153話 壊れた獣人族の街
獣人族の街へ向かう道を進むキラたち。
その隣には、先ほど助けた猫耳族の少女――シエラがいた。
「……もうすぐです」
シエラが小さな声で言う。
「私たちの街は、この先です」
「そうか」
キラは前方を見る。
木々の隙間から、少しずつ建物が見えてきた。
しかし――。
「……あれ?」
セリーナが首を傾げる。
「なんだか……煙が出ています」
「煙?」
キラが目を凝らす。
確かに。
街のあちこちから、黒い煙が上がっている。
「……」
シエラの足が止まった。
「そんな……」
「シエラ?」
キラが振り返る。
シエラは震えていた。
「……違う」
「何が?」
「私の知っている街は……こんなんじゃない」
キラたちは街へ近づいていく。
そして――。
その光景を目にした。
「……!」
街は、壊れていた。
建物の壁は崩れ。
店の看板は地面に落ち。
道には瓦礫が散乱している。
窓ガラスは割れ、扉が壊れている家もある。
まるで、街全体が戦場になったかのようだった。
「ひどい……」
レティシアが呟く。
エリスも言葉を失っている。
セリーナは胸元で両手を握りしめた。
「どうして……」
そして。
さらに異様なものが目に入った。
街中を歩いている獣人族たち。
「……あれは?」
キラが目を細める。
一人。
また一人。
獣人族たちは、何かを探すように街を歩いている。
だが――。
様子がおかしい。
「……よだれ?」
口元から、だらだらとよだれを垂らしている。
そして目は――。
白目をむいていた。
「……」
キラの表情が険しくなる。
「全員……どうなってるんだ?」
獣人族たちは誰も会話をしていない。
ただ、ふらふらと歩いている。
時折、身体を痙攣させながら。
「……いや」
シエラが震える。
「こんなの……嫌……」
「シエラ」
「私の家族も……友達も……」
シエラの目から涙がこぼれた。
「みんな……こんなことに……」
「……」
キラは何も言えなかった。
シエラにとって、ここは故郷なのだ。
帰りたかった場所。
守りたかった場所。
それが――。
目の前で壊れている。
「……帰ってきたかった」
シエラが涙を拭う。
「ずっと……帰りたかったのに……」
その時。
「……おい」
声がした。
キラたちが振り返る。
一人の獣人族が立っていた。
こちらをじっと見ている。
そして――。
「お前たちは獣人族か?」
キラは警戒しながら答えた。
「違う」
「……そうか」
獣人族の男が呟く。
その瞬間。
「……」
周囲の獣人族たちが一斉にこちらを向いた。
「キラ……」
レティシアが剣に手をかける。
「来るぞ」
数人。
十人。
さらにその後ろからも獣人族が集まってくる。
「……数十人いる」
エリスが弓を構える。
「待って!」
シエラが叫ぶ。
「この人たちは私の仲間!」
しかし――。
獣人族たちは止まらない。
「敵……」
「敵だ……」
「獣人族ではない……」
「敵だ……!」
次の瞬間。
「うおおおおおおっ!!」
数十人の獣人族が、一斉に襲いかかってきた。
「くっ!」
キラが前へ出る。
剣を抜く。
だが――。
シエラがキラの腕を掴んだ。
「待って!」
「シエラ!」
「お願い……!」
シエラの目には涙が浮かんでいた。
「傷つけないで……!」
「……」
キラは獣人族たちを見る。
牙を剥き出しにして迫ってくる。
爪を振り上げる者。
武器を持って走ってくる者。
だが、その姿は正気とは思えない。
「……分かった」
キラは剣を構え直す。
「殺さない」
レティシアも頷く。
「私もだ」
エリスも弓を下ろした。
「……攻撃できない」
セリーナが怯えながらもシエラの前に立つ。
「では……逃げるしかありません!」
「そうだな!」
キラが叫ぶ。
「走るぞ!」
四人とシエラは、一斉に走り出した。
「待てえええええ!」
後ろから獣人族たちが追ってくる。
「キラ、右!」
「分かってる!」
キラは走りながら魔法を放つ。
「ウィンド!」
突風が吹き荒れ、追ってくる獣人族たちの足を止める。
だが、倒すことはしない。
「まだ来る!」
エリスが叫ぶ。
「任せて!」
エリスが矢を放つ。
矢は獣人族たちの足元へ突き刺さり、土煙を巻き上げる。
「これ以上は……!」
レティシアが二本の剣を抜く。
迫ってきた獣人族の攻撃を――。
ガキィン!
受け流す。
そして、別の一人の腕を掴んで勢いを利用し、地面へ転がした。
「ごめん!」
レティシアはそれだけ言って走る。
「傷つけられないなら、逃げるしかない!」
「そういうことだ!」
キラが答える。
「シエラ、走れるか!?」
「はい……!」
シエラは涙を流しながら走る。
「でも……!」
振り返る。
「みんな……」
「今は振り返るな!」
キラが叫ぶ。
「必ず戻る!」
シエラは唇を噛みしめる。
そして前を向いた。
「……はい!」
一行は街の外へ走り続ける。
やがて――。
「抜けた!」
森の中へ飛び出した。
「はぁ……はぁ……」
全員が息を切らす。
追ってくる獣人族の姿はない。
キラは街の方を見る。
「……あの街で、一体何が起きている」
セリーナが震える声で言う。
「獣人族の皆さん……普通じゃありませんでした」
「ああ」
エリスも頷く。
「ハイドロ王が言っていた通り……獣人族全体がおかしくなってる」
シエラは何も言わない。
ただ、街を見つめている。
「……」
そして、涙を拭った。
「……サーベン様のところへ行きましょう」
「シエラ?」
「このことを伝えないと」
シエラは強く言った。
「獣人族だけじゃない」
「……」
「エルフも、ドワーフも、竜人も、人魚も……」
「みんながおかしくなってる」
キラは頷いた。
「そうだな」
キラたちは進路を変える。
向かう先は――。
エルフ族の王、サーベンのもと。
獣人族の街で見た、あまりにも異常な光景。
そして、ガミオン王の変化。
それらを伝えるために。
「急ごう」
キラたちは走り出した。
その背後には――。
壊れた獣人族の街が、静かに佇んでいた。
第152話 終




