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『レベルリセットから始まる最強魔法剣士の英雄譚 ~五つの紋章と仲間たちと共に、滅びゆく世界を救います~』30000pv突破  作者: きらっち
青年期

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152話 傷ついた獣人族



獣人族の街を目指して、キラたちは山道を進んでいた。


人魚族の居住区画を出てから、すでに数時間。


獣人族の街はマニルの中心部から少し離れた場所にある。


道は整備されているものの、途中から森の中へ入り、少しずつ険しくなっていた。


「この道で合ってるんですよね?」


セリーナが地図を覗き込みながら尋ねる。


「たぶんな」


キラが答える。


「たぶん?」


レティシアが振り返る。


「キラ、そこは自信を持って言うところじゃないの?」


「いや、地図を見る限りは合ってる」


「なら最初からそう言ってよっ」


「……悪い」


エリスはそんな二人のやり取りを見ながら、少し笑っていた。


「獣人族の街までは、もうそれほど遠くないと思う」


「そうか」


キラが前を見る。


「じゃあ、もう少し――」


その時。


「きゃっ!」


ドンッ!


「え?」


振り返ると、セリーナが地面に座り込んでいた。


「……」


キラが固まる。


レティシアも固まる。


エリスだけが慌てて駆け寄った。


「セリーナ、大丈夫?」


「だ、大丈夫です……」


セリーナは立ち上がろうとする。


だが――。


「……あれ?」


「どうした?」


「眼鏡が……」


「そこにあるぞ」


キラが拾い上げる。


「ありがとうございます……」


眼鏡を受け取ったセリーナは、それをかけ直す。


「では、行きましょう」


「……」


「……」


「どうしたんですか?」


レティシアが呆れた顔をする。


「セリーナ」


「はい?」


「今、何につまずいたの?」


「えっと……」


セリーナは足元を見る。


そこには――。


小さな木の根が一本だけ出ていた。


「……木の根です」


「見れば分かるよ……」


レティシアが笑いをこらえている


「すみません……」


「いや、まあセリーナらしいけどな」


キラが苦笑する。


しかし――。


セリーナのドジは、それだけでは終わらなかった。


しばらく歩くと。


「キラさん」


「ん?」


「この道……少しおかしくありませんか?」


「……」


キラが周囲を見る。


確かに。


先ほどまであった道が、いつの間にか細くなっている。


「……セリーナ」


「はい」


「地図は?」


「持ってます」


「見せて」


セリーナが地図を取り出す。


キラが確認すると――。


「……道、一本間違えてる」


「えっ!?」


セリーナの顔が青ざめる。


「す、すみません!」


「いや、俺たちも気づかなかったから」


レティシアが地図を見る。


「どうしてこうなったのよぉ…」


「その……」


セリーナが小さな声で答える。


「さっき転んだときに、地図を落としてしまって……」


「それで?」


「拾ったときに、上下を逆に持っていたみたいで……」


「……」


「……」


エリスが口元を押さえる。


「ふふっ……」


「エリス!」


「ご、ごめん。でも……」


エリスの肩が震えている。


「セリーナらしい」


「そんなぁ……」


セリーナが落ち込む。


「本当にすみません……」


「まあ、道を間違えただけだ」


キラが周囲を確認する。


「少し戻れば――」


「……キラ」


レティシアがキラの肩を叩いた。


「どうした?」


「戻るより、このまま進んだ方が近いかもしれない」


「……そうだな」


地図を確認すると、確かに現在地から少し進めば、本来の道へ合流できそうだった。


「じゃあ、このまま行こう」


「はい!」


セリーナが元気よく返事をした。


「今度は絶対に間違えません!」


そう言った直後。


「きゃっ!」


ガサッ!


