」
静寂。
レティシアが呆然とする。
「……は、速っ……」
エリスも目を丸くしている。
「八年前は、あんなに苦戦したのに……」
イグニットたちも言葉を失っていた。
キラは剣を納める。
「……八年前とは違う」
倒れた男を見下ろす。
「俺たちは、あれからずっと戦ってきたんだ」
男は意識を失い、動かない。
セリーナが恐る恐る近づく。
「だ、大丈夫でしょうか……?」
「死んではいない」
キラが答える。
「なら……よかったです」
セリーナは胸を撫で下ろした。
キラは城の方へ視線を向ける。
「行こう」
「ガミオン王のところへ?」
「ああ」
――獣人族の異変。
――スベル。
――そして黒い紋章の男。
すべてが一本の線で繋がり始めている。
キラたちは、獣人族王ガミオンのいる城へ向かって歩き出した。
第157話 終