「……」


セリーナが草むらに突っ込んだ。


「セリーナ……」


「だ、大丈夫です!」


「何につまずいた?」


「……石です」


「……」


「……」


キラたちは無言になる。


「本当に大丈夫か?」


「大丈夫です!」


セリーナは顔を上げる。


だが、その頭には葉っぱが何枚も乗っていた。


レティシアがニヤケ顔になる。


「もう少し周囲を見て歩いてよぉ…」


「はい……」


そんなやり取りをしながら、一行は進んでいった。


その後も――。


セリーナが枝に服を引っ掛ける。


小さな水たまりを避けようとして、逆に足を滑らせる。


休憩しようとして座った場所が斜めになっていて、そのまま転がる。


そして極めつけには――。


「セリーナ!」


「はい!?」


「そっちは道じゃない!」


「えっ!?」


「そっちは川だ!」


「きゃあああっ!」


バシャァン!


「…………」


川からびしょ濡れになったセリーナが顔を出す。


「……大丈夫です」


「いや、全然大丈夫そうに見えない」


「眼鏡は……」


「今度は俺が持ってる」


「ありがとうございます……」


キラたちは苦笑しながら、再び歩き始めた。


――だが。


そのおかげで。


本来なら通らなかった場所へと進路がずれていた。


そして、その先に――。


「……ん?」


エリスが足を止めた。


「どうした?」


「……誰かいる」


キラたちも前を見る。


木々の向こう。


地面に、一人の女性が倒れていた。


「!」


キラがすぐに駆け寄る。


「大丈夫か!?」


女性は返事をしない。


身体中が傷だらけだった。


服は破れ、腕や脚にも傷がある。


そして頭には――。


猫の耳。


「獣人族……」


レティシアが呟く。


「かなりひどい傷です」


セリーナがすぐにしゃがみ込む。


「私が治します!」


セリーナの手から淡い光が生まれる。


「ヒール――!」


温かな光が女性の身体を包む。


傷が少しずつ塞がっていく。


「……」


セリーナはさらに魔力を込める。


「もう一度……」


「ヒール」


傷が次々と消えていく。


やがて女性の呼吸が安定した。


「大丈夫です」


セリーナがほっと息を吐く。


キラも安心した。


「助かった……」


「でも、まだ意識は戻らないみたい」


エリスが女性を見る。


「ここに置いていくわけにはいかない」


レティシアも頷く。


「同感だ」


キラは周囲を確認する。


「この辺りなら、ここで休める」


「では、少し休憩しましょう」


セリーナが言う。


「この人が目を覚ますまで」


「そうしよう」


一行はその場で休むことにした。


焚き火を起こし、女性を横に寝かせる。


しばらくして――。


「……う……」


女性が小さく声を漏らした。


「!」


セリーナがすぐに近づく。


「気がつきましたか?」


女性がゆっくり目を開ける。


そして――。


「……!」


目の前にいたエリスを見た瞬間。


女性の顔が恐怖に染まった。


「エルフ……!」


バッ!


女性は飛び起きる。


「近づくな!」


懐から短剣を取り出し、エリスへ向ける。


「待って!」


キラが間に入る。


レティシアもすぐに身構える。


「落ち着いてくれ!」


「来るな!」


女性の身体は震えている。


だが、傷はまだ完全には回復していない。


セリーナが両手を上げる。


「大丈夫です!」


「……」


「私たちはあなたを助けただけです」


「……助けた?」


女性は警戒したままセリーナを見る。


「あなたは傷だらけで倒れていました」


セリーナが穏やかに話す。


「だから、回復魔法をかけました」


「……」


女性は自分の身体を見る。


確かに、先ほどまであった傷がほとんど消えている。


「……あなたが?」


「はい」


「……人魚?」


「私は人族です!」


「……そう」


女性は少しだけ短剣を下げた。


そして、エリスを見る。


「じゃあ……このエルフは?」


「私の仲間です」


キラが答える。


「エリス」


「……」


エリスも敵意を見せずに頷く。


「私は何もしない」


女性はしばらくエリスを見つめていた。


やがて――。


ゆっくりと短剣をしまった。


「……ごめんなさい」


「いや、気にしなくていい」


キラが答える。


「怖かったんだろ?」


「……」


女性は俯く。


「……ありがとう」


その言葉を聞き、セリーナが微笑んだ。


「よかったです」


女性はしばらく黙っていた。


そして――。


「私の名前は……シエラ」


「シエラ……」


キラが頷く。


「俺はキラ。こっちはレティシア、エリス、セリーナ」


「よろしく」


レティシアが声をかける。


「……よろしくね?」


シエラは小さく頷いた。


だが、その表情はまだ怯えていた。


キラは無理に聞き出そうとはしなかった。


しばらくして。


シエラが自分から口を開いた。


「……私」


「うん」


「逃げてきたの」


「どこから?」


「獣人族の街へ向かっていた」


シエラはゆっくり話し始める。


「でも……その途中で襲われた」


「誰に?」


シエラは一瞬、言葉を詰まらせた。


そして――。


「エルフに」


エリスの表情が曇る。


「……」


「ドワーフにも……」


「……」


「竜人にも……」


キラたちは顔を見合わせる。


さらにシエラは続けた。


「人魚にも……襲われた」


「……人魚族まで?」


キラが驚く。


シエラは頷いた。


「何度も逃げた」


「どうして襲われた?」


「分からない……」


シエラは首を振る。


「突然、襲ってきたの」


「何か言っていなかったか?」


「……敵だ、と」


「敵?」


「私たち獣人族が、他の種族を襲っているって……」


キラは眉をひそめる。


「そんな……」


セリーナが呟く。


シエラは震える声で続ける。


「私は何もしてない……」


「分かってる」


キラが答える。


「今までの話を聞いている限り、何かがおかしい」


「……」


「ドワーフと竜人の件でも、同じようなことが起きていた」


シエラが顔を上げる。


「……本当に?」


「ああ」


キラはこれまでの出来事を説明した。


ドワーフと竜人が互いを疑っていたこと。


だが、実際には双方とも襲われていたこと。


そしてベンガルとトライゴンが和平を結んだこと。


シエラは驚いたように聞いていた。


「じゃあ……」


「うん」


キラは頷く。


「誰かが、種族同士を争わせている可能性がある」


シエラの耳がぴくりと動く。


「……私も、そう思ってた」


「何か見たのか?」


「分からない」


シエラは首を横に振った。


「ただ……みんな、おかしかった」


「おかしい?」


「目が……怖かった」


シエラは自分の腕を抱く。


「まるで、自分の意思で怒っているように見えなかった」


キラの表情が変わる。


――ハイドロが言っていた。


獣人族全体に異様な雰囲気がある。


そして今。


獣人族のシエラも同じことを口にした。


「それで、どうしてここに?」


キラが尋ねる。


「獣人族の街へ戻ろうとした」


シエラは答えた。


「でも……街へ続く道が封鎖されていた」


「封鎖?」


「うん」


「誰が?」


「分からない……けど竜人族やドワーフ族、人魚族にも」


シエラは首を振る。


「だから私は、人魚族の街の方へ向かった」


「人魚族の街?」


「そこから山を迂回すれば、獣人族の街へ戻れると思ったから」


しかし――。


シエラはそこで力なく笑った。


「……途中で、体力がなくなった」


「それで倒れたのか」


「うん……」


キラたちは黙ってシエラを見る。


傷だらけになりながら。


何度も襲われ。


それでも故郷へ戻ろうとしていた。


そして最後には――。


ここで力尽きた。


セリーナがシエラの肩にそっと毛布をかける。


「もう大丈夫です」


「……」


「私たちはあなたを襲いません」


シエラは毛布を握りしめる。


「……ありがとう」


キラは立ち上がり、獣人族の街がある方向を見る。


「シエラ」


「何?」


「俺たちも獣人族の街へ向かう」


「……」


「ガミオン王と、獣人族で何が起きているのかを調べるために」


シエラの耳が再び動く。


「ガミオン様を……?」


「ああ」


「……なら」


シエラはゆっくりと立ち上がった。


「私も……連れていって」


「無理をするな」


「大丈夫」


シエラはキラを見る。


「私の故郷で何が起きているのか……私も知りたい」


キラは少し考え――。


頷いた。


「分かった」


こうして。


キラたちは新たな仲間――ではなく。


故郷へ帰ることを望む獣人族の少女、シエラとともに。


獣人族の街を目指すことになった。


そして彼らはまだ知らない。


その街では――。


さらに大きな異変が待ち受けていることを。


第152話 終

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